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<東京怪談・PCゲームノベル>


Route4・戦士の休息 / 辻宮・みさお

「黒鬼はあたしの獲物だ。邪魔しないでもらおう」
 二丁の銃を手に笑う少女。
 勝気な表情は臆すことなく強い輝きを放つ。目の前には餓鬼のような姿をした化け物。彼女の眼鏡に隠れた瞳は、迷うことなく化け物を見据えていた。

――これが全ての始まりだった。

 辻宮・みさおは、立ち上げたノートパソコンを眺めながら、紅茶のカップを持ち上げた。
 鼻を擽る甘い香りと、口の中で広がる柔らかな味についつい目元が綻んでしまう。
 耳には聞き慣れたざわめきを留めながら、彼は時折キーボードに指を這わせた。
「美味しいな」
 呟きながらカップを置く。
 その上で視線をあげると、豪華な内装と、そこで働く執事とメイドの姿が飛び込んできた。
「この光景も見慣れたな」
 初めは戸惑ったが、今では慣れたものだ。
 性別を間違われて「お嬢さま」と呼ばれたのも今では良い思い出になっている。
そんな事を思い出しながらキーボードに視線を落とすと、声が聞こえてきた。
「随分と頑張ってるようだな」
 聞き覚えのある声だ。
 顔をあげると、黒のロングメイド服に身を包んだ少女――蜂須賀・菜々美が立っていた。
「お邪魔してます」
 勝気な表情でこちらを見つめる菜々美に、スッと頭を下げる。すると柔らかな動作で紅茶がカップに足された。
「ああ、いらっしゃい」
 少し笑みを浮かべながら放たれる声には柔らかさがある。どうも先日、鳥鬼とか言う悪鬼と闘ってから、彼女の印象が柔らかくなった気がする。
「この後、時間はあるか」
 高茶の足されたカップを持ち上げると、菜々美にしては珍しい躊躇いがちな声が掛けられた。
 その声に思わず動きを止めて視線を向ける。その際に一瞬彼女の眉が動いた気がしたが、それはそんなに気にならなかった。
 むしろ気になるのは、彼女が普段言わない言葉を口にしたことだ。
「菜々美さん?」
 普段なら、二の句を告げずに連れ出すはずの菜々美が、みさおにお伺いを立てたのだ。
 これが驚かずにいられるだろうか。しかし、驚いたのは間違いだった。
「用事があるのか。ならば仕方がない」
 残念そうに口にする言葉に、ハッとなる。
 慌ててカップを置いて身を乗り出すが、時すでに遅しとは正にこのこと。
「菜々美さん、ボク――……え?」
 急いで否定の言葉を口にしようとしたみさおの目が見開かれた。
 まじまじと見詰める視線の先にある黒い物。それを見て、さあっと血の気が引いて行く。
「……な、菜々美さん?」
 ゴクリと唾を飲み込むが、それ以上に額に触れた冷たいものに目は釘付けだ。
 みさおの額に触れているもの。それは、菜々美が普段愛用している銃。しかもちゃっかり安全装置が外されてる代物だ。
 そして指がゆっくりと引き金に掛けられる。
「この後の予定は?」
 底冷えするような笑みで問われて首を横に触れる筈もない。
 みさおはもう一度唾を呑みこむと、こくりと頷きを返したのだった。

   ***

 みさおが連れて来られたのは、喫茶店近くの神社だった。
 社の後ろにある、人目につかない場所で、菜々美は空き缶を並べている。
「別に時間が無いなんて言ってないのに」
 ぼやくみさおは、社の段差に腰をおろして彼女の動作を眺めている。
 その手には相棒のパペット、ジャックが嵌められており、ジャックも菜々美の動作をなんとなく眺めていた。
『まあ、照れ隠しだろうよ』
 カッカッと笑うジャックに視線を寄こしながら、みさおは「はあっ」と息を吐いた。
「別に射撃の練習ならあんな誘い方しなくても良いと思うんだ。何かと思っちゃった」
『まあな』
 確かに、菜々美の誘い方は異常だった。だが、裏を返せばそれこそが彼女らしい。
 菜々美は缶を並べ終えると、自前の銃を取り出し、弾を詰め始めた。そして準備が整うと、照準を缶に合わせる。
「――滅する」
 極々小さな声が菜々美の口から洩れた。
 直後、空気を震わす弾丸の音と共に、缶が残らず飛ぶ。その早技に、みさおの目が見開かれた。
「凄い。いつ見てもあの拳銃捌きは凄い……」
 感心したように呟いて思わず手を叩く。
 しかしそんな彼の耳に、思わぬ声が聞こえてきた。
「試してみるか?」
「え?」
 いつのまに傍に来たのか、菜々美が銃を差し出している。その声に目を瞬いていると、無理矢理銃を握らされた。
「あの、でも……」
「人間には効かない。安心して使って良いぞ」
 そう言って離れる姿に、目が銃に落ちる。
 ずっしりとした感触に怯んでしまう。
 今までジャックと悪鬼とか言う化け物に立ち向かってきたが、こういう本格的な武器を手にしたことはない。
 気後れしていると、菜々美の手がみさおの肩を叩いた。
「玩具だと思え」
 きっと大事な武器のはず。それを玩具と思うようにと気を使って言った彼女の言葉に、何だか申し訳なくなってしまう。
 みさおは1つ頷きを返すと、銃を手に立ち上がった。
『安全装置は俺様が外してやるぜ』
 そう言って慣れた手つきでジャックが安全装置を解除した。
 それから照準を合わせるのだが、上手いように的に定まらない。
「……む、難しいな……」
 ジリジリと妙な焦りが来る。だが、ここは気を静めるべきだ。
 何度か深呼吸をして照準を合わせると、意を決して引き金を引いた。
――パンッ!
「うわあっ!」
 どしん。と、尻もちを着いて座り込んだみさおに、そっと手が差し伸べられる。
 物凄い衝撃に手がビリビリしている。
「凄い……菜々美さん、いつもこんなのを撃ってるんだ」
 みさおは差し出された菜々美の手を取って立ち上がった。
 そして銃を返した所で、ジャックのとんでもない声が響いてくる。
『俺様だったらあんな的、真ん中に命中できるぜ。嬢ちゃんよりも精度は上だ』
 今までじっとみさおの腕を眺めていたのかと思えば、どうやらそんなことを考えていたらしい。
 だが今の発言は危険だ。
「ちょっと、いきなり何言ってるの。そんなこと言ったら――」
「ほほう、なかなか面白いことを言うな」
 慌ててジャックを黙らせようとしたみさおだったが、やはりこれも時すでに遅し。
 ニヤリと笑った菜々美が、銃弾を補充しながら視線を向けている。しかも目が笑ってない。
『んなの簡単だろ。ヘソで茶が湧かせるぜ』
 ヘッと得意げに笑うジャックに、みさおはもう遠い目をするしかない。なぜこうも挑発的な物言いしかできないのだろう。
 呆れるみさおを他所に、ジャックは更に言葉を紡ぐ。
『まあ、勝負したら嬢ちゃんの甘さが目立つっちまう。いやあ、罪だねえ』
 両手を広げてやれやれと頭を横に振るパペット。
 何ですか貴方。
 そんな突っ込みが聞こえてきそうだが、そんな突っ込みをする者はここにはいない。
 居るとすれば、この挑発に乗ってしまう人だけだ。
「面白い。ここは一つその腕を見せてもらいたいものだ」
 明らかに目が笑ってない。
 しかも口だけは綺麗に弓なりに笑みを模っている。これは怖い以外の何ものでもない。
 しかしジャックは臆すことなく言い放った。
『良いぜ。何ならオマケも付けてやらぁ』
「ジャック〜……」
 もう何が何だか。
 呆然とするみさおはその場でガクッと項垂れた。
 そこに声が響く。
「お前が審判をしろ」
「え……?」
 驚くみさおに菜々美はコクリと頷く。
 どうやら本気でみさおに審判を任せる気だ。
『弾は5発。命中した数が多い方が勝ちだ』
「良いだろう。で、オマケはどうする」
 頷きながら銃を指で撫でる菜々美を見て、ジャックが自らの顎を擦った。
『勝った方の要求を呑む……これでどうだ?』
 にんまり笑うジャックに、菜々美の眉が上がる。
 本来であれば菜々美に不利な物などない。
 すぐに頷き勝負に出た後で、ジャックを実験体にすれば良いのだ。
 だが僅かな躊躇いが覗いた。
 思案げに視線を逸らして考え込む姿に、ジャックはおろかみさおも驚いて目を瞬いてしまう。
『なんだなんだ、自信が無いのか?』
「……いや、そう言う訳ではないが」
 チラリと菜々美の目がみさおを捉えた。
 その視線を受けたみさおの目が瞬かれるが、すぐに外されてしまう。
「この場合、要求はジャックでなく辻宮でも良いのか?」
「え、ボク?」
 これまた予想してなかった言葉に、きょとんと目を瞬く。そもそもこれはジャックと菜々美の勝負だ。
 そこにみさおを巻き込むとはどういう事なのか。しかし哀れ、ジャックはそんなみさおの思いなど露知らず……いや、知ってるかもしれないが、すんなり頷いた。
『構わねえぞ』
「ええ!?」
 思わず声を上げたが、2人はこれで俄然やる気が出たらしい。
 互いに頷き合い、菜々美の目が的である缶に向かった。
「賭けるものはなんだ」
『俺様は嬢ちゃんがバニーガールの格好をして腹話術をするのが見てみてえな』
 サラリととんでもないことを言ったジャックに、菜々美は眉一つ動かさずに頷いた。
「良いだろう」
 そう言って瞳を細めて照準を合わせる。
 そして……。

「何でこうなるの!」
 叫ぶみさおの直ぐ傍には、バニーガールの格好をした菜々美が仁王立ちしている。手にはネコのパペット人形が嵌められているのだが、問題はそこではない。
 ジャックを右手に嵌めたみさおが、ミニのメイド服に身を包み立っていることが問題だ。
「引き分けだったんだ、仕方がないだろ」
 そう言ってパペットを動かす。
 口が思いっきり動いているが、腹話術をしているつもりなのだろう。それを見たみさおは、大きく天を仰いだ。
「だからって何で……」
 まあ、みさおの嘆きはもっともだ。
 ジャックは波動弾で見事に缶を倒していった。それこそ自分が言った言葉通り、五発全弾が完に命中。
 しかし菜々美もジャックと同様に全弾命中させた。
 つまり、勝負は引き分け。
 ジャックが要求した事象を菜々美が吞む代わりに、みさおも菜々美の要求を呑まなければいけなくなったのだ。
 そして菜々美が出した要求がこれだ。
「ふむ、なかなか似合ってるな」
 ニヤリと笑う菜々美の目の前で、短いスカートの巣を抑えるのはみさおだ。
 顔を真っ赤にさせて口をわなわなとふるわせている。しかしその目が定まらないのは、菜々美の格好のせいだ。
『いやあ、目の保養だねぇ』
 1人ほくそ笑むジャック。
「ボクも見たいぃぃぃぃ!!!!」
 青空のもと、みさおの虚しい叫び声だけが響いていた。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 8101 / 辻宮・みさお / 男 / 17歳 / 魔導系腹話術師 】

登場NPC
【 蜂須賀・菜々美 / 女 / 16歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】


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■         ライター通信          ■
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明けましておめでとうございます。
朝臣あむです。
このたびは蜂須賀・菜々美のルートシナリオ4へご参加頂き有難うございました。
大変お待たせいたしました。
勝負の行方をどうしようかと迷ったのですが、こんな感じになりました。
ちょっとみさおPCが可哀想ですが、眼福と言うことで許して下さい;
なにはともあれ、楽しんで読んで頂けたなら嬉しいです。
この度は大事なPC様を預けて頂き、本当にありがとうございました。
また機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。