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<東京怪談・PCゲームノベル>


Route2・見つけた手がかり / 辻宮・みさお

 賑わう商店街の中を、大きな鞄を手に歩くのは、女の子のような容姿をした少年――辻宮・みさおだ。
 彼は時折店を覗いたりしながら、この場所を歩いている。
 別に目的などない。
 ただぶらぶらと歩いて、たまに気になった店に顔を出す。こうして気ままに歩くことが、良い息抜きになるのだ。
「結構歩いたかな」
 そう言って商店街の時計を見た。
 長い針と短い針が、共に12を指そうとしている。
「そう言えば、お腹が空いてきたかも」
 時間的にも空腹を感じる頃だ。
 みさおは自らの腹を擦ると、何かを思いついたかのように1つ頷いた。
「そうだ。菜々美さんのお店に行こうかな。あそこならご飯もあるはずだし」
 名案だ。そう言わんばかりに笑顔を浮かべて鞄を持ち直す。そうして歩きだしたのだが、その足が直ぐに止まった。
「あれ?」
 首を傾げたみさおの視線の先に、見覚えのある人物が立っている。
 黒のロングメイド服に身を包んだ女性。彼女は片手にビニールの買い物袋、もう片方の手にはメモを持って颯爽と歩いている。
 メイド服を着てあんな歩き方をする人物を、みさおは1人だけ知っていた。
 彼は少し足早にその人物に近付くと、確信を得たように呟いた。
「やっぱり、菜々美さんだ」
 そう口にして駆けだす。
 もう残り僅かの距離、そこまで来て不思議な事が起きた。
「菜々美さ――」
 みさおが声をかけようとしたのとほぼ同時に、菜々美が走り出したのだ。
 そのタイミングは、まるでみさおに気付いて逃げるかのようだった。
 しかし菜々美はみさおのことを振り返っていない。つまりみさおがいることに菜々美が気付いている可能性は低かった。
「どうしたんだろう」
 呟くが、それよりも早く足が動いていた。
 商店街を抜けた菜々美を追って自らもそこを抜ける。そして彼女が路地裏に身を滑り込ませるのを見ると、彼はようやく足を止めた。
「なにか、あったのかな」
 今までのことを思い返してみると、気のせいではないだろう。
 みさおは鞄をチラリと見てから、意を決したように路地に入った。
 幸いなことに、菜々美は路地に足を踏み入れて」直ぐに足を止めたようだ。
 路地を僅かに行ったところで足を止めている。前方を見据えて仁王立ちする足元には、彼女が先ほどまで手にしていた荷物が置かれている。
「そろそろ、出てきたらどうだ」
 みさおの耳に、菜々美の低く鋭い声が響く。
 その声にビクリと肩を揺らすと、菜々美が懐から銃を取り出した。
 陽の光の元でキラリと輝くその姿は、凶器と言うよりは1つの芸術品として美しさを放っている。
「やっぱり気付いてたんだ」
 先ほど走り出したのは自分に気付いていたから。そして今銃を取り出しているのは、何か自分が気に障ることをしたから。
 みさおはそう考えるに至って、僅かに苦笑した。
 自分に覚えはないが、彼女がこうした態度を取ると言う事は、そうなのだろう。
 みさおは諦めたように息を吐くと、一歩を踏み出した。
 だがそこにキラリと輝く何かが飛び込んでくる。
 陽の光を浴びて金色に輝く何か。
 凝らした目に飛び込んで来たのは、金の鬣を持つ大きな獣だ。間合いを測るようにゆっくりと動く姿が、百獣の王ライオンを連想させる。
「なに、あれ……」
『おうおう、ありゃぁ、獣鬼じゃねえか』
 聞こえた声にみさおの目が飛ぶ。
 その瞬間、みさおが持っていた鞄からモヒカンのパペットが飛び出してきた。
 パペットは有無を言わさずにみさおの右手に納まると、軽く伸びをするような仕草を見せてから顎に手を添えた。
「ジャック、知ってるの?」
『少しだけだな』
 ジャックと呼ばれたパペットは、顔を巡らせてみさおを見上げる。
『獣鬼ってのはよ、自然に生まれることがねえ鬼だ』
「自然に生まれない?」
 どういうことだろう。
 そう、みさおが首を傾げた時だ。
 近くに人の気配がした。
「要は、人が作り出した物と言うことだ」
 ジャックの言葉を補足するように声が響く。
 いつのまに傍に来たのだろう。菜々美が銃を構えた状態でみさおの傍に来ていた。
 その目は容赦なく獣鬼を見据えている。
「菜々美さん」
「――何故ここに居る」
 静かな問いに言葉が詰まる。
 ここに来た経由を思い出すと、何だか素直に言葉が出なかった。そんなみさおに、菜々美は苦笑を唇に刻むと、カチリと安全装置を解除した。
「まあ良い。邪魔だから、退いていろ」
 そう言って菜々美は地面を蹴ると、素早い動きで獣鬼の間合いに入った。
 そして銃口を向けると一気にそれを放つ。
――グオオオオオオッ!
 獣鬼が雄叫びをあげてよろめいた。
 しかしそれだけだ。
「あれ……何か変?」
『術が組み上がってねえ』
 ジャックの声にハッとする。
 以前、菜々美に術を見せてもらったことがあるが、その時は放った弾に九字の法を組み込まれていた。
そして弾を放つとその術が発動したのだ。
 しかし今回の弾は放たれて命中したが術が発動されていない。
「つまり、普通の弾を放ってるってこと?」
『違ぇ。獣鬼が術を分解してやがるんだ』
「術を、分解」
 みさおは驚いたように目を瞬いた。
『普通は、ンなこた出来ねえ。だが、それしか考えられねえ。どう見ても、ただ事じゃねえぜ』
 そう口にすると、ジャックは菜々美を見た。それに習ってみさおも菜々美を見る。
 菜々美は新たな弾を銃に装填しながら何事かを考える様に眉を寄せていた。
 その間にも獣鬼が彼女を襲うとその身を動かしている。
 大きな身体の割に素早い動きで攻撃を繰り返す獣鬼に、苛立ちでも感じているのだろうか。菜々美の動きが若干悪い。
「ちょこまかと……邪魔だ」
 再び菜々美の銃が火を噴いた。
 放たれた弾丸が獣鬼の米神に命中する。
 しかし……。
――グオオオオオオ!!!
 獣鬼は雄叫びをあげるだけで倒れなかった。
 それどころか、動きにキレが増している。
 獣鬼は地面を蹴ると銃口を向けたままの菜々美に突進した。
「菜々美さん、危ない!」
 叫びはするが足が出なかった。
 獣鬼は容赦なく菜々美の腕に爪を振り下ろす。鋭い爪が腕を抉り、彼女の口から苦しげな声が漏れた。
「……、ッ…」
「菜々美さん!」
「――来るな」
 動きだそうとした足が止まった。
 腕を傷つけられながらも、獣鬼に銃口を向ける菜々美に息を呑む。
「コイツはあたしの獲物だ……あたしが倒す」
 ダンッ。
 再び彼女の銃が弾を放った。
 間近で放たれた銃弾が大口を開けた獣鬼の口腔に埋まる。それを見届け、彼女は銃を捨てた。
 そうして片手で素早く印を刻んで唇を動かす。
「――呪縛、不動明王」
 獣鬼の口から白い光が溢れる。
 その光が徐々に大きくなり、獣鬼の体を包み込んでゆく。そして徐々に動きを抑え込むと、菜々美は新たな印を指で刻んだ。
『あの文言……』
「ジャック?」
 声を潜めるジャックに嫌な予感が募る。
 そうしている間にも、菜々美は印を刻み続けていた。そして耳に彼女が唱える文言が響く。
「オン・キリキャラ・ハラハラ……」
『間違いねぇ、九字法解呪の唱えだ。あの姉ちゃん、獣鬼を解呪しようとしてやがる』
 菜々美は動きが止まっている獣鬼に素早く文言を繰り返す。
 一度、二度、そして三度目。
 そこまで来て、獣鬼に異変が起きた。
――グウウウウウ……ッ。
 唸るような声を発して僅かにその身が動く。
「術が――」
 菜々美が狼狽したように唱えるのを止めてしまった。
 今の術は銃弾に組み込んだ九字法に乗算して術を乗せた。二重に組み合わさった術は普段よりも強力で、そう簡単に解ける筈がない。
 しかし目の前では獣鬼が確実に動きを取り戻そうとしている。
「なんで――っ、しまった!」
 菜々美の目がハッと前を捉えた時には遅かった。
 獣鬼に纏わりついていた白い光が消え、巨大な獣が咆哮をあげる。菜々美はその姿に慌てて身を引こうとするが、上手くいかない。
『仕方ねえ。みさお!』
「う、うん」
 みさおは右手に嵌めたジャックを前方に押し出すように構えた。
 それに続いてジャックが多く口を開ける。そこに吸い込まれるように気が集結し始める。そしてその気がジャックの口の中いっぱいに溜まると、みさおは口を開いた。
「菜々美さん、退いてください!」
 みさおの声に菜々美の目が向く。
 眼鏡が反射して表情は伺えないが、唇が引き結ばれているのだけは見えた。
 そして一度、彼女の顔が獣鬼に向かうと、意を決したように彼女の足が地面を離れた。
「ジャック、今だよ!」
『喰らえ!』
 ジャックの口から、凄まじいほどの気の波動が放たれた。
 それは真っ直ぐ獣鬼に向かう。
――グオオオオオオオ!!!
「当たった!」
 みさおの声と同時に、気を受けた獣鬼の体が硬直する。そしてその身から光が溢れだした。
――オオオ……ッ。
 獣鬼は雄叫びをあげたまま、黒い瘴気に変じて姿を消した。
 そこに一枚の紙がヒラヒラと舞い落ちてくる。菜々美は手にすると僅かに眉を潜めて、ポケットにしまった。
「菜々美さん、あの……大丈夫ですか」
 戸惑いながら声をかけたみさおに、菜々美の目が向かう。
「助けてもらったことには感謝を告げよう」
 静かに放たれる声に、みさおは慌てて首を横に振る。
「助けたのは僕ではなくジャックです」
 ふるふると首を横に振るみさおに、菜々美は少し考える様に間を置いてジャックを見る。
「すまなかったな」
『俺様も何もしてねえよ』
 おどけて見せるジャックに、菜々美の目が細められる。そしてその目が自らの腕に落ちた。
 それにつられてみさおの目も彼女の傷に向かう。ザックリと切れたそこから溢れ出る血は、ちょっとやそっとのものではない。
 みさおは慌てたようにジャックを鞄に下すと、彼女の腕を取った。
「お、女の人が怪我なんかつくったら駄目ですよ」
 そう言いながら持っていたハンカチで彼女の腕を包んだ。あまり効果はないかもしれないが、そのままにしているよりは良いだろう。
 みさおはハンカチを少しきつめに縛ると、菜々美の顔を見た。
「なんだか不思議な相手でしたね。菜々美さんの術が効かないなんて……」
 そう口にしたみさおに、菜々美の腕がピクリと揺れる。かと思うと、その腕が唐突に離れた。
 まるで避けるかのような仕草にみさおの目が瞬かれる。
「菜々美さん?」
「同じ術がぶつかれば有り得ないことじゃない」
 そう口にすると菜々美は背を向けた。
 そして地面に置いていた荷物を取り上げて歩き出す。その背を見てみさおが慌てたように駆け寄った。
「あ、あの!」
「怪我の手当ての礼はいずれな。巻き込んで悪かった」
 菜々美はそう口にすると、スタスタと歩いて行ってしまった。
 残されたみさおは僅かに眉を寄せて視線を落とす。
「……何か、あるのかな?」
 そう口にしたみさおの近くで、鞄から顔を覗かせたジャックが思案げに首を傾げていた。
『こりゃあ、何かありそうだ』
 呟くと、ジャックは鞄の中に戻って行ったのだった。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 8101 / 辻宮・みさお / 男 / 17歳 / 魔導系腹話術師 】

登場NPC
【 蜂須賀・菜々美 / 女 / 16歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは蜂須賀・菜々美のルートシナリオ2へご参加頂き有難うございました。
ジャック氏を物知りな解説役として使用してしまいましたが、大丈夫だったでしょうか?
しかも何やら気まずい雰囲気で終わっていると言う……。
それでも楽しんで読んで頂けたなら、嬉しい限りです。
この度は大事なPC様を預けて頂き、本当にありがとうございました。
機会がありましたら、また冒険のお手伝いをさせていただければと思います。