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<東京怪談・PCゲームノベル>


 クロノラビッツ - 時の鐘 -

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 When you wish hard enough,
 so that even a star will crush,
 the world we live in will certainly change one day.
 Fly as high as you can, with all your might,
 since there is nothing to lose.

 CHRONO RABBITZ *** 鳴らせ 響け 時の鐘
 時を護る契約者、悪戯仕掛けるウサギさん、全てを統べる時の神 ――

「あいつだよな?」
「えぇと …… うん。間違いなく」

 手元の書類を確認しながら呟いた梨乃。
 梨乃の返答を聞いた海斗は、ニッと笑みを浮かべた。
 そのイキイキした表情に、いつもの嫌な予感を感じ取る。

「今回は、失敗が許されないんだからね。ちゃんと指示通りに …… 」

 呆れながら警告したものの。
 既に、梨乃の瞳は、遠のく海斗の背中を捉えていた。
 いつものこと。ヒトの話を聞かないのも、勝手に動き回るのも。
 今更、怒ったりはしない。無駄な体力を消費するだけだから。

「ん〜〜〜♪」

 口角を上げたまま片目を閉じ、海斗は構えた。
 不思議な形の銃。その引き金に指を掛け、狙いを定めて。

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 ・
 ・

 "魂銃タスラム"
 時の契約者であることを証明する代物。
 普通の銃とは仕様が異なり、銃口から放たれるのは銃弾ではなく、
 銃弾を模した奇跡のチカラ。非現実的だが、それは "魔法" と呼ばれているものだ。
 魔法には幾つかの種類があり、この銃に装填される魔法も、時の契約者ごとに異なる。
 また、この銃から放たれる攻撃が "魔弾" と総称されることも覚えておいて損はないだろう。

「せーの」

 にへらと笑って引き金を引いた海斗。
 完璧。僅かなズレもない。その銃撃は、まさにパーフェクトだった。
 隣で様子を見ていた梨乃も、満足気に、ひとつウンと頷く。(ただし無表情だが)
 海斗は、その身に炎のチカラを宿している。ゆえに、銃口から放たれるのは、紅蓮の炎。
 ものすごいスピードで標的へと向かう炎は、まるで生き物のような気味の悪い動きを見せる。
 今回の標的は、王林・慧魅璃という女の子。
 黒一色の豪華なドレス(いわゆるゴシックロリータ)が、とてもよく似合う可愛らしい女の子だ。
 標的、といっても、海斗たちは、なにも慧魅璃の命を狙っているわけではない。
 彼らが仕留めんと心に据えているのは、慧魅璃の胸元でもぞもぞと動いている "うさぎ" である。
 半透明のウサギ。この不思議な生物は、時兎(ときうさぎ)と呼ばれる厄介な生き物だ。
 適当な人に寄生し、二十四時間という時間をかけ、その中で寄生した人間の記憶を喰らう。
 寄生されてから二十四時間以内に処分しなければ、寄生された人間は、一切の記憶を喪失してしまうため、
 寄生を確認したら、すぐさま処分にあたらねばならない。
 だがしかし、時兎は魔法生物の一種とされ、人間には見えないし、触れることもできない。
 つまり、寄生されても、人間がその事実に気付くことはないのだ。
 そこで、必要不可欠になってくるのが "時の契約者" という存在。
 契約者だけは、時兎をその目で確認し、処分することが可能なのである。
 とはいえ、触れることができないのは契約者とて同じこと。
 ただし、契約者が所有している "魂銃" という武器を使えば、いとも容易く処罰が可能。
 まぁ、魂銃による攻撃しか効かない理由については、契約者たちも、はっきりとは理解していないのだが。
 …… というわけで、海斗と梨乃は、この場に来ている。
時兎に寄生された人間、いわば "被害者" を救いに来ている。

「カンペキ」

 ふっと銃口に息をふきつけ、カッコつけながら言った海斗。
 銃口から放たれた炎は、まっすぐ、まっすぐ、慧魅璃の胸元へ向かっていく。
 あぁ、言い忘れたが、時の契約者もまた、時兎と同じように、人間には見えない存在。
 つまり、慧魅璃は、胸元に妙なうさぎがいることも、今まさに銃撃されていることも、何ひとつ知らない状態。
 魂銃による攻撃は、あくまでも、時兎を消滅させるためのものであって、人間を傷つけるようなものではない。
 胸元(心臓付近)を射ぬかれることに変わりはないが、それによって、撃たれた人間が死に至るなんてことにはならない。
 ただ、寄生していた時兎が消えるだけ。僅かな痛みもなく、それは終了する。
 いつも彼等は、音もなく、こうして役目を果たして去っていくのだ。

 だが。
 この日は、今日ばかりは違った。

 バチィッ ――

「きゃう」

 炎が、慧魅璃の胸元を貫く、その寸前の出来事。
 どういうわけか、炎が消えた。弾かれたとかそういうレベルじゃない。跡形もなく消えたのだ。

「は?」
「 …… えっ?」

 目の前で起きた、ありえない出来事に揃って目を丸くする海斗と梨乃。
 だが、二人と同様に、尻もちをついた慧魅璃もまた、キョトンと目を丸くしている。
 つまりこれは、慧魅璃が自分の意思で行った行為ではないということ。
 確かに、慧魅璃は寸前で気付きはした。後ろから、何かが物凄いスピードで向かってくるということに。
 でも、少し気付くのが遅かった。ハッとして振り返ったとき既に、炎は、慧魅璃の目前まで迫っていたのだ。
 それなのにどうして、消えたのか。跡形もなく、炎が消えてなくなったのか。
 その理由、事の詳細を理解できるのは、ただひとり、慧魅璃だけ。

「 …… 助けてくれるのは嬉しいのですが、方法をもっと考えてください。マイ・フレンド」

 苦笑しながら、服についた埃を払って立ち上がる慧魅璃。
 その言葉に反応するかのように、慧魅璃が手首に着けている腕輪が妖しく光った。

「さてと。 で? あなたたちは、何者です?」

 問われて、さらに目を丸くする海斗と梨乃。
 思わず、後ろに誰かいるのではないかと振り返ったりもしてみる。
 だって、ありえないことだから。人間に声をかけられたことなんて、今まで一度もないのだから。
 時の契約者は、決してヒトには認識されない、空気のような存在なのだから。
 しばらく沈黙した後、海斗と梨乃は顔を見合わせて頷き、とある決断に辿り着く。
 二人が辿り着いた結論、それは、逃亡。

「意味わかんねぇ!」
「私だってわかんないわよ」

 とりあえず、時狭間(契約者が暮らしている特殊な空間)に戻って、報告しよう。
 誰にって? 時の神。いわば、彼らと契約を締結した人、彼らの契約主に。
 疑問を口にしながらも全力疾走し、その場から逃げ去った海斗と梨乃。
 しばらく走ったところで、二人は懐から黒い鍵を取り出す。
 それは、時狭間に戻るために必要なアイテムだ。
 二人で一緒に、この鍵を同時に回すことで、時狭間へと通ずる門が出現する。
 門を抜けてしまえば、もう追ってくることはできない。人間は、時狭間に出入りできないから。
 必死に逃げたゆえ、まだ追ってきているのか否か、それすら確認していないけれど、ひとまず、撤退。
 海斗と梨乃は、動揺する心を落ち着かせて、鍵を回した。ぶぅんという音とともに出現する時の門。
 オッケイ。連結は成功した。後は、門を抜けるだけだ。海斗と梨乃は、二人揃って門を抜けようと駆け出した。
 ところが。

「質問に答えて下さい」
「うおわっ」
「!!」

 慧魅璃が、行く手を阻む。
 いつの間に。っていうか、いつからそこにいたのか。
 っていうか、やっぱりおかしい。見えてるじゃん。これ、確実に見えてるじゃん。
 困惑する海斗。梨乃もまた、表情には表れていないが、かなり動揺している。さぁ、どうする。
 無視して、時の門を抜けてしまうことは容易い。このまま、突っ切ってしまえば良いのだから。
 でも、多分(っていうかほぼ確実に)、慧魅璃には、自分たちの姿が見えている。その上で、声をかけている。
 となると、また追ってくる可能性が高い。それは、まずい。人間を時狭間に招き入れる行為は、大罪にあたる。
 そもそも、人間が時狭間に入ってしまうと、色んな意味で空間の均衡が崩れて大変なことになる。
 慧魅璃自身の体にも悪影響を及ぼすし、最悪、死んでしまうことだってある。※慧魅璃だけ
 どうしたものか。初めての体験に、どうすればいいのか判断しかねる海斗と梨乃。
 そんな二人を、どこからか聞こえてきた優しい声が救った。

『構わぬ。そのまま、連れてきなさい』

 それは、時の神。マスターの声だった。
 手を差し伸べてくれたことには感謝する。でも、はい、わかりましたとは言えない。
 海斗は、目を丸くしたまま、姿の見えないマスターに言い返した。

「はっ? 何で? そんなのダメじゃん!」

 絶対にやっちゃいけない、タブーだとして、そのルールを定めた本人が大罪を犯すなんておかしい。
 それが、海斗の言い分だ。何も発言することなく事態を見守っているだけの梨乃も、心の中で同じ思いを抱いている。
 マスターは、それでも構わないと二人に告げた。全ての責任は私が負う。お前たちは、ただ従って、連れてくれば良い。
 その場で、お前たちが何らかの対処をし、慧魅璃を自力で納得させることができるなら話は別だが、
 できないだろう? お前たちには、どうすることもできない。
 だからこそ、私は、手を差し伸べてやったんだ。黙って従いなさい。
 厳しくも、的を射たマスターの発言に言い返す術を失い黙りこくってしまう海斗。
 不満や疑問を拭えない状況は何ら変わっていないが、もはや、従うほかに術はなし。
 理解に苦しみ、面白くなさそうな顔をしている海斗の肩をポンと叩いて宥め、梨乃は告げた。
 わかりました。すぐに、お連れします。と。

 ・
 ・
 ・

「なるほど。そういうことだったんですか」
「やっぱり、時兎も …… 見えていたのね」
「えぇ。でも、そんなに恐ろしいものだったとは、知りませんでした」
「何か …… ごめんなさいね。ちゃんと説明しておくべきだったと思うわ」
「いえいえ。そういうことなら、仕方ないですよ。もしも、あなた達の立場なら、えみりさんだって逃げます」

 マスターの指示どおり、慧魅璃を連れて時狭間を行く海斗と梨乃。
 海斗は、何をふてくされているのか、ずっと、そっぽを向いたままだ。
 逆に梨乃は、今の状況、自分が置かれている状況を客観的に把握し、その上で、慧魅璃に事情を説明した。
 姿が見えているだけに、飲み込みも早い。話を聞かされた慧魅璃は、ようやく事の詳細を知ることができて、満足気。
 慧魅璃の胸元でもぞもぞと動いていた時兎も、いまはすっかり消えている。
 説明の過程で、梨乃が実際に魂銃を発砲し、時兎を消滅させたこともまた、
 慧魅璃に、効率よく事情を理解させることに、一役買ったと言える。
 話を聞く限り、自分たちだけじゃなし、慧魅璃は、時兎までも、その目で確認できていたらしい。
 でも、触ることができないものだから、どうすればいいのかわからず、困っていたところ。
 そこへ、丁度良いタイミングで海斗と梨乃が現れて、銃撃してきた。
 腕輪の中にいる悪魔たち(慧魅璃いわく、お友達)が、咄嗟に炎をかき消して助けてくれたが、
 結局、それは、余計なお世話だったということ。※ 守るためにやってくれたことだからと、慧魅璃は彼らを非難しないが
 何はともあれ、結果的に、慧魅璃は救われた。
 全ての記憶を失ってしまうだなんて、考えただけで恐ろしい。
 記憶や経験は、物のように形を成して残ることがない。替えが効かないからこそ、大切なもの。
 全ての事情を把握した慧魅璃は、深々と頭を下げて、梨乃に感謝の意を示した。
 助けてくれて、ありがとう。と。

 どうして、見えないはずなのに見えているのか、こうして会話が成立しているのか。
 わからないことは、多々ある。でも、嬉しいような、くすぐったいような気持ちがあるのも確かだ。
 だって、感謝されたことなんてないから。ヒトに、ありがとうなんて言われたことないから。
 初めての体験、その感覚に、梨乃は嬉しそうにニコリと微笑んだ。
 そして、覚えてはいても、今まで一度も使ったことのなかった言葉を、そこで初めて口にすることになる。

「どういたしまして」

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 CAST:

 8273 / 王林・慧魅璃 / 17歳 / 学生
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)

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 Thank you for playing.
 王林・慧魅璃さんは、Bルート進行となります。
 オーダーありがとうございました。
 2010.03.03 稀柳カイリ

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