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<東京怪談・PCゲームノベル>


Scene1・スペシャルな出会い / 葛城・深墨

 とても天気の良い日だった。
 青く澄み、雲1つない空に目を向ければ、平和を象徴する鳥が飛んでゆく。
 その姿を視界に納め、葛城・深墨は大きく伸びをした。
「よし、今日の講義終了だ」
 朝から講義に出っぱなしでだいぶ疲れた。
 まあ、大学に進んだのだから、勉強が嫌いなわけではない。ただ根を詰めれば疲れるのは当然のことだ。
 深墨は伸ばした腕を下すと、鞄を手に歩き出した。
「このまま真っ直ぐ帰るのもありだけど、どこかに寄るのもありだな」
 そう呟きながら構内を出てゆく。
 これだけの天気だ。真っ直ぐ家に帰って読書なり勉強なりをするには勿体ない気がする。
 そうなると寄り道をするのは必須だ。
 深墨は一度家路に向きかけた足を変えると、僅かに違う道に入って歩き出した。
「とりあえず本屋に寄って、それから公園に行ってのんびりするのもありだな」
 深墨が歩くのは住宅街だ。
 この時間は人通りが少ないのか、未だに誰ともすれ違っていないがそれはどうでも良い。深墨は住宅街の脇道に入った。
 ここを通った方が本屋には近いのだ。
 しかし脇道に入った途端に彼の足が止まる。
 彼の視界に飛び込んできた奇妙な生き物。そしてその前に座り込む女子高生らしき少女に目を瞬く。
 人の形をした奇妙な生き物は、餓鬼のように膨らんだ腹と黒く骨ばった体をしており、身体から腐敗したような匂いを放っている。
「あれって、まさか……」
 深墨の脳裏にここ最近の良くない出来事が浮かぶ。妙な化け物に遭遇して闘ったり、怪我をしたりさせたり。あまり良い記憶でないことは確かだ。
「悪いことって続くんだな……って、考えてる場合じゃないだろ!」
 1人で乗り突っ込みをすると、深墨は慌てて首を横に振り、手にしていた鞄を大きく振り被った。
 目標は勿論、少女の前に居る化け物だ。
「喰らえ!」
 バンッ☆
「よし、命中!」
 化け物の顔面に深墨の放った鞄が直撃する。それを見てから、彼は駆けだした。
「大丈夫? 走れる?」
 黒鬼と少女の間に入って手を差し出す。
 その声に少女の目が上がった。
「――?」
 青くて大きな瞳が不思議そうに深墨を捉える。その顔は後ろから見ていた時は気付かなかったが、かなり可愛い。
「えっと、走れる?」
 戸惑いがちに声をかけると、彼女は深墨と、彼の差し出した手の両方を見比べて、にっこりと笑った。
「えへへ、ありがとう――って、後ろ後ろ!」
 和みの雰囲気は一瞬。
 少女の驚いた声に、深墨が振り返る。その目に飛び込んで来たのは、怒り心頭の化け物の姿だ。
 深墨は急いで彼女の手を取ると、一目散に走り出した。
――グオオオオオ!!!
 盛大な叫び声を上げながら黒鬼が追いかけてくる。その声を聞きながら、深墨は必死に走った。
「な、なんだこの状況っ!」
 彼の手にはしっかりと少女の手が握られている。
 女の子のピンチを助けて一緒に走る。何ともベタな展開だが、なんだか微妙にベタから外れてる気がする。
「まったく。家に帰れば武器があるのに」
 口を動かしながら足も動かす。
 少し後ろを走る少女は、チラチラと化け物を振り返りながら走っている。
「こ、この子を守るためにもなんとかしなきゃ。ああ、もう、どうすれば良いんだ!」
 もうなにがなんだかさっぱりだ。
 混乱する頭で必死に考えても答えなどでるわけもない。そんな後方では化け物が腐敗臭を振りまきながら追いかけてくる。
「ん〜……やっぱり、倒しちゃわないとだめなのかな」
 ぽつりと呟いた少女に、深墨の目が瞬かれた。
 次の瞬間――。
「ふええええ!!??」
 ぐいっと深墨の腕が引かれた。
 その動きに足が止まり、目が向かう。
「え、えええええ!!???」
 思わず声を上げるのも無理はない。
 先ほどまで一緒に走っていた少女が地面と激突していたのだ。いや、正しくは何もないところで転んだ、とも言う。
「だ、大丈夫?」
「うぅ、大丈夫……てて」
 鼻を抑えながら起きあがる彼女にホッと息を吐く。そこに、ぽんっと肩に何かが触れた。
 人と同じくらいの重さで、何度か肩を叩く様子に少女に伸ばし掛けていた手が止まる。
「えっと、今取り込み中――」
 そう口にして振り返った深墨の顔から、さあっと血の気が引いてゆく。
 振り返った先に居るのは、息を切らせて涎を駄々漏れにする化け物だ。
 ギラギラと目を輝かせる姿はかなり怖い。
「あー……もしかしなくても、ピンチ?」
 チラリと少女を見て呟く。
 本当にこの場に対処できる武器が無いことが悔やまれる。
「でも、ここは俺がやらないと――って、いたたたたた!」
 ギチギチと掴まれた肩が軋む。
 化け物なのだから力が強いのは当然だ。だが、これは少し強すぎだろう。眉間に皺を刻みながら深墨の手が悪鬼の腕を掴んだ。
「離せ!」
 グイッと力を込めて引き離そうとする。しかしうんともすんとも言わない。それどころか掴む力は徐々に強くなり、本気で危ない気がしてきた。
「何なんだ、コイツ」
「ん〜……黒鬼ちゃんって言って、悪鬼ちゃんの一種だよ」
「え?」
 間近で聞こえた声に目を瞬く。
 目を向ければ先ほどまで転んだ衝撃で座り込んでいた少女が立っている。
 彼女は少しだけ頬を膨らませると、深墨の肩を掴む黒鬼を見て、何かを取り出した。
 少女が手にしているのは匂い袋程度の大きさをした布袋だ。彼女はそれを開くと、中から粉のようなものを摘んで引きだした。
「あんまりオイタをすると、律子怒っちゃうんだから!」
 そう言いながら深墨の視界にキラキラと輝く粉のようなものが降り注ぐ。
「さあ、黒鬼ちゃんを懲らしめちゃえ♪」
 歌うように言って彼女の手が優雅に舞った。
 その直後、降り注いでいた光の中にぼんやりと何かが浮かぶ。
「え、あれって」
 本日の何度目の驚きか。
 深墨の目の前にうかんだぼんやりとしたもの。それが徐々に形作られてゆく。
「葎子自慢のお友達だよ♪」
 どう? と首を傾げる動きに合わせて、少女のツインに結った髪の毛が揺れる。が、それよりも現れた生き物の方が問題だ。
 ふわふわとした白いもの。長い耳に、赤い目。二本足で立つ姿は異様にしか見えない生き物。それにゴクリと唾を飲み込む。
「……うさぎ」
 ぽつりと呟いた深墨の声が聞こえたのか、目つきの悪いうさぎモドキが深墨を捕らえた。
『見んなボケ』
「!?」
 何か、何か古い記憶がよみがえった気がする。
 呆然としている深墨の前で、うさぎモドキは腕を構えると「テイッ☆」と地面を蹴った。
 うさぎなだけになんと軽やかな。
「さあ、うさちゃんキックで攻撃だよ!」
『了解や!』
 うさぎモドキは葎子の声に頷くと、飛躍したまま蹴りを黒鬼の顔面にぶち込んだ。
――ドゴッ☆
 有り得ないほど重い音が響き、悪鬼の手が深墨から離れる。だが攻撃はこれで終わりではなかった。
「次はうさちゃんパンチ!」
『任せろ!』
 再びドゴッと思い音を響かせて、黒鬼の体にうさぎモドキの拳が突き刺さる。その姿を呆然と見ていた深墨は、あることに気付いた。
「あれ、あの子……」
 うさぎモドキに指示を出す少女の手から放たれるキラキラとした粉。それが何かは分からないが、その粉がうさぎモドキに向かって伸びている。
「これって、もしかして幻術? だとしたら、俺のよりかなり優秀な術だ」
 深墨は自らが持つ特殊な力を思い出して呟いた。
 自分と同じ幻術を操る少女に関心はあるが、特にそれについて特別視するつもりはない。
だがその術が少し問題な気がするのは否めない。
 なにせ異形の生き物を前に闘うのは、少女が玄術で生み出したうさぎらしき生き物だ。しかもそれが繰り出す技はどれも重みがあって強烈とくれば異様以外の何ものでもない。
「……強いな、あのうさぎ」
 見た目は可愛いのに、何だかシュールな出来事に深墨の口元が僅かに引き攣る。
 そんな中、少女の声が響いた。
「止めは、うさちゃんトルネードだよ♪」
『了解やで!』
「え、トルネード?」
 何が起こるのか。そんな思いで目を向けると、目の前でうさぎモドキの姿が変化した。
 まさにトルネード――竜巻になったうさぎモドキが、鋭い刃となって黒鬼に向かってゆく。
――ギャアアアアアア!!!
 黒鬼の体に突き刺さった竜巻が、叫び声と同時に消滅する。直後、黒鬼の体も黒い瘴気をあげて消滅した。
「よし、一件落着♪」
 にこっと笑って布袋の蓋を締める少女に、深墨は乾いた笑いを零す。
 可愛いのに不思議な子。それが深墨の持った彼女への印象だ。
「あっ、怪我はない?」
 深墨の視線に気付いたのだろうか。
 少女がパタパタと駆け寄ってくる。そして彼の頭の先からつま先まで確認すると、安堵したように胸を撫で下ろした。
「大丈夫みたいだね。よかった♪」
「あ、ああ」
 屈託のない笑顔に何だか呑まれてしまう。
 そうしてふと彼女の膝に目が行った。
「あ、怪我……ちょっと待って」
 先ほど転んだ時に怪我をしたのだろう。
 擦りむいた膝には薄らと血が滲んでいる。深墨は自らのポケットを探ると、そこから絆創膏を取り出した。
「じっとしてて」
 そう言って膝の砂を払ってやってから、絆創膏を貼り付ける。ここ最近物騒な事件が多いので、用意しておいて正解だった。
「はい、これで良し」
 そう言って離れると、目の前に何かが差し出された。
 目を向ければ名刺らしきものが差し出されている。
「えっと……」
「葎子のアルバイト先だよ」
「アルバイト先?」
 名刺を受取りながら目を瞬く。
 いきなり何だと言うのか。首を傾げる深墨の顔を、少女の顔がのぞきこんだ。
「葎子を助けようとしてくれたでしょ。だからお礼をするね♪ もちろん、葎子が御馳走しちゃう♪」
 にっこり笑ってそう言うと、彼女は姿勢を正した。
「それじゃ、またね♪」
 そう言い残して走ってゆく彼女に目を瞬く。が、その目が直ぐに見開かれた。
「ああ!?」
 ベタッと地面に激突してむっくり起き上がった葎子は、。深墨の方を見て照れ笑いをしたかと思うと、今度こそ去って行った。
 その姿を見送り、視線を名刺に落とす。
「なんというか……嵐のような子だな」
 苦笑しながら目にした名刺には、店名と名前が書かれている。
「――蝶野・葎子? 執事&メイド喫茶?」
 確か葎子と言う少女はアルバイト先と言っていた。ということは……。
「メイド」
 ぽつりと呟き、ふむと何かを考える。
 そうして唐突に彼の目が見開かれた。
「あぁっ! 教科書と鞄っ!!」
 先ほど葎子を助けるのに投げつけた鞄を思い出す。
 深墨は葎子から貰った名刺をポケットにしまうと、急いで鞄を拾いに向かったのだった。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 8241 / 葛城・深墨 / 男 / 21歳 / 大学生 】

登場NPC
【 蝶野・葎子 / 女 / 18歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは「りあ☆こい」シナリオへの参加ありがとうございました。
まさか深墨PCが参加されるとは思っておらず、
プレイングは驚き半分楽しみ半分な気持で受け取らせて頂きました。
実際に葎子と絡ませてみると、なにやらギャグ寄りに……。
それでもお気に召していただけたなら嬉しい限りです。
また機会がありましたら、大事なPC様を預けて頂ければと思います。
この度は本当にありがとうございました。

※今回不随のアイテムは取り上げられることはありません。
また、このアイテムがある場合には他シナリオへの参加及び、
NPCメールの送信も可能になりました。