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<東京怪談・PCゲームノベル>


 クロノラビッツ - スキル・モーション -

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 それを語るには …… 。
 結構な時間を要してしまうけれど。
 それでも良い? 構わないっていうなら、うん、話しますよ。
「いーよ。どーせヒマだし」
 海斗は、即答した。
 いや、まぁ、そういう返事が返ってくるだろうなとは思っていたけれど。
 そっか。うん、じゃあ、話します。上手く纏められるかどうか、わかりませんけれど。
 難しく説明したら、あなたはきっと文句を言うだろうから、なるべくわかりやすく伝えないと駄目ですね。
 でも、う〜ん …… どうしようましょうかね。どこから、何から話せばいいのでしょうか。
 えっと …… じゃあ、とりあえず、この能力を得た "きっかけ" から話しましょうか?

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「きっかけは、この腕輪ですね。これだけは、間違いないです」
 そう言って、腕に着けている黒い腕輪を海斗に向けて見せる慧魅璃。
 いつも、この腕輪から、ありとあらゆる悪魔やら武器やらがポンポン出てくる光景を、海斗は何度も見ている。
 海斗が苦手としている呪具もまた、すべてこの腕輪から出現するためか、海斗はちょっと逃げ腰だ。※どんだけ苦手なんだ
 そんな海斗に苦笑しながら、慧魅璃は、先日、実際に使って見せた "ベブ" を手元に出現させた。
「うおぁっ。いきなり出すなよ!」
「ふふ。ベブは、良い子ですよ。怒らせさえしなければですけど」
 ベブをはじめ、慧魅璃が扱う武器には、それぞれ名前がついている。更に、意思も持つ。
 武器でありながら、一己の生命。だから、慧魅璃は武器のことも、自分の友達(フレンド)だと言う。
 魔界と繋がる腕輪。この特殊な性能を宿す腕輪は、慧魅璃の祖母が、死の間際にプレゼントしてくれたものだ。
 どうして、魔界なんて場所と繋がっているのか、悪魔たちが自分に従順なのか、そのあたりについては慧魅璃自身もわからない。
 ただ、祖母を心から愛していた慧魅璃にとって、この腕輪は、かけがえのない宝物であり、
 祖母から受け継ぐ形となったこの能力もまた、かけがえのない宝物だと認識している。
「それさ、魔力を食うんだろ」
「はい。お腹がいっぱいになるまでは食べ続けられますよ」
「なんでも? どういう魔力でも食えんの? 例えば〜 …… 魔力そのものの魔物とか」
「はい。何でもご馳走です。あ、でも …… 光の属性を持つ魔力だけは、食しませんね」
「なんで? あっ! わかった! 弱点なんだろ! 悪魔だから!」
「そういうことですね。ベブが嫌いますので。えみりさんも、酔いますし …… 」
「酔う? 酔うの? それって、どんな感じ? コーヒーカップでぐるんぐるん回る感じか?」
「そんな感じですね。乗り物酔いのような …… 前に一度だけ、戻してしまったことがあります」
「リバースかよ。ぶっはははははは」
 魔力を食べるのは、ベブが本来持つ基本的な能力。
 実際に試したことはないが、複数の魔力を一度に食べることも可能らしい。
 ベブについて説明を聞く海斗は、ふんふん、と、やたら真剣な表情で聞き入っていた。
 もしかすると、弱点を克服できるヒントがあるかもしれないと思い、必死になっていたのかもしれない。
 まぁ、結果は …… 特にこれといった収穫はなかったようだが。

 慧魅璃は、ベブのほかにも武器を所有している。その数、全部で七つ。
 全てが呪具に該当するが、そのうちの二つは、滅多に使わないらしい。
 せっかく便利な武器があるのに、それを活用しないなんてもったいない、と海斗は疑問を口にした。
 すると、慧魅璃は、少し俯き、寂しそうな表情を浮かべて小さな声で呟いた。
「傷つけてしまうのが、嫌なんですよ」
 慧魅璃が使わない、使うことを必要以上に躊躇うその二つの武器は、
 他の武器と比べても段違いの性能と威力を誇る代物。まさに、兵器と呼べるほどの武器。
 だからこそ、慧魅璃は、その武器を使うことを躊躇い、拒む。何があろうとも、その二つの武器には手を伸ばさない。
 そこまで拒絶する理由は、過去にある。実際に使ってもみないで拒絶しているわけではないのだ。
 過去に一度だけ。慧魅璃は、その武器を使ったことがある。しかも、ふたついっぺんに。
 祖母が亡くなって、まだ間もない頃。
 慧魅璃が祖母から継いだ腕輪を狙ってくる連中がいた。
 祖母が生きていた頃から、その連中は、執拗に祖母の腕輪を狙い、頻繁に祖母の命を狙った。
 祖母が亡くなり、腕輪の持ち主が慧魅璃に変わったことで、連中の狙いも、必然と慧魅璃に変わる。
 まだ幼い女の子。連中は、容易に腕輪を奪うことができるであろうと余裕をぶっこいていた。
 でも。祖母がいなくなった悲しみと、執拗に腕輪を狙う傲慢な輩。
 この世にひとりぼっちにされてしまったかのような孤独感に苛まれていた慧魅璃は、その悲しみを払うかのように暴れた。
 我を忘れて暴れたのは、あれが最初で最後。ふと意識を取り戻したときには、既に辺りは血の海に染まっていた。
 両手に持つ武器。覚えていなくとも、それは、自分がやったのだという証拠になる。
 慧魅璃は、その時から、この武器を毛嫌いした。絶対に使わない。もう二度と使わない。
 だって、壊してしまうから。何もかもを、無慈悲に奪ってしまうから。そんな力はいらないよ。欲しくないよ。
 慧魅璃の心には、いまだに当時の気持ちが残っている。おそらく、この先も決して、その気持ちが消えてなくなることはないだろう。
「ごっそり悪魔を従えてるくせに、そんなこと言われても、正直、なんだかなーって感じだけどな」
「ふふ。そうですね。えみりさんも、そう思います」
「ん。まー …… 優しいヤツって嫌いじゃねーけど。あっ、もうこんな時間か」
 おもむろにポケットから取り出した携帯を見やり、表示されていた時間の意外性に驚く海斗。
 退屈していたところ、慧魅璃が時狭間に来たもんだから、つい、捕まえて長々と話しこんでしまった。
 まぁ、話(っていうかほぼ暇つぶし?)に付き合ってくれたのはありがたい。でも、ちょっと拘束しすぎたかも。
 何か用があってここに来たんじゃないのか、今更言うのも何だけど、と気遣いを見せる海斗。
 時刻が十八時を回っていることを知った慧魅璃は、それじゃあ、そろそろ、とペコリと頭を下げた。
「なんか、ごめんな」
「いえいえ。楽しかったですよ」
「そか? んじゃー、まー、また話そーぜぃ」
「ふふ。はい。よろこんで。では、今日はこれで失礼します」
「おう! あ、送ってこーか?」
「いえ。大丈夫ですよ。 …… あっ」
 自宅へ戻ろうと席をたってすぐ、慧魅璃は、ふと動きを止めた。
 何かを思い出したかのようなその動きに、海斗は、ん? と首を傾げる。
 どした? と尋ねる海斗に向けて。危うく忘れかけていた、大切な警告をひとつ。
 慧魅璃は、聖母のごとく優しく柔らかな笑みを浮かべつつ、ゆっくり振り返って告げた。
「えみりさんの目が赤くなっているときは …… 気をつけてくださいね」
 金と紫のオッドアイをそっと細め、にこりと微笑んで言った慧魅璃。
 その警告を聞かされた海斗は、ギョッと目を丸くした。
「って、お前、いま、赤いじゃん!」
「えっ …… ?」
 咄嗟に逃げ、物陰に隠れながら言った海斗に、慧魅璃は首を傾げた。
 瞳が赤くなるときは、いつも身体がじんわり熱くなって、その後、意識がなくなるはず。
 でも、そんな症状は確認していない。つまり、いま、慧魅璃の瞳が赤く変色している可能性は、ゼロ。
 首を傾げながら、慧魅璃は、鞄から手鏡を取り出して自分の目を確認してみた。
 すると。あぁ、確かに。赤い。赤くなっている。でもこれは、違う赤み。
 慧魅璃は、クスクス笑いながら言った。
「これは、ただの寝不足ですよ」

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 The cast of this story
 8273 / 王林・慧魅璃 / 17歳 / 学生
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。