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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


人形殺し【前編】
●オープニング【0】
 アンティークショップ・レンの扉が開き、2人組の男たちが店の中へと入ってきた。若い男と中年男という組み合わせだ。それを見たアリアが対応をしようとしたのだが――。
「いらっしゃいま……」
「警察の者です。店主の碧摩蓮さんは居られますか」
 男たちはアリアに警察手帳を出して見せると、店主である碧摩蓮の所在を尋ねた。どうやら客ではなく刑事であったようだ。3月某日、その日中のことだった。
「あたしに何か用かい?」
 声が聞こえたのだろう、店の奥から蓮が姿を現した。すると中年男がすぐに蓮に質問を投げかけた。
「碧摩蓮さんですね。失礼ですが、鎌倉裕美さん……ご存知ですよね?」
「ああ、知ってるともさ。人形愛好家の、だろう?」
 そう答え、何故か苦笑いを浮かべる蓮。
「その鎌倉さんが昨晩何者かによって殺されましてね」
 若い男が蓮をじろっと見ながら話しかける。けれども蓮はそれを聞いても、別段驚くような素振りも見せなかった。
「……へえ」
 ただ、このようにつぶやいただけで。
「あなた……昨晩、鎌倉さん宅をお訪ねになられてますよね?」
 中年男が今度はそう質問してきた。頷く蓮。
「ああ、訪ねたねえ……」
「あんたそれで、人形を売ってくれって言ったんですよね? でも被害者はそれを断ったので揉めた……。いや、返事はいいです。ちゃーんと証人も居ますから」
 若い男がニヤッと笑って言うと、蓮もまたニヤッと返す。
「……それが分ってて、どうしてわざわざ聞くんだい?」
 蓮のその言葉は、意識してかどうか分からないが、軽く刑事たちを挑発しているようにも聞こえなくもなかった。いや、若い男の刑事には確かにそのように聞こえたのだろう。
「なら言ってやろうか。疑われてんだよ、あんたは!」
 蓮に向け、そう言い放ったのだから。
「まあまあ、落ち着きなさい。碧摩さん……凶器には指紋がついていましてね。どちらにせよ、1度あなたの指紋を調べさせてもらわなければならないのですよ。あなたがどのような立場に置かれているか、お分かりになるでしょう?」
 中年男は若い男を宥めてから、蓮へと話した。
「なるほど。つまり、署に同行すればいいんだろう?」
「……そういうことになりますかね」
 蓮の言葉に中年男の刑事が頷いた。
「じゃあ、アリア。帰ってくるまで店番頼んだよ」
 蓮はそう言い残し、男たちに同行した。そして――そのまま署に勾留されてしまったのだった。凶器となった果物ナイフに残っていた指紋と、蓮のそれが一致したがために。
 この突然の事態に、蓮の無実を信じるアリアは何人かの常連客に連絡をして助けを求めた。果たして何が起きているというのか……?

●助けを求められて【1】
 扉に『準備中』と札のかけられたアンティークショップ・レンの店内には、アリアの他に3人の姿があった。いずれもアリアから連絡を受けてやってきた者たちだ。
「目に見えてる所だけを持ち出してぎゃーすかぎゃーすか……」
 やれやれといった様子で小さな溜息を吐いた銀髪の若き女性は、空いていた椅子の背にその豊満な肉体をもたれかけさせながら言葉を続けた。
「いつになっても変わらないわね、治安連中ってのは」
 銀髪の若き女性――エミリア・ジェンドリンは唇の端を歪ませる笑みを浮かべた。20歳前後に見えるが、若い割に数多くの修羅場でもくぐってきているのであろうかと思わせるほど、そのつぶやきには重みを感じられた。
「……大丈夫なんでしょうか」
「落ち着いて、アリアちゃん」
 表情こそ変えていないものの、くるくると店内を歩き回っていたアリアに向かって、シャルロット・パトリエールが優しく声をかけた。
「ですが……」
「大丈夫。蓮は大丈夫。いいえ、そう……させるわ」
 立ち止まったアリアに対し、重ねて言うシャルロット。
「少なくとも、今この場に居るのは、蓮は犯人ではないと思っている……私も含めてね。確かに……職業柄、そういう物には目はないでしょうけど、殺人を犯すほど愚かではないはずだわ」
 そう、シャルロットが言うように、人を殺してまで欲しい品物を得るほど碧摩蓮は愚かではない。むしろ蓮ならば、もっとスマートにやることだろう。例えば他の品との交換を申し出たり、あるいは別方面から攻めていったりなど……。
「ところで、これで全員……か?」
 ゆっくりと一同の姿を見回してから、 夜神潤はアリアに尋ねた。確か自身が連絡を受けた時、アリアは結構あちらこちらに連絡をしたような口振りであったが……?
「いえ。すぐに来てくださるというがもう1人――」
 とアリアが潤の質問に答えようとした瞬間であった。玄関の扉が開き、矢絣に袴姿という黒髪の少女らしき者が入ってきたのは。
 皆の視線が一斉にそちらへ向かう。それはそうだろう、その格好だけでも目を引くというのに、左手には大きな鞄を提げ、右手には腹話術に使われるものと思しき人形をはめていたのだから。
 その人形も、普通と言うにはちょっと変わっていた。髪型は白髪モヒカン、目にはゴーグルをつけ、上半身にプロテクター、そしてレザーパンツ姿という赤鬼だったのだから。
「こんにちは。アリアさん」
 黒髪の少女――に見えるが、本来の性別は男で―辻宮みさおは、穏やかにアリアに挨拶をした。と、右手の人形が口をぱくぱくと動かし喋る。
「よう、嬢ちゃん」
 先程の本人のそれとは似ても似つかぬ声が発せられた。なるほど、みさおの腹話術師としての腕前はなかなかのもののようだ。
「やけにしょぼくれた顔してやがんなぁ。そんな顔してっと、客も逃げるぜ? 店番任されてんだろ、嬢ちゃん」
 白髪モヒカンの人形(天乃・ジャックという名があるそうだ)が、アリアに向かって口をぱくぱく動かしそう話しかける。口調こそ乱暴だが、アリアを励まそうとしている気持ちは何となく伝わってくる。
「……元気を出してくださいね、アリアさん」
 みさおはアリアに静かに言うと、にこっと微笑んだ。
「皆さん……ありがとうございます」
 アリアは大きく1度頷くと、一同に対して頭を下げた。その顔からは、迷いが消え失せたように感じられた。

●今、分かっていること【2】
 今日来られる者全員が揃った所で、いよいよ本題に入ることになる。何しろこの事件、分からないことがまだ多過ぎるのだ。
「少しでも情報が欲しいわね」
 というエミリアのつぶやきももっともなことであった。
「蓮から当日の状況、話を聞こうにも、本人は勾留されてるし……本当のことを答えるかはさておいて」
 腕を組み思案顔になるエミリア。蓮本人がこの場に居れば詳しい事情を今すぐ聞くことが出来るのだろうが、身柄はすでに署の方にあるのでそれも出来やしない。
「……勾留されてしまったということは、参考人の段階はとっくに過ぎてしまったのかもしれないわね」
 そうつぶやくシャルロットの表情は固い。これは逮捕状が降りたと考えておいた方がよいかもしれない。
「あの。いくつか気になることがあるんですけれど……」
 みさおがアリアに何やら尋ねようとした。
「はい、何でしょうか」
「蓮さんはその日、どこで何をされていたのでしょうか?」
「俗に言うアリバイってやつだな!」
 みさおが言った後に、ジャックが口を動かし付け加える。しかし、それに答えるアリアの口調は……重い。
「実はその……一昨日は夕方から出かけてくると言い残して……戻ってきたのは昨日の明け方でした」
「つまり、ここには居なかったのね?」
「……はい……」
 シャルロットの言葉にアリアはこくっ……と頷いた。
「……その間、どこで何をしていたかは?」
 それまで黙っていた潤がアリアへ尋ねた。
「いえ。こちらからは尋ねませんでしたし、蓮さんも何も仰らず……」
「けれど、被害者である鎌倉裕美の家を訪れたことだけは確か。……治安連中にとっちゃ、疑うに足る要素って訳ね」
 さらりとエミリアは言ったが、その言い回しは何やら含みがあるようにも思えなくもなかった。まあ勾留しているからには、被害者の殺害推定時刻の頃の蓮のアリバイがあやふやであるのだろう。
「あ……それです」
 エミリアの言葉にみさおが反応した。それ、とはどういう意味なのか。
「証人とはどなたなのでしょう?」
 刑事たちがやって来た時、蓮と被害者が揉めたのを知っている証人があると言っていた。それはいったい何者なのだろうか?
「どなたかは言ってませんでした」
 アリアがきっぱりと答える。
「普通に考えれば、関係者の可能性が高いですよね。家族、親類、もしくは使用人……」
「中年の家政婦が物陰からこっそり見てるんだな、きっと」
 みさおの言葉にジャックが茶々を入れた。
「それも調べる必要があるな」
 ぼそりと潤がつぶやく。となれば、被害者宅を訪れる必要があるだろう。
「そして、その揉め事の原因になった人形ですが……」
 これがみさおの3つ目の質問であった。
「蓮さんは、どのような人形に対して売ってほしいと仰ったのでしょう?」
「いえ、それも何も……」
 とアリアは答えてから、はっと何かを思い出したような仕草を見せた。
「あ……ひょっとすると」
「心当たりがあるんですか?」
 みさおが確認すると、アリアは小さく頷いた。
「10日ほど前だったと思うんですけれど……」
 アリアはそのように前置きしてから話し出した。蓮が他所でアンティーク・ドールを見付けたが、それはすでに売約済みであったというのだ。
「それで、購入者と直接交渉しようか……って話していて」
「その購入者が鎌倉裕美だった……とすれば繋がるわね」
 アリアの説明を聞いて、納得したようにエミリアが言った。人形を発見後、購入者を聞き出し、直接交渉に行く。なるほど、一連の流れとしては自然である。
「アンティーク・ドールですか」
「ビスク・ドールとも言うわね。けれど蓮がアンティーク・ドールと呼んだのであれば、きっと1930年以前の物でしょうけど」
 みさおのつぶやきに対し、シャルロットがそう説明をした。ビスク・ドールとは、19世紀ヨーロッパのブルジョア階級である貴婦人や令嬢たちの間で流行した人形のことだ。初期のそれはボディの可動性はほとんどなくまさに観賞用であったが、やがて可動性の高いコンポジションボディのドールが作られ、玩具として量産されるようになってきた訳だ。
「実際、どういったアンティーク・ドールなのかしら……」
 思案顔を見せるシャルロット。果たして実物はどのような物なのであろうか。それを巡って殺人事件までが起きるような人形なのか……?
「……後は指紋、だな」
 不意に潤が口を開いた。店に来た刑事たち曰く、凶器である果物ナイフには指紋がついていたという。そしてその指紋は蓮の物と一致を見せた。凶器に指紋、警察にしてみれば何よりの証拠である。普通に考えれば、犯行時についたと考えられるのだから。
 だがしかし、もし犯行時以前についた物であったなら……? 話は少し変わってくることだろう。
 ともかく、動いて情報を集めなければならない。今以上の情報がなければ、きっと真実も見えてはこないだろうから――。

●弁護士を交えて【3A】
 その日の夕方、シャルロットとみさおは蓮が勾留されている警察署近くの喫茶店に居た。その時、スーツ姿の男が喫茶店に入ってくると、シャルロットの姿を見付け急ぎやってきた。
「お待たせして申し訳ありませんでした」
 席に着くや否や、そう言って男はシャルロットに頭を下げた。
「いくつも質問があったのだもの、時間がかかるのはしょうがないわ」
 と言ってシャルロットはさらりと流す。男はシャルロットが蓮のために依頼した弁護士であった。腕も確かである。
 本当なら自分が面会出来ればよかったのだが残念ながらそれは許可されず、弁護士のみが面会出来ることとなったのだった。
「まず最初に申し上げておきますが……逮捕状が執行されています。警察は、凶器についた指紋と、アリバイの不明、そして殺害の動機があるということで、碧摩さんが否認を続けていても送検出来ると踏んだようです」
「蓮は一貫して否認しているのね?」
「はあ……」
 シャルロットが尋ねると、弁護士の男からは何だか力のない言葉が返ってきた。
「否認はしているそうなのですが、かといって全てを話しているかと言われると、どうもそうではないようでして」
「……どういうことなの?」
「まずアリバイについてですが、当日被害者宅を訪れたことと、その目的、そして口論になったことなどはご本人も認めておる所なのですが、その後の行動については何度尋ねてもはぐらかされてしまいまして……」
「隠さねぇとあれな相手と会ってたのかねぇ?」
 ジャックが不意に口を開くと、弁護士の男が一瞬びくっとした。みさおが慌ててジャックの口を手で塞ぐと、申し訳なさそうに小さく頭を下げた。
「……いえまあ、その可能性も十分に考えられますが。だとすれば、相手に迷惑がかかると思って黙っておられるのかもしれませんね」
 弁護士の男は気を取り直して話を続けた。
「そして凶器なのですが、碧摩さんは手にしたことを認めております」
「手にしたって……」
「あ、いえいえ。床に落ちていたのを拾われたそうです」
 身を乗り出しかけたシャルロットに慌てて説明する弁護士の男。
「凶器として使用された果物ナイフですが、これは被害者本人が果物の皮を剥く際に日常的に使用していた物だと、被害者宅に通いで働いていた家政婦の方によって確認が取れております。検出された指紋も、家政婦の方と被害者、そして碧摩さんの3つだけだそうです」
 なるほど、刑事が言っていたという証人もその家政婦なのであろう。
「……被害者の家を訪れた経緯は話してくれた?」
「あ、ええ。10日ほど前に知人の店でアンティーク・ドールを見付けたので譲ってもらおうとした所、すでに売約済みであり、そこで知人を通じて被害者との面会の約束を取り付けて訪れたのだそうです」
 アリアの話と繋がる説明であった。
「あの、口論になった理由は……」
「それですか。どうやら碧摩さんは少し認識が違っているようです」
 みさおの質問に、弁護士の男は小さな溜息を吐いてから答えた。
「客観的に見れば揉めたのだろうけれど、自分としては単に断られたという認識だったそうです。売ってもらいたいと持ちかけた所、頑に断られたそうですから」
「ところで、被害者の鎌倉裕美という人はどんな人だったのかしら?」
 シャルロットが弁護士の男に尋ねた。
「あ、はい。鎌倉裕美さん、48歳。独身で親類もおりません。資産家であるらしく、その収益で十分に生計が成り立っていたようですね。そして一番の趣味が人形の収集だったそうです」
「人形……アンティーク・ドールかしら?」
「いえ、種類は問わず、気に入った物を買い漁っていたそうですが……」
 気に入った物を買い漁っていたというのなら、蓮の申し出を頑に断ったのも分からなくもない。自分が1度手に入れた物は、よっぽどのことがなければ手放したくはないのだろう。
「あ、それとですね。碧摩さんが差し入れに感謝していました」
 弁護士の男がそれを伝えると、シャルロットは少しほっとしたような嬉しそうな感じの笑みを浮かべた。自ら弁当を作って、差し入れとして男に託していたのである。
「蓮さんは、そのアンティーク・ドールには触れたんでしょうか?」
「いえ? 指紋は検出されていないそうですし、ご本人も触ってはいないと。何でも話の最中も人形に触れないよう、被害者が目を光らせていたそうですから」
 みさおの質問に即座に答える弁護士の男。
「そうですか……」
 みさおはぼそりとつぶやくと、ふうと小さな溜息を吐いた。
「予想が外れたって顔してやがんなぁ。ま、元気出せって、な?」
 そんなみさおに対し、ジャックがぽむと右肩を叩いてみせたのだった……。

●そして現場へ【4A】
 そして夜になり、アリアを含めた一同は被害者である鎌倉裕美の家の前に居た。いや、それは家と言うよりは館と呼んだ方がしっくりくる造りだった。
 何故に5人がここに居るかと問われれば、無論現場を見せてもらうためである。鎌倉に親類縁者が居ないため、現在家の鍵は通いの家政婦が預かっている状態であった。
「でもよく見せてもらえることになりましたね……?」
 アリアが素朴な疑問を口にすると、潤がそれに答えた。
「一応警察の捜査は終わっているらしい。ただ、見せてもらえるのは事件の部屋のみ、中の物には一切触れるな……ということだそうだ」
 通いの家政婦から許可を得たのは潤だった。聞き込みに行った際に交渉したのである。そして一同は今、家政婦が鍵を持ってやってくるのを待っている、という訳だ。
「そういえば……」
 みさおが思い出したように口を開いた。
「その家政婦さんからは、何か聞くことが出来たんですか?」
「ん? ああ、揉めた時の状況を……ね」
 それに答えたのはエミリアである。潤が聞き込みに行った時、エミリアもまたその場に居たのだ。
「と言ってもその場に居たんじゃなく、廊下まで被害者の怒ってる声が聞こえてきたんだってさ。『私を脅すつもり? 何が起きるか分からないとか何とか言って!』ってね……」
「そんなことを言ってたの?」
 シャルロットが眉をひそめる。いや、蓮がそれを言ったかどうかに対してではない。その言葉が出ているという事実に対してだ。警察にしてみれば、そんな証言を得たらどうしても蓮が鎌倉を脅したという風に考えてしまう訳で……。
「よぉ。確か開いてたのは、玄関の鍵だけって言ってたよなぁ?」
 ジャックがぱくぱく口を動かしてみさおに確認する。
「うん。弁護士さんもそう言ってて……」
「被害者には寝る前に庭を歩く習慣があったそうよ」
 みさおが頷くと、シャルロットが皆にそう説明した。
「でも鍵がかかってないということは、庭を歩く前に殺された……?」
 アリアのそのつぶやきを誰も否定しなかった。なので、考えられる当日の夜の流れはこうなるだろう。蓮が帰った後しばらくして、通いの家政婦も帰っていった……いつものように玄関の鍵だけを開けておいて。そして鎌倉がいつものごとく庭を歩く前に何者かがやってきて殺害した……と。
 あれこれと話をしているうちに家政婦がやってきて、一同はようやく家の中へと入れることとなった。案内され、まっすぐに事件のあった部屋へと向かった。
「こちらです。くれぐれも、何も触れないようお願いいたします」
 家政婦はそう言って部屋の扉の前からどいた。一同は順番に部屋の中へと入っていったのだが……。
「……何だい、これは?」
 部屋に入るなり、エミリアが呆れたように言い放った。それというのも、部屋の中には様々な人形が所狭しと飾られていたからである。
「よくもまあ……こうも考えなしに人形を飾ることが出来たものですわ……」
 シャルロットもまた呆れていた。市松人形の隣にビスク・ドールが居るかと思えば、その隣にはまた日本人形やら何やらと並んでいる。ただ思い付くままに並べたとしか思えなかったのだ。
「おいおい見ろよこれ! 埃も十分に払えてねぇのかよっ! 俺様にこんなことやったらただじゃおかねぇぞ?」
 ジャックが両手をばたばたさせて騒ぎ出す。確かによく見てみると、人形の後ろの方など、パッと見て気付かない所の埃はろくに払えてもいない。
「あの。人形はここにあるのが全部でしょうか?」
 外で待機していた家政婦にみさおが尋ねた。
「いえ。他の部屋にもぎっしりと……。こちらには、お気に入りの物だけを並べておられたようです。あと、人形には触るなと言われておりましたから……」
 最後の言葉は埃が払えていないことに対する言い訳なのだろう。自分のせいではないという主張で。
「……人形が好きと言うより、集めることが好きと言うべきだな……」
 デジカメで現場の動画や静止画を記録していた潤のつぶやきに、他の者たちも同意であった。本当に人形が好きなのであれば、もう少しましな扱いをしていてもいいはずなのだが……。
「それもなんですが……」
 アリアがゆっくりと皆の顔を見回した。
「気付きませんか? この部屋……」
 そして改めて部屋全体をぐるり見回すアリア。他の者たちも、アリアが何を言いたいのかは部屋に足を踏み入れた時には気付いていた。
 おかしいのである……この部屋を取り巻く空気が。いや空気と言うよりも、霊気や魔力などと言い換えた方が一同にとってはよりよい表現かもしれない。極端に――ないのだ、それらが。
 部屋にある人形やその他の物から霊気や魔力といったものは一切感じられない。これはまあ、ごく普通の品であるのなら当たり前のことだ。だがしかし、部屋全体の霊気や魔力といったものがゼロに近い状態まで枯渇しているというのは、明らかに奇妙なのである。まるで極めて最近に、そうなるような出来事があったかのようで……。
「……いったい何があったんですか、ここで……?」
 不安げなアリアのこのつぶやきに答える者は、今はまだ居なかった――。

【人形殺し【前編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 7038 / 夜神・潤(やがみ・じゅん)
                / 男 / 青年? / 禁忌の存在 】
【 7947 / シャルロット・パトリエール(しゃるろっと・ぱとりえーる)
           / 女 / 23 / 魔術師/グラビアモデル 】
【 8001 / エミリア・ジェンドリン(エミリア・ジェンドリン)
               / 女 / 19 / アウトサイダー 】
【 8101 / 辻宮・みさお(つじみや・みさお)
               / 男 / 17 / 魔導系腹話術師 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全7場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせいたしました、人形を収集していた女性の殺人事件に関わるお話の前編をお届けいたします。後編は皆さんが被害者宅を訪れた翌日からのスタートになりますのでご注意を。
・さてさて、色々と情報は出てきましたが、蓮に有利となる情報はまだないと言っていいでしょう。蓮自身も何やらおかしな行動を取っている気配もありますが……。
・一応今回までの情報で、真実だと思われることを導き出すのは可能になっているとは思います。それと蓮の無実をどう繋げるかがちょっと手間取るかもしれませんけれども。
・なお、今回のお話のタイトルの意味については、後編にてお話ししようと思います。
・シャルロット・パトリエールさん、6度目のご参加ありがとうございます。弁護士を立てたのは非常によかったと思います。そして色々と情報が出てきている訳ですが……蓮には何だか余裕があるように感じられますよねえ?
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。