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<東京怪談・PCゲームノベル>


 クロノラビッツ - 時の鐘 -

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 When you wish hard enough,
 so that even a star will crush,
 the world we live in will certainly change one day.
 Fly as high as you can, with all your might,
 since there is nothing to lose.

 CHRONO RABBITZ *** 鳴らせ 響け 時の鐘
 時を護る契約者、悪戯仕掛けるウサギさん、全てを統べる時の神 ――

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「あいつだよな?」
「えぇと …… うん。間違いなく」

 手元の書類を確認しながら呟いた梨乃。
 梨乃の返答を聞いた海斗は、ニッと笑みを浮かべた。
 そのイキイキした表情に、いつもの嫌な予感を感じ取る。

「今回は、失敗が許されないんだからね。ちゃんと指示通りに …… 」

 呆れながら警告したものの。
 既に、梨乃の瞳は、遠のく海斗の背中を捉えていた。
 いつものこと。ヒトの話を聞かないのも、勝手に動き回るのも。
 今更、怒ったりはしない。無駄な体力を消費するだけだから。

「ん〜〜〜♪」

 口角を上げたまま片目を閉じ、海斗は構えた。
 不思議な形の銃。その引き金に指を掛け、狙いを定めて。

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 ・
 ・
 ・

 "魂銃タスラム"
 時の契約者であることを証明する代物。
 普通の銃とは仕様が異なり、銃口から放たれるのは銃弾ではなく、
 銃弾を模した奇跡のチカラ。非現実的だが、それは "魔法" と呼ばれているものだ。
 魔法には幾つかの種類があり、この銃に装填される魔法も、時の契約者ごとに異なる。
 また、この銃から放たれる攻撃が "魔弾" と総称されることも覚えておいて損はないだろう。

「よっしゃ」

 僅かなズレもない。
 まさに、パーフェクト。
 銃を腰元に戻し、ニッと笑う海斗。
 数えて三秒。銃口から放たれた紅蓮の炎が標的を貫く。
 胸元を射抜かれた少女は、ベシャッと、その場に倒れ込んだ。

「どーよ?」

 腕を組み、フフンと自慢気に笑う。
 そんな海斗に歩み寄りながら、梨乃は大きな溜息。
 彼等は、時の契約者。確固たる使命を胸に、今を生きる。
 ヒトを殺めることはない。倒れている少女も、死んではいない。
 海斗が打ち抜いたのは、時兎。少女の胸元に張り付いていた厄介者。
 その名のとおり、姿形は、ウサギに酷似しているが、ヒトには見えない。
 見えないのをいいことに、奴等はヒトに寄生し、記憶を喰らう。
 その悪行を阻止することこそ、時の契約者が担う使命だ。

「もっと丁寧にできないの?」
「あっはは。確かに今のは、やりすぎた」

 倒れた少女を不安そうな表情で覗き込む梨乃。
 魂銃タスラムは、時兎を消滅させる為だけに存在する武器。
 射抜かれた時兎は瞬時に消滅するが、寄生されていたヒトは無傷。
 胸元 …… 心臓を撃ち抜かれることに変わりはないのだが、痛みはない。
 そもそも、時兎と同じように、魂銃による攻撃も、ヒトには見えない。
 だが、見えないだけで、魔弾はヒットしている。胸元を貫いている。
 撃ち抜かれたヒトが、皆一様に転ぶのは、その衝撃によるものだ。
 何もないところで転んだ。そんな経験はないだろうか。
 或いは、そういう人を見たことはないだろうか。
 思わず照れ笑いしてしまう、不可解な転倒。
 それには必ず、時兎が関与している。

「大丈夫かな …… 」

 それにしても、派手に転んだ。
 スライディングの如く派手に転んだ。
 いや、正確に言うなれば、転ばせたと言うべきか。
 梨乃が撃てば、こんなことにはならなかっただろうに。
 痛みはなくとも衝撃はあるのだから、今のは、あんまりだ。
 仮にも女の子なわけだし。もっと優しく撃ち抜くべきだろう。

「んむむむぅ …… 」

 転んで数分が経過した頃。
 うつぶせたまま静止していた少女がモゾモゾと動きだした。
 撃ち抜かれて転んだヒトは、皆、こうして起き上がる。
 起き上がるまでの時間は、ヒトによって様々だ。
 気恥しさからすぐに起き上がるヒトもいれば、
 この少女のように、しばらく動かない事も。

「うにぃ〜 …… ビックリですよ」

 頬を膨らませながら起き上がる少女。
 かなり派手に転ばせてしまったが …… ケガはないようだ。
 胸元に寄生していた時兎も、問題なく消滅している。

「イジワルするのは、どこの誰様ですか〜」

 のろりゆらりと立ち上がり、服についた埃を払う少女。
 漆黒のエプロンドレスに、お揃いのカチューシャ。
 嘘のように美しい雪肌、金色の長い髪。
 その装いは、さながら、お人形。

 七海・乃愛(ななみ・のあ)
 職業:学生 / 身長:149cm / 掴みどころのない性格
 冒頭で梨乃が確認していた書類には、その程度の記述しかない。
 そもそも、寄生した時兎を消すだけだから、事細かに知る必要もない。
 必要最低限の情報と、顔写真さえあれば何の問題もない。

「大丈夫そうね」
「んじゃ、帰るか」

 長居は無用。そもそも、長居したところで何の意味もない。
 乃愛の無事と時兎の消滅を確認した海斗と梨乃は、
 何事もなかったかのように、その場を立ち去る。
 いや、立ち去ろうとした …… のだが。

 ガシッ ――

 掴まれた。
 海斗は左腕を、梨乃は右腕を。
 その確かな感覚に疑問を覚えながらも振り返れば、
 クリンとした瞳で見上げる、可愛らしい女の子の姿が。

「逃げるですか?」

 唇を尖らせながら言った乃愛。
 紛れもなく、その不満は、海斗と梨乃に向けられていた。

「 …… おい。何だこれ」
「もしかして …… 見えてる?」
「はっはっはっ。んなわけねーだろ」
「でも …… 腕、掴んでるよね。この子」

 言い忘れたが、
 時の契約者もまた、認識されない存在だ。
 時兎と同じように、ヒトの目に映ることがない存在。
 確かに存在しているものの、ヒトは、彼等を認識できない。
 だからこそ、彼等は音もなく使命を果たし、去ることができる。
 だから、その、何だ。つまり、今のこの状況は …… 。

「意味わかんね」

 そういうことだ。
 ありえない。まさに、それ。
 見えるはずがないのだ。触るなんて、もってのほか。
 …… それなのに、掴まれている。確かに掴まれている。
 そればかりか、逃げるの? だなんて挑発まがいなことまで言われてる。
 ありえない状況なのは確かだが、紛れもない事実であることも確か。
 疑問を拭い去れないまま、確認するかのように梨乃は呟いてみた。
 あなたの名前は? と、小さな声で尋ねてみた。

「自分から名乗るのが "レーギ" なのですよ」

 返ってきたぞ。
 ごもっともな意見が返ってきたぞ。
 会話が成立してしまった事実に、顔を見合わせる海斗と梨乃。
 理解しがたい状況に、海斗の口は半開き。中々のアホ面だ。
 だが、そんな海斗の表情が逆に梨乃をシャキッとさせる。
 二人揃ってポカーンだなんて、情けなさすぎる。
 冷静に、だなんて海斗には無理な芸当。
 私が、しっかりしなきゃ。
 何とも妙な使命感。

「えっと …… そうね。ごめんなさい」

 ニコリと微笑み、素直に謝罪した梨乃。
 乃愛は、その笑顔につられるように微笑み返した。
 うわぁ、何て可愛い笑顔。 …… なんて言ってる場合じゃない。
 
「何で撃ったですか?」
「えっ …… ? えぇと、それは …… 」
「ウサギさんは、何も悪いことしてないですよ?」
「えっ!?」

 ・
 ・
 ・

 今日のおやつは何かなぁ。
 そんなことを考えながら歩いていた。
 いつもの時間、いつもの道を、いつもの調子で。
 胸元に半透明のウサギが突如として現れても、動じることはなかった。
 寧ろ逆に、楽しんでいた。一緒におやつ食べようね〜だなんて言いながら。
 軽いノリだったのだ。新しいお友達ができた、とか。そんなノリ。
 胸を踊らせていた。まさに、ウキウキってやつだ。
 だからこそ、乃愛は、反応できなかった。
 派手に転び、その拍子に地面とキス。
 そこで初めて気付いた。
 撃たれたことに。

 まさか、記憶を喰われていただなんて。
 あの可愛いウサギが、そんなに怖いものだったなんて。
 事の真相を知った乃愛は、動揺を隠せない様子だったが、
 結果として救われたことを知り、素直に感謝を述べた。
 やけに物分かりが良いのも、頷ける。
 全部見えているのだから …… 。

「梨乃、イイ匂いです」
「えっ? そ、そうかな」
「あまぁ〜い 苺の匂いがするです」
「苺? 苺なんて食べてないけど …… 」

 幸せそうな表情を浮かべている乃愛。
 どうやら、すっかり懐かれてしまったようだ。
 抱きつかれる梨乃の傍らで胡坐をかき、口に飴玉を放る海斗。
 随分と馴染んでいるというか、どうも、まったりした雰囲気だが、
 見えないはずなのに見えているという状況は、事実として大問題だ。
 事の詳細を話してしまったとなると、なおさら。
 海斗は、前髪を弄りながらポツリと呟く。

「で? どーすんの、それ」
「そうね …… とりあえず、報告かな」
「あー。うん。んじゃ、ヨロシク」
「えっ …… 私 …… ?」
「説明ヘタだもん、俺」
「 ………… 」

 確かに。
 そう思った梨乃は、すぐさま、乃愛を海斗に預けた。
 梨乃が報告している間。必然と、海斗と乃愛は二人きりになる。
 まぁ、二人きりになったからといって、何が起こるわけでもないが。

「 ………… 」

 じーっと見つめる。
 その視線の意味を、海斗はすぐに察した。
 ゴソゴソとポケットを漁り、取り出した飴を投げやる。
 飛んできた飴を上手にキャッチした乃愛は、嬉しそうに笑った。

「つか、お前、歳は?」
「アンは、十七歳なのです」
「あっははは。そーか、そーか」
「どうして笑うのです? 本当のことですよ?」
「あっははは。よーし、わかった。もういい、黙っとけ」

 天然とか、不思議ちゃんとか。
 海斗は、その類が苦手であることを知った。
 いや、乃愛の発言は天然でも何でもなく事実なのだが。
 乃愛の外見から、それを信じるのは難しいかと思われる。
 いや、ヒトを見た目で判断するのは良くないことだけれど。
 そんな遣り取りをしていたところ、梨乃が戻ってくる。
 神妙な面持ちの梨乃を見て、海斗は思った。

(あー。やっぱりねー)

 時の契約者。
 契約者というからには、契約主 …… つまり、オーナーがいる。
 彼等は、契約主の指示で動く。自発的に使命を担っているわけではない。
 契約主の言葉は絶対。厳守せよと定められたルールを守るのも、また絶対。
 そのルールの中に "知り得ている情報の口外禁止" というものがある。
 にも関わらず、海斗と梨乃は話してしまった。事の真相を。
 とはいえ、弁解の余地はある。じゅうぶんすぎるほど。
 厳守すべきルールを忘れるほど馬鹿じゃない。
 話したことなんてなかったし、話そうとも思わなかった。
 そもそも、認識されないのだから、話したくても話せない。

「んじゃ、行くか」
「乃愛ちゃん、離れないでね」

 ガリガリと飴を噛みながら、
 海斗がポケットから取り出したのは、黒い鍵。
 梨乃もまた同様に、胸元から黒い鍵を取り出した。
 時の歪みに鍵を差し込んで、二人同時に、鍵を回す。
 時狭間へと続く黒の門が出現するのは、ほんの数秒。
 海斗と梨乃は、乃愛を連れて、門を潜り抜けた。

 咎められたら、すぐに反論してやろう。
 俺達は、認識されないはずの存在なのに。
 どうして、見えてるんだ? 会話が成立するんだ?
 おかしいと思ってたんだ。認識されないのに "口外禁止" なんて。
 つまり、可能性を考慮した上でのルールだったわけだよな?
 見つかる場合もある。そういうことだよな?
 漆黒の闇を歩きながら仮説を立てる海斗。
 隣を歩く梨乃も、表情が硬い。

 何やら切迫した雰囲気。
 だが、梨乃に手を引かれて歩く乃愛だけは。

「海斗は、ラムネの匂いがするです」
「うおっ! 何してんだ、お前っ」
「アンは、ラムネも好きです」
「だー! 歩きにくい!」

 楽しそうだった。

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 CAST:

 8295 / 七海・乃愛 / 17歳 / 学生
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)

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 後記:

 ルート分岐結果 → タスラム貫通
 七海・乃愛さんは、Dルートで進行します。
 Dルートは、クロノラビッツの正規ルートとなっております。
 以降、ゲームノベル:クロノラビッツの各種シナリオへ御参加の際は、
 ルート分岐Dに進行したPCさん向け のシナリオへどうぞ。

 オーダーありがとうございました。
 2009.12.22 稀柳カイリ

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