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<東京怪談・PCゲームノベル>


 クロノラビッツ - そういう存在 -

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 自宅に届いた一通の封筒。
 差出人の名前はなく、中には黒いカードが一枚だけ。
 カードには、白いインクで、こう書かれていた。

 欲張りでゴメンね ――

 まったく意味がわからない。
 一方的に謝られても困るし、欲張られた覚えもないし。
 でも、カードの差出人が "誰" であるかということだけは把握できる。
 そもそも、こんな意味のわからないことをするのは、あの連中だけだろう。
 一体、何だっていうのか。いちいち付き合わされる、こっちの身にもなってもらいたい。
 なんてことを考えつつ、カードを机の上に乗せて、バスルームへ向かったのだが、

「 ………… 」

 一歩。踏み出したところで立ち止まってしまった。
 振り返るより先に、自然と大きな溜息が漏れる。あぁもう、何なの。
 っていうか、前もこんな感じじゃなかった? 何? 入浴時を狙ってるの?
 だとしたら、かなり悪趣味ですね。っていうか、もはや変態以外の何者でもないよね。

「 …… せめて、ドアから入ってくれば?」

 忠告しながら振り返る。
 振り返った先には、やはり "あの" 来訪者。
 来訪者は、窓の縁に座った状態でヒラヒラと手を振っている。
 元気にしてた? なんて、間の抜けたことを言いながら。

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「おかげさまで元気だよ。すっっっごく眠いけどね」

 ニッコリ笑ってカージュの質問に答えた慎。
 その笑顔の裏には、眠いんだよ、早く帰ってくれよという願望が込められている。
 だが、カージュはそんなのお構いなしに、窓の縁から下り、慎のお気に入りのソファにドカッと腰を下ろす。
 偉そうなその態度に慎は肩を竦めたが、返した反応は意外と大人だった。

「コーヒー飲む?」
「ん? 何だ、コーヒーって」
「 …… あはははは」
「?」
「 …… えっ、本気?」
「は? 何が?」
「いや。やっぱいい。何でもないよ。ちょっと待ってて」

 コーヒー、知らないのか。プッ(笑)
 慎は、キッチンに移動しつつ含み笑いを浮かべていた。
 何だかいつもと違って黒いというか、性格の悪い男の子のように映るかもしれないが、
 慎は、いま機嫌が悪いのだ。極限に眠いのだ。だから、自然と口調も荒くなる。ちなみに、彼は寝起きの機嫌も悪い(すごく)
 リビングに戻り、いれてきたコーヒーをカージュに手渡す慎。
 それを受け取ったカージュは、カップの中身を見てギョッと目を丸くした。

「おい、何だこれ。真っ黒だぞ」
「コーヒーだよ。あ、お砂糖とミルクは、そこにあるからね」
「砂糖とミルク? …… 入れて飲むのか。これに」
「うん(砂糖とミルクはわかるんだねぇ)」

 慎がやっているのを見て、それを真似ながらコーヒーの味を調えていくカージュ。
 砂糖はひとつ、ミルクはふたつ。それが、慎のこだわりというか、いつものスタイル。
 コクコクと美味しそうに飲む慎とは逆に、カージュは眉間にしわを寄せつつコーヒーを飲んでいた。
 どうやら苦いらしい。あまり好きではない味のようだ。お子様的な舌の持ち主と言える。
 難しい顔をしつつも飲み続けるのは、おそらく意地だ。
 自分よりも明らかに年下・子供な慎が美味しそうに飲むもんだから、引くに引けなくなっているのだろう。

「ん。何だこれ。食いモンか?」

 と、そこで、カージュが何かを見つけた。
 いや、それは、見つけるも何も、やたらと目に入るものだったけれど。
 カージュが見つけ、手に取ったもの。それは、チョコレートだ。可愛らしいラッピングが施されたチョコレート。
 時期を考えれば、それがどういうものであるか、どういう経緯で慎の部屋にあるかくらいすぐにわかる。
 だが、そんなこと知らないカージュは、遠慮もクソもない。勝手にラッピングを解いてしまう。

「あああっ! ちょっと、何やってんの! やめてよ〜!」
「何だこれ。これも真っ黒だ。この世界の飲食は黒で成り立ってんのか?」
「黒くないし! 茶色でしょ、どう見ても! 作った子に失礼だよっ」
「作った? へぇ、これ、誰かに作ってもらったもんなのか」
「そうだよ! 俺の宝物なんだから、触んないで ―― 」
「 …… もぐもぐ。あれ、こっちは甘いな。苦くねぇ」

 ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉ …… 。食べたよ。食べやがったよ、こいつ。
 慎は、冷たい笑顔を浮かべて、チョコレートを取り上げようとカージュに掴みかかった。
 そこにある尋常ではない怒りを察したのだろう。カージュは、すぐさまチョコレートを手放した。
 だが、いかんせん、その手放し方が乱雑。ポーイと放り投げたのだ。
 食べかけのチョコレートは、慎のベッド、その枕元にポテッと落ちた。
 何てことしてくれるんだ。勝手に開けるわ、勝手に食べるわ、挙句に投げるわ …… 。
 笑んではいるものの、慎のその表情からは、底知れぬ怒りが漂っていた。
 だが、カージュは反省の色なんて見せず、ケラケラ笑う。
 その食べ物と、この飲み物(要するにチョコとコーヒー)は相性がイイかもな〜なんて分析しながら。
 そんなカージュに呆れ、慎は言った。ふと、その姿を見て思うところがあったから。

「おにいさんって、海斗に似てるかも」
「あ? あぁ、そうだろうな。俺はあいつのコピーだから」
「ふ〜ん。 …… 。 …… え? コピー?」

 眠いから適当にあしらっておこう。そうすれば、とっとと帰るだろう。
 そう思っていた慎だが、今のカージュの発言は聞き捨てならないぞ。何だそれ、って感じだぞ。
 ちょっとだけ目も冴えた。慎は、カップを置き、テーブルに肘をついた状態で尋ねた。
 コピーって何? どういうこと? 海斗に似てるのも、そういうこと?
 何でコピーなんかいるの? 海斗は、これを知ってるの? っていうか皆も知ってるの? マスターとかも?
 っていうか、何で俺の家に来たの? 何の用で来たの? もしかして、それを伝えるために来たの?
 そうだとしたら、何のため? 何のために、それを俺に教えるの?
 っていうか、何で窓から入ってくるの? 癖なの? 馬鹿なの?
 ものの数秒で一気にガーッとまくしたてるような質問の嵐。
 カージュは、苦笑しながらコーヒーを飲み干した。
 そして、空になったカップをテーブルに置き、欠伸混じりで、その質問に応える。

「窓から入るのは、俺のポリシーだ。何か、カッコイイだろ」
「 …… いっぱい質問したのに、何で、わざわざその質問だけ取り上げるのさ〜」
「ん〜? だって、他の質問は応える必要がねぇし」
「何でさ。ちゃんと応えてよ〜。教えてよ〜」
「必要ねぇ。だって、お前のそれ、質問じゃねぇもん」
「 …… あは。意外と鋭いね、おにいさん」

 カージュの言うとおり、慎が発したそれは質問ではなかった。
 質問かのように思えるものの、その実は "確認"
 つまりそれは、状況やら何やらを把握できていることを意味する。
 とはいえ、わからない点も、まだ多い。
 カージュが海斗のコピーであることは把握できた。
 おそらく、以前襲ってきた連中も、それぞれ、梨乃や藤二のコピーなのだろう。
 どこもかしこもそっくり! ってわけでもなかったが、何か似てるなぁとは思っていた。
 それはいい。連中が、海斗たちのコピーであることは理解した。
 何でコピーなんかが存在しているのか、それも気になるが、
 それよりも引っかかるのは、連中の言動だ。
 以前にも、連中はこうして黒いカードを送りつけてきたことがあった。
 先週に至っては、道端で急に襲ってくるというクレイジーなやり方も見せた。
 連中が取るそれらの行動において、ひとつだけ共通項がある。
 銃だ。魂銃とやらを、連中は欲している。慎は、その銃を所持していないから渡しようがないのだが、
 どうして、その銃を欲するのだろう。そのあたりが明らかになれば、ひとまずスッキリするような気がした。
 というわけで、慎は、さっそくその疑問を投げかける。今度は確認じゃなく、本当に質問として。

「何で銃を欲しがるの?」
「ぷ。直球だよな、お前って。そういうの嫌いじゃねーけど」
「俺、その銃持ってないからどうしようもないけどさ。おにいさんたちは、その銃をどうしたいの?」
「さぁ? 俺達にも、そのへんはわかんね」
「えぇ〜? どういうことさ〜」
「命じられてるだけだからな、俺達も」
「ふぅん? で、その命じてる人っていうのは、だぁれ?」
「それは言えない」
「ん〜。やっぱり?」
「ただ、お前達の為になることに使うとだけ言っておく」
「 ………… ふぅん」

 嘘だよなぁ、それ。慎は、そう思いつつも素直に理解するフリをした。
 いや、待てよ。ちょっと違うかも。この人達は、本当に、為になることに使うと思ってるのかも。
 悪いことに使うんだろうなって、そう思わせるのは、彼等に命令してる人かも。
 唯一、正体不明だから、そういう感じ(黒幕的な?)で考えちゃうのかもしれないけど。
 う〜んと首を傾げながら、あれこれ考える慎。
 すると、カージュがスッと立ち上がり、胸元から何かを取り出した。

「じゃ、俺、帰るわ。これさ、俺のコピーに渡しといて」
「え? あ、うん。本当の目的は、これ?」
「ぶはっ。お前、どこまで面白いんだよ」
「おにいさんほどじゃないよ?」
「あっはは。じゃーな」

 そう言って窓の縁に足をかけたカージュ。
 慎は、すぐにハッとして、カージュの足をグイッと引っ張った。
 当然、カージュはすっ転ぶ。壁にオデコを擦るという地味な痛みを伴いつつ。

「いってぇ …… 何すんだよ」
「窓から出入りするのやめてよ〜」
「何でだよ。カッコイイだろ」
「カッコ良くないし。迷惑なんだよね、そういうのって〜」
「 …… あぁ、世間体ってやつ?」
「うん〜。まぁ、そんなとこかなぁ」
「あっははは。わかったわかった。んじゃ、次からは玄関から入るわ」

 ケラケラ笑いながら扉へ移動していくカージュ。
 言いたいことを言うだけ言って去って行く。そういうところは相変わらず。
 本当、何なんだろう。あの人。どういう存在なのかってのは何となくわかったけど。
 世間知らずにも程があると思う。出入りは普通、ドアからでしょ。
 そのくらい、子供だってわかるよ。 …… まぁ、俺も子供なんだけどさっ。

「っていうか、また来るつもりなのか〜。カンベンしてほしいな〜」

 ぼふーっとベッドに身を投げて嘆く慎。
 あ、そういえば。海斗に渡しておいてくれって言ってたもの。何なんだろう。
 慎は、ガバッと起き上がって、カージュから受け取った小さな箱をジッと見つめた。
 勝手に中を見るのは失礼だよね。そういうのって、人としてどうかと思うよね。
 普通は見ないよね。大人なら。でも、俺は、子供だからね。好奇心旺盛な子供だからねぇ。
 こういう時だけ、子供だからって言って、それを利用しちゃう。慎は、そういう子だ。

「 …… うわ。何これ、気持ちわる〜い」

 箱の中に入っていたのは、蜘蛛のアクセサリーだった。
 ブレスレットと指輪がひとつずつ入っている。どちらもリアルで気味が悪い。
 しかも、両方のアクセサリーにタグがついており、そこに "We declare war!" と書かれている。
 難しい英語はわからないけれど、このくらいなら慎にも読めるし理解できる。
 要するに、このメッセージは "俺達、宣戦布告するぜ!" とか、そういう意味合い。
 やっぱり、悪者じゃん。あきらかに悪役のすることじゃん、これ。
 そんなことを考え、ケラケラ笑いながら、慎は再びベッドに寝転んだ。
 枕元には、さきほどカージュにかじられた、食べかけのチョコレート。
 あ〜あ …… せっかくもらったのに。しかも、手作りなのになぁ、これ。
 ブツブツ文句を言いながら、慎は、そのチョコレートをカリッと噛み食べた。
 眉間にシワが寄っている理由は、女の子にもらった大事なプレゼントだからということの他に、
 慎が、とある雑誌の取材で理想の女性を訊かれた際、すぐさま名前を挙げた有名女優、
 そのチョコレートが、彼女から贈られたものだという点も関与しているに違いない。
 うぬぬ。おのれ、クロノ・ハッカー。許すまじ ……(怒りの矛先、そこ?)

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 CAST:

 6408 / 月代・慎 / 11歳 / 退魔師・タレント
 NPC / カージュ / ??歳 / ?????

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 Thank you for playing.
 オーダーありがとうございました。
 2010.02.17 稀柳カイリ

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