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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


心霊記事を書いて

「さんしたくん、本当にキミは役立たずね――仕方ないからこれのうちどれかを選んで取材してきて」

 碇 麗香が数枚の資料を『さんした』こと三下 忠雄に渡す。
 勿論、それのどれもが幽霊に関する資料であり、どれもが危険な匂いがしているのは言うまでもない。

「む、無理ですぅ‥‥こんな場所に行っちゃったら死んじゃいますって! 編集長は僕が死んでもいいんですか!」
「あんたが生き残るより、記事がないまま雑誌発行する方が怖いからさっさと行く!」

 あんまりだ〜、泣きながら三下 忠雄はアトラス編集部から出て行き携帯電話を取る。

「あ、あのぅ‥‥実は僕が行く取材を代わりに行ってきてほしいんですぅ‥‥ちょっと風邪引いちゃって。げほげほ」

 明らかに仮病だと分かる口調で三下 忠雄は電話をかけて近くのカフェで落ち合うことになったのだった。

視点→ミネルバ・キャリントン

「風邪‥‥ねぇ」
 電話を受けたミネルバ・キャリントンは苦笑しながら呟く。誰が聞いても『仮病』と分かる口調だったのだが、ミネルバはあえてツッコミを入れる事をしなかった。
(「こんな事を頼んでるなんて麗香が知ったら、きっとまた役立たずのさんした君なんて言って彼を叱るんでしょうね」)
 三下を叱る麗香とひたすら謝り続ける三下の姿が容易に想像出来て、ミネルバはまた苦笑する。
「それじゃいきましょうか」
 ミネルバは小さく呟き、着替えをして三下が待つカフェへと向かい始めた。

「ごめんなさい、待たせた?」
 ミネルバが指定のカフェに到着した時、三下は既に到着しており、目の前に置いてある白いカップからは甘いカフェオレの匂いが漂っていた。
「いえ、僕もさっき来たばかりですし‥‥」
 三下は呟きながら持っていたビジネスバッグから取材地の資料をミネルバへと渡す。
「こ、これが取材地の資料ですぅ‥‥宜しくお願いします」
 三下はそれだけ言うとカフェオレを飲んで帰ろうとするのだが「ちょっと待って」とミネルバが三下を呼び止める。
「取材は私が手伝ってあげるけど、記事は三下君がちゃんと書きなさいね」
 ミネルバの言葉に「ええええ!」と驚いたように三下は少し大きな声で叫ぶ。
「これは三下君の仕事だもの、記事は三下君が書かなくちゃ意味がないでしょ? 取材は手伝ってあげるけど」
 ミネルバの言葉に「うぅ‥‥でも僕の書いた記事じゃ‥‥」と俯きながら自信がなさそうに呟いた。
「あら、自分で書かなくちゃいつまで立っても麗香に認めてもらえるような記事はかけないわよ?」
 ミネルバの言葉に「う」と三下は言葉に詰まって「‥‥分かりました」と言葉を付け足す。
「それじゃ取材に行ってくるわ、終わったら電話するからね」
 ミネルバはそれだけ言葉を残すと、カフェから出て資料にある『取り壊そうとすると必ず良くない事が起きる家』へと向かっていったのだった。

「此処が問題の家ね、へぇ‥‥結構大きな家なのね」
 その家は古めかしい感じだったけれど、独特の雰囲気を持っていて取り壊すには少しだけもったいないとミネルバは感じていた。
「さて、と。少し近所で聞き込みをしましょうか」
 幸いにも少し歩いた先には公園があり、先ほど通った時には近所のおばさん達が井戸端会議をしていた。
「あの‥‥少しお話を伺ってもいいでしょうか?」
 ミネルバが話し掛けると「あら、あなたこの辺の人じゃないでしょ?」と1人のおばさんが言葉を返してきた。
「えぇ、ちょっとあの家の事を取材したいと思って‥‥取り壊そうとするたびに良くない事が起きるって聞いてるし」
「あら、もしかしてあの家に行くの? あなたみたいな人は止めたほうがいいんじゃないかしら〜」
 おばさんの意味ありげな言葉に「どういう意味ですか?」とミネルバは言葉を返す。
「あ、別にあなたが悪いってワケじゃないんだけど‥‥あそこに住んでたおじいちゃん、結構なスケベだったのよ‥‥」
 は? と予想もしていなかった言葉にミネルバは目を丸くする。
「この辺の若い子でちょっかい出されてない子なんていないんじゃないかしら? うちの娘もあのおじいちゃんにお尻触られたって言ってたし‥‥それにおじいちゃんが亡くなってからも、あの家でおじいちゃんの姿見たって人もいるのよ」
 だから女の子が行くのは危ないわよ、おばさんは最後に言葉を付け足した。
「ご忠告ありがとうございます、でも取材ですから行かなくちゃ」
 ミネルバは軽く頭を下げて問題の家へと足を進めたのだった。

「今まで被害にあったのは男性ばかり、つまり『何で女の子が来ないんじゃ!』と怒って現象だったのかしら‥‥」
 家の中に足を踏み入れると、誰かに見られている感覚がミネルバを襲う。
(「‥‥ふぅん、確かに『いる』みたいね‥‥何か視線を感じるし」)
 ミネルバは心の中で呟き、家の中を散策していく。ここの持ち主であったおじいちゃんはまだ30代の頃に奥さんを亡くして、それから再婚はしなかったとおばさんたちは言っていた。
「スケベなおじいちゃんだけど、奥さんの事を凄く愛していたのね」
 家の中には奥さんと若い頃のおじいちゃんであろう写真などが飾られている。
 キッチンに足を踏み入れたその時だった、水道の水が吹き出てミネルバはびっしょりと濡れてしまう。
「‥‥明らかに人為的なものを感じるのは気のせいかしら」
 びっしょりと濡れた状態でミネルバは呟き「仕方ないわ、シャワーを借りちゃいましょ」とため息混じりに言い、風呂場へと向かっていったのだった。
「別に濡れたままでも風邪なんて引かないんだけどね」
 苦笑しながらミネルバは呟き、シャワーを浴びる。
 数十分が経過した頃、風呂場から出たミネルバは置いておいたはずの服がなくなっている事に気づき「はぁ」とため息を吐いてバスタオルを身体に巻いた。
「あら、お爺さん登場ね」
 目の前に現れたおじいさんを見てミネルバは「何か心残りでもあるの?」と尋ねた。
「まさか女の服を盗むことが心残りだなんて言わないわよね? それだったら帰れなくなるから私がちょっと困っちゃうんだけど」
 苦笑しながらミネルバが呟くと「わしの願いを聞いてほしい」とおじいさんは真面目な顔で言葉を返してくる。
「誕生日‥‥わしの妻の誕生日だったんじゃ‥‥毎年墓までケーキと花を持っていってた。しかし今年はわしが入院してしまっていた為に行けなんだ」
 恐らくそれを誰かに頼みたかったのだろう、何故男性を嫌ったのかは分からないけれど。
「何で今まで来た男の人に頼まなかったの?」
 疑問に思った事をミネルバは率直に問いかけると「どうせ頼むなら若くて可愛い女子の方がええわい」とスケベな発言を返してきた。
(「本当に奥さん一筋な人には見えない発言ね」)
 苦笑しながら「分かったわ、奥さんのお墓があるところを教えて。私が行くから」とおじいさんに言葉を返すと「ありがとう」と言ってすぅっと消えていった。心残りを誰かに頼めたことで安心して天国へと行ったのだろう。
「‥‥天国では、奥さんとずっと仲良く暮らせるといいわね」
 ミネルバは小さく呟き、ぱさりと音をたてて現れた服を着て家から出たのだった。
「三下君? 取材が終わったからさっきのカフェに来てくれる? 取材したことを全部伝えるから」
 ミネルバは三下と会う為に先ほどのカフェまで行き、家の中で起きたこと全てを彼に話す。三下はそれを一生懸命メモして「ありがとうございます」とお礼を言って早速記事作成に取り掛かるため、編集部へと戻っていったのだった。

 それから、ミネルバは花屋で花束を購入して、ケーキを持っておじいさんの奥さんが眠っている霊園へと向かった。
 きっとおじいさんが生きている頃はかかさず墓参りをしていたのだろうが、おじいさん亡き今となっては墓参りに来る者もおらず、墓は荒れていた。
「天国で仲良くね‥‥」
 ミネルバはそれだけ言葉を残して、霊園から出て行ったのだった。

「ありがとう」

 吹き抜ける風の中にあのお爺さんの声を聴きながら。


END


―― 登場人物 ――

7844/ミネルバ・キャリントン/27歳/女性/作家/風俗嬢

――――――――――

ミネルバ・キャリントン様>
こんにちは、今回はご発注ありがとうございました。
書かせていただいたのは二回目ですが、しっかりとミネルバさんを出せているかドキドキです(><)
それと内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでも気に入っていただけるものに仕上がっていればいいのですが‥‥

それでは、今回は書かせて頂きありがとうございましたっ!

2010/2/25