コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


【SS】忍び寄る魔の手 / 月代・慎

 闇に沈む新月。
 煌々と照るはずの月は姿を隠し、今はただ無数の星たちが空を照らす。
 そんな普段より数段暗さの増す夜道に、月代・慎は立っていた。
 街灯以外何もないこの場所は正直言って暗い。そこに金色の瞳を光らせ彼が見つめるのは、自らを守護する蝶「永世姫」と「常世姫」だ。
 鱗粉を舞わせながら上空を行く彼女らは、慎が会いたいと思っている人物を探すためにその身を翻している。
 決して恋い焦がれてとか、親しみがあるから話をしたいとかではなく、ただ会って聞きたいことがあるだけだ。
 その人物は、今まで何度となく慎に危険を浴びせてきた。そして今は自らが危険な状態に陥っている。
「何処にいるんだろう」
 呟く慎の元に、永世姫が舞い戻った。
 美しく輝く羽根を閉じたり開いたりしながら何かを主張してくる。その姿を眺めていた慎の表情が徐々に険しくなった。
「まったく、ゆっくり探しものもできないね」
 慎はそう口にすると表情を引き締めた。
 そうして空を見上げれば、不穏な雲が集まり始めているのが見える。
「行こう。おじさんもきっとそこにいる」
 そう言葉を零すと、慎は2匹の蝶に導かれてこの場を去って行った。

   ***

 闇夜に立ち込める雲が渦を巻き、空に紫の稲光が走る。それを地上から見上げるのは慎だ。
 彼の見据える先にある空。そこから鳴神の音と共に姿を現した白い物体に、慎は自前の糸を取り出した。
「大きい」
 茫然と口にした慎の目の前には、高層ビルほどの大きさをした巨大な骸骨――巨大骨がいる。
 踏まれればひとたまりもない。そして攻撃を受けてもただでは済まないことが容易に想像できる相手だ。
 慎は糸を丹念に解すと表情を引き締めた。
 その直ぐ傍には彼をここまで導いた2匹の蝶がいる。慎は彼女らに視線を向けるとある頼みを口にした。
「もしかしたら九郎さんや深墨さん、あのおじさんがいるかもしれない。探してきて」
 そう言って自らは目の前に現れた巨大骨に意識を集中した。
「これが、おじさんが言っていた冥王の力」
 幼さの残る顔を引き締めて、糸に気を張り巡らせる。今回付加させるのは刃のごとく鋭い切れ味だ。
 万物を切り裂く鋭さを糸に乗せ、慎はそれを放った。
「このまま地面に縫い付ける!」
 糸が生き物のように蠢き巨大骨に迫る。
 紛うことなく触れた糸が、骨を真っ直ぐに貫いた。
――グオオオオオオオッ!
 雄叫びを上げて身じろぐ存在に、再度糸を巡らせる。しかし幾つ糸を放ってもそれが致命傷を負わせることは無かった。
「ッ、大き過ぎる……」
 糸は何処からでも採取可能だ。
なのでそれに関しては問題ない。しかし動きを止めるにしても、あまりにも相手が大き過ぎて1人では無理だ。
「これ以上の移動は認められないのに」
 被害を最小限に。そう思う気持ちは変わらない。
 けれど今口にしたように、1人では限界がある。
 そんなことを考えていた慎の元に、1匹の蝶が戻ってきた。
「そう、九郎さんが……ッ、しまった!」
 一瞬の隙を突いて慎の視界にある物が迫った。
 突如巨大骨の周辺に浮かび上がった無数の鬼火。それが慎めがけ襲いかかってきたのだ。
「月の子!」
 咄嗟に守護の存在を呼び防御に入る。
 だがそれよりも早く、彼の間合いに鬼火が入った。
 容赦なく攻撃を加えようと襲いかかる鬼火に、手にしていた糸で応戦しようとする。 しかし、鬼火の姿は慎に触れる前に消え去った。
「っ!」
 驚く慎の目に、緑銀髪の髪が入る――不知火だ。
 彼は刀を手に鬼火を一掃するすると、慎を見やった。
「おじさん、何で」
「おちびちゃん。動きを止めるならもっと下だ」
 そう言って軽やかに刃を振るう。そうして顎で示したのは、巨大骨の足元だ。
「おちびちゃんなら、出来るだろ?」
 不知火はそう言って笑うと地面を蹴った。
 その際にも迫る鬼火を払うのは忘れない。まるで風のように去ってゆく姿に慎は思わず叫んだ。
「ど、何処に行くの!」
 その声にチラリとだけ視線が寄こされた。
 しかし答えは無い。
 彼は視線を前に戻すと高層ビルに入って行った。
「慎、今はあの化け物を止めることに集中だ」
「えっ」
 振り返った先には、迫る鬼火を殴り消す神木・九郎がいた。
 やれやれといった様子で巨大骨を見る姿に慎の目もそちらへと向かう。
「あっちは任せて俺らはこっちだ。何か策はあるか?」
 九郎の声に慎の視線が落ちる。
 そして覚悟を決めたように目が九郎を捉えた。
「僕の力で化け物の足を地面に縫い付けて、あわよくば力を奪い取る」
 慎は月の子の守護を強めながら呟いた。
 その声に九郎の拳が握られる。そんな彼の顔にはニッとした笑みが浮かんでいた。
「上等だ。なら俺は経穴を狙って足止めの補佐に回る。良いな?」
 九郎の声に慎が頷く。
 こうして巨大骨の足を止める作戦が始まった。
 一方、2人の元から離れた不知火は、ビルの屋上に足を運んでいた。
「なら共同戦線でも張らないか?」
 そう言って不知火に提案を持ちかけたのは葛城・深墨だ。彼は愛刀の黒絵を手に、屋上から巨大骨の様子を伺っていた。
 そんな深墨の提案に不知火の眉が上がる。
「俺様は普通の人間だからなぁ。退治はテメェらに任せるぜ。ほら、良い具合に足止めが始まった」
 クイッと不知火が示した先では、九郎と慎が力を合わせて巨大骨の動きを止めようとしていた。
「人体と同じなら、急所は此処だっ!」
 ゴスッと九郎の拳が骨と骨の合間に突き刺さる。
 その動きに反応して巨大骨の足が動いた。
 しかし大振りの攻撃の合間を縫って間合いに入り込んだ九郎に、巨大骨の攻撃は届かない。その代わりに周囲の鬼火が、容赦なく九郎へ攻撃を向けていた。
「ッ、次から次へと……」
 苛立ちと共に攻撃を捩じ伏せる。
 いくら倒しても湧き上がってくる鬼火には正直辟易し始めていた。
そのせいか動きも徐々に大雑把なものになってゆくのだが、それをフォローするように慎の放った糸が崩しそびれた鬼火を消滅させてゆく。
「九郎さん、次はッ!」
 九郎が攻撃を加えた急所に慎の糸が潜り込む。そして器用に絡まされた糸が慎と繋がった。
「次は、此処だ!」
 そう言って新たな場所に九郎の拳が突き刺さる。その直後に先ほどと同じように慎の糸が降り注ぐ。
 こうして幾重にも巻かれた糸が巨大骨の動きを徐々に封じてゆく。しかもそれはただ封じるだけではない。
「こりゃすげぇ」
 感嘆の声を上げたのはビルの上から地上を見下ろす不知火だ。
 その隣で同じように地上を見下ろす深墨の目も驚いたように見開かれてゆく。
 巨大骨を覆うように張り巡らされた糸。それが慎の力を受けて1つの紋様を浮かび上がらせている。
「――魔法陣」
 呟く深墨の言葉通り、地上に浮かび上がったのは糸で出来た魔法陣だ。
 巨大骨の足を繋いで動きを封じるそれは、目を奪うほどに美しく精密に出来ている。
「凄いな。これで足止めは完璧――次は俺の番だね」
 深墨は手にしていた愛刀の黒絵を抜き取ると、黒光りする刀身を眺めた。
「さあ、行くよ!」
 そう言ってフェンスを飛び越える。そしてそのままビルから一気に飛翔した。
 黒絵を抜けば常人離れした能力を手にすることができるとは言え躊躇いがないわけではなかった。それでも飛んでしまえば覚悟はできる。
 深墨は巨大骨の頭上にその身を落とすと、ふと周囲を見回した。
 自らを囲む鬼火に目を細める。
「早速ピンチ?」
 苦笑して刀を構えた。
 そして刀を振るい鬼火を消滅にかかる。
 しかし彼の刃が風を薙ぐ前に鬼火の姿が消えた。
「え?」
 驚く深墨の目に1匹の蝶が飛来する。それを見て理解した。
「慎か」
 地上では慎と九郎が作り上げた魔法陣が光を発している。きっとこの魔法陣の力のおかげで鬼火が能力を発揮できないのだ。
「今の内。急所は――」
 深墨の目が動く。そうして捉えたのは、人の心臓部にある黒々とした何かだ。
 位置からすれば深墨のいる巨大骨の頭上と、地上からの距離の間。飛び降りて攻撃するにしても少し危なそうだ。
 黒々としたものは一定の間隔を保って脈打っている。まるで心臓のような動きだ。
「あそこまで行くには俺では足りないかもしれない」
 深墨は僅かに思案すると黒絵を鞘に戻した。
 そして瞼を伏せて自らに宿る魔術を開放する。
 その直後、彼の分身――シャドーウォーカーが発動された。
 影である彼の分身は身軽に巨大骨の頭から降り、骨を伝って心臓がある場所まで辿り着いた。
 それを地上で見ていた九郎の眉が上がる。
「――あれが弱点か」
 地上から飛翔して突けるかどうかギリギリの距離。しかし九郎の能力を使えばいけないことは無い。
「深墨さんに感謝だな。慎、しっかり押さえとけよ!」
 九郎は顎を引くと拳を握りしめ足に気を集中させた。
 そこに巨大骨の攻撃が降り注ぐ。
――ガッ。
 固い音を響かせて巨大骨の動きが止まった。
 横目に金色に輝く何かが入る。慎の守護を任されている月の子だ。
 魔法陣から吸収する巨大骨の力を自らの力に変換させて能力を上げているのだ。
 九郎はそれを確認すると、一気に地面を蹴った。
 常人離れした脚力で宙を貫く。
 そして――。
――グアアアアアアアッ!
 九郎の拳が心臓を突き破った。
 直後、雄叫びと共に巨大骨が硬直する。
 震えるように天を仰ぐその姿が、砂の城を崩したかのように一気に崩れ落ち、塵1つ残さず怨霊は姿を消した。

   ***

 慎は巨大骨との戦いの余韻を残しながら、ぼんやり家路に着こうとしていた。
 結局、不知火に聞きたいことは聞けずじまい。
 消化不良の感を残したまま、胸にもやもやとしたものだけが残っている。それでも怨霊を倒せたことだけは、素直に良かったと思えた。
「……これで、終わりじゃないよね」
 呟きながら足を止める。
 そんな彼の視界にふと人影が入った。
 切れかかった街灯の明かりの下。ぼんやりと浮かび上がる白く靄でもかかったかのような人の姿に目を瞬く。
 パッと見はお化けに見えなくもないが、慎はすぐにそれが誰なのか理解した。
「貴方はこの前の……」
 時を止める怨霊と対峙した際に出会った人物だ。
 時間の止まった中で平然と動き、慎を自由にしてくれた人物で間違いない。
 彼は初めて会ったときと変わららない、優しく穏やかな微笑みを浮かべて慎を見止めた。
 その視線に訳も分からず背筋がゾクリとする。
「雪弥くんがやろうとしていた事は、正しかったようですね」
 静かに耳を震わす声に眉が寄る。
 そして一切不要な動作など見せずに、その人物の足が動いた。
 ゆっくり近付くその姿に思わず足が下がる。
「能力者は生かしておいても邪魔になる」
「!」
 顔面を掴むように男の手が伸ばされた。
「邪魔はしてはいけません」
 クスリと笑って伸ばされた指が髪に触れた。
――パンッ。
「ッ!」
 男の手が火花を散らして下がった。
 目の前に現れたのは慎を守護する月の子、そして永世姫と常世姫だ。結界を張って慎を守ろうとその身を晒している。
「成る程。止まった時の中で動けるだけのことはありますね」
 男は瞳を眇めて喉奥で笑うと、スッとその姿を消した。
 後に残されたのは、月の子らに結界を張られたままの慎だ。
「な、に……今の……」
 まるで狐にでも抓まれた気分になりながら見下ろした自分の手。そこには尋常でない汗が浮かんでいた。

 END


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【 6408 / 月代・慎 / 男 / 11歳 / 退魔師・タレント 】
【 8241 / 葛城・深墨 / 男 / 21歳 / 大学生 】
【 2895 / 神木・九郎 / 男 / 17歳 / 高校生兼何でも屋 】

登場NPC
【 不知火・雪弥 / 男 / 29歳 / ソウルハンター 】
【 月代・佐久弥 / 男 / 29歳 / SSオーナー 】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

こんにちは、朝臣あむです。
SSシナリオ・忍び寄る魔の手にご参加いただきありがとうございました。
プロローグとエピローグ、こんな感じに仕上がりました。
慎PCが不知火に何を聞きたかったのか分からず、そこには触れずに終了させてしまいましたが大丈夫でしたでしょうか?
また選ばれたNPCが佐久弥ということで、こんなエピローグになっています。
読んでいろいろ想像して、少しでも楽しんで頂ければうれしいです。
また機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。
ご参加、本当にありがとうございました。