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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


見張られた駐車場
●オープニング【0】
「ああ、そうそう。うちはいくつか駐車場を管理させてもらっているんですが……その1つが、近頃どうにも気持ちが悪いんですよ、探偵さん」
 そう草間武彦に語って聞かせたのは、草間がとある調査の過程で訪れた不動産屋の社長であった。探偵だと自己紹介した草間の質問に一通り答えてから、不意に思い出したように話を切り出してきたのである。
「気持ちが悪いって、どんな風になんです。気分が悪くなるとか」
「いやいやいや、そういう意味ではなくてですね。何でしょう……誰かが見張っている気配があるんですよ」
「見張っている? 駐車場……ですよね?」
「ええ。そこは月極ですから、あるのは契約者の車だけですが」
 と社長は答えた。そうなると、誰かの車を見張っているのだろうか?
「昨日なんて、黒ずくめの男がその近くを歩いていたりして……何か気になるんですよ。探偵さん、もしよかったらしばらく見張ってくれませんかね? 代金もちゃんと支払いますんで!」
「は、はあ……」
 社長の言葉に困惑する草間。よもや聞き込みに行った先で、新たな依頼を得ようとは思ってもみなかったことであろう。
 ともあれ、数日間その駐車場を見張ることとなった訳で――。

●何故ゆえに見張るのか【1】
 さて、その翌日。
「……何の意味があるのかしら?」
 ミネルバ・キャリントンはそう言って首を捻った。草間興信所にて草間武彦から駐車場を見張っている者が居るのでうんぬんという話を聞いての反応である。2人きりではない、その場には真行寺拓海や草間零の姿もあった。
「まあ少なくとも、そこに住んでる奴は居ないよな」
 と言って、草間は椅子の背もたれにギシッともたれかかった。
「目的が何なのか、ですよね。誰かを気にしてるのかそれとも……」
 思案顔でつぶやく拓海。その後にミネルバが続ける。
「それだと誰かのストーカーとかかしら。そうでないのなら、車上荒らしで車を物色している、あるいはカーマニアが車を見ているのか……」
「でも少し前から見張られている気配があって、怪しい人も目撃されているんですよね? 車上荒らしだと、1カ所に長く張り付いているとも思えにくいんですが……だって、それだけ怪しまれる確率も高まる訳ですから」
 零がそんなことを口にした。確かに、何かが妙である。
「幸いなことに、今の所は車上荒らしや車に何かされたといった報告はまだないらしい。だからこそ余計に不気味なんだろうな」
 そう草間が補足する。
「怪しい人……その駐車場の男、というのが気になりますね。黒ずくめの男が」
 この件を調べるにあたって、目に見えるとっかかりは拓海が言うようにやはり目撃されている男であろう。その男を見付けることが出来れば、一気に解決までゆきそうではあるのだが……。
「だな。まずはその男のことと、駐車場とその周辺についてから調べてみるか……」
 ひとまずの方針を口にする草間。それらを調べてまた何か判明すれば、深く掘り下げてゆけばいいだろう。

●草間、気付く【3】
「おや探偵さん。今日はまた大人数で……」
 依頼主の不動産屋に4人で訪れると、不動産屋の社長はそう言って出迎えた。
「さっそく今日から見張っていただけるそうで。いやー、ほんと助かりますよ。ほら、変な評判なんか立ったら、今の契約者から逃げられかねませんし、空きも埋まらないってもんですよ!」
「そ、そのことでちょっと話が……」
 一気に言葉を畳み掛けてくる社長に少し気圧されながらも、草間が肝心の内容を話し始めた。
「は? 契約者のリストですか?」
「人に目をつけてるのか、車に目をつけてるのか……それを知るためにも、どうか」
 草間がそう言って社長へと頼み込むと、そのことを草間に提案した拓海もその後ろで頭を下げた。
「あの。お願いします……」
「……まあ必要なら出しますがね。コピーとか取らないでくださいよ?」
 なとど社長から釘は刺されたものの、リストの提供はしてくれるようだ。
「そういえば、駐車場に監視カメラは?」
「ああ、監視カメラはないですねー。こうなってくると、そのうちつけなきゃならないかとも思うんですが……」
 ミネルバの方を見ながら質問に答える社長。まあ、視線が明らかにミネルバの胸元へ向いていたのはあれだったが。
「写真でしたらありますよ、現地の」
 社長は机の方へ一旦戻ると、中から数枚の写真を取り出して帰ってきた。
「これです」
 と言って見せられた写真に映っている駐車場は、三方をブロック塀で取り囲まれていた。車が出入り出来るのは、道路に面した一方向のみである。駐車スペースは12台ほどであろうか。この写真では、その半分ほどが埋まっていた。
「隣は……?」
 草間がブロック塀の向こう三方をそれぞれ指で示しながら尋ねる。
「両隣が個人の家で、裏手がマンションですね。うちの契約者の3分の1はそのマンションの方々ですよ。複数台所有で、マンションの駐車場だけじゃ足りないとのことで」
 その社長の言葉は、後で渡された契約者リストで確認するとまさにその通りで、同じ住所の部屋番号違いが3つ並んでいた。
「……ここに映っているのは普通の車ね」
 自動車の方に注目していたミネルバがそうつぶやいた。いずれも国産の軽自動車や乗用車である。
「ここに映ってないのでしたら、外車も1、2台はあったと思いますが」
 なるほど、契約車の中には外車もある訳か。
「ところで――」
 拓海が社長に向かって口を開いた。
「その、気味悪い感じを覚えたのはいつ頃からなんでしょうか?」
「いつ頃? あー、半月……いや、もうちょっと前か? 1ヶ月まではいってないような……」
 この社長の言葉を信じるなら、3週間以上4週間以下といった具合だろうか。最近といえば最近だろう。
「黒ずくめの男も同じくらいから……?」
「うちが見たのは一昨日だけだよ。この件があって、たまに見回りに行った時に偶然見付けて……。こっちが気付くと、すっと立ち去ったんだ、そいつ」
「それは何時頃のことだったんですか? それと格好や容姿も教えてください」
「午後の……2時過ぎだったかなー? 容姿はそう印象ないかな……そんなに背は高くなく低くなく、横幅も細くも太くもなく、黒髪ってだけで。けど格好は特徴的だったよ。コートも中も全部黒、おまけにサングラスも黒だったんだ」
 拓海の質問へ順番に答えてゆく社長。それを聞いた瞬間、ミネルバがぴくっと反応した。
(黒コートにサングラスですって……?)
 ミネルバはそれとなく草間や零の様子を窺った。2人とも、今の話が出た途端に少し様子が変わっていた。緊張感が出ていたのだ。
「なるほど……確かに全部黒、だ。気になってしょうがないでしょう……ね」
 草間がそのように言うと、全くだとばかりに社長は大きく頷いた。それからもう少し社長へ質問など行ってから、一同は契約者リストのコピーを受け取って不動産屋から引き上げた。
 不動産屋から十分に離れてから、草間が渋い表情でこうつぶやいた。
「……簡単な事件じゃないぞ、これは……」
「え。……どういうことなんですか?」
 きょとんとして拓海が尋ねると、草間に代わってミネルバがそれに答えた。
「IO2の存在ね」
「知ってたのか」
 と草間が言うと、ミネルバは無言で頷いた。
「まあ、オカルトごとを監視していて、それ絡みで悪いことをしようとしている奴らを叩く、国をまたいだ組織とでも思っててくれ。そしてその組織の捜査官は、どういう訳だかほぼ一様に黒ずくめの格好をしていやがる」
 草間は拓海へそんな乱暴な説明をしてから溜息を吐いた。
「しかし奴らが関わってるとなると、原因はその駐車場自体にあるんじゃないのか……?」
 眉をひそめる草間。IO2であれば、何もなく動くことはない。動くための原因があるからこそ、動かざるを得ないのである。となれば、駐車場そのものを疑わなければならなくなってくる。
「実際に現地をこの目で見てみませんか?」
 その零の提案に反対する者は居なかった。

●現場を見る【4】
 少しして4人は件の駐車場へとやってきた。無論周囲で何者か見張っている者がないかを調べてから、駐車場に足を踏み入れている。その結果、今は誰も見張っていないらしいことが分かっていた。
「悪くないんじゃないかしら、この場所なら」
 周囲をゆっくりと見回しながらミネルバが言い放つ。
「ああ。そこそこ近いしな」
 とは草間の言葉だ。
「あ……裏はマンションなんだね」
「両隣は一戸建てみたいですよ」
 そして拓海と零も口々に言う。何故そのようなことを口にしているかというと、駐車場の契約の前に下見に来た者たちを装うためであった。今は見張られていないようだとはいえども、いつ何者かが見張りに来るとも限らないからである。
「よーし、じゃあ戻って契約するか」
 その草間の言葉をきっかけに、ぞろぞろと駐車場から引き上げる4人。そして駐車場から十二分に離れてから、ようやく芝居を解くことが出来た。
「どう思った、あの駐車場を」
 草間が単刀直入に3人へと尋ねる。
「僕は別に、嫌な感じはしなかったですけれど……」
 思案顔で答える拓海。ミネルバもそれに同意だとばかりに頷いて言った。
「同じく。あの場所に居ても、不快な感じはしなかったわ」
「零はどうなんだ?」
 草間が零に感想を促した。
「……不快ではありませんでした。でも」
 零は足を止めて言葉を続けた。
「霊力を感じます。それほど大きくはありませんでしたが……」
 それを聞いて、草間が大きく溜息を吐いて頭を掻いた。
「決まりだな」
 だからIO2はあの駐車場に目をつけているのだ――。

●ルルティアの推論【5】
 4人で事務所へと戻っている最中、拓海は自らの中に居るルルティアと念話で言葉を交わしていた。もちろんこれまでの経緯や情報を伝えるため、そしてルルティアの考えを聞くため――。
(……ということなんだ)
 拓海が全て伝え終わると、それから少ししてからルルティアが語りかけてきた。きっと整理されて伝えられた情報を、自分の中でさらに整理を済ませていたのであろう。
(確かに――私もあの場所から不快な感じはしなかった。あれはそう、純粋な力……使う者次第で光にも闇にも転ずる物)
 ルルティアが駐車場にある霊力についてそのように評した。
(じゃあ、あの駐車場自体が危険な場所である訳ではない……ってこと?)
(ええ。今は)
 拓海の疑問に答えるルルティア。そう、今は危険ではないのだ。だがもし、その霊力を悪用しようと考える者たちの手に落ちれば……?
(……IO2という組織が本当に監視しているのは別の存在なのではないかしら?)
 ルルティアが情報を再整理して導いた推論を拓海へと伝える。
(例えば、その力を悪用しようと考えている存在――)
(!!)
 ルルティアの言葉にはっとする拓海。草間は先程言っていたではないか、IO2は『オカルト絡みで悪いことをしようとしている奴らを叩く』のだと。そうすると、何者かがあの駐車場の霊力を悪用しようとしていることをIO2が嗅ぎ付けたからこそ、捜査官である黒ずくめの男が目撃されたのではないか?
「あ、あの……!!」
 拓海は前を歩く草間を慌てて呼んだ。今のルルティアの言葉を伝えるべく――。

●真夜中に現れし者たち【6A】
 やがて真夜中が訪れる。静まり返っていた件の駐車場に、後部座席に荷物を積んでいる1台の外車が入ってきた。メルセデス・ベンツのGLクラスである。そして空いている駐車スペースに停車すると、運転席と助手席のドアが開いて人が降りてきた。草間と零の2人である。
「やれやれ……疲れたな」
「早く帰りましょう、兄さん」
 草間と零はそんな会話を交わしてから、ゆっくりと駐車場を出て行った。そして駐車場から少し離れてから、誰もつけてきていないことを確認した後に静かに駐車場の方へと戻ってゆく。
「……感じたか、零?」
「はい」
 草間の言葉に小声で答え頷く零。感じたのはもちろん視線である。どこからかまでは特定出来なかったが、明らかに駐車場を見ている気配があったのだ。
「しかし、あいつの指摘がなかったら見落とす所だったな……」
 草間があいつと言ったのは拓海のことである。昼間、駐車場から事務所へと戻る最中に拓海から指摘があったのだ。IO2の捜査官は、何者かを捕まえるために駐車場を張り込んでいるのではないか、と。言われてみればその可能性は少なくない。
「あいつは今、どこかから駐車場を見張ってるんだよな?」
「はい。何かあれば連絡しますと……」
 草間の確認に答える零。拓海は単身、どこかに潜んで駐車場を見張っているらしい。そして草間と零は、今から駐車場を見張るべく戻っている最中。では残るミネルバはどこに居るのか?
(……見張るにはいい位置だわ……)
 ミネルバはそう思いながら双眼鏡を覗き込んでいた――先程草間が駐車した外車の後部座席から。そう、ミネルバは荷物でカモフラージュさせ、後部座席に潜んでいたのである。ついでに言うなら、この車もミネルバ所有の物である。
 車の駐車スペースは、面している道路の左右がきちんと見渡せる位置であった。どちらかから何者かがやってきても、即座に発見して対応を取ることが可能なのだ。
(さ、いつでも来なさい……)
 車内で息を殺しながら見張りを続けるミネルバ。駐車場の外からは、草間と零、そして拓海が各々見張っている。
 1時間が過ぎ、2時間経ち、もうすぐ3時間となろうという時であった……人の目を避けるかのごとく、暗い色のコートを羽織った2人の男たちが駐車場へと入ってきたのは。ミネルバは双眼鏡を望遠レンズ付きのカメラに持ち替え、男たちの動きの監視を続ける。
 男たちは周囲に人が居ないことを確認すると、各々コートの中より何かを取り出した。1人は鞭、もう1人はといえば何故かサーベルであった。いったいそれらを取り出して、何をしようとしているのだろうか?
 と、そこへ2人組の黒ずくめの男たちが飛び込んできた。
「IO2だ。おとなしく、我々と同行してもらおうか」
 黒ずくめの男たちの手には小型の銃が各々握られ、銃口が目の前の男たちを狙っていた。
「くく……IO2の捜査官風情が、我々をどうにか出来ると思っているのか?」
 鞭を手にした男が不敵に笑いながらそう言い放つと、サーベルを握っている男も全くだとばかりに笑い飛ばした。
「がはははは! そうだな! 俺たちをどうにかしようとするんなら、せめて3倍の人数はないとな!!」
 鞭とサーベルを持った男たちがIO2の捜査官たちに向き直り対峙する。ミネルバがその光景を写真に撮ってから、速やかに車外へと転がり出て車体の陰に潜んだ。
「さあ、我々の力を見せてやろう……」
 鞭の男がそう言った次の瞬間だった。手にした鞭から禍々しさが漂ってきたのは。同じくサーベルの男が持つサーベルからも禍々しさが漂ってくる。
「がはは……いつもながら気分がいい! これから貴様らの血も、こいつに吸わせることが出来るかと思うとなおさらな!!」
 サーベルの男がとても楽しそうに言い放った。
「呪物使いか……!」
 IO2捜査官の1人がはっとして言った。呪物使い――それは呪いや怨念の込められた物品を使いこなすことが出来る能力の持ち主のことである。本来であれば自らに向かってくるはずの呪いを制し、自在に操ることが出来るのだ。その呪いの力で自らを強化することも出来れば、他者を害することもまた可能で……。
「本部に応援を!」
 もう1人のIO2捜査官が応援を呼ぶべく携帯電話を取り出すが、どう考えても今からでは手遅れだ。
「くくく……もう遅い!!」
 鞭の男の手から、IO2捜査官目がけて勢いよく鞭が放たれた。しかし次の瞬間――。
「はあっ!!」
 狙われたIO2捜査官の前に誰かが割り込んできたかと思うと、気合い一閃、男の鞭が弾き返された!
「何……!!」
 鞭の男が、攻撃を邪魔した者を睨み付ける。そこに居たのは、日本刀を手にした零である。自らの力で侍の怨霊を日本刀に変え、その背で今の鞭の攻撃を弾き返したのだった。
「私がお相手します!!」
 零はそう、目の前の男たちに宣言した。

●変身!【6B】
 この時、拓海はマンションの敷地内に潜んでいた。当然駐車場に居る者たちの会話は、しっかり拓海の耳にも届いていた。
「行かなくちゃ……!!」
 ぐずぐずしている暇はない。1秒の遅れが1つの生命の炎を消し去りかねない状況であるのは明らかなのだから。
 そして次の瞬間――拓海の身体が温かなる光に包まれたかと思うと、光が晴れた時にはそこに拓海の姿はなく、代わって腰をも越える長き髪を持つ乙女の姿があった。拓海から光輝の乙女たるルルティアへと変身した瞬間であった。
「とぉっ!」
 ルルティアは携えた剣を握り直すと、華麗に軽やかにブロック塀を飛び越えていった――。

●駐車場の戦い【7】
「ほう……誰だか知らんが、我々の邪魔をする気か?」
「……見過ごす訳にはいきませんから」
 鞭の男に対し、零は静かだがきっぱりと言い切った。
「だが、それでも3人だ……! 俺たちをどうにか出来るとは思わねえ!! がはは……!!」
 サーベルの男がぺろりとサーベルを舐めながら言った時である、裏のマンションの方から何者かが飛び越え降り立った気配があったのは。
「それでは4人ならば――?」
「何ぃっ!?」
 サーベルの男が慌てて振り返る。そこに立っていたのは、見目麗しき黒髪の乙女が1人。身の丈ほどあるのではないかと思われる宝飾施された剣を携え、その丸みを帯びた美しき身体は肌の露出こそ高いが、白を基調とした動きやすき装いに包まれている。こちらにも同じく数カ所に宝飾が施されていた。
「女!! 貴様何者だ……!!」
 サーベルの男が問うと、その黒髪の乙女は凛とした表情を向けてこう名乗ったのである。
「我が名はルルティア!」
「……ルルティアだぁ? 知らねえなぁ!」
 サーベルの男が黒髪の乙女――ルルティアに怒ったように言い放った。
「では――これから決して忘れることはないでしょう。この地に希望と恵みを齎す使者の名のもとに、それ以上の悪事はこの私が許しません!」
 そう宣言して剣を構え、サーベルの男と対峙するルルティア。
「何だとぉ……? ふざけたことを言いやがる……。なら俺が、その綺麗な身体に決して忘れられん痕をつけてやろうじゃねぇかっ!!」
 サーベルの男がルルティアに向けて突進を始める!!
 しかしルルティアはそれをかわそうとする素振りを見せない。そして接近したサーベルの男が、そのサーベルを振り下ろさんとした瞬間、ルルティアの剣が動いた!
「ディフレクトフォース!!」
 穏やかなる光がルルティアの剣に満ち、振り下ろされたサーベルを見事に受け止める。サーベルの男は力を込めて押し切ろうと試みるが、ルルティアの剣は決して押されてはいない。いや……むしろ徐々に男のサーベルを押し返しているではないか。
「呪いの力……我が前に効きはしません!」
「くっ!!」
 このままでは不利になるだけだと悟ったか、サーベルの男が引いてルルティアとの間合いを取り直す。
「おい! そっちの小娘は任せた!!」
 サーベルの男はルルティアを睨み付けながら、鞭の男に向けて言った。
「承知!」
 鞭の男の鞭が、再び零へ向けて放たれる。
「やあっ!!」
 けれどもそれは先程と同様に、零の日本刀の背によって弾き返される。
「くく……なるほど、正攻法では無理なようだな」
 鞭の男は、手にした鞭を地面に叩き付けてそう言った。その表情はといえば、何かを企んでいる……決して油断ならぬ表情。
「だが、狙いは娘……貴様だけとは限らない」
 ちらりとIO2捜査官たちを見て、ニヤリと笑う鞭の男。
「貴様が飛び込んで来るよりも先に、我が鞭は2人のうちのどちらかをしたたかに打ち付けその生命を奪っていることだろう」
「…………」
 鞭の男の言葉に対し、零は何も答えない。いや、何も答えられないのだ……誰かの生命と引き換えに動くことなど、零には出来ないのだから。
「さて……その刀を放してもらおうか」
 鞭の男がそう零へ要求した時である。駐車場へと草間が飛び込んできたのは。
「零!」
「新手か!!」
 草間の登場に鞭の男の意識がそちらへ奪われたその瞬間――近くの車体の陰から身を低くしたミネルバが飛び出してきた!
「はっ!!」
 ミネルバは地面に両手をつくとそれを軸に回転して、勢いよく蹴りを鞭の男のふくらはぎへと叩き込む!!
「ぐあっ!?」
 一瞬の隙を突かれた鞭の男の体勢が大きく崩れ、思わず前方に膝をついて倒れてしまう。その弾みで男の手から鞭が放れた所に零が駆け込んできて、日本刀で男の手から鞭を遠ざけることに成功した。
「くそっ……!」
 鞭の男は素早く起き上がって、この場から離脱しようと試みたのだが――。
「逃げられると思っているのかしら?」
 ミネルバに組み付かれ、瞬く間にマウントポジションを取られてしまったのである。それでも何とか逃れようともがく鞭の男。
「――ここに居なさい、ね」
 そんな男の胸元をぐいと押さえ込み、ミネルバは不敵な笑みを浮かべ男の顔を覗き込んだ。静かに言い放った言葉とともに。
「……う……あ……」
 諦めたのか何なのか、もがいていた男も次第に静かになり、そのまま空を見つめたままだらんとなった。鞭の男がこうなった以上、残るはただ1人、ルルティアと対峙したままであるサーベルの男だけだ。
「ソードエミッション!!」
 先に動いたのはルルティアの方だった。間合いを詰め、構えていた剣を一振りすると、まばゆい光の刃が幾重にも重なり向かっていった……サーベルの男の方へと。
「ぬおおおおおっ!!」
 サーベルの男はその光刃をサーベルにてしっかと受け止める。だが、次の瞬間であった。
「そうすると思っていました!!」
 何とルルティアはそのサーベル目がけて、再びソードエミッションを放ったのだ……より至近距離から!!
「何だとぉっ!!」
 男はやはりサーベルにてそれを防ごうと試みる。だが、自身の身を護ることは出来ても、サーベルへのダメージを逃すことは出来なかった。細かなひびがサーベルへと入り始める……!
「これで最後……シャイン・エクスキューション!!!」
 ルルティアを中心に、穏やかかつまばゆい光が全域に向けて放たれる! それは恵みと浄化の力をたたえた光……悪しき魔力を消し去る力!!
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 恵みと浄化の光に耐え切れなかったサーベルは木っ端微塵に崩れ去り、その衝撃でサーベルの男は大きく後方へと飛ばされて倒れ……そしてそのまま気を失った。
「……私が今為すべきことは全て終えたようですね」
 ルルティアは大きく息を吐いてから、そう言って穏やかなる笑みをその場に居る者たちへ向けた。
「またお会いすることもあるでしょう」
 とルルティアは言い残し、ブロック塀を華麗に飛び越えてその姿を消したのだった。
 ややあって、道路の方から拓海が駐車場へと駆け込んできた。
「だっ……大丈夫ですか、皆さん……!」
 奇しくもこの時に駐車場に居たのは、倒れている男2人に対し、IO2と草間たち合わせて6人。ちょうど男たちの人数の3倍であった――。

●後処理【8】
「民間術師たちの助力に感謝する」
 IO2捜査官たちの中の1人が、代表して草間に告げた。駐車場の内外では同じような装いに身を包んだ者たちが慌ただしく動いている。きっと今回の事件の後処理を行うためであろう。例えば、戦闘の模様は実は映画撮影であったなどという風にごまかすといったように……。
「……あの。結局あの2人は何者だったんでしょうか」
 拓海がIO2捜査官へ尋ねた。男2人はすでに連行されてゆき、この場に姿はない。
「…………」
 しかしIO2捜査官は拓海の質問に答えなかった。代わって口を開いたのは草間である。
「虚無の境界、だな」
「!」
 はっとして草間を見るIO2捜査官。すると草間はニヤッと笑った。
「カマをかけたら図星って訳か」
「虚無の境界……?」
 拓海が草間の方を向いて尋ねる。
「この世界を終わらせようとしてるテロ組織とでも思ってくれ……オカルトのな」
 またしても乱暴な説明を行う草間。
「なるほどね。IO2にとっては、見過ごすことの出来ない組織ってことなのね」
 そう言って頷くミネルバ。
「もしかして、最近盛んに動いているのはその絡み……かしら?」
「……本件は他言無用だ」
 IO2捜査官はミネルバの質問には答えることなく、4人から離れていった。
「あの。不動産屋さんへの報告はどうしましょうか……?」
「熱狂的なカーマニアが居たけど、きつく注意をした……って所で、報告書を作るか」
 草間は頭を掻きながら零の質問に答えた。さすがに正直に報告する訳にもゆくまい。
「ま、すっきりとしないがな――」
 忙しく動き回るIO2捜査官たちの姿を眺めながら、草間はぼそりとつぶやいたのだった。

【見張られた駐車場 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 7844 / ミネルバ・キャリントン(みねるば・きゃりんとん)
                / 女 / 27 / 作家/風俗嬢 】
【 8048 / 真行寺・拓海(しんぎょうじ・たくみ)
              / 男 / 16 / 学生/ルルティア 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全9場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせいたしました、何故か見張られていた駐車場に関してのお話をお届けいたします。まあ、終わってみれば戦闘成分がそこそこあるお話になりましたね。
・けれども、虚無の境界と思しき2人の目的がなんだったのかは、IO2の捜査官が情報を出さなかったので不明なままです。よろしくないことを行おうとしていたのは、容易に想像出来ますが。
・真行寺拓海さん、2度目のご参加ありがとうございます。黒ずくめの男の格好などについて突っ込んだことによって、事前に心構えが出来る状況になったのではないかと思います。で、心霊要因が非常に濃厚でしたので、ルルティアの登場ともなりました。ちなみに本文では少し端折りましたが、ルルティアはブロック塀の向こうに去った直後に転移をしてから変身を解いたという流れだったりします。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。