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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


月が騒ぐ


 今日は満月。
 こんな月の夜は嫌いだ。
 自分が自分でなくなってしまうから‥‥。

 10年前、まだ小学生だった俺は友達を食い殺した。
 自分が吸血鬼だと知らなかった、知りたくもなかった。
 あの日もこんな満月の夜だった。
 月を見ていたら、嫌に胸が騒いで、喉が渇いて、狂うほどの飢餓感が俺を襲った。
 気がついたら、血を抜かれて死んでいる友人と口の周りを真っ赤にした自分がいた。
 誰が、こんな事を――?
 そんな事を思う必要はなかった、口の周りを真っ赤にしていた俺、きっと俺が殺した。

「もう嫌だ‥‥こんな事が一生続くなんて、死んでしまいたい」
(「死にたい? なら俺が代わりに『水嶋陽一』として生きてやるよ――」)

 自分の頭の中に声が響いたかと思うと、俺の意識は消滅した。
 消滅する寸前、10年前のあの日、友達を食い殺したのは俺の中に潜むコイツだったんだと悟った。

「隔世遺伝か、爺さんのまた爺さん、更に遠く遡る先祖に吸血鬼と人狼の血を持つ奴がいた――やがて血は薄れていくはずだったのに、運が悪かったんだよ、お前は‥‥いや『俺』にとっちゃ運が良かったんだけどな」

 あははは、と夜闇に響く高らかな笑い声と共に『水嶋陽一』だった少年は歩き出し、自分の飢餓感を癒すために人を喰らい始める。
 そして、数日後、草間武彦の元に『俺を殺して』と訴える水嶋陽一の霊が現れたのだった。

視点→夜神・潤

「俺を殺して――か、俺をヒトゴロシなんかに巻き込んで欲しくないんだけどな」
 はぁ、と煙草の煙と一緒に草間武彦は大きなため息を吐く。その行動に夜神・潤は少しだけ眉間に皺を寄せる。
「あぁ、悪い。そういえば煙草が苦手だったか」
 夜神の表情を見て、草間武彦は灰皿に煙草を押し付けるように消した。
「いや、すぐに出るから構わないですよ」
 夜神は呟きながらチラリと草間武彦の隣に立つ水嶋陽一へと視線を移した。
「今、陽一の身体を動かしている『アイツ』が何処にいるのか把握は出来るか?」
 夜神が陽一に問いかけると、陽一は悲しそうな表情をしながら首を横に振った。
「分からない、だけどアイツが何を考えているかは分かるんだ」
 陽一は苦しそうな表情を見せながら呟く。
「腹減った、喉が渇いた、何か食べたい、そんな事ばかりが頭の中に入ってくる」
 陽一は無理矢理頭の中に流れ込んでくる飢餓感を振り払うように頭を振る。
「仕方ないか‥‥」
 夜神は瞳を閉じ、自らの能力『リーディング』を使って、水嶋陽一として動いている『人食い』を探し始める。
 人の多い中、色々な声が聞こえ、色々なものが夜神の頭に流れ込んでくる。
 その中で一番強く感じるのは『誰かを殺す』という真っ直ぐな感情、それが夜神の中に届いてきた。
「――‥‥見つけた」
 夜神は呟きながら「陽一も来るんだ」と陽一に視線を向けながら言葉を投げかけ、一緒に『水嶋陽一』のところへ行く為に草間興信所を飛び出していったのだった。


「俺は陽一、あんたを身体に戻す」
 夜神の言葉に陽一は目を丸くして驚きの表情を見せた。
「そんな事‥‥」
「俺なら出来る」
 陽一の言葉を遮り、夜神が言葉を続ける。
「目覚めてしまった吸血鬼と人狼の因子を封印し、漂っている幽体を本体に戻す」
 夜神の言葉に陽一はゆっくりと首を横に振って「俺は死にたいんだ」と言葉を返してくる。
「きっと、またいつか同じ事をしてしまう――いや、しなくても自分がしたことを忘れることが出来ない、なかった事には出来ないんだから」
 陽一が俯きながら呟くと「俺は、陽一に今後は人として生きて欲しい」と言葉を返す。
 生きろ、言うのは簡単で凄く投げやりで無責任な言い方に聞こえるだろうと夜神は思う。彼が罪から逃れたがっている事を知ってなおも「生きろ」というのは罪の十字架を一生背負い続けろと言っているのも同然なのだから。
「ここで陽一が死んでも何も変わらない、けれどこれから生きていくことでいつか救いになる時が来るかもしれない、生きたうえでいつか死にたくなったら俺が殺してやる。だからとりあえず生きて欲しい」
 夜神の言葉に陽一は言葉を返す事なく、それと同時に女性の悲鳴が公園の方から聞こえてきた。慌てて駆けつけると『水嶋陽一』が女性に喰らいつこうとしていた。
「止めろ!」
 夜神が声を荒げながら叫ぶと「誰だ、メシの邪魔する奴は‥‥」と飢えた狼のような目をした水嶋陽一が夜神を睨みつけてきた。
「お前を止めにきた、そしてその身体を陽一に返してもらう」
「‥‥折角さぁ、表に出てこれたってのによ、これからは喰い放題だ、お前だって腹が減ったらメシを食うだろ、それが俺の場合はニンゲンってだけだ! 邪魔されるいわれはねぇよ!」
 水嶋陽一は叫びながら夜神に攻撃を仕掛けてくる、夜神はそれを交わして「素直に明け渡せば手荒な真似はしない」と言葉を投げかける。
「どっちにしたってお前は俺を消すつもりなんだろうが!」
 水嶋陽一は蹴りを夜神に食らわす、しかし禁忌の存在である夜神にはあまり効果がなく「残念だよ」と呟き、夜神は能力を使用して異端な能力を持つ水嶋陽一そのものを封印し、幽体の陽一を身体に戻した。
 陽一の意識が戻る寸前、もう1人の水嶋陽一の思念が一気に陽一へと流れ込んでくる。
『やっと自分で生きられると思ったのに』
『これからは腹を減らすことがなくなる』
『俺だって光のある場所で生きたかった』
 そんな考えが一気に流れ込んできて、陽一は何故だか涙が出てきた。同情するわけではなかった、結果として許されないことをした、先ほども夜神が止めなければ女性が犠牲になるところだったのだから。
「俺は‥‥友達を死なせた事が辛かった、だから生きたいとは思わなかった‥‥人に、人に被害が加わるような生き方じゃなかったら、アイツに‥‥譲ってもよかったのに」
 陽一はぼろぼろと涙を零しながら呟く。
 だけどそれは適わない、人ならざる者の血を濃く継いでいる『もう1人の陽一』は人を喰らうことでしか命を繋ぐことが出来なかったのだから。
「出来なかったことを悔いても仕方ない、これからは陽一が生きていくんだ。だけど‥‥さっきも言った通り、どうしても挫けてしまうなら、俺が手を下す」
 だけどそうならない事を願っているよ、夜神はそれだけ言葉を残して報告をする為に草間興信所へと戻っていった。
 きっと、友人ともう1人の自分の『死』を悼んで彼が強く生きてくれることを願いながら‥‥。


END

―― 登場人物 ――

7038/夜神・潤/200歳/男性/禁忌の存在

――――――――――

夜神・潤様>
こんにちは、いつもご発注ありがとうございます。
今回は「月が騒ぐ」に発注いただきありがとうございました!
今回の話はいかがだったでしょうか?
少しでも面白かったと思って下さったらありがたいです(><)
それでは、また機会がありましたら、ご発注をお待ちしています。

今回は書かせて頂き、ありがとうございました!

2010/2/23