コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


Route1・隠された顔 / クロウ・ハーベスト

 良く晴れた空の元、青髪に青い瞳の青年が、足取り軽やかに住宅街の中を歩いて行く。
 一見すればひょろり、少し良く見るとガリガリな印象を受ける青年の名前は、クロウ・ハーベスト。
 片手にはコンビニ袋、もう片方の手には名刺を持つ彼が目指すのは、とある店だ。
「たぶんこの辺りだな」
 手にした名刺に視線を落としてから周囲を見回す。と、その目が直ぐ傍の電柱を捉えた。
 そこに巻かれた番地の表示と名刺を見比べる。
「あと1つ」
 そう口にしながら歩き出す彼が目指すのは、先日悪鬼とか言う化け物に遭遇した際、クロウを助けてくれた青年――鹿ノ戸・千里が働く店。
 そこに行って、助けてもらったお礼をするのが彼の今回の目的なのだ。
 先ほどから煩く自己主張をしてくる袋の中には、そのお礼の品が入っている。お菓子やらジュースやら、まあ高校生くらいの男子であれば無難な線だろう。
 そうして名刺を頼りに辿りついたのは、執事&メイド喫茶「りあ☆こい」というふざけた店名を掲げる店の前だった。
「変わった場所で働いてるな」
 こうした店には馴染みが無い。そもそも興味もあまりないので今日まで無縁に来た区域だ。
 クロウは名刺をポケットにしまうと、意を決して扉に手を伸ばした。その瞬間、声が響いてくる。
「まったく君は……もう少しオーナーの気持ちも考えるべきだ」
 店の裏側からだろうか。もめているというよりは、お叱り中とでもいうような声が響いてくる。
 その声に首を傾げると、クロウはノブに手を掛けた。
「――わかったから戻れ」
 ピクッとクロウの動きが止まり、彼の首が傾げられる。
「この声……」
 今聞こえてきた声には覚えがある。
 クロウはノブから手を離すとクルリとその身を返した。そうして向かった先は声が聞こえた場所だ。
 声がした場所は店のちょうど側面になる。
 覗き込めば、そこには燕尾服を着た青年が2人。互いに対峙するように立っていた。
その内の1人、煙草を咥えて壁に背凭れているの人物にクロウの目が寄せられる。
「やっぱり、センリ――……No――ッ!」
 クロウの目がカッと見開かれた。
 その直後、彼の姿が消える。
「Hey、センリ! タバコは駄目だ!」
 一瞬とは雅にこのこと。
 脱兎の如く視界に入り、脱兎の如く奪い去った煙草。奪い取られた側と、傍で話をしていた側は、クロウの突然の登場に呆然としている。
 当のクロウはそんなことなどお構いなしだ。
 火の付いていない煙草を地面に放ると、それを靴底で踏みつけた。
「俺、タバコ撲滅派なんだ」
 にんまり笑うクロウに、千里は「はあ」と盛大な息を吐く。それと同時に、彼と話をしていた金髪の青年が目を瞬いた。
「……君の知り合いかい?」
 不思議そうに千里に問う青年の声に、彼は視線を泳がせている。
 明らかに面倒。出来ることなら関わりたくない。そんな雰囲気が全身から滲み出ている。
 そうしてそんな彼が出した対応策は「無視」だ。
 無言で姿勢を正して歩き出す。
 そして何か言いたげにしている青年をチラリとみると、息を吐く様に言葉を発した。
「知らな――ぐぇッ!」
 あと少しで裏口に辿り着く。
 そこまで来て千里の動きが止まった。
 彼の襟首を掴む手。それが千里の首を絞める。
「知らないなんてことはないだろ。ひっどいなあ」
 怒ったように主張する声に、千里の米神がヒクリと揺れた。
 首が閉まった本人としては、多かれ少なかれ言い分があるのだろう。
「テメェ……」
 襟に指を入れながら、締まり具合を緩める千里の目が向かう。片目しか見えないが、その目が怒っているのは確実だ。
 クロウはその目を見て手を離すと、ニコリ笑って持っていたビニール袋を掲げて見せた。
「差し入れ持って来たんだ」
「あ?」
 話の流れなどあったものではない。
 いきなりな言葉に千里の眉間に皺が寄る。完全に切れる寸前の彼の前に、スッと影が入った。
「はいはい、今のは君が悪い」
 今にも怒りだしそうな千里をたしなめるように、金髪の青年が割って入って来た。
 千里の肩をぽんぽんと叩いて、青い瞳をクロウに向けてくる。千里が闇の印象なら、こちらは光だろうか。
 彼はクロウに視線を合わせると、穏やかに微笑んで見せた。
「はじめまして、僕は千里の同僚で辰巳・梓。君は彼の友達……かな?」
「友達――いや、知り合い。この前、危ない所をセンリに助けてもらったんだ。そのお礼に今日は差し入れを持って来たって訳」
 ガサガサと鳴らす袋を見てから梓はクスリと笑って、千里をチラリと見やった。
「千里が人助けを……それは、空から槍か大魔王様でも降って来そうな話だね。でも本当ならオーナーも喜ぶかな?」
 クロウの目も梓に習って千里に向かうのだが、その瞬間彼の眉間に深い皺が刻まれた。
 まるで「余計な事を言うんじゃねえ」。そう言っているかのような、鋭い視線に眉根が上がる。
 そこに空かさず助け船が来た。
「友達は大事にしないとダメだろ」
 クロウの反応を見て、梓が擁護に出てくれたのだ。それに対して大きな舌打ちが聞こえたと思うと、足音が近付いて来た。
「おい千里、話はまだ終わってな――」
「長ったらしい説教なんか、聞いてられるかよ。来い」
 千里が近付いて来たのだ。
 彼はクロウの腕を強引に掴むと、それを引いて歩きだした。それにはクロウも驚いたが、彼以上に驚く者がいたのを、聞こえてきた声で知った。
「千里!」
 驚きを含む叫び声に、千里は片手だけ上げて歩いて行く。それを見たクロウは、一度だけ梓を振り返ると彼と共に歩いて行ったのだった。

   ***

 クロウは千里に連れられて、喫茶店近くの公園に来ていた。
 天気の良い昼下がりと言うこともあり、親子連れが目立つ中、男2人でベンチに腰を下ろす姿は少し異常だ。
 しかしそんなことなどお構いなしに、クロウは先ほどから喋り続けている。
「――で、変な化け物にあった日も買い物に行った帰りでさ」
 ニコニコと楽しげに話すのは、彼の幼馴染のことだ。先ほどから延々とその話題が出てくる。
 よほど仲が良いのか、それともよほど好きなのか。まあどちらかだろう。
 それを千里は何も言わずに聞き流しているのだが、こう長々と続くとやはり疲れてくる。
 千里は僅かに息を吐くと、ベンチに背凭れて足を組んだ。その上で空を見上げると、彼の口からようやく言葉が零れてきた。
「――何であそこにいた」
 億劫そうに、ただ出しただけの声にクロウの目が瞬かれる。
 千里の問いは単純明快だ。
 あの場にクロウが訪れた理由を尋ねている。それを耳にしたクロウは、ポンっと手拍子を打つと、ビニール袋を漁り始めた。
「そうそう、お礼だよ。この前のお礼をセンリにしようと思ってたんだ」
 そう言いながら取り出したのは、珈琲の缶だ。
 クロウは手にした缶を千里に差しだすと、無理やり握らせた。
「まず1つ目ね。あとは……」
 再びビニールの中を探りだす姿に、息が漏れる。
「これで充分だ」
 そう言ってタブを開ける姿にクロウは目を瞬いた。
 てっきり押し返されるか断られるかすると思ったのだが、案外すんなり受け取った姿に驚いてしまう。
「意外と素直だな。あ、素直ついでに聞いても良いかな?」
 急に声のトーンが変わった。
 好奇心に満ちた嬉々とした声に千里の目が向かう。そこにあったのは、声と同じ好奇心に満ちた顔だった。
 正直、この手の表情を浮かべる輩は得意ではない。
 千里はその事を隠しもせず顔に浮かべると、スッと視線を外した。
「何で刀なんか持ってるんだ? 日本には銃刀法ってのがあるんだろう。違反にならないのか?」
 問いを耳にして何となくだが納得してしまう。
 先日聞いた彼の名前。そして見た目から分かるようにクロウは日本人ではない。となると、こうした疑問が出てきても不思議ではない。
 そんな事を考えて妙に納得してしまうのだが、答える義理があるかと聞かれたら、「No」と思ってしまう。
「さあな」
 千里は短く言葉を返すと、缶を口に運んだ。
 その姿にクロウは目を瞬くのだが、それ以上の追及はしなかった。
「まあ、言えないことだってあるか」
 そう口にしてあっさりと引いた。
 好奇心旺盛に問いかけてきたり、あっさり引いたり、訳の分からない青年だ。
 そもそも先日会った時に見せた、常人離れした身体能力も気になる。悪鬼に駆け寄った俊足、その後の動きも普通ではなかった。
 千里はゆっくり目を瞬くと、完の中身を飲み干してそれを屑カゴに放った。
「――おい」
 彼の呟きと同時に、弧線を描いた完が屑カゴの中に落ちてゆく。それを見届けてから、クロウが千里を見た。
「テメェだって妙な力があんだろ。ありゃ何だ」
 僅かに眉を寄せながら呟く。
 その声に首を傾げると、クロウは一瞬視線を泳がせてニッコリと笑った。
「んー、良く分からない」
 ニコニコと笑顔で返されるこの言葉は、これ以上の問いかけ禁止の意思表示だ。
 千里は緩やかに肩を竦めると、その場を立ちあがった。
「あれ、もう行くの?」
「居る意味がわかんねえ」
 ポケットに手を突っ込みぶっきらぼうに返す言葉に何となく頷く。
「じゃあ、これ渡しとくよ」
 そう言いながらクロウが取り出したのは、連絡先が書かれた紙だ。それに視線を落として千里の眉間に皺が寄る。
「英語の宿題が出たら言ってよ。手伝うからさ!」
 ニコニコと千里の手を無理矢理引きだして紙を握らせる。その強引さにも驚くが、相手が口にした言葉にも驚く。
「――何で宿題」
 ぼそりと呟きながら、更に眉が寄る。
「と・に・か・く、英語の宿題が出たら呼んでくれよ。用事がなけりゃ手伝うからさ」
 自信満々に言い放つ声に、苦笑が漏れる。
 千里は紙をポケットにしまうと、ぽんっとクロウの頭を叩いた。
 その仕草に彼の目が瞬かれる。
「宿題なんざねぇよ。あってもやらないしな」
 そう言って手を離すと、千里は歩き出した。
 その姿を見て慌てて声をかける。
「宿題は大事だよ。英語の宿題が出たら、必ず呼ぶんだよ!」
 なんとも奇妙な言葉だ。
 千里は聞こえてきたクロウの声に苦笑を深めると、ヒラリと後ろ手に手を振って歩いて行った。
 残されたクロウはと言えば、渡しきれなかったビニール袋を持ち上げて目を瞬く。
「これ、持って行ったら喜ぶかな?」
 そう呟く彼の脳裏には、先ほど千里に話していた幼馴染の姿が浮かんでいたのだった。

END


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【 8135 / クロウ・ハーベスト / 男 / 15歳 / 中学生(留学生) 】

登場NPC
【 鹿ノ戸・千里 / 男 / 18歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】

【 辰巳・梓 / 男 / 17歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】(ちょい役)


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

こんにちは、朝臣あむです。
このたびは鹿ノ戸千里ルート1への参加ありがとうございました。
前回に引き続きご指名頂いた、千里とのお話をお届けします。
微妙に質問しきれていない部分もありもしかするとクロウPLさまは消化不良かもしれませんね;
それでも楽しんで読んで頂けたなら、嬉しい限りです!
また機会がありましたら、大事なPC様を預けて頂ければと思います。
このたびは本当にありがとうございました。