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<東京怪談・PCゲームノベル>


Route3・迫る罠、迫る敵 / 宵守・桜華

 朝と言うには遅く、昼と言うには少しばかり早いこの時間。
 宵守・桜華は紅茶の入ったカップを手にのんびりと時間をつぶしていた。
 彼が今いるのは、何度か足を運んだことがある執事&メイド喫茶『りあ☆こい』だ。
「良いねえ、落ち着くねえ」
 そう言いながらカップを傾け店内で働くメイドたちを見る。決して清くはないが、別にやましい気持など殆どない状態でただ眺めているだけ。
 だって、今日はメイド姿を愛でる他にやることがあるから!
 そう自分に言い聞かせながらも、ついつい目が可愛い子たちに向かう。まあ、この辺は仕方ない。
 諦めてメイドたちの姿を眺めながら、再びカップを傾ける。そこに黒い影がさした。
「紅茶1つで1時間」
 トンッとテーブルを叩く音に視線が向く。
 そこに居たのは、黒のメイド服に身を包む少女。桜華がここに足を運んだ目当ての人物――蜂須賀・菜々美だ。
 彼女は僅かに眼鏡を光らせると、未だに紅茶が残るカップに視線を向けた。
「さっさと飲んで、さっさと帰れ」
 きっぱりと言われた言葉に、少しばかり傷つく。
 しかし、今日の桜華は一味違う。
「チッチッチ! 今日は閉店までいますよ」
 わざとらしく人差し指を立てて公言する。
 その声に菜々美の米神がピクリと揺れた。
「蜂須賀の仕事が終わるまで待ってるって言ってるんだが――聞こえなかったか?」
「……何だと?」
 これまた不機嫌な声が彼女の口から洩れる。
 桜華はその声を聞いてにんまり笑うと、ヒラリと手を振って見せた。
「まあ気にするな。ほら、お客様がお待ちだぞ」
 桜華はそう言って菜々美から視線を外すと、カップを口に運んだ。それでもまだ中身が残っている辺り、何とも言えない。
 菜々美は桜華の手にしているカップを見てから、やれやれと言った様子で息を吐いた。
「後で新しい紅茶を持って来てやる。それまでに中身を空にしておけ」
 そう言い捨てると、彼女は去って行った。
 その姿を見送り、何とも言えない表情を浮かべるのは桜華だ。
「珍しく優しいじゃん。何か裏がなけりゃいいけどな」
 嫌な予感と言うものは当たるのが常だ。
 案の定、菜々美が持ってきた紅茶を口にした桜華は、問答無用で酷い目にあうことになる。

「ぬおおお!! な、なんだこりゃ!」
 夜の住宅街で大絶叫。
 時計を見ればもう直ぐ深夜を迎える手前だ。
 桜華の記憶が確かなら、彼が最後に時計を見たのは昼直前。つまり半日以上がぽっかり無くなっている。
「ど、どういう――っ!」
 桜華の目が極限まで見開かれる。
 彼の目に飛び込んで来たのは、執事&メイド喫茶『りあ☆こい』の看板。その傍にあるお店の電気は綺麗に消え、人1人の気配もしない。
「……何だこの扱い、超寒い」
 大体の状況がわかって来た。
 桜華の記憶がないのは菜々美が紅茶を持ってきた直後からだ。と言う事は、彼女が持ってきた紅茶に睡眠薬か何かが入っていたということだろう。
 桜華はぐすっと鼻を鳴らすと、小さく震えて立ち上がった。
「もう、今日は帰るか……」
 そう呟いてトボトボと歩きだす。
 体感温度はそれほどれはないのだが、心が妙に寒い。やはり人は簡単に信じてはいけないのだろうか。
 そんな事を考えながら歩いていると、不意に彼の目が上がった。
 伺うように細められた目が、何かを探るように鋭さを増す。
「この気配――」
 何度か触れたことのある気配が首筋を擽る。
 桜華はそこを軽く撫でると、気配を辿るように顔を巡らせた。
 直後、彼の足は走り出していた。
 向かうのは家路とはまるで逆方向。けれどその足に迷いはなかった。

   ***

 桜華が足を止めたのは、商店街から離れた場所にある繁華街だ。
 夜だと言うのに人通りが多いその場所を抜け、まったく人気のない路地裏でその足が止まった。
 街灯もなく空に昇った丸い月だけが灯りが割のその場所に少女が立っている。その目の前には、翼を広げて宙に浮く巨大な鳥がいた。
「ビンゴ」
 夜に鳥とは珍しいが、何らおかしいことはない。
 桜華が感じた奇妙な気配。その元があの鳥なのだ。
「自然発生しない形の悪鬼――ありゃあ、鳥鬼だな」
 呟きながら顎に手を添える。
 この状況も3度となれば偶然はありえないだろう。そしてその全てに菜々美が関わっている。
「さてさて、どうしたものか」
 呟きながら桜華の目が頭上に向かった。
 周囲を囲む巨大なビル。自らの姿も鳥鬼の姿さえ外界から遮断するビルにニヤリと口角が上がる。
「これは使える」
 そう口にした直後、桜華はこの場所から姿を消した。
 一方、菜々美はと言えば目の前に浮遊する鳥鬼に銃口を向けたまま動かない。
 見据える先では鳥鬼がくちばしを大きく開けて身構えるのは見える。
「お前も、あれと同じか」
 菜々美が言う「あれ」とは、先日対峙した獣鬼のことだ。九字の法を使って作られたと思われる獣形の悪鬼。
「九字の法と九字の法。その両方がぶつかれば相殺するのは必須。ならば手段は1つしかない」
 そう口にすると、菜々美の指が引き金に掛った。
「これを喰らえ――」
 パンッと鋭い音が空気を叩く。
 菜々美の放った弾丸が翼を広げる鳥鬼に迫った。
 しかしそれは当たることなく空中へと消えてゆく。
 鳥鬼は軽やかに菜々美の攻撃を避けると、その身を一気に下降させて突っ込んできた。
 その勢いはかなりのものだ。しかし菜々美は避ける様子も見せずに、再び引き金に指をかける。
「弾なら幾らでもある」
 唇が弓なりになり、新たな銃弾が放たれる――その時になって、聞き覚えのある声が響いた。
「花に水、人の笑顔、困った貴女に宵守桜華!!」
 ピクリと菜々美の米神が揺れる。
 その直後、菜々美は今までの構えを解いて後方に飛んだ。
 そこに鳥鬼が突っ込みアスファルトの粉塵が上がる。それを見送ってから菜々美の目が上がった。
 ビルの屋上に見える付きを背負う男。
 間違いない、あれは桜華だ。
「――大馬鹿者だ」
 ぼそっと呟くが、幸いなことに桜華には聞こえていない。
 彼は地面に突っ込んだ鳥鬼を見ると、「とうっ!」と屋上からダイブした。
 通常ならこれで落ちておしまいなのだが、桜華はそこまで馬鹿ではない。彼は瞬時に霊力を固めて足場を作ると、それを使って空中に浮いた。
 次々と作りだされる足場を飛んで移動しながら空中にその身を浮遊させる。その姿を目にして菜々美の口から感心したような息が漏れた。
「ほう、器用なものだな」
 だが褒めるのはこれだけだ。
 彼女の目は直ぐに桜華から離されると、顔と体を持ち上げた鳥鬼に向いた。そして同時に銃口も悪しきものに向かう。
「作った者を怨んで消滅しろ」
 キラリと菜々美の眼鏡が光る。
 それを上空から見護りつつ、桜華は鳥鬼が空中に脱出してくることを想定して身構える。
 地上と空、両方からの構えに鳥鬼が吠えた。
――キュイイイイイイ!!!
 空気を裂くような叫び声に、思わず耳を押さえたくなる。しかしそれは鳥鬼の行動が許さなかった。
 突如舞いあがった鳥鬼は、空中で身構える桜華に向かって突進してくる。
 これに彼の口角がニンマリと上がった。
「良い反応だ」
 ぽきりと指を鳴らして自らも鳥鬼に向かって足場を蹴る。その身は重力を借りて加速を加えて凶器となって突っ込んで行った。
 そして――。
――キイイイ……ッ!
 鳥鬼の顔面に桜華の拳が突き刺さった。
 これには悪鬼であろうとも堪える。苦しげに声を上げて地面に落下してゆ身に、菜々美の指が引き金に掛った。
「終わりだ」
 菜々美の持つ銃が火を噴く。
 直後、金色の光が鳥鬼を包んだ。
 形成される術は九字法とは違う。そのことに鳥鬼から身を離した桜華が気付く。
「螺旋文字の術式――解呪の文言を弾に組んだか」
 呟く彼の前では、鳥鬼が金色に輝く螺旋の文字に包まれて身動きが取れなくなっている。そしてその身が紙くずでもまとめる様に小さくなると、見事なまでに綺麗に消滅した。
「ブラボー」
 ぱんぱんと手を叩き賞賛する桜華の目の前に紙切れが舞い落ちる。それを手にしようとした所で、菜々美がそれを奪い取った。
「これはあたしが回収する」
 そう言って懐にしまう姿に目を瞬くが、それ以上に目を瞬きたくなる言葉が聞こえてきた。
「良く目覚めたな」
「あん?」
 掛けられた声に桜華の目が瞬かれる。
 きっと彼女が言っているのは、喫茶店で桜華が眠って目を覚ましたことなのだろうが、何かが引っ掛かる。
「どういう意味だ?」
「お前に飲ませた茶。実は薬が入っていたんだ」
 爆弾発言だがこれは十分承知している。
 桜華が何の効果もなく眠ることなど皆無――いや、普通に寝るがそこまでは……いや、自信がないけども。
 とりあえず眠った原因が、菜々美が持ってきた紅茶にあることは百も承知だ。
 だがどうにも菜々美の言葉に含みがある気がしてならない。その証拠に、彼女の口元が笑っている気すらする。
「どうせ眠り薬か何かでしょ。それなら問題なく目覚めるね」
 クイッと眼鏡を押し上げながら呟く。
 まだ桜華の表情は普通だ。しかし次の言葉を聞いた瞬間、彼の顔が限界まで引き攣った。
「一応加減はしたが、下手をすればぽっくり行く薬だったんだがな……丈夫だな、お前」
 ニヤリと笑った菜々美の顔が悪魔に見える。
 今、聞き間違えでなければ、毒薬っぽいものを入れたとか聞こえた。
「ちょちょちょ、ちょ〜っと待て!」
 落ち着け。そう言いたそうに両手を上げて見せるが、この場合はお前が落ち着け。
「次は九字法ではなく、毒薬の実験にでも付き合ってもらうか。いろいろと試せそうで面白そうだ」
「ど、毒薬……」
 さあっと血の気が引いて行く。
 兼ねてから危険な娘だとは思っていたが、ここまでとは……。
 菜々美は何処となく楽しげに笑いながら、なにやら計画を立てて呟いている。
 そんな彼女の顔を呆然と見ながら、桜華は今後の自身の身の危険を沸々と感じるのだった。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 4663 / 宵守・桜華 / 男 / 25歳 / フリーター・蝕師 】

登場NPC
【 蜂須賀・菜々美 / 女 / 16歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは蜂須賀・菜々美のルートシナリオ3へご参加頂き有難うございました。
相変わらず、桜華PCの行動には笑わして頂いております(笑)
今回もなんだかかわいそうな結果になっておりますが、
楽しんで頂けたなら幸いです。
また機会がありましたら、大事なPC様を預けて頂ければと思います。