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<東京怪談・PCゲームノベル>


動き出す時

「‥‥連絡取れない」
何度も『留守番電話』に繋がる携帯電話を見て、小さなため息を吐いた。
今日でもう2週間目、今までこんなに連絡が取れなくなった事はなかった。
「何かあったのかな‥‥」
これまで接してきて分かったこと、それは相手が決して幸せだと思える環境にいないという事。
楽しそうに喋っていても、楽しくショッピングしていても、ふいに見せる悲しそうな瞳が凄く印象的だった。
‥‥それはまるで、何かに怯えるかのように。
「何か、あったんだ‥‥」
こんな長い期間、何も連絡がない事はおかしい‥‥。
「‥‥あ」
そんな時だった、街中で偶然にも相手を見つけたのは‥‥。
「ちょっと‥‥!」
慌てて追いかけるもの、相手は寂しそうな目をして「ごめんなさい」とそれだけ言葉を残して行ってしまった‥‥。

視点→ブリジット・バレンタイン

「‥‥今日も連絡ナシ、か」
 はぁ、と小さなため息と共にブリジット・バレンタインが呟く。そしてメールの受信履歴と電話の着信履歴画面を見て、もう一度大きなため息を吐いた。
 二週間、ミツルからの連絡が途絶えて今日で二週間目になる。ミツルは大学生でブリジットは警備会社の社長という事もあり、多少のすれ違いは今までにもあったけれど、今回のように長期間連絡が途絶える事は一度もなかった。
「‥‥ミツル」
 ブリジットはミツルの名を呟き、今までの事を思い出す。ブリジットと一緒にいる時も見せていた影のある表情、今思えばミツルは何か考えていたのだろうと思う。
 そしてその考えていた事がこの連絡が取れない事に繋がっている、そんな気がした。
「そんなに私が頼りないって言うの‥‥?」
 それは何処か悲しそうであり、怒りをも感じさせる口調だった。ミツルの性格からしてきっと何かあっても自分で解決しよう、自分だけが我慢しよう、そう思っているのだろうとは思うのだが、ブリジットとしては何かあるなら相談してほしかったというのが本音だった。
「そういえば‥‥この契約の事が片付いてなかったわね」
 はぁ、と何度目になるか分からないため息と共に助手席に投げてあった大判の茶封筒から資料を取り出す。ミツルの事も気になるけれど、ブリジットは会社の仕事にも追われており、それが余計に彼女を苛立たせる原因でもあった。
「――――え?」
 赤信号で止まっていた時、近くの本屋からミツルが出てくるのを見てブリジットは目を丸くする。そして青信号になると同時にミツルが歩いている歩道の隣へと横付けして「ミツル」と声をかけた。
「あ‥‥‥‥」
 ミツルは一瞬だけ表情を嬉しそうにしたけれど、すぐに無表情になり「‥‥何の、用ですか」と俯いきながらブリジットと視線をあわせる事なく言葉を付け足した。
「ちょっと待って、何があったの? 私には言えないこと?」
 やや怒り気味でミツルを問い詰めるのだが、ミツルは苦しそうな表情をして「‥‥ごめんなさい」と言葉を返し、掴まれていた手を振り払って人ごみの中へと紛れていった。
 普段の彼女ならば手を振り払われる事はなかったのだろうが、ミツルの『ごめんなさい』という言葉が少なからずブリジットの動揺を誘っていた。
「いったい‥‥何があれば、そんな苦しそうな顔をするの‥‥?」
 ミツルが見せた苦しそうな表情、だけどブリジットと会った時には一瞬だけだったけれど嬉しそうな表情を見せた。
(「まるで自分を誤魔化すかのように、表情を消したわね」)
 きっとミツルを苦しめている何かがあると感じて、ブリジットは有能な探偵に「特別料金を払うから」と言ってミツルの事を調べるようにお願いしたのだった。
 本当ならばすぐにミツルを追いかけて話を聞くのが一番なのかもしれないが、警察時代の『まずは情報を集めるべき』というクセが出て探偵に電話をしたのだ。
「‥‥こんな調子じゃ仕事にならないわね、まだ期間はあるし、しかたないわね」
 ふぅ、とブリジットは息を吐いてミツルの通う大学へと向かったのだった。

〜ミツル〜
「‥‥はぁ、はぁ‥‥」
 何であんな所で会っちゃったんだろう‥‥もう、彼女には会わないと決めたのに。
 ブリジットから逃げるように自宅へと帰ったミツルは玄関先で頭を抱えるように座り込んだ。
「何をしている」
「あ‥‥父さん、いえ、何も‥‥」
「そんな所で座り込むな、見苦しいだろう――あぁ、そうだ。あの話は進めておいたからな、来年からお前は向こうの大学で経営学について学んで来い」
 拒否権のない言葉に「‥‥はい」と僕は答えるしかなかった。
 最初から分かっていた事、僕は父の子ではなく父の所有物の1つ、なのに何でこんな気持ちになるんだろう‥‥。
 こんな気持ちになるくらいなら、彼女と出会わなければ良かったのだろうか‥‥。

「婚約?」
 ブリジットはミツルの大学へと来ており、ミツルの最近の話を聞いていた。元々ミツルは大学での友人はほとんどおらず、ミツルの事を詳しく知る者はいなかった。
 しかし、幼馴染と言う少女が1人だけミツルのことを知っていた。
「はい、ミツル君の会社‥‥何か失敗したらしくて、ミツル君が婚約する事で相手の人の会社に助けてもらうらしいんです‥‥」
 その幼馴染の少女は拳を強く握り締めながら「昔からミツル君の事あんな風に扱って‥‥酷い」と小さな声で呟いていた。
「あの、あなたがブリジットさん――ですよね?」
 少女には名乗っていないのに自分の名前を知っていた事にブリジットは多少驚きを隠せなかった。
「えぇ、でも私は名乗ってないわよね?」
「‥‥ミツル君から聞きました、きっとミツル君を変えたのはあなたなんですね」
「変えた?」
 ブリジットが聞き返すと「昔から全く笑わないんです、ミツル君」と少女は遠くを見ながら寂しそうに呟く。
「でも、あなたの事を話す時は凄く嬉しそうに笑うんです――ミツル君の事、宜しくお願いします‥‥」
 少女は深く頭を下げて「授業がありますから」と言葉を付け足してブリジットの前から去っていったのだった。
 そしてそれと同時に携帯電話が鳴り響き、頼んでいたミツルの事を調べ終わったと探偵が電話の向こうで話しかけてきた。
「扇 ミツルの母親は愛人の子で父親からも母親からもあまり良い扱いは受けてなかったみたいだな――もちろん姉たちからも」
 探偵の言葉に今までミツルがどれほど傷ついてきたのかと考えるとブリジットは自然と表情が険しくなった。
「それと父親が勝手に縁談を組んだらしいな、拒否することは許されなかったそうだ。おまけにその縁談が失敗したら――会社の行く末は倒産だろうとも言われている」
 だからなのね、ブリジットは心の中で呟いた。恐らく父親から会社が倒産の危機にあると聞かされて拒否する事すらミツルには許されなかったんだろう。
「それと、まだ公には発表されてないみたいだが扇 ミツルは来年からアメリカの大学に行くみたいだな、経営学を学ばせる意味での留学だろう」
「そう、分かったわ。ありがとう」
 ブリジットは軽く言葉を返して電話を切る。
 そして向かう先はミツルのところ――幼馴染の少女が言うにはミツルは午後からの授業の為に午後から大学に来るだろうとの事。ならばそろそろ来てもおかしくはない。
「‥‥ブリジット、さん‥‥」
 木にもたれながら待っていると、10分くらいが経過した頃にミツルが驚きの表情でブリジットを見ていた。
「ちょっと来て」
 ミツルの腕をしっかりと掴んで車のところまで連れて行き、半ば強引に車に乗せた。
「‥‥あの、授業があるんですけど‥‥」
「何故私に何も相談してくれなかったの?」
 ブリジットの言葉にミツルは大きく目を見開く。そして「調べたんですね」とどこか諦めたような口調で言葉を返した。
「私が嫌いになった?」
「‥‥そんなわけないじゃないですか、でも‥‥今回の婚約がなくなったら会社は近い将来に倒産するでしょう、だから‥‥もう、あなたとは一緒にいられないんです」
「それで本当にいいの?」
 ブリジットの言葉に「じゃあどうしろっていうんですか!」とミツルが大きく叫び、車のミラーがバキリと音をたてて壊れる。
「‥‥これが家族から忌み嫌われる理由です、僕は無機物を動かす力がある、この力は生まれた時からあって‥‥産んでくれた母すらも僕を捨てました」
 だから、とミツルは今にも泣きそうな表情で「あなたも僕を捨ててください」と言葉を付け足した。
「僕からあなたを切り離そうとしてもダメでした、だから‥‥あなたから僕を捨ててください‥‥そうすれば、きっと僕は」
 ミツルの言葉を最後まで聞く事なくブリジットはミツルを強く抱きしめた。
「大丈夫、あなたには私がついているから‥‥」
 その言葉にミツルも溜め込んでいた何かが切れたかのようにぼろぼろと涙を零しながら「僕は父にとって一体なんだったんでしょう」と涙声で呟いたのだった。


END


―― 登場人物 ――

8025/ブリジット・バレンタイン/32歳/女性/警備会社社長・バレンタイン家次期当主

――――――――――

ブリジット・バレンタイン様>
こんにちは、いつもご発注をありがとうございます!
今回の内容はいかがだったでしょうか?
少しでもお気に召していただけるものに仕上がっていればいいのですが‥‥。

それでは、今回は書かせて頂きありがとうございました!

2009/1/31