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<東京怪談・PCゲームノベル>


Route3・邪眼発動、石化した心/ 石神・アリス

 執事とメイドが動きまわる店内。
 その中で紅茶の入ったカップを傾けるのは、初めてこの店に足を踏み入れることに成功した石神・アリスだ。
 今までに何度か店に足を踏み入れようとしたのだが、何の因果か入ることが出来なかった。
 その結果、今日まで持ち越しになっていたのだが、ようやく足を踏み入れることができた。
 まあ、目的は店に入ることではなく、この店で働く鹿ノ戸・千里という青年に会う事なのだが、そのついで他の目的を達しても問題はないだろう。
「何というか、凄い店ね」
 アリスは興味深そうに店内を見回しながら呟いた。
 ゴシック調に整えられた店内は、外見からは想像もつかないほど豪華で凝った作りになっている。中で働くメイドや執事の容姿的レベルも悪くない。
「コレクションに加えたい方が何名か――」
「モデルにしたい方が何名か、かな?」
「!?」
 飛びあがりそうなほど驚いたアリスに、声をかけた人物はクスリと笑って、飲み掛けの紅茶が入ったカップを拾い上げた。
「考え事を口に出しては駄目ですよ、お嬢様」
 にっこり微笑んでみせる金髪の執事。
 彼は以前千里と一緒に居た人物だ。確か千里は彼のことを梓と呼んでいたはず。
「い、今のを聞いて……」
「少し耳が良いんですよ。他に方には聞こえていませんから、ご安心を。追加の紅茶をプレゼントしますが、如何ですか?」
 穏やかに問いかける声に苦笑する。
 千里と良いこの梓と言う男と良い、変わった店員のいる店だと思う。
 アリスは小さく息を吐くと、諦めて苦笑した。
「では、おススメの紅茶をお願いします」
「畏まりました」
 梓はそう口にすると、優雅な仕草でカップに新しい紅茶を注いだ。その仕草を見ながら、ふと先ほどから思っていたことを口にする。
「あの、先ほどから千里さんの姿が見えないのですが、どちらへ行かれているのでしょう」
「ああ、千里だね」
 梓は紅茶を淹れ終えると、それをアリスの前に差し出した。
「そろそろ買い出しから戻る筈だよ。なんだか最近ピリピリしててね、オーナーが気分転換に外に出したんだよ。犬のお散歩みたいなものかな」
 爽やかに笑って言う言葉に、思わず目を瞬く。
「犬の散歩……犬」
 想像して思わず笑ってしまう。
 そんなアリスに笑みを向けると、梓は「それではごゆっくり」そう言葉を残して去って行った。
 残されたアリスは、新し紅茶の入ったカップを手にして口に運ぶ。その脳裏に浮かぶのは、梓が今口にした言葉だ。
「ピリピリ……それって、あの人が原因かしら?」
 先日、千里と二人で遭遇した檮兀(とうこつ)とかいう人物を思い出す。禍々しい気配をしたその人を、千里は倒すべき相手だと言っていた。
「……謎ばかり。でも、その前にこの前のことを謝らないと」
 そう呟いて、アリスは紅茶を口に含んだ。

   ***

 千里が喫茶店に戻って来たのは、梓から話を聞いた少し後のことだった。
 彼は戻ってくるなり、アリスの姿を見つけるとすぐさま無視しようとした。しかし梓に何か言われたのか、渋々席に来ると相手をしてくれたのだ。
 その後、仕事終わりを待ってから、アリスは千里をある場所に連れて来たのだが……。
「ここがわたくしの美術館です」
 そう言って彼女が示したのは、以前千里にチケットを渡した実家が運営する美術館だ。
 当然中はアリスの権限で貸し切り。
 誰にも邪魔されずにゆっくり見れるという利点付きだ。しかしこれがどうも良くなかった。
 誰もいない美術館に2人だけということもあり、妙に静かで足音が響く。しかも千里は一言も話さないので余計に静けさが身に染みた。
 だがこのままと言う訳にはいかない。
「あ、あの」
 ある程度の美術品を見終えた後、アリスは思い切って口を開いた。
 その声に何とはなしに美術品を眺めていた千里の目が向かう。無言のまま、目で「何」と問う様子に思わず視線が落ちる。
「あ、えっと……その、ですね……」
 言わなければいけないことは頭の中にある。
 しかし上手く言葉が出ない。
 そうしている間に、千里が歩き出す音がした。
「ま、待って――」
 思わず顔を上げたその目に映ったのは、間近でアリスのことを覗きこむ千里の顔だった。
 頭に大きな手を置いてそこを撫でる仕草に思わず目を瞬く。
「――気にするな」
 小さく告げられた言葉に目が見開かれる。
 まじまじと見つめた先には表情の変わらない千里がいるのだが、声はどことなく微笑んでいるような気がする。
 先ほど梓が言っていた、ピリピリした雰囲気など微塵もない。
「人の心を覗こうとした行為そのものは褒められねえ。けど、悔いてるならもう良い」
 千里はそう言ってアリスの頭を撫でた。
 そうして離れた手と彼の顔を見ながら、アリスの視線が落ちる。その視界端では、千里が残りの美術品を見るために歩き出すのが見えた。

 結局、アリスは最後まで謝罪を口にすることはなかった。
「じゃあな」
 そう口にして歩きだす千里の頭上には、丸い月が出ている。美術館で何とはなしに過ごした時間は、意外にも長かった。
 そのことに気付いて少し驚いたが、それよりも先にしなければいけないことがある。
 アリスは歩き出した千里の服を慌てて掴むと、彼の動きを引き止めた。
「……まだ何かあるのか」
 呆れた声と共に不思議そうな視線が投げかけられる。それに手を離すと、アリスは唇を引き結んで彼の顔を見上げた。
「あ、あの、わたくし――」
 今度こそ謝罪を口にしようとした時、日が落ちた時刻では聞きなれない音が響いて来た。
 バサバサと空を舞う鳥の音。
 しかもそれはかなり大きなものだ。
「えっ、なに……」
 アリスの目が空に向かい、それに続く様に千里の目も空に向かう。
「――っ!」
 アリスの息を呑む音が響き、千里の目が一気に眇められた。
 2人の眼前に浮いているのは、巨大な鳥だ。
 月を背に羽を広げる鳥が、千里とアリスを見止めてくちばしを大きく開いている。
 そして……。
――キイイイイイイッ!
 鳥は大きな声で鳴くと、翼を羽ばたかせて一気に突っ込んできた。その動きに千里の目がアリスを捉える。
「チッ!」
 彼はアリスの腕を引くと、自らの胸に抱いて飛び退いた。
 直後、風を切って目の前を鳥が横切る。
「千里さん!」
 寸前の所で交わしただけあって、余波が残っていた。
 はらはらと舞い落ちた前髪の欠片にアリスが思わず叫ぶ。その声に一瞬だけ目を向けると、千里は態勢を整えるために再度浮上した鳥を見上げた。
「――鳥鬼、か」
 呟きながらアリスを離す。
 そうして自らの後ろに彼女を庇うと、千里は邪眼の力を使って刀を出現させた。
 その目の前では彼が鳥鬼と呼んだ巨大な鳥が、翼を広げて降下する準備を整えている。
「千里さん、あの鳥……」
「テメェは下がってろ」
 視線を向けずに言い放つ。
 その言葉に遠慮はない。むしろ感情を隠すことなく、怒りをあらわにしている。それは彼の冷静さが欠けていることを示していた。
「コイツも、あの野郎の手下だッ」
 ギリッと奥歯を噛みしめると、千里は刀を鞘から抜いた。黒い刀身が闇の中で光、閃光を生みだす。
 気づいた時には千里は鳥鬼に向かって突っ込んでいた。
 迷うことなく一閃を引く刃に、鳥鬼の鋭い爪が降りかかる。
――キンッ!
 爪と刃が混じり金属音が響いた。
 その音の直後、再び攻撃が混じり合う。
 どちらも引く様子を見せない攻防に、アリスは無意識に手を握り締めた。
 緊張して手の中が汗ばんでいる。
「何か、わたくしにできることは……」
 そう口にして自らの目に手を添えた。
 アリスの力で石化させることができれば鳥の動きも封じることができるだろう。しかしこのままでは千里を巻き込みかねないし、それだけは避けたかった。
「……あれしかないわね」
 アリスはそう呟くと、駆けだした。
 向かうのは勿論、千里と鳥鬼がいる場所だ。
「千里さん、わたくしが化け物の動きを封じます。その間に、倒してください」
 そう言って勢い良く口笛を吹いた。
 その音に鳥の目が向く。
 今まで千里にしか興味を向けていなかった鳥が、アリスを視界に置いた。
「さあ、こっちよ」
 そう言って再び口笛を吹く。
 その姿に千里の目が見開かれた。
「馬鹿ッ! 大人しく隠れてろ!」
 叫んで千里が飛び出してくる。しかし鳥鬼の動きの方が早かった。
 一足先にアリスの間合いに入り、鋭い爪を振るおうとする。
「クソッたれッ!」
 千里は左目に嵌めていた眼帯を引きちぎると、隠されていた目を晒した。
 その瞬間、鳥鬼の動きが止まる。
 まるで時間が止められたかのようにピタリと動かなくなった化け物に、アリスの目が見開かれる。
「何……――っ」
 アリスの目が鳥鬼の後ろに控える千里を捉えた。
 その瞬間、彼女の目が見開かれる。
 明らかに自分とは違う目。白目である筈の部分が赤く染まり、黒目が金色の光を放つ瞳は、人間のものと呼ぶにはあまりにも異端だ。
「ッ……、くたばれ!」
 千里は苦しそうに息を殺すと、グッと瞳に力を込めた。
 その直後、鳥鬼の体が石化して粉々に崩れ去った。
 ガラガラと崩れ落ちる化け物。しかしアリスの目は崩れる化け物ではなく、千里に向けられていた。
「ぅ…、……」
 千里の体が揺らいだ。
 そして辛そうにその場に膝を着く。その状況になって、アリスは初めてハッとなった。
「千里さん!」
 急いで駆け寄るアリスに、千里が慌てたように眼帯を目に嵌める。そうして顔を逸らすと、千里は彼女の前に手を翳した。
「近付くな……」
「で、でも」
 明らかに千里の様子はおかしい。
 額にびっしりと浮かんだ汗と、異様なほどに上がった息。辛そうに腹部を抑える仕草も気になる。
「攻撃は受けていないのに、何で――」
「鹿ノ戸の血の呪いだ」
「!」
 突如聞こえた声に目が飛ぶ。
 アリスが捉えたのは燃えるような赤い髪をした男だ。
「檮兀」
 アリスの声に、男の金色の瞳が眇められる。
「我の名を聞いたか。まあ良い……鹿ノ戸は呪われた血筋。あまり関わらん方が良いぞ」
 喉奥で笑い手を掲げる仕草に、アリスの眉が寄る。
「関わるかどうかは、わたくしが決めること。貴方には関係ないわ」
「……ふん、気の強い。だが、鹿ノ戸の血筋の因果を聞き、それでもそう言ってられるかな?」
「因果?」
 アリスの声が潜められる。
 それに気づいた檮兀が楽しげに喉を鳴らした。
「鹿ノ戸の血は呪われている。それは――」
 得意げに言葉を放とうとした檮兀の眼前を、黒く光る刃が掛けぬける。それに目を瞬くと、金色の瞳が千里を捉えた。
「ほう、まだ刃を放つ力が残っていたか」
 檮兀は楽しげに笑うと、アリスに庇われる形で刀を投げた千里を見据えた。
 その口角がゆるりと上がる。
「まあ良い。我が口にせずとも、何れ分かること……鹿ノ戸の血に連なる者よ。次は女に庇われぬなよ」
 クククッと、嫌な笑いを残して檮兀は姿を消した。
 その直後、ものすごい音が地面に木霊する。
「せ、千里さん!?」
 目を向ければ千里が地面に拳をめり込ませている。
「千里さん、大丈――」
「触るなッ!」
 伸ばした手が無造作に振り払われた。
 その仕草に思わず後ずさってしまう。
「あ、ごめ……」
 たまらず謝罪を口にすると、僅かに目を見開いた千里の顔が目に飛び込んできた。
 だがその目が直ぐに外される。
「なんだって、あんな真似……」
 握り締められた彼の拳が小さく軋む。
 その音を聞きながら、アリスは唇を引き結んだ。
 良かれと思ってやったことが逆に彼を傷つけた。そのことに胸が小さく軋む。
「もう二度と、あんなことするな」
 そう言い捨てると千里はアリスに背を向けた。
 そしてそのまま歩き去ってしまう。
 その姿を見ながら、アリスはぎゅっと手を握り締めた。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 7348 / 石神・アリス / 女 / 15歳 / 表:普通の学生、ちなみに美術部長・裏:あくどい商売をする商人 】

登場NPC
【 鹿ノ戸・千里 / 男 / 18歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】

【 辰巳・梓 / 男 / 17歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】(ちょい役)


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは鹿ノ戸千里ルート3への参加ありがとうございました。
千里とのお話をお届けします。
何やら不穏な空気になっておりますが、ここが踏ん張りどころです。
次回以降のPC様の選択で千里の態度が多少は変わるはず!
こんな捻くれでどうしようもないNPCですが、
また機会がありましたら、大事なPC様とご一緒させて頂ければと思います。
このたびは本当にありがとうございました。