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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


奇妙なる連続自殺
●オープニング【0】
「……どう考えてもおかしいよね?」
 真剣な表情で瀬名雫は皆に同意を求めるように尋ねた。その手には、プリントアウトされたネット上の記事があった。
「同じマンションで、2日で5人も自殺なんてする? それも中高生ばかり……」
 そうつぶやく雫の表情は暗い。自分と同じような年頃だから、このような事件は他人事とは思えないのだろう。
 雫が差し出した記事というのは、都下のとある10階建てマンションで相次いで自殺者が出たというものだ。手段こそ飛び降り、首吊り、手首を切る、服薬、走ってきたトラックへの飛び込み……とバラバラであったが、共通していたのがいずれも中高生の少年少女たちだったということだ。ちなみに通っていた学校は全員バラバラで、なおかつ友人関係でもなく、他に共通点も見当たらないとのことらしい。
「何かあるのかなあ?」
 そうして思案顔になる雫。気になるのなら、調べた方がすっきりはするだろう。そう、例え何が待ってようとも……。

●どんな理由があろうとも、生命を断つのは悲しきこと【1】
「……悲しいわね」
 瀬名雫の話を一通り聞き終えて、 シャルロット・パトリエールは伏し目がちにそうぼそりとつぶやいた。自殺した者たちはちょうど自らの妹と同じくらいの年頃、仮にもし妹がそんな真似などしようものなら、いったいどのような感情に襲われてしまうことだろうか――。
「でも」
 シャルロットは改めて記事に目を落とし言葉を続けた。
「確かにただごとじゃないわね、これは」
「けれど、死因も様々で人間関係もなく、共通点といえば同年代というだけ……」
 同じくこの場に居た真行寺拓海が思案顔で言う。
「うん、同年代ってことくらいだよね」
 その言葉に雫が小さく頷くと、拓海が雫の顔を見てこう言った。
「……これだとやっぱりこのマンションに何かがあるとしか思えないよ。早合点かもしれないけど」
「もしくは……何かの意図が働いている可能性があるか、ね」
 拓海の言葉を聞いて、シャルロットがそう付け加えた。
「そう考えると、場所か人か……になるのかなあ?」
 雫が大きく2つに括ってみた。前者であれば運悪く状況がそのようになってしまったとも考えられるが、後者であった場合は人の悪意という物が介在している可能性が出てきてしまう。誰かを自殺へと向かわせることを、悪意と呼ばずして何と言おうか?
「原因をはっきりさせるためにも、詳しい情報を集めないと」
 拓海がそう言うと、雫もシャルロットも無言で頷いた。そして拓海は一足先にマンションとその周辺を調べてみることにし、雫とシャルロットは自殺した者の友人から話を聞くのを試みることとなった。

●その地に立ち感じるのは【2A】
 雫たちと一旦別れ、拓海は件のマンションへと単身やってきた。見た所外観も綺麗で、建ってからそう年月は経っていないように思われる。せいぜい10年ゆくかどうかといった所だろう。しかしながら事件の影響なのか、マンションとその周辺がひっそりと静まり返っているように感じられるのは果たして気のせいだったろうか。
「枝が折れてる……」
 マンションのすぐそばの木にふと目がいった拓海は、その枝が2、3本ほど折れていたことに気付いた。恐らくはこれが飛び降りの痕なのであろう。拓海は自然と手を合わせ黙祷を捧げていた。
(――おかしいわ)
 そんな拓海へ、ルルティアが念話にて語りかけてきた。おかしいって、何がどうおかしいのだろうか?
(汚れてはいても、さほど強い霊力はないというのに……)
 何やらルルティアは、この地の霊力に対し疑問を抱いているようである。
(霊力が少ないの?)
(いいえ。周囲と比較すると、この地の霊力が少し高めなのは事実よ。そしてその霊力に今、汚れが見られるのもまた事実。けれど――5人もの人間を、自ら生命を断つよう駆り立てるような真似が出来るとは私には決して思えない)
 拓海の質問に対し、きっぱりと言い切るルルティア。霊力というのを純粋な力とすると、それが清らかか汚れているかでよくも悪くも転ぶことになる。結果、物事を正にも負にも引っ張ることが出来るのだけれども、その度合はといえばやはり元々の力の大きさに左右されてしまう訳だ。
(でも汚れって……どういった類のなの?)
 拓海がそう尋ねる。この地の霊力の汚れがどのようにして起こったのか、ルルティアは分かるのだろうか。
(恐らくは――悪意。ほんの僅かだけど……純粋なる悪意)
 汚れからルルティアが感じ取ったのは混じりっけなしの悪意。それはつまり、何者かによる介在の可能性か?
(純粋なって……誰がいったいそんな悪意を)
(そこまでは私にも今は)
 大いなる恵みの恩恵を受けているとはいっても、ルルティアだって全てのことを見通せる訳ではないのだ。ただ、普通に生活をしていて純粋なる悪意を放てるとは思えない。何らかの複合要因が発生した結果でそうなったのか、あるいは元よりそのような真似が出来る能力者であるのか――。
(けれど、汚れをこのままにしてはおけないわ)
 ルルティアがまたしてもきっぱり言い切る。さほど強い霊力ではないとはいえ、汚れは汚れ。このまま放置しておくと今後どのように転び、また予期せぬ不幸が起こらぬとも限らない。やはり浄化しておく必要があるだろう。
「……このマンション全体に対してなら、屋上へ行くべきなのかな」
 ぼそりとつぶやく拓海。まあ誰かに見られる可能性も考慮すれば、屋上へ行くのがよいだろう。
 そして拓海は屋上へと向かい、誰も居ないことを確認してから、物陰に隠れてルルティアへと変身をした。
「……この地に2度と不幸な出来事が起こらぬよう……」
 ルルティアは静かにそう言葉を吐き出し祈ってから、自らを中心として穏やかかつまばゆい恵みと浄化の光を全域に放ってみせた。悪しき魔力を消し去る――シャイン・エクスキューションの光であった。
「…………」
 無事に浄化を終えた後、ルルティアは凛とした表情でしばし屋上からの風景を見つめていた。拓海と同じような年代が自ら生命を断ったというのは、例え浄化を終えようともやり切れなさなりが残る訳で……。

●降霊【3】
「電話でも言いましたけど、この場所が問題という訳ではないように思えます」
 件のマンションにて合流してすぐ、拓海がシャルロットと雫に伝えた。このマンションが建つ前はどのような場所であったのか、自殺した者たちの人柄はどうだったのかなど、調べられる範囲で拓海は調べていたのである。
 その結果、この地が過去曰く付きの場所であったこともなく、また自殺した者たちの人柄がよくなかったということも聞かず、ということが分かったのであった。
「管理人さんにも話を聞いてみましょうか」
 と言って、シャルロットは管理人へ話を聞きに行く。最初は話を渋っていた管理人であったが、少し色目なり使ってみた結果、シャルロットと無事話をしてくれた。けれども、特にこれといった情報を得ることは出来なかった。
「……噂もなし、ね」
 管理人室を後にし、シャルロットがぼそりとつぶやいた。場所に曰くはない、周辺に噂もない、自殺の理由に共通項も未だ見付からない……このままでは手詰まりである。
「なら……本人にも聞いてみましょうか」
「えっ?」
「はいっ?」
 さらなるシャルロットのつぶやきに、思わず雫と拓海が聞き返した。
「屋上へ行きましょう」
 とだけシャルロットは言って、すたすたとエレベーターの方へと向かう。雫と拓海も慌ててその後についていった。
 屋上へ出ると、シャルロットはゆっくりと周囲を見回してから微笑みを見せた。
「余計な物もなく場が安定しているわ。これなら邪魔されることもなさそうね」
 そう言うと、シャルロットは何かを取り出して拓海と雫へとそれぞれ握らせた。それはルーンの刻まれた石であった。
「もし私が危険な状態になった時、私に投げればいいわ。そうすれば霊を追い出せるはずよ」
「……霊を?」
 拓海が手の中の石とシャルロットの顔を交互に見ながら尋ねた。
「そう。今から、自殺した子の霊を私に憑依させるから」
 それはシャルロットの操るセイズ魔術。自らをトランス状態とし、その身へと降霊させるものである。
「念のため、少し離れていてね。質問は任せたから」
 2人へそのように伝え、シャルロットは屋上の中央部へと歩いてゆく。そしていくつか準備を施すと、セイズ魔術を行使した。
 その瞬間までは2、3分もかからなかったのではないだろうか。けれども、シャルロットの様子を息を飲んで見守っていた拓海と雫にとってはそれ以上の長さにも感じられたかもしれない。
「うう……」
 不意にシャルロットの口から声が漏れてきたのである。
「……うう……あ……く……まぶしい……」
 漏れてきた声を聞いて、拓海と雫が顔を見合わせた。これはもしや、霊が降りてきたのだろうか。
「……ここは……? 屋上……? どうして……? トラックは……?」
 これを聞いて2人ははっとする。内容からすると、降りてきたのはトラックへ飛び込んだ少女の霊ではないか?
「あのっ……こんにちは。あなたはもしかして――」
 雫が口を開き、降りてきたと思しき霊の名前を呼んで確認をした。
「……ええ、私よ。でもあなたたちは……? 私はどうしてここに……?」
「あなたにどうしても聞きたいことがあって来てもらったの」
 雫は静かにそう言うと、少し思案してから質問を切り出した。
「いったい……何があったの?」
「…………」
 シャルロットへと降りてきた少女の霊は答えない。
「誰かが、そそのかしたんですか……?」
 続いて拓海が尋ねるが、やはり少女の霊は黙ったまま。と思いきや、10数秒ほどの沈黙の後、口を開いたのである。
「……声が……」
 ――声?
「『自らの心に従いなさい』って声が……だから私……私……トラックに……! だってあの人が……あの人に彼女が居たなんて私知らなかった……!!」
 シャルロットの両目から涙がぽろぽろこぼれ落ちる。それは少女の霊が流している涙であった……シャルロットの身体を借りて。
「あ……!」
 雫が思わずシャルロットの方へと駆け寄った。そして背中に回り込むと、そっと抱き着いたのである。
「もういいよ……! もう話さなくていいから……! ごめんなさい、嫌なことを思い出させちゃって……」
「……私……私何て馬鹿なことを……」
 シャルロットの身体を借りて泣き続ける少女の霊。その前にいつの間にか来ていた拓海は、無言ですっと空を指差して頷いた。
「うん……いつまでもここに居ちゃいけないんだよね……分からないけど分かってた……ありがとう……」
 その『ありがとう』の直後、突然シャルロットの体勢ががくんと崩れた。前からは拓海が、背後からは雫が慌ててそれを支える。恐らく降りてきていた少女の霊がシャルロットより離れたのであろう。
 シャルロットを支えながら空を見上げる拓海と雫。東京の空は青く澄んでいた――悲しいほどに美しく。

●偶然とは呼べない【4】
「……声が聞こえたですって?」
 呼吸など落ち着いてから、そのまま屋上にて降霊中の出来事を聞いていたシャルロットは怪訝な表情を見せた。
「う、うん。『自らの心に従いなさい』って声が聞こえたんだって……」
 戸惑いながらも話を続ける雫。するとシャルロットは鋭く言い放った。
「同じだわ」
「え、何がっ?」
 雫が聞き返してきたので、シャルロットは拓海と雫に向けて以前の出来事を話して聞かせた。妹とともに自殺しようとしていた少女を助けた際、自殺をしようと思った前に声が聞こえてきたと語っていたことを……。
「その彼女にも『自らの心に従いなさい』って声が聞こえたそうよ」
「ちょっと待ってください! ……時期が違うのに、同じ声が聞こえたんですか?」
「ええ」
 拓海の問いかけにシャルロットは大きく頷いた。
「だからこれは何かの意図――いえ、誰かの意図が働いているに違いないと私は思う。いくら何でも、こんな偶然はあり得ないもの」
 と言ってシャルロットは厳しい表情を浮かべた。
 いったいそんな悪意ある真似をしたのは何者なのであろうか? その姿は見えない……。

【奇妙なる連続自殺 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 7947 / シャルロット・パトリエール(しゃるろっと・ぱとりえーる)
           / 女 / 23 / 魔術師/グラビアモデル 】
【 8048 / 真行寺・拓海(しんぎょうじ・たくみ)
              / 男 / 16 / 学生/ルルティア 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全5場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせいたしました、ただの連続した自殺とは思えない出来事を調べてみた結果をお届けいたします。妙な方へと転がりましたねえ……。
・一応繋がりが分からない方へ向けて補足しておきますと、本文中で触れている以前の出来事というのは高原が神聖都学園で出した『汝、その身を投じるなかれ』ですね。それが何故かこちらへも繋がっている……何とも不思議ですよねえ?
・とりあえず、どちらもその裏には何者か蠢いている気配があるみたいですが……さてさて。
・真行寺拓海さん、3度目のご参加ありがとうございます。マンションに何もないということはありませんでしたが、原因としてはマンションではなく。ですが、浄化を行ったことにより、この後何かの拍子で負の方へ引きずられる者は出ないと思われます。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。