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<東京怪談・PCゲームノベル>


 クロノラビッツ - 仮契約 -

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「ちょっと、いいですか?」

 散歩中、声を掛けられた。
 この丁寧な口調と柔らかな声には、聞き覚えがある。
 振り返るとそこには、やっぱり浩太。 …… だけじゃなく、海斗と藤二もいた。
 あれれ …… ? 何だかちょっと珍しい組み合わせだなぁ …… 。
 なんて思いながら、ペコリと頭を下げて用件を聞いてみる。
 まぁ、わざわざ、彼等から接触してきたということは、
 それなりの用件なのだろうとは思ったけれど。

「え …… ?」

 さすがに、目を丸くしてしまう。
 彼等の用件。それが、あまりにも突飛なものだったから。
 戦えと言うのだ。これから、時狭間のとある場所へ案内するから、
 そこで、海斗と戦ってくれないかと言うのだ。
 何で? どうして? 何の為に?
 当然の疑問。もちろん、それらをすぐにぶつけた。
 でも、彼等は答えてくれない。その疑問を解消してくれない。

「いーから、とっととやろーぜ」

 ダルそうに欠伸しながら言った海斗。
 やるだなんて、一言も言ってない。っていうか面倒なら、やらなきゃいいのに。
 …… うん? 面倒くさそう …… ってことは、もしかして、海斗も、巻き添え食らった?
 さほど長い付き合いってわけでもないけれど、好きな物事にしか興味を示さない、
 海斗のそういう性格は、もう嫌になるくらい把握している。間違いない。
 ということは、この用件は、つまり …… 。

「ごめんね、急に」
「じゃあ、移動しましょうか」

 ニコリと微笑んで言った藤二と、懐から黒い鍵を取り出しながら言った浩太。
 つまり、この用件は、この二人 …… 浩太と藤二の用件ということか。
 いや、っていうか、ちょっと。だから、やるだなんて一言も …… 。

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 ・
 ・
 ・

 半ば、強引に連れて行かれる慧魅璃。
 ちょっと待ってとか、用事があるんですとか、何度も言っているのに、聞いてくれない。
 ここの人たちって、みんな、こういう性格なんだろうか …… なんてことを考えつつ、慧魅璃は溜息を吐き落とした。
 連れてこられたのは、時狭間の一角にある広場。なんにもない。ただっぴろいスペース。
 まぁ、戦うんなら、こういうところのほうが戦りやすいとは思うけども。
 着いて早々、二人並んで腰を下ろす藤二と浩太。
 海斗は、フーセンガムを、ぷぷ〜っと膨らませながら指先に炎を灯している。
 なるほど。藤二と浩太は、あくまでも観察なのか。実際に戦うのは、海斗一人ってことね。ふむふむ。
 少し離れた場所から、いつでもどうぞと浩太が促した。
 海斗は既に準備万端だ。だが、慧魅璃は、まだ準備が整っていない。
 とりあえず、先に連絡しなくては。強引に引っ張ってこられたもんだから、そんな余裕なかったし。

「ちょっと、待ってください」

 ペコリとお辞儀し、慧魅璃は、クルクルと指先で空中に円を描いた。
 すると、どこからともなく、ポンッと、アンティーク調の可愛らしい電話が出現する。
 慧魅璃は、すぐさま受話器を耳にあてがい、カチャリ、カチャリとダイヤルを回した。
 異界で暮らしている慧魅璃のお友達。人外でありながら、人間よりも人間らしい、そういう子。
 その子のおうちへ遊びに行く途中で海斗達に捕まった慧魅璃には、連絡を入れる義務があった。
 ごめんね、ちょっと遅くなりそうなの。ううん、大丈夫、ちゃんと行くから。約束だもん。
 終わったらすぐに向かうから、ちょっとだけ待っててくれるかな?
 そうして、お友達に連絡を入れる慧魅璃は、申し訳なさそうでありつつも、どこか嬉しそうに見えた。
 最初のもしもし、から、およそ三分後。お友達から了承を得た慧魅璃。オッケイ。これで、大丈夫。準備は整った。

「すみません、お待たせしました。それじゃあ、始めましょうか」

 お友達を待たせてしまっている罪悪感もあり、慧魅璃は、早々に、この一件を済ませようと考える。
 何らかの理由があって、こんなことを頼んできたのだろうから、その理由を訊く時間も考慮しなければならない。
 更に、お友達が、せっかちな性格であることも考慮すると …… せいぜい、あと三十分かそこら。
 うん、と頷く慧魅璃。すると、その頷きに応じるかのように、腕輪から、ボンッと銀色のフォークが出てきた。
 バケツで作ったプリンですら軽々と全部すくえてしまうほど大きなこの銀のフォークは、ベブ。
 慧魅璃がそう呼んでいるだけであって、正式な名称ではないと思うが、お気に入りの武器のひとつだ。

「げ。呪具だな、それ」

 ポツリと呟いた海斗。
 呪具という言葉、その響きに聞き覚えのない慧魅璃は、きょとんと首を傾げた。
 確かに、慧魅璃自身は気付いていないようだが、ベブは立派な呪具だ。
 呪具とは、その名称どおり、あらゆる災いを招き入れる代物。
 まぁ、これまで何の問題もなく扱ってきた慧魅璃にとっては、あまり関係ない事柄だとは思うが。
 でも一応、呪具であるということだけは、把握しておいたほうが良いだろう。お気に入りの武器なら、なおさらのこと。
 知らないまま使い続けると、心を喰らわれてしまうとか、そういう厄介な呪具というのも存在しているから。

 さて。
 いよいよ、戦闘が開始されるわけだが。
 呪具を出されたからには、それなりの対応をせねばならない。
 というわけで。海斗は、パチッと指を弾き、自身の身体を丸ごと紅蓮の炎で覆った。
 海斗が呪具を異様なまでに警戒する理由は、過去にある。過去に一度、海斗は、呪具の厄介さを痛感しているのだ。
 なんにも考えずに突っ走るタイプの海斗が冷静に対処したことから、よほど大変な目に遭ったのであろうことが推測できる。
 海斗を包み、ゴウゴウと燃え盛る炎に対し、熱くないのかなぁ …… なんて、のん気なことを考えている慧魅璃。
 だが、なにも、ただのん気に構えているだけじゃなし。慧魅璃は、ちょっぴり顔をしかめた。
 炎、苦手なんだよね …… なんてことを考えながら。

 *

 海斗の攻撃は、主に、剣によるそれ。
 ただし、普通の剣ではなく、炎で構成された魔法の剣だが。
 剣さばきに関しては、まぁまぁ。可もなく不可もなく。おそらく、独学で学んだのだろう。
 だが、持ち前の身体能力(体さばき)がうまいこと作用しているため、剣技自体は荒削りでも、ちと厄介。
 一方、慧魅璃は、銀のフォーク(ベブ)を用いた攻撃に、蹴りを主体とした武術を絡めている。
 互いが互いの力を探り合うかのように進められていく攻防。
 一方が攻撃したら、一方はそれを受け止める。
 決して、回避はしない。あくまでも、攻防のスタイルを貫く。
 そうして二人が遣り取りする光景を、離れた場所から見物する藤二と浩太は、とても満足気な表情を浮かべていた。
 よくわからないが、浩太は、遣り取りを書き留めて書類を作成し、藤二は、その隣で何やらガチャガチャと工具らしきものを弄っている。
 攻防の最中、慧魅璃は、チラチラと藤二と浩太のほうを見やった。何をやってるんだろう、なんて考えながら。
 まぁ、いきなりやってきて、戦ってくれだなんて申し出をしてきたこと自体がおかしなことなのだが。
 おそらく、あの二人は、情報を採取しているのだろう。慧魅璃の攻撃、そのスタイルや癖などを細かく。
 だが、何のためにその情報を採取しているのか、肝心なところはわからないままだ。
 意味不明な擬似バトルが開始して、およそ十五分が経過。
 この遣り取りの意味を尋ねる時間を考えると、もうそろそろタイムオーバー。
 慧魅璃は、ピタリと動きを止めた。
 急に動きを止めた慧魅璃に対して、当然、海斗は首を傾げる。
 だが、すぐに気付いた。慧魅璃の隙のない構えから、終わらせようとしているであろう、その意思に気付いた。
 でも、海斗は、それに気付いたからといって、じっとしているような男じゃない。むしろ、逆だ。
 トドメをさすつもりか。いーよ。できるもんなら、やってみやがれ!
 そういった挑発まがいな言動を表に出しながら、慧魅璃に斬りかかっていく。
 何かするつもりだ、と警戒していたのは確かだ。慢心なんて、ほとんどなかった。
 ムキになって斬りかかったわけでもない。しっかりと狙いを定めたうえで、海斗は攻撃した。
 敗因を挙げるとするなれば、ほんの僅かな、一瞬のうちに生じた、隙。
 それまでの攻防で、慧魅璃が得た情報。
 海斗は、攻撃するとき、ほんの一瞬だけだが、左のガードが崩れる。

「 …… あぁ〜〜〜」

 ビタリと、左わき腹にあてがわれた銀のフォーク。
 ギラリと光るその先端に、海斗は、べっと舌を出して苦笑した。
 串刺しにするとか、そういう …… "刺す" という攻撃は、絶対にしない。
 慧魅璃は、常日頃から、いかに傷つけぬまま、相手の戦闘意欲だけを奪うかということを念頭において戦っている。
 何でもかんでも暴力で解決するだなんて、野蛮者のする愚かな行為。命を絶つ必要なんて、どこにもない。
 一己の生命であることに変わりはないのだから。例え、牙を剥く相手が極悪人だったとしても。
 それに、今回の相手は海斗という存在だ。敵じゃない。むしろ、仲良くやっていかねばならない仲間。
 故に、慧魅璃のトドメは、いつにもまして柔らかく優しい一撃に落ち着いた。

「いただきます」

 相手の体にベブが触れている状態で、そう告げることにより、ベブが、相手の魔力を吸い取る。
 いや、吸い取るというよりか、それは "食べる" と表現するのが適切か。
 その身に宿していた魔力を食べられてしまった海斗は、ズシャッとその場に尻もちをついた。
 魔法を扱う者にとって、魔力は全ての源だ。それが枯渇してしまったとあれば、立っていることすらままならなくなる。
 それまでの緊張感が一気に脱力に変わり、海斗は悔しそうな顔で嘆いた。

「も〜〜〜。俺、やっぱ、呪具、キライだ〜!」

 *

 時と場合に応じて、食べた魔力をそのまま元に戻さないこともあるけれど、今回は、そういうわけにもいかない。
 用が済んだなら、ちゃんと元に戻してあげる。じゃないと、海斗は、ずっと魔法を使えない、まさに "使えない子" になってしまうから。
 食べた魔力を元に戻すには、両手をあわせて、こう言うだけでいい。

「ごちそうさまでした」

 慧魅璃が、パンと両手を合わせてそう言ったことで、海斗に全ての魔力が戻る。
 元に戻って早々、海斗は、よっこらせっと立ち上がって、慧魅璃が持つベブに興味を示した。
 相手の魔力を食べる。ちょっと変わったその性質は、まさに、呪具のそれだ。
 呪具は、できた瞬間から呪具であるわけではない。
 誰かが、その道具に呪いをかけることで、そこで初めて、呪具という名称がつく。
 つまり、慧魅璃が持っているこのベブも、誰かが呪いをかけたということ。
 相手の魔力を食べてしまう、そういう呪いをかけたということ。
 でも、慧魅璃自身は、これが呪具であるということを知らなかった。
 ということは? 誰か別の人物が、呪いをかけたのか? だとすれば、いったい誰が?
 いやいや、待てよ。もしかすると、その自覚がなかっただけで、無意識のうちに慧魅璃自身が呪いをかけていたということも …… 。
 そんなことを考え、一人で、う〜んう〜んと唸り首を傾げている海斗。

「魔力を食うって、おっそろしー武器だなー」
「そうですか? えみりさんは、怖いと思ったことはないですけど」
「いやいや、俺らみたいなタイプには、きょーれつなんだって。ところで、魔法っつかさ、魔力にも味とかあんの?」
「ありますよ。炎はちょびっとだけ辛いです。ピリッとします。えみりさんは、あまり好きじゃないです」
「へぇ〜。あ、なに、そういう味って、お前に直接渡る感じなの?」
「はい」
「ふーん …… 。 なぁ、慧魅璃。お前さ、この武器どこで手に入れた?」

 海斗が、そう尋ねたときだった。
 慧魅璃がその質問に答える前に、藤二と浩太が割って入る。

「お疲れ様でした」
「わざわざ、ありがとね、慧魅璃ちゃん」

 そう言って微笑み、藤二と浩太は、慧魅璃に一枚の書類を差し出した。
 思わず受け取ってしまったが。何だろう。何て書いてあるのか、さっぱりわからない。変な文字だ。
 かろうじて読めるのは、書類の一番下に赤いペンで殴り書かれた英数字だけ。Mst.col 2878598 と書かれている。
 慧魅璃は、すぐさま、尋ねた。これは、何なんですか? 何を示す数値なんですか? と。 
 浩太は、その数字こそが、今回、海斗との疑似バトルを御願いした何よりの理由だと言った。
 何でも、この数字は、ここ、時狭間に充満している "クロノミスト" という成分に、慧魅璃の能力を乗算したものらしく、
 全ての数値が、規定値を大幅に上回っているのだそうだ。だから何? それがどうした? って話になるが、
 浩太たちは、そもそも、自らの意思で、慧魅璃に今回の疑似バトルを御願いしたわけではない。
 疑似バトル、もっと言えば、この数値の調査を浩太たちに頼んだ、実際の依頼主は、時の神。マスターである。
 また、マスターは、数値が規定値を超えていた場合、大事な話をしたいから、
 慧魅璃を、すぐに自分のところへ連れてきてくれとも言っていた。

「大事な話って、何でしょう?」
「仮契約の話ですね」

 根本的なところから話すと、
 時狭間は、あらゆる世界・そこに流れる時間が交錯している場所だ。
 時の神や時の契約者以外の存在、つまり "ヒト" は、この空間で平常を保つことが難しい。
 異なる世界に、同時に存在しているような状態になるわけだから、頭がおかしくなってしまうのだ。
 遠い国へ旅行に行った際、出発国との時差で頭や身体が思うように働かなくなる、あの状態のようなもの。
 それが、時狭間にいる間、ずっと持続するわけだから、ヒトがこの空間に留まるのは、色んな意味で危険。
 だが、慧魅璃は常に平常。いつ来ても、どれだけ滞在しても、身体の不調を訴えたことは一度もない。
 もしかすると、ヒトでありながら、時狭間で暮らす存在同様に "リデル" が体内に備わっているのかもしれない。
 あぁ、リデルというのは、時の神、および時の契約者が体内に備えている臓器のひとつ。
 場所的には …… ヒトでいうなら、心臓がある辺りに、心臓の代わりとして、その臓器がある。
 だが、このリデルという臓器は、心臓としての働きよりも、
 時間の交錯に接触しても平然としていられる "抵抗力" を司っている役割のほうが大きい。
 当然、異なる世界・空間に流れる時間に一度に触れることなんてない "人間" には、この臓器は存在しない。
 先程、浩太が見せた書類に書かれていた数値が "規定値を上回る" ことは、
 時間に対する抵抗力が高いということを意味する。つまり、リデルが体内に備わっている証にもなる。
 ヒトの体内にリデルが備わっているだなんて、聞いたことがない。
 でも、もしも、もしも、万が一。
 慧魅璃の体内に、その可能性があるとするならば、
 前例はなくとも、頼んでみる価値はあるのではないか …… と、マスターは考えた。
 時間に対する抵抗力が高いという事実は、あらゆる世界・空間に赴くことができるという結論にも繋がる。
 つまり、時狭間を経由して、あらゆる場所でヒトの記憶を蝕む時兎を退治することが可能だということ。
 リデルを体内に備えていない者では、別世界へ赴くまでの移動中、
 その時圧(時間の圧力)に耐えきれず、途中で絶命してしまうから。

 要するに、
 ヒトでありながら、時の契約者と同じ契約をマスターと締結し、
 時兎を退治する権限と手段、その使命を担う資格が、慧魅璃にはあるということ。
 マスターが望む、真の目的とは、慧魅璃との "仮契約" だということだ。
 だが、これはあくまでも、マスターの要望にすぎない。
 慧魅璃が、そんなのやりたくないですと言えば、それまでの話だが ――

「わかりました。いいですよ」

 あっさりと受諾した。
 てっきり、ちょっと考えさせて下さいとか言われるもんだと思っていた浩太は、思わず訊き返してしまう。
 だが、何度きかれても慧魅璃の応えは変わらない。そもそも、こういう不思議な空間に出入りできるようになった以上、
 ただフラリと遊びにくるだけではもったいないというか、物足りないと思っていたところもあるし、
 必要とされれば、その期待に応えたくなるってもんだ。ヒトって、そういうもん。

「でも、今日はこれから急がなきゃならない用事があるので、契約は明日とかでも良いですか?」

 お友達を待たせているから、今すぐにマスターのところへ行って契約を締結することはできないと伝えた慧魅璃。
 お友達を怒らせてしまうと、とっても面倒なことになってしまう。
 前に一度だけ、ちょっとしたすれ違いで喧嘩してしまったことがあるが、大変な目に遭った。
 それこそ、海斗が過去に呪具によって遭った嫌な目と同じくらい。いや、もしかすると、それ以上?
 とにかく、お友達の機嫌を損ねるような真似は、絶対にしたくない。自分自身のためにも、異界という空間のためにも。
 すぐに終わるっていうなら行ってもいいが、ここからマスターのところへ行くのにも、結構な時間を要するだろうし。
 慧魅璃の用件を聞いた浩太は、構いませんよと微笑んだ。
 断られたわけじゃなし、オーケーを貰えたのだから、それ以上多くを望むのは欲張りだ。
 さすがに、何の躊躇もなく即座に受諾したことには驚かされたが、結果的には、非常にありがたい返事をもらえた。

「それじゃあ、失礼します。また、明日」

 ペコリと頭を下げ、とてとてと歩き出す慧魅璃。
 そんな慧魅璃の後を追うように、ふわりふわりと、ベブも飛んでいく。
 やっぱり、あれ呪具だよ。間違いないよ。だって、意思持ってるじゃん。
 負けたことが悔しいのか、ブツブツと苦笑しながら文句を言う海斗。
 でも、負け惜しみでしかない。相手が呪具の使い手だったから負けたんだ、なんて、それこそカッコ悪い。
 文句を言う海斗の頭を小突きながら、藤二はそう言って、宥めた。
 ものは考えようだ。ああいう便利な武器を持っている人物が仲間になるなんて、頼もしいじゃないか。
 明日から、正式な仲間になる。六人目のクロノラビッツとなる、新しい仲間。
 その背中を見送る海斗、藤二、浩太の三人の表情には、嬉しさと期待が溢れていた。
 海斗達は知らない。この契約が、あんなに悲しい出来事を引き起こすことになるだなんて。
 慧魅璃も知らない。自分の価値も、自分の過去も、自分の運命も。
 まさか、自分の奪い合いが始まるだなんて、微塵にも。

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 The cast of this story
 8273 / 王林・慧魅璃 / 17歳 / 学生
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 浩太 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 藤二 / 24歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。