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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


アリアと二年参り
●オープニング【0】
 さて大晦日。大掃除はすでに済ませていたとはいえ、年内最後となる店内の掃除をしているアリア。そこへ、アンティークショップ・レンの店主である碧摩蓮がやってきた。
「お疲れさんアリア。ああ……そうそう、今日は早めに店を閉めるから」
「はい、分かりました」
「それで、今夜出かける準備をしておくといいよ」
「……お出かけ、ですか?」
 蓮にそう言われ、はて今夜何か予定でもあったかと考えるアリア。確か何も予定は入っていなかったはずだが……?
「そうさ。あんたは二年参りに行くんだよ」
 二年参り――その名の通り、一般的には大晦日から新年に跨がる時間帯の前後にお参りをすることだ。
「ま、その前に除夜の鐘を突かせてもらってからだね。ちゃんと突けるよう話はつけてあるからさ、近所の寺に」
「あの……その予定は初耳なのですが」
「そりゃそうさ、今言ったんだから」
 しれっと言い放つ蓮。どうやらアリアに内緒で事を進めていたようだ。
「とりあえず、何人かあんたを連れに来るはずさ。留守番しておいてあげるから、楽しんでおいで」
「は、はあ……」
 かくして、強引に二年参りに行かされるアリアであった。そんなアリアを連れて出かけるのは、果たして誰であろうか――。

●煩悩を払いに向かう人の群れ【1】
 大晦日も残り1時間を切った頃、アリアの姿は近所の寺へと向かう人の流れの中にあった。厚手の白いコートに白い手袋という姿で、見た目にも暖かそうだ。
 時代の移り変わりによって、年末年始らしさは年々薄れてきているなどと言われたりもするが、こうして寺へ向かう人の群れを見ていたりすると、やはり大晦日から新年に跨がる時間帯に漂う空気は違うものがあるようだ。
「ついこの前まではクリスマスでぇしたのにねぇ」
 と、しみじみつぶやいたのは露樹八重である。しかしその声が聞こえたのはアリアの前後左右ではなく、腰の辺り。よく見れば、アリアのコートのポケットから顔と両腕をちょこんと出した八重の姿があるではないか。革手袋に本革のコート、その上でアリアのコートのポケットに潜り込んでいるのだから、防寒対策は万全であった。
「で、もうちょっとしたら神社に人が向かうのでぇすよ」
 そう八重が言うように、1週間ちょっとの間に行く先がくるくる変わってゆくのだから、日本という国は面白く不思議である。
「昔からそうなのですか?」
 アリアがちらと八重を見て尋ねた。
「クリスマスはともかく、たいして変わってないと思うでぇすよ。みんな等価で見てるのかもしれないでぇすねー」
 まあ八百万の神などとも言う訳だし、大部分の日本人からすれば全て引っ括めて同じカテゴリに含んで過ごしているのであろう。もっともこれは、それだけ神仏が日本人にとって身近な存在であるとも言える訳だが……。
「でも、そこですることには、ちゃぁんと意味があるのでぇす」
 えっへん、と胸を張る八重。
「意味ですか……。これから突かせていただく除夜の鐘というのも、ですか?」
「そうでぇすよ」
 アリアの質問に八重が大きく頷いた。
「除夜の鐘はぼんのーを払うという意味があるのでぇすよ」
 煩悩とは、簡単に言えば人間の身体や心を悩ます一切の欲望のことだ。それを除夜の鐘を聞くことにより払う訳である。
「けれど、払っても払ってもまたぼんのーが出てくるのでぇす。ほんと人間は大変なのでぇすよ」
 やれやれといった様子でつぶやく八重。だが、その言葉には続きがあった。
「でもー……だからこそ人間は面白いのかもしれないでぇすよ?」
 八重はにぱっと笑ってそう言った。
「……煩悩、あるんですか?」
「あたしでぇすか? さぁて、どうなのでぇすかねー」
 アリアの質問に八重は笑って答えた。そうこうしているうちに、目的の寺はもうすぐそこである。
「あ、お寺が見えてきたでぇすよ。アリアしゃんと二年参りと聞いて、歌番組も格闘技も横に置いて来たでぇすからねぇ……楽しみなのでぇすよ♪」
 八重さん、八重さん……たぶんそれ、煩悩だと思います。

●旧き年は去りつつ、新しき年は近付きつつ【2】
 厳かな鐘の音がアリアのすぐそばで響き渡った。さて、これは何回目の鐘の音であっただろうか。ともあれアリアは無事に除夜の鐘を突くことが出来、次の順番を待つ者と交代してその場を離れていった。
「ふぅ……すっごい音だったでぇすねー!」
 アリアのコートのポケットに潜り込んでいた八重が、両耳を押さえたままひょこっと顔を出して言った。アリアが鐘の音をすぐそばで聞いていたということは、当然ながら八重もまたそうであった訳で……。
「音だけではなく、衝撃波も感じました」
 ぼそっとつぶやくアリア。それは鐘をこの手で突いたからこそ感じたこと。
「びりびりきたでぇすか」
 と八重が聞くと、アリアはこくっと頷いた。
「そういうのは、突いてみないと分からないことでぇすよねー」
 自分自身の言葉にうんうんと頷く八重。
「そう……ですね。この世界には、まだまだ私が経験したことのない物がたくさんありますし」
「たくさんなのでぇす。でも1つ1つあせらず経験すればいいと思うのでぇすよ、アリアしゃんは♪」
 にこにこ笑顔で八重はアリアに言った。
「では今は……神社へ向かうことからですね」
「その途中で新年を迎えちゃうかもしれないでぇすねー」
 と八重に言われ、アリアは時刻を確認した。向かう神社との距離を考えると、着いたと同時かその直前くらいで新年を迎えそうな感じであった。
「少し急いだ方がいいのでしょうかね」
 ぼそりとつぶやき、アリアは気持ち早足で歩き出す。
「神社ではお接待とかやってるんでぇすかねー……?」
「お接待?」
 八重のつぶやきが耳に入り、アリアが聞き返した。
「もししてたら、甘酒とかお汁粉ものめたりするんでぇすよ♪ わくわくするでぇす♪」
 期待に胸膨らませ答える八重。さてさて、その期待通りになるのだろうか――。

●新たなる年を共に迎えるということ【3】
 目的の神社に近付くにつれ、聞こえてくる除夜の鐘の音は徐々に小さくなってゆく。そうしてアリアたちが神社の境内に入ってすぐに、新しい年へと突入したのであった。
「おめでとー」
「あけましておめでとう!」
「おめでとうございます」
「ハッピーニューイヤー!」
 アリアの周囲でたちまちに聞こえてくる新年の挨拶。アリアはきょろきょろと顔を動かしその様子を見ていた。
「アリアしゃん、あけましておめでとうなのでぇす♪」
 アリアのコートのポケットから顔を出して、八重もまた新年の挨拶を口にする。
「あ……おめでとうございます」
 と、アリアは八重に対して返すものの、少し不思議そうになおもきょろきょろ顔を動かしていた。
「どうしたでぇすか?」
 そんなアリアの様子にきょとんとなる八重。
「いえ、皆一斉に挨拶を始めたものですから……全員が知り合いという訳でもないのに」
「おめでたいことに、知ってる人も知らない人も関係ないのでぇすよ。だから皆でこうして『あけましておめでとう』って言いあいをするのでぇす♪」
 八重のその言葉に少し補足をするのであれば、恐らく人々の中には嬉しいことは共有しようという想いが昔々より存在しているのであろう。それに『袖触れ合うも他生の縁』などという言葉だってあるではないか。例え見知らぬ同士であっても、その時その瞬間その場に居るという時点で、何かしらの縁が存在していると考えれば、挨拶を交わしたって何らおかしなことはないのだ。
「あけましておめでとうさん」
 その時アリアは、そばを通りがかった見知らぬ老婆から新年の挨拶をかけられていた。ちょうど目が合った瞬間に、老婆が笑顔で話しかけてきたのである。
「お、おめでとうございます……」
 突然のことではあったが、挨拶を返し会釈をするアリア。すると老婆はこう穏やかにアリアに言ったのである。
「お嬢ちゃんの今年が、よい年になるとええね」
 その口調からすると老婆は西の方の出身であるのだろうか。ともあれ、そんな言葉をかけられたアリアは一瞬はっとした表情を見せたが、すぐに先程よりも深めに頭を下げてみせた。
「……ありがとうございます。そちらも……」
「ああ、はい、どうもありがとうさん」
 老婆はアリアの言葉ににこり微笑むと、連れが居るのかそちらの方へと離れていった。
「八重さん」
 老婆が去ってから、アリアはぽつりとつぶやいた。
「呼びましたでぇすか?」
 再びひょこっとポケットから顔を出す八重。
「先程の言葉なんですけれど……」
 アリアは老婆の去った方に顔を向けて言葉を続けた。
「少し、分かったような気がします」
「そうでぇすかぁ……それならよかったでぇすよ」
 八重はそのアリアのつぶやきを聞いてにこっと微笑んだ。と、不意に思い出したように八重はアリアに言った。
「あっ、そろそろお賽銭を用意した方がいいでぇすよ!」
 確かに、賽銭箱までの距離は次第に近付いてきていた。そろそろ準備をしておいた方が、後ろの参拝客たちの迷惑にならずに済むだろう。
「普通はいくら入れるものなんですか?」
 と尋ねるアリアに、八重は少し思案してから答えた。
「そうでぇすねー……『始終ご縁がありますように』って45円入れたりする人もいますけど、これは自分の判断でいいでぇすよね♪」
 お賽銭にいくら入れるべきかというのは、これはもう自分自身の気持ち次第である。八重が今言ったみたく語呂合わせで決めたりもするし、奮発して1万円札を入れる者だって居る訳だから。
「始終ご縁が……ですか。では、せっかくですからそうしてみます」
 そう言い、アリアは財布から45円を取り出した。そんなアリアの視界に、参拝を済ませて戻る者たちに甘酒が振る舞われている様子が入ってきた。
「八重さん。甘酒がありましたよ」
「ありましたでぇすか! それはとてもとても楽しみなことなのでぇす♪」
 アリアからその報告を聞いた八重の顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
 皆の1年が幸せなものでありますように――。

【アリアと二年参り 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 1009 / 露樹・八重(つゆき・やえ)
          / 女 / 子供? / 時計屋主人兼マスコット 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全3場面で構成されています。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、アリアとの新年を迎える瞬間の様子をここにお届けいたします。そしてまた1つ、アリアは経験を重ねてゆくのでした。
・お話としては、お参りをすることの意味について触れていたような気がします。オープニングを書いた時点では色々な出来事にアリアが触れて……という感じになるのかなと高原はぼんやり思っていたんですが、こうしてお話が出来上がってみると若干精神世界寄りな内容になりましたねえ。
・露樹八重さん、24度目のご参加ありがとうございます。恐らくお参りの後、八重さんは甘酒を飲んであったかよい気持ちになったのではないかな……と思います。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。