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ボマー
その男が沈黙を破る時、爆発する。
こんな一文がゴーストネットOFFに書き込まれていた。
これはここ最近ニュースで騒がれている『サイレントボマー』の事を言っているのだろう。
1日に何件も爆発が起きて、既に死者は10名を越えている。その犠牲者の中に警官も存在しており、彼が最後に残した言葉が先ほどの一文だった。
「その男が沈黙を破る時、爆発する」
これが一体何を指し示しているのか犠牲となった警官から連絡を貰った同僚は知る事が出来なかった、その言葉を残した数秒後に彼は死んでしまったのだから。
その警官が残した言葉を用いて、マスコミは一連の爆発犯人を『サイレントボマー』と名づけていた。
お前らに俺が捕まえられるか?
これは先ほど警官が残した言葉の後に書き込まれた発言、発言だけを見ると『サイレントボマー』のような気がするけれどネットの中では『なりきり』も多い。
これから1時間後にビルを爆破する、それから3時間後に学校を爆破する――止められるものならやってみろ。
この発言からちょうど1時間後に『サイレントボマー』の爆破は実行された。
そして3時間後の爆破を止める為、様々な人間達が動き始めたのだった。
視点→ミネルバ・キャリントン
その日、ミネルバ・キャリントンは小説の新作を執筆していた。まだ締め切りには余裕があるのだけれど、折角時間があるのだから、と早めに終わらせる事にしていた。
「んー‥‥一段落したし少しだけ休憩しようかしら」
大きく伸びをしながらミネルバは呟き、椅子から下りてリビングへと向かう。
そしてコーヒーを飲む為にお湯を沸かしている時だった。自室に置いている携帯電話が着信を知らせており、ミネルバは小走りで自室へと戻っていく。
(「もしかして締め切りが早まりました、とかじゃないわよね‥‥」)
ため息混じりにディスプレイを見ると幼馴染であり親友でもあるルナ・バレンタインからの着信だった。
「‥‥今日、約束とかしてなかったわよね?」
首を傾げながらミネルバは呟き通話ボタンを押すと「もしもし、ミネルバ?」とルナの少し慌てたような声が電話の向こうから届いてくる。
「どうしたの、ルナ‥‥そんなに慌てて。何かあった?」
状況が分からないミネルバが言葉を返すと「大変なの」と言う言葉と共に彼女が見たこと、そして今起きている事を説明し始めた。
サイレントボマーという最近テレビを騒がせている犯罪者が神聖都学園に爆破予告を出している事、挑戦的な発言でネットの中を混乱させている事。
「そういう事が起きてるの、分かったわ。少し調べてみるからあなたはヘリ私の家まで来てくれる? ルナが来る頃には準備とか出来ていると思うから」
ミネルバの言葉に「分かったわ」とルナは言葉を返して電話を切った。
「さて」
ミネルバはパソコンから問題の発言を見る為、インターネットに接続する。そしてそれと同時に『サイレンとボマー』の手がかりとなる記事がないかを調べ始めた。
「‥‥あら?」
調べ始めている時、ミネルバは少しだけ違和感を覚えた。ネット上には今までにサイレントボマーが爆破した場所の現場写真などが流出してた。
そこで必ずと言っていいほど写っている怪しげな人物がいるのだ。黒いコートを着ており、顔を隠すように大きなマスクに目深に被った帽子。
「犯人は現場に戻るって言うけど‥‥間違いなさそうね」
一番新しい事件の現場写真ではマスクをしておらず、楽しげに笑っている姿が映っている。
「‥‥という事は爆破予告している場所に行けば、いるってワケね。自分の犯罪をその目で見る為に――」
ミネルバは小さく呟き、電話をし始める。その相手はルナではなく、昔戦場で助けた事のある在日米軍の大尉。
「もしもし、大尉? 少しお願いしたい事があるのだけど‥‥ゴム弾入りのアサルトライフルと爆発処理の道具を貸して欲しいの」
ミネルバの言葉に「え、それは‥‥」と大尉は渋る様子を見せたのだが「出来るはずよ、大尉」とミネルバは言葉を続ける。
「米軍の基地には世界中のありとあらゆる銃器がある事は誰もが知っている事よ、それとも私が知らないとでも思っているの?」
少し脅すような口調で言えば大尉は諦めたように「口外しないで下さいよ」と言葉を返してきた。
「ありがとう、それじゃルナのヘリで基地まで向かうわね――お礼に今度一晩付き合うわよ」
それだけ言うとミネルバは電話を切り、時計に視線を向ける。ルナがもう少しすれば来るはずだ。
ミネルバは着替えて準備を終えると屋上まで向かい始めたのだった。
それから数十分が経過した頃、上空にルナのヘリが見え始め、着陸したヘリにミネルバは乗り込んだ。
「とりあえず、米軍基地に向かってくれる? その後は神聖都学園に向かいましょ」
「分かったわ」
ルナは言葉を返すと米軍基地へ向かうためにヘリの操縦を再開させた。
その後、米軍基地へと赴き、電話で話していたものを貸し出してもらい、ルナとミネルバは『サイレントボマー』の凶行を止めるべく動き始める。貸し出してくれた大尉にはお礼としてミネルバとルナがキスを送っていたけれど、大尉は顔を赤くして「は、早く行って下さい」と言葉を返していた。
「お姉様に頼んで学園関係者は皆避難させてもらったのよ」
シンとした学園を見ながらルナが呟く。確かに一般人が残っていれば作業などにも手間取るし、万が一の時に犠牲者が出る――それを考えてルナは避難させていたのだろう。
「まずは爆弾が本当に仕掛けられているかどうかよね――「何で人がいないんだ」――?!」
突然聞こえた見知らぬ声にルナとミネルバは勢いよく後ろを振り返る。するとミネルバは今回の事を調べていた時に見つけていた怪しげな黒コートの人物がルナとミネルバを睨みつけながらゆっくりと近づいてくる。
「あなたが‥‥サイレントボマー? 何でこんな事をするの? 爆弾は何処」
ミネルバが男を刺激しないように話し掛けると「世界は堕落していると思わないか」と男は言葉を返してくる。
「世界は腐りきってしまった、だから一度全てを無に帰してやり直す必要があるんだよ」
にぃ、と男は呟き体育館を指し示す。
「あそこにはここいら一帯を吹き飛ばすだけの爆弾がある――お前らに止めることは出来ないよ、ここで死ぬんだからなぁ!」
言い終わると同時に男が2人へと襲い掛かってくる。
「ミネルバ! ここは私が引き止めるわ、だからミネルバは爆弾を!」
「分かったわ」
ミネルバは言葉を返してルナと男の横をすり抜けて体育館へと向かう――が。
「させるか!」
「あなたの相手は私よ」
ミネルバに殴りかかろうとした男をルナが止め、その隙にミネルバは爆弾を処理すべく体育館へと向かっていった。
体育館に到着したミネルバは爆弾を探す為に体育館の中を探し回る。
しかし爆弾らしきものは発見できない。
「おかしい、ないわ‥‥」
その時、ふ、と視線が向いたのはアンティークを連想させる巨大な置時計。体育館にそぐわないその時計の中を覗いてみると――そこには大きな爆弾がカチカチと時計の音を鳴らしながら存在を誇張するかのようにそこにあった。
「馬鹿な3流ドラマなら赤と青の導線を切るんでしょうけど、そんな事はしないわ」
ミネルバは液体窒素を爆弾にかけて爆弾そのものを凍らせる。
「妨害が来ない所を見ると、ルナはうまくやってくれているみたいね」
凍りついた爆弾を持ち、ヘリへと運び始める。
それからルナの元へと戻ると男をロープでぐるぐる巻きにしているルナの姿を見受ける。
「終わったみたいね、爆弾はヘリの中に積んでおいたわ。あとは海に捨てて帰りましょ」
ミネルバが腰に手を当てながらルナに話し掛ける。
「そうね、警察に電話してこの人も引き取ってもらえばいいし。結構強く当てたから簡単には目を覚まさないでしょうし」
ルナは言葉を返して『この人がサイレントボマーです』という書置きを残して、ヘリが停めてある屋上へと向かった。
それから海へと爆弾を捨てた後に米軍基地へと戻って借りたものを返した後、それぞれお帰路についたのだった。
END
―― 登場人物 ――
7844/ミネルバ・キャリントン/27歳/女性/作家/風俗嬢
7873/ルナ・バレンタイン/27歳/女性/元パイロット/留学生/キャットファイター
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ミネルバ・キャリントン様>
はじめまして、今回執筆させていただきました水貴透子です。
今回はご発注いただき、ありがとうございました。
ルナ・バレンタイン様との共演という事で書かせて頂きました。
内容のほうはいかがだったでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、今回は書かせて頂きありがとうございました!
2010/2/14
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