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<東京怪談・PCゲームノベル>


Not Thanks to Heaven 2

蒼王・海浬(4345)は眼前のビルを見やると小さく溜息を吐いた。
どうやら、武彦や零、遙瑠歌よりも早くここにたどり着いたらしい。
「やっぱり、何度見ても普通のビル……か」
あの興信所の新しい居候が何に怯えていたのか、海浬には分からない。分かろうとは思わない。
ただ、あの時呟かれた問いかけには、答えられる。
「須く神は人を救うもの、か?違う。そんなわけないだろう。ただの気まぐれで起こした行動が、人にとってそう見えるだけさ。落ちた人を掬い上げる手を、神は持たない。伸ばさないのさ」

――それが、数十分前の海浬の独り言だ。

さて、それではどうするか。
実際問題、海浬から遅れること数十分で興信所のメンバーとも無事合流が出来た。
HPから浮かぶものも、疑問以外にはない。
「なら、入るしかないだろうな」
建物をサングラス越しに睨んで、草間・武彦は少々大げさに肩を竦めた。
醸し出す雰囲気は――嫌悪。
「兄さんがそんなんでどうするんですか。ほら、遙瑠歌さんだって一緒に来てるんです。しっかりして下さい」
義妹の草間・零が小さく叱咤しながら武彦の革靴を軽く踏み、仕草を止めさせる。
海浬と草間兄妹の視線を受けながら佇むプラチナブロンドの髪を持つ少女は、珍しく怯えた表情を浮かべていた。
『宗教団体・時の神』
その本部の前で、紅玉と湖水のオッドアイを揺らしながら、ふと遙瑠歌は視線を上へ。
少し離れた場所に立つ、海浬へと移した。
同じオッドアイでも、海浬の瞳はセレストブルーとコーンフラワーブルー。
大きく括れば『青』の為、何故か小さな少女より違和感を感じないものだ。
近寄りがたい雰囲気を纏いながらも、海浬の瞳は時として温かい。
決して、遙瑠歌の様な、正しく『人形』の様な無機質な代物ではない。
けれど、それがどうした事だろう。
今、海浬を見上げてくる少女は、どんなに綺麗に取り繕っても『怯え』ているのだ。

(だからといって、どうする事も出来ないけれど)

海浬がHP上から推理した事はこうだ。
「勧誘に必ず付いてくる『自由に異界へと行ける』という言葉。これは、ひっくり返せば『行き来できる、ではない』という事になるんじゃないか?」
「行きはよいよい、帰りは……ってヤツか。深読みしすぎって訳でもなさそうだしな」
建物の中へと入り込みながら、小さい声で呟いた武彦が一瞬だけ義妹と居候の少女へと向けられる。
「遙瑠歌さん。大丈夫ですよ。怨霊の類の気配はありませんから」
「いいえ。いいえ違います。違うのです。そうではない」
ついては来ているが、雰囲気が違う。
普段の凪いだ瞳で、全てを観察している様なあの不思議な少女からは想像がつかないほどに。
プラチナブロンドが震える様子を、金糸の『太陽』は黙って見つめていた。
少女の雰囲気から、次の推理が間違いではないと確信したからだ。
(遙瑠歌は、ここの神を知っている)
そして、その神は。
人の寿命を知る事の出来るこの少女ですら怯える様な、存在なのだと。

教団内に潜入してから、もう3階ほど上がっている。
「これより上、って事は最上階か?」
もとより建物はそれほど高くはなかった。
ざっと見5階建てといったところだ。
「静かなものだな、武彦」
「あぁ。普通、こういう所には妙な音楽やら経みたいなのが流れてんのが定石なんだが……」
海浬と会話を続けながら上へと続く階段に踏み込んだ武彦の足を止めたのは、零の声だった。
「大丈夫ですよ遙瑠歌さん」
常に怨霊関係に気を張っている零が、隣を歩く少女へと一生懸命声をかけている。
「……遙瑠歌、どうした」
潜入調査の為に、煙草を控えている武彦が、何処か気の虚ろな少女へと眉を顰めて問いかけた。
普段であれば、ここで直ぐにレスポンスのある少女なのだが。
今はただただ、恐怖を抱いているような表情を浮かべている。
「草間・武彦様……」
掠れた声で武彦の名を呼び、そのジャケットを掴んでそれ以上先へと進むのを止めさせようとしていた。
「駄目です。此処は……此処だけは、駄目です」
必死に紡がれる言葉を、やはり海浬は少し離れた箇所から客観的に見やる。
常に第三者でなければ見えないものがある。
そして、自身が第三者であると決めているからだ。
小さく、しかし確実に震えている少女に目を見開いて、武彦と零は足を止めた。
その姿も、海浬は客観的に観察し続けている。
「怨霊の類は感知しませんけど……」
「違う。違います」
「なら、何でそんな……」
声を震わせ、首を横に振る遙瑠歌を落ち着かせるように口を開こうとした武彦のそれを、遮ったのも少女だ。
「此処の『神』に会ってしまってはいけません」
「遙瑠歌。神様なんてのはあくまでも崇拝する対象だ。実際に会う、なんて事は」
「可能性があります。此処は……此処の『神』は、気紛れに……」
「遙瑠歌」
今度こそ少女の声を遮って、武彦はしゃがみこんで視線を少女と合わせる。
声を低くして、サングラス越しの視線を確実に合わせて、言い聞かせるように口を開いた。
「一度受けた依頼は絶対に完遂する。『草間興信所』はそういう所だ。分かってるだろ」
「ですが……」
尚も躊躇う遙瑠歌に、武彦は強い口調と視線で言い切る。
「それに。何があっても大丈夫だ。俺達は一人じゃない。俺も零も海浬も一緒にいる。おまえを守るくらい出来る」
「そうですよ。私、強いんです。遙瑠歌さんも、知ってるでしょう?」
態とにっこりと笑ってみせる零と、揺るがない視線のままの武彦を見やってから、遙瑠歌は徐に距離を近づけてきた海浬へと視線を移した。
そんな少女に、海浬はあえて言葉をかけない。
自分よりも草間兄妹の方が、居候の少女の扱いには慣れているだろうと判断したからだ。
ただ、少女の震えを少しでも和らげてやろうと、ぽん、と肩をひとつ叩くだけ。
「……畏まりました」
不安そうな瞳のままではあるが、少女は微かに頷き、捜査続行を認めるのだった。

先ほどの取り乱した遙瑠歌を観察していて、海浬はまたひとつ確信した。
少女の言う『此処の神』とやらは、本当に気紛れに『異界へと人を放り出す』存在なのだ、と。
そしてその不思議な力に惹かれた人間が、勝手にそれを『神』として崇め奉っているのだ、と。
口を大にして言う事ではなくとも。
同じく『神』の名を冠する蒼王・海浬は、小さく息を吐く。
世界には多くの『神』が存在するが、一体どのトリックスターがやらかしたのだろう、と考えながら。



<To be Next>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【4345 / 蒼王・海浬 / 男性 / 25歳 / マネージャー・来訪者】
【NPC4579 / 遙瑠歌 / 女性 / 10歳 / 創砂深歌者】
【NPCA001 / 草間・武彦 / 男性 /30歳 /草間興信所所長、探偵】
【NPCA016 / 草間・零 / 女性 /??歳 /草間興信所の探偵見習い】


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■         ライター通信          ■
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いつもお時間たっぷり頂いて申し訳ありません。
この度はPCゲームノベルへのご参加、誠に有難う御座いました。
設定を拝見していたら、遙瑠歌とは色違いではありますがオッドアイのご様子で、少しドキドキしてしまいました。
それでは、また機会がありましたらよろしくお願い致します。

風亜智疾