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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


人形殺し【後編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『人形殺し』――。
 アンティークショップ・レンに2人連れの刑事が訪れ、店主である碧摩蓮を署まで同行させたのは3月某日のことであった。蓮はそのまま逮捕・勾留され、未だ店には戻ってきていない。
 容疑は殺人――人形収集が趣味な鎌倉裕美なる資産家の女性を、果物ナイフで刺し殺したというものだ。犯行時刻よりも前、蓮は人形を売ってほしいと鎌倉に持ちかけて断られていた。その際に揉めていたという通いの家政婦の証言と、そして未だ不明である蓮の犯行時刻前後のアリバイ、それより何より凶器についていた蓮の指紋……これらが蓮の立場を不利なものとしていた。
 アリアに助けを求められた者たちは、各々のやり方でこの事件に関わる情報を集めていた。だが蓮に有利となる情報はなかなか得られない。
 そんな中、現場となった部屋へ足を踏み入れさせてもらった者たちは、2つの事実を知ることとなる。1つは、鎌倉が収集した人形たちはどうも丁寧に扱われてはいなかったということ。そしてもう1つは……部屋の中の霊気や魔力といったものが、極端になくなっているということ。この2つの事実は、果たして何を意味するのだろうか?
 一夜明け、一同の調査はまだ続く……。

●人形の持つ性質【1D】
「そうそう、古代の人形ってさ――」
 アンティークショップ・レンに一足早く訪れていたエミリア・ジェンドリンは、店を守っていたアリアと世間話をしている最中に、不意にそのように言葉を切り出した。
「他人に呪いをかけるための道具として使われたり、また災厄を肩代わりしてもらうために作ったり……といった性質があって」
「はあ……」
 エミリアの話に耳を傾けるアリアの表情が固くなる。急に話題が変わって驚きはしたものの、エミリアが人形に関する話をするということは、件の事件について何やら触れてきそうに思えたからである。
「……でもそういう性質は、薄れはしたものの今でもなくなった訳じゃなくてね」
 苦笑いを浮かべるエミリア。例を挙げれば藁人形などは呪いをかけるための物だし、流し雛などは災厄を肩代わりしてもらう物で、今でもそのような風習は残っている訳だ。
「だからあれよ、部屋ん中の魔力や霊力が感じられないのも……それらや厄でも溜め込んだヤツでもあんじゃないの、って考えるのは自然なことだと思うっしょ?」
 エミリアはそう言ってくすっと笑みを浮かべた。確かに、そうなるには何らかの要因があってしかるべしだ。その要因となりそうな物には、エミリアには心当たりがあった。
「例えばほら――蓮が買おうとしていたあの人形」
 家政婦の証言にもあったじゃないか、『私を脅すつもり? 何が起きるか分からないとか何とか言って!』という怒鳴り声が聞こえてきたと。それを信じる限り、蓮は件の人形の『何か』を間違いなく知っているのだ。まあそれを聞こうにも、蓮本人は未だ勾留中である訳だが。
「……たく、いったい何を隠してるんだか、ね」
 などと思わずぼやいてしまうエミリア。そうこうしているうちに、他の3人も順次この店へと集まってくるのであった。

●考えをすり合わせて【2】
 さて、アンティークショップ・レンには今現在5人の姿があった。夜神潤、エミリア・ジェンドリン、辻宮みさお、シャルロット・パトリエール、そして碧摩蓮の留守を守っているアリアだ。要するに昨日と何ら変わらない顔ぶれということなのだが、それはさておき。
 揃ってすぐに潤とシャルロットから異口同音に語られたのは、調べてきた所、通いの家政婦のアリバイについては成立していて、裏も取れているということである。蓮が犯人でないのなら次いで有力な容疑者となり得るのは状況から見て家政婦であったのだが、アリバイがある以上は除外されることとなる。別の見方をすると、これでより蓮以外に犯人は考えにくい状況となってしまった訳で……。
「どうしましょう……」
 皆の顔をゆっくりと見回すアリア。すると腹話術師であるみさおの手についていたモヒカン頭の人形――天乃・ジャックが口をぱくぱくさせて喋り出した。
「しょうがねえ、いっぺん別のこと考えちゃどうだ、なっ?」
 そのジャックの言うことももっともで、容疑者やアリバイといった方向を調べてゆくのは現状では壁にぶつかってしまったと言っていいだろう。ならば別方向で調べるとすれば、あのことしかない。
「……人形か」
 ぼそりとつぶやく潤。件の人形のことについては誰もが疑問に感じていた。そもそもこの事件は、その人形を中心として動いているのだと考えてよく。
「人形っていえば、さっきも皆が来る前に喋ってたんだけどさ――」
 そう前置きしてから、エミリアはアリアに話していた内容を再度口にする。あの部屋の中の魔力や霊気が感じられないのは、それらや厄を溜め込んだ物が存在しているのではないか、という推理。そしてその物の候補となるのが、件の人形ではないか……と。
「人形に限らず、そういった性質を持つ物が作用した結果、一時的に枯渇した……か?」
「そういう考え方もありだろうね」
 潤の言葉をエミリアは否定せず頷いた。
「……霊気なりが感じられないのは、何か魔除けのような物があるからでは……?」
 エミリアの話を聞き、みさおは少し思案してから自分の考えを口にした。例えばお札などがあの部屋にあって、霊気や魔力を感じることを阻害しているのではないかというのがみさおの推理であった。
「それも可能性の1つじゃないかしら? ま、でも、改めて調べれば何か出てくるかもしれないけど」
 と言うエミリア。何にせよ、現場には再び行かなくてはなるまい。
「何かあっても、美人の退魔師を初めとした戦力が揃ってんだからどうとでもなるっしょ」
 エミリアはシャルロットを、それから順番に皆の顔を見回してしれっと言い放った。もちろん、何事もなければそれに越したことはないのだが。

●再び現場へ【3】
 一同は再度許可を得て、現場となった部屋へと足を踏み入れていた。昨日訪れた時と違って今日はまだ明るい時間なので、窓からは外の光が差し込んでいた。
「目立つなあ……」
 ぽつりつぶやき、思わず眉をひそめるエミリア。昨日も人形たちにかかっている埃は少なくないと感じたが、太陽光が入ってくるとなおさらそれが目立つのだ。
「……何であれだけ人形欲しがってて、その割りに扱いがこう粗雑なんだか」
「残念ながら、その品を得ることだけに執着する者は少なくないのよ。ええ、それはもう……」
 エミリアの言葉に対し、シャルロットが呆れたように言った。シャルロットはその家柄ゆえ、そのような者を目にしてしまう経験も少なくなかったのかもしれない。そして、被害者の鎌倉裕美は明らかにそういった者の1人であることは、人形への扱いを見ると否定など出来ない。
「今日も感じられませんね」
 アリアの言葉に潤が無言で頷いた。昨日同様、この部屋から霊気や魔力といったものは一切感じられない。決して皆の勘違いなどではなかった訳だ。
「やはり枯渇かな……」
 潤はそう言いながら人形たちに視線を向けた。物言わぬ人形たちはただ潤のことを見つめるばかりだ。
「たく、こんな埃の溜まった中だと、人形にとっちゃ牢獄同然だよ」
 エミリアは近くの人形の顔についていた埃を払ってあげながら、やれやれといった様子でつぶやいた。
「……牢獄……」
 するとシャルロットが何やら思案を始めた。エミリアの言葉に思うことがあったのだろうか?
「ん〜っ? おっかしいな……何もねえぞ?」
「……見付かりませんねえ?」
 ジャックと会話をしながら首を傾げるみさお。入ってすぐ、くまなく部屋を調べ始めたのだが、お札だとか魔除けとなりそうな品は別段見当たらない。いや魔除けに限定しなくとも、怪しい物は見当たらないのだ。となると、霊気などが感じられないのはエミリアの言う通りの理由であるのだろうか?
「ねえ。ちょっと突飛な考えだけど」
 シャルロットが不意に口を開くと、他の者たちの視線がたちまちに集まった。
「……このような扱いに怒った人形が殺したのかもしれないわ。蓮はそのことを被害者に忠告していて――」
 と、その時であった。とても聞き覚えのある女性の声が皆の耳に飛び込んできたのは。
「へえ、たいしたもんだねえ……。よくそこまで辿り着いたもんだよ」
 一同ははっとして声の聞こえた方へと振り向いた。部屋の前、廊下には蓮が元気そうな姿で立っていたではないか!!

●忠告はしたのさ【4】
「蓮……!!」
 驚き目を見張るシャルロット。確かに目の前に居るのは蓮である。ということは釈放されたのか……?
「何だい、あたしがここに居るのがそんなにおかしいかい?」
 ニヤリと笑って部屋の中へと入ってくる蓮。アリアとシャルロットがすぐに近寄ってきた。
「釈放されたのね……! 辛かったでしょう? さあ私の胸に飛び込んでいらっしゃいっ」
 両手を大きく広げ、蓮を迎え入れる準備をするシャルロット。しかしながら蓮は苦笑してこう言った。
「気持ちだけもらっておくさ。弁護士を頼んでくれたのはあんただろう? 皆が色々動いてくれてたことは聞いて……おおっと」
 けれども次の瞬間、蓮はシャルロットによって強く抱き締められていたのである。
「……でも本当によかったわ!」
「どうやら余計な心配かけてたみたいだねえ」
 苦笑いを浮かべつつ、シャルロットのなすがままにされている蓮。そしてアリアの方に顔を向ける。
「留守番ご苦労さんだったね、アリア」
「はい……!!」
 アリアはしっかりと返事をすると、大きく頷いてみせた。そこに潤の質問が飛んできた。
「しかし、どうして釈放に……」
 その疑問はもっともだった。何せ状況は蓮に不利であったのだから。
「おせっかい焼きが居てねえ。わざわざあたしのアリバイを証言してくれたのさ」
「……あら、おせっかいだったかしら?」
 蓮が答えてすぐ、また別の女性の声が廊下から聞こえてきた。直後姿を見せたのは黒猫を抱きかかえた女性――高峰沙耶であった。
「あたしは別にもう2、3日ゆっくりしててもよかったんだけどねえ」
 シャルロットを退け、高峰の方へと向き直る蓮。
「あなたはよくとも、他の人たちはそうはゆかないんじゃないかしら?」
 軽口を叩く蓮に対しそう言い返し、高峰はくすっ……と笑みを浮かべた。
「つまり、犯行のあった時には一緒に居たって訳だ」
 エミリアが蓮と高峰の顔を交互に見て言った。
「そういうことになるねえ」
 蓮が頷くと、高峰が口を開いた。
「でも驚いたわ……。突然弁護士さんが訪ねてきたんですもの、研究所に」
 それを聞いてはっとするシャルロット。蓮の犯行時刻頃のアリバイを得るべく、どうやら弁護士は十二分に働いてくれたようである。
「……あんたを巻き込むのも、ちょっと面倒だったんだよ、沙耶」
 この蓮の言葉で皆は納得するものがあった。アリバイをはぐらかしていたのは、高峰を巻き込まぬための蓮の配慮であったのだと。けれども、そのためだけに勾留され続けるというのはちと腑に落ちない。
「よぉ。てめえ……知ってたろ。例の人形に何があんのか」
 ジャックが口をぱくぱくさせて喋ると、みさおも無言でこくこく頷いた。蓮が釈放されてここに居る以上、知っているのであれば本人の口から話してもらおうではないか。
「ああ、知ってたさ。あの人形は集約器……とでも言えばいいのかねえ」
「厄や霊気、魔力といった類の?」
 エミリアがすかさず突っ込んで尋ねる。
「半分正解だね。周囲の人形の哀しみを集めるのさ。そもそもあれは、ある人形師が作ったものなんだよ」
 と言って蓮は説明を始める。以前にも触れた通り、ビスク・ドールは19世紀ヨーロッパのブルジョア階級である貴婦人や令嬢たちの間で流行した人形である。それは別の見方をすれば、所持することが1つのステータスになったとも言える訳だ。そうなると、『所持すること』のみに熱心な輩がどうしても出てくるのである。
 それを嘆いたある人形師は、『何者か』の手助けにより、やがて自分の作る人形にある呪いを施すようにした。『所持すること』のみを目的とする者たちを裁くために……!!
「呪いの施された人形は、周囲の人形の哀しみを集め続ける。やがてそれが限界に達すると、その人形が持ち主を裁く訳さ」
「……その際に、周囲の霊気や魔力も利用するのか」
「そういうことだねえ。その人形自体に霊気や魔力がある訳じゃない、ただの機構……仕組みだと考えれば分かりやすいかもしれないよ」
 潤の言葉に頷き、蓮はそう言った。しかし今回の場合、人形が持ち主を裁くのに蓮が床から拾って指紋のついていた果物ナイフを使ったものだから、どうにもややこしいことになったのだった。
「あ、じゃあ、鎌倉が怒鳴ったのも、そのことを言ったからか」
「ああ、そうさ。せっかく忠告したんだけどねえ……。人形を殺していたばかりに、自分が人形に殺されることになった訳さ」
 などとエミリアに向かってつぶやく蓮の顔には、何故か薄い笑みが浮かんでいた。
「蓮。……その忠告、素直に聞き入れてくれると思っていたのかしら?」
 そんな蓮の様子に何か引っかかるものを覚え、質問を投げかけるシャルロット。
「さーて。あたしも神じゃないからね」
 ニヤッと笑って答えにならない答えを返す蓮。その態度だけで、蓮がどのように考え行動していたか、おぼろげながら見えるような気がしなくもない。
 かくして無事に蓮は釈放され、1つの事件が迷宮へと入ってゆくこととなったのである……。

【人形殺し【後編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 7038 / 夜神・潤(やがみ・じゅん)
                / 男 / 青年? / 禁忌の存在 】
【 7947 / シャルロット・パトリエール(しゃるろっと・ぱとりえーる)
           / 女 / 23 / 魔術師/グラビアモデル 】
【 8001 / エミリア・ジェンドリン(エミリア・ジェンドリン)
               / 女 / 19 / アウトサイダー 】
【 8101 / 辻宮・みさお(つじみや・みさお)
               / 男 / 17 / 魔導系腹話術師 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全8場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、人形の関係する殺人事件について解決編をここにお届けいたします。もっとも警察にとってはこの先も『解決』はしない事件になることが確定してしまっているのですが……。
・さて、好きであるからその物を集める、というのは別によいことだと思います。しかしながらそれが、その物を集めている自分が好きである、となってしまうとちょっと待ったという話で。被害者の鎌倉の場合、人形への扱いを見ても分かるように明らかにこの後者の方でした。そこに件の人形が加わった結果、自らの生命を奪うことに繋がっていった訳です。
・物には魂が宿るとよく言われます。それゆえ大切に扱ってゆきたいものですね。
・エミリア・ジェンドリンさん、2度目のご参加ありがとうございます。現場の魔力や霊気などが感じられないことへの考察の方向性はまあその通りだったかな、と。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。