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<東京怪談・PCゲームノベル>


動き出す時

「‥‥連絡取れない」
何度も『留守番電話』に繋がる携帯電話を見て、小さなため息を吐いた。
今日でもう2週間目、今までこんなに連絡が取れなくなった事はなかった。
「何かあったのかな‥‥」
これまで接してきて分かったこと、それは相手が決して幸せだと思える環境にいないという事。
楽しそうに喋っていても、楽しくショッピングしていても、ふいに見せる悲しそうな瞳が凄く印象的だった。
‥‥それはまるで、何かに怯えるかのように。
「何か、あったんだ‥‥」
こんな長い期間、何も連絡がない事はおかしい‥‥。
「‥‥あ」
そんな時だった、街中で偶然にも相手を見つけたのは‥‥。
「ちょっと‥‥!」
慌てて追いかけるもの、相手は寂しそうな目をして「ごめんなさい」とそれだけ言葉を残して行ってしまった‥‥。

視点→ソール・バレンタイン

「何があったんだろう‥‥」
 ソール・バレンタインは携帯電話を見つめながらため息混じりに呟いた。携帯電話の画面を見ると紫苑 サクラから最後に連絡があったのは2週間前。メールをしても返事は来ず、電話をしても彼女が電話に出る事はなかった。
「‥‥会わなくなる前から少し様子がおかしい事には気づいていたけど‥‥」
 ソールは最後にサクラと会った日の事を思い出す、一緒に笑っている筈なのにサクラの表情には影が落ちたような感じがして、心から彼女が笑っていない事にソールは気づいていた。
「何かあった? 悩み事があるなら相談してね、と」
 メールを打ち、サクラに送信した時だった。雑踏の中でサクラを見つけたのは‥‥。サクラ自身はまだソールに気づいておらず、バッグの中で着信を知らせる携帯電話をとって画面を開く。時間的にもソールが先ほど送ったメールの確認だろう。
 サクラは一瞬だけ嬉しそうな表情を見せた後、唇を噛み締めるように携帯電話を閉じてバッグへとなおした。
「‥‥‥‥あ」
 顔を上げた時、サクラとソールの視線が絡み合う。メールを見ない振りしたサクラは少しだけ気まずいのか視線を逸らしてその場から立ち去ろうとした。
「ねぇ‥‥っ」
 ソールがサクラの腕を掴み、引き止めるのだがサクラの強い力によってそれは振り払われてしまう。
「‥‥あ‥‥ごめんなさい‥‥」
 サクラは悲しそうな表情でそのまま立ち去ろうとするが、ソールはもう一度サクラの腕を掴んで「僕はキミの力になりたいから、何かあるなら言ってね」とだけ言葉を伝えて手を放したのだった。

〜サクラ〜
 何でこんな所で会っちゃうんだろう‥‥。何度も諦めよう、何度も連絡を取るのを止めようと自分に言い聞かせていたのに‥‥。
 だけど嬉しかった。
『僕はキミの力になりたいから』
 その言葉だけで涙が溢れそうなくらいに凄く嬉しかった‥‥私にはそんな事を言ってもらえる資格なんてないのに‥‥。

「本当はこんな事、プライバシーの侵害になるのかもしれないけど‥‥」
 サクラと出会った次の日、ソールはとある探偵事務所の前に立っていた。理由は勿論サクラのことを調べること、彼女の領域に無理矢理踏み込もうとしている事を知るとサクラには嫌われてしまうかもしれない‥‥そう思いながらもソールはサクラの事が心配で探偵にサクラの調査を依頼したのだった。
「次は‥‥と」
 ソールが見たのはサクラが勤める会社の名前と地図が書かれたメモ、サクラはあまり会社でのことを話さない、だからソールも仕事場での彼女を知らないのだ。
 もしかしたら会社に何かあるのかもしれないと考えたソールはサクラの勤める会社まで歩き出す。
「あの‥‥ちょっとお聞きしたいんですけど」
 ソールが話しかけたのは会社近くの公園でランチをする女性2人組、ネームプレートに会社の名前が書いてあったからサクラと同じ会社で働く人物だと知る事が出来た。
「はい?」
「あの、紫苑サクラさんって人を知ってますか? もし知ってたら彼女の事を少しだけ教えてほしいんですけど‥‥」
 サクラという言葉に「あぁ、あの子の事ね」と女性2人組は心当たりがあるようで「あんまり関わりたくないんだけど‥‥」と言葉を付け足した。
「実は最近、あの子が高校生の頃に捕まったとかいう記事がバラまかれたのよね」
 え、女性達の言葉にソールは小さく息を呑むことしか出来なかった。捕まった、という事は警察のお世話になったという事なのだろう。
(「あの子が‥‥? まさか‥‥」)
 はっきり言ってサクラと犯罪など全く関わりがないようにしか思えない、気が荒いわけでもなく、かといって手癖が悪そうにも見えない。
「そういえば、あの記事私持ってるわよ、見る? 捨てるのを忘れてたわ」
 女性がバッグから取り出したコピー紙、それは顔がはっきり分からないようにしてあったけれど特徴は全てサクラのものだった。
「それからかしら、会社内でも1人でいるようになったのは‥‥元々あんまり人付き合いの良い子じゃなかったけどね」
 そう、ありがとう――ソールはそれだけ言葉を残して2人から離れた。
(「時期的に‥‥前に彼女が言ってくれたお兄さんのときと合う、もしかしてお兄さんと何かあったから‥‥?」)
 それからソールの携帯電話に探偵事務所から電話が入り、調査が終わったから事務所に来て欲しいとの事だった。
「当時の事をよく覚えている奴がいてな、彼女は彼女の兄とその取り巻き連中を半殺しにしたそうだ。それで警察に連れて行かれたという話だな、まぁ‥‥内容が内容だから情状酌量ということになったらしいが‥‥」
「内容が‥‥?」
 ソールの言葉に探偵は口ごもりながら「万引きに始まり、ありとあらゆる事をさせていたらしいぞ」と言葉を付け足した。
「それと、2週間と少し前に彼女は会社で事件を起こしてるな。使っていない会議室から彼女の悲鳴が聞こえ、不審に思った社員達が行くと血まみれの男と滅茶苦茶になった会議室があったそうだ」
 探偵の言葉に「そう‥‥ありがとう」と言葉を付け足してソールは探偵事務所を出たのだった。
 探偵事務所からの帰り道、ソールは拳を強く握り締めていた。
(「何で僕は彼女が苦しんでいることに気づいてあげられなかったんだろう‥‥」)
 そして、自宅に帰り目に付いたのはソルディアナの衣装――‥‥暫く考えた末にソールは『ソルディアナ』としてサクラの自宅に赴き、話を聴く事にしたのだった。

 ピンポーン
「はい、え‥‥ソール、さん?」
 サクラがドアを開けるとそこにはソルディアナの衣装を着たソールの姿があった。
「違いますよ、私ははソルディアナ、ソール君が凄くキミの事を心配しててね‥‥1人で悩むより誰かに相談した方が良い結果になると思いますよ」
 ソルディアナはにっこりと微笑みながらサクラに問いかけると、サクラは少し考えて「中にどうぞ」とソルディアナを部屋へと入れたのだった。
「私‥‥ソールさんの事が凄く好きです、だけど‥‥私はあの人を好きになる資格なんてない‥‥」
 恐らく過去の事を言っているのだろう、サクラは涙をぼろぼろと流しながら呟いた。
「私‥‥警察のお世話になった事があるんです‥‥兄と、兄の友達を殺しかけて‥‥」
 それからサクラは語り始めた、兄だと気づかずに好きになった男性から言われるがままに悪い事は何でもやった、と。
 そして全てを知った彼女は身のうちに眠る力が暴走して兄たちを殺しかけたと。
「力?」
「‥‥はい、感情が高ぶると私は変な力が出るんです、相手を傷つける力が‥‥ソールさんと会わなくなる前――兄が会社に来たんです‥‥私とソールさんが一緒にいるのを見たらしくて‥‥」
 サクラは拳をぎゅっと握り締めながら「ソールさんを、女の人と勘違いしたらしくて‥‥」と涙を堪えながらサクラは言葉を続けていく。
「ソールさんを紹介しろって‥‥勿論断りました、そしたら次の日に‥‥会社に私の過去の事が書いた記事がバラまかれてて‥‥兄が、紹介するまで同じ事をすると‥‥」
(「それで、感情が高ぶってあの事件が起きたんだ‥‥」)
 探偵が教えてくれた2週間と少し前の事件の真相が分かってソルディアナ‥‥ソールは心の中で呟いた。
「そう‥‥それをソール君に言っても彼はきっと受け入れてくれるわ」
「分かってます、あの人は優しいから私を受け入れてくれる‥‥だけど、もしかしたら拒否されるかもしれない‥‥それが怖いんです」
「大丈夫、ソール君を信じてあげて。きっと彼は受け入れてくれるはずだから」
 それだけ言葉を残してソルディアナはサクラの前から姿を消した。
 それから1時間ほどが経過した頃、ソールがサクラのところへと来ていた。
「ソール、さん‥‥」
 サクラが言い終わるとほぼ同時にソールはサクラを強く抱きしめた。
「え、あの‥‥」
「ごめん。気づいてあげられなくて」
 ソールの言葉にサクラは収まった涙が再びボロボロと涙を零して「ソールさん‥‥私もごめんなさい‥‥ごめんなさい」と何度も繰り返し謝ってきた。
 その2人の様子、それを見ている者はなく夜空に浮かぶ丸い月だけが2人を見ていた。


END

―― 登場人物 ――

7833/ソール・バレンタイン/24歳/男性/ニューハーフ/魔法少女?

――――――――――

ソール・バレンタイン様>

こんにちは、いつもご発注をありがとうございますっ。
今回の内容はいかがだったでしょうか?
今回は物語が終盤に向けて進み出しました。
最後までお付き合いくださると嬉しいです(><)
それでは、今回は書かせて頂きありがとうございました!

2009/1/27