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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


【虚無の影】慌ただしき周辺
●オープニング【0】
「嫌な兆候だな……」
 草間興信所の所長である草間武彦がしかめっ面でそんなことをつぶやいたのは、次第に春を感じるようになってきた3月下旬のことであった。
 何故に草間がこういうことを口にしたのか。それは先日たまたま受けた依頼が、実はIO2と虚無の境界が絡んでいたものであったからである。
 そのことを何気なく月刊アトラス編集長の碇麗香に話すと、妙な反応を返された。何でも、麗香が調べてもらっている事柄にもIO2が関わってきているというのだ。
 おまけに聞く所によると、瀬名雫もまたIO2との接触があったという。……この状況は単なる偶然と言い切れるものなのだろうか?
「変ですね。何だか……慌ただしくなっているような」
 草間から一連の話を聞かされた草間零も、この状況に首を傾げる。もしかすると零の脳裏には、去年霊鬼兵・Ω――エヴァ・ペルマネントから伝えられた言葉も浮かんでいたのかもしれない。
「零。動けそうな奴らに連絡を取ってくれ。どうにも気になる。……素直に後手に回るしかないのもあれだからな」
「あ、はい」
 草間に言われて電話の受話器を取る零。IO2、そして虚無の境界……いったいともに何を考えて動いているのだろうか。ひょっとすると自分が把握していないだけで、もっと前からあれこれと兆しはあったのではないか――?

●日記に秘められた物【1B】
「日記の実物を見せてほしい……ですって?」
 碇麗香は目の前に立ちそう口にした夜神潤の顔をじっと見返した。月刊アトラス編集部での出来事である。
「伊達八郎のことを知りたいんだ」
 と静かに言い放つ潤。伊達八郎とは月刊アトラスが調べている日記を書いた人物で、大正時代に男爵として東京に名前の見られた自称博士のことである。彼はその日記の中にて、霊力で空間を引き寄せるなどと書いているのだが……。
「そう。別にいいわよ。ああ、ただ編集部から持ち出さないでよ。コピー取る場合は丁寧にね」
 そう言って机の鍵を開けると、麗香は件の日記を取り出し潤へと差し出した。ただちに受け取り裏表と日記の外観を潤は確認した。別段何も感じはしない、ごく普通の日記帳だ。
「…………」
 潤は無言で近くのソファに腰を下ろすと、さっそく日記を開いてみた。傍目には潤が黙々と日記を読んでいるように見えたことだろう。それも間違いではないのだが、潤は並行して日記に対するリーディングをも行っていたのである。
 それにより見えてくるのは人の顔だった。最初に見えたのは麗香の顔、そして次には小柄で細身の肌の色つやもいい好色そうな還暦過ぎの男の顔が見える。確かこの日記、麗香は谷口重吾という作家から譲り受けたと聞いている。ということは、潤に今見えてきているのは過去の所有者の顔ということになるのだろうか。
 その後とんとんとんっと細かく顔が移り変わり、一瞬の暗闇が訪れる。それが晴れた後に見えたのは眼鏡をかけた中年男性。そして最後に見えしは――紫鮮やかなリボンで髪を結った女学生の姿であった。
(……最後の娘は……)
 日記に対するリーディングを終え思案する潤。眼鏡をかけた中年男性が恐らくは伊達八郎なのではないかと見当をつけるが、最後に見えた女学生は何者なのであろうか。しかしその疑問は、日記を読むことですぐに氷解した。
「娘か……」
 日記には娘が反発していることと、そんな娘に入れ知恵をしたと思しき女性へ8月の頭に凌雲閣で会って抗議をしたという記述があったのである。けれどもその一方、誰それから協力を受けただとか、誰々と会ったなどという記述は見られない。先述の女性の一件のみ例外で、普段は他人と会うことを嫌っていたのであろうか?
(日記が書かれた時、伊達八郎が虚無の境界なり何なりと接触するような機会はなかった……と考えるべきか?)
 などと潤は思ったものの、最近の自身の関わった事件と、この伊達が霊力で空間を引き寄せようと研究していたことを考慮すると、全く無関係なんだともどうも言い切れなく。
「糸がもつれている」
 思わず潤の口からそんなつぶやきがこぼれるのであった……。

●それを関連付けて考えるか否か【2】
 草間興信所には草間武彦より連絡を受け、時間の都合がついた者たちが集まっていた。今ここに居るのは草間と草間零を含め7人だから、5人訪れていることになる。順に、ミネルバ・キャリントン、真行寺拓海、夜神潤、天薙撫子、そして撫子の従妹の榊船亜真知といった面々である。
「撫子さんが持ってきてくださったんですよ」
 と言って零が茶とともに桜餅を皆に配る。いつものように着物姿な撫子は皆の視線を感じて、微笑みと会釈を返した。
「まあ、何度か情報交換をする必要はあると思ったんだ」
 草間が皆に向けて言った。草間興信所が、IO2や虚無の境界が絡んできた事件に関わったことは少なくない。正確に言うならば、関わった事件のいくつかがIO2や虚無の境界絡みであった、とすべきなのだろうが、それはそれとして。
 草間興信所だけでそうなのだから、月刊アトラスやゴーストネット、その他含めるとどれだけの事件が起きているのか、全体像を把握することはなかなか難しい。ゆえに1度の情報交換だけでは追っ付かないと草間は判断したのである。
「あ、あの……」
 桜餅の載った小皿を手にした拓海が草間の方へと顔を向け口を開く。
「ん、どうした?」
「IO2とその、虚無の境界というのは、そんなに以前から関わりが……?」
 草間に質問を投げかける拓海。IO2と虚無の境界の存在については先日関わった事件において多少なりとも把握したのだが、草間興信所などはいったいいつからそれら組織との接点が生まれるようになったのか、ここに出入りし始めてまだ日の浅い拓海には分からなかったのだ。
「……ま、色々とな」
 ぼそりつぶやき苦笑いを浮かべる草間。
「俺としてはどちらとも関わり合いになりたくないんだがな、出来れば」
「ですが、そうは仰られましても避けて通れないのも今の現状では……」
「ああ。だからこそ皆に協力を頼んだ訳だ。連絡した時にも言ったと思うが、後手に回らないためにな」
 草間が撫子の言葉に頷いた。オカルト絡みは出来ることなら敬遠したい草間ではあるが、だからといって虚無の境界などに振り回されるのもしゃくな話で。だったら何か起こったらすぐに動けるよう準備しておこう、と草間が考えても何ら不思議な話ではない。
「で――今の所、何か分かったことがあるか?」
「月刊アトラスの方でのことですけど」
 ミネルバが小さく手を挙げ口を開いた。
「伊達八郎博士の在学記録を正式に確認してきたわ」
「……ああ、よく知らないが日記を書いた男爵とやらか」
 伊達八郎は大正時代に男爵として東京に名前の見られた自称博士で、月刊アトラスが現在調べている日記を書いた人物である。草間の耳にもその話は入っていたようで。
「待て。正式にってどういうことだ?」
 草間が聞き返すと、ミネルバはそれまでの経緯を説明した。まずミネルバの前に伊達の在学記録を大学の図書館のパソコンで調べた者は、記録を発見することは出来なかった。次にミネルバが調べた際、高峰心霊学研究所にて見付けた別の事件のファイルの中に伊達の在学の記述があった。そして今回、ミネルバは大学の図書館に足を運んで原本をこの目で確認してきた結果、伊達の在学の記録を発見した。原本に記録がある以上、これが正式な物となる訳だ。
「なるほどな。しかし何で最初の時は記録が出てこなかったんだ?」
「……それについては、後日はっきりするかもしれないわ」
 とだけ草間の疑問に対し答えるミネルバ。すでに頭の中には理由は浮かんでいるようだ。
「伊達八郎といえば、だ」
 ミネルバの話が一段落し、今度は潤が口を開いた。
「娘が1人居るのが分かっている」
 その言葉にミネルバが視線を向けた。確かに件の日記にその記述はある。伊達に反発していたというその娘、言われてみれば関東大震災以降に伊達の存在が確認出来なくなってからどうしているのだろうか?
「当時女学生だったようだが……その系譜を辿ることが出来れば、もう少し伊達に迫れると思うが」
 と言って思案顔になる潤。伊達の子孫が存在していれば、そちらから調べることも可能ではあるのだが……。
「日記にそれらしい記述はなかったのか?」
「いいえ、全く」
 草間の疑問に答えたのはミネルバであった。次いで潤も再び口を開く。
「面白いくらいに他人と接触したような記述がない日記だった。目についたのも、その娘に入れ知恵したらしい女性へ8月の頭に凌雲閣で会って抗議をした程度で」
「そうか。じゃあ日記から調べるのは無理だな。だからといって、戸籍全部調べるのは不可能だしな」
 やれやれと溜息を吐く草間。そもそも戸籍全部調べることが出来たとしても、かかる時間を考えると間違いなく現実的ではない。だいたい子孫が存在しているかどうかも定かではないのだから。
「日記を見た限り、伊達が虚無の境界と接触するような機会もなかったようだしな……」
 そう潤が言うと、それまで黙々と桜餅を味わっていた亜真知が話に加わってきた。
「いいえ。そもそもそれはあり得ないようですわ」
 亜真知の言葉に皆の視線が集まった。
「虚無の境界の設立は30年ほど前という話ですから、大正時代にはまだ存在していなかったはずです。そしてIO2も戦後の設立のようですから同じくです」
 静かに言葉を続ける亜真知。草間が尋ねてきた。
「……どうやって調べたんだ、そんなこと?」
「わたくしのお手伝いをしていただいていますから……情報の整理の」
 それに答えたのは撫子である。そういえば撫子の実家は神社だから、あれこれとその方面の伝手もあったはずだ。こういった情報を耳にしていても別段不思議ではなかった。
「……なるほどな。だがそうなると、伊達とやらの自称博士はあまり関係ないんじゃないのか?」
「アルベルト・ゲルマーっていうIO2の捜査官が出てきているのに?」
 くすっと草間に微笑みを向けるミネルバ。先述の高峰心霊学研究所を訪れた際、出てきたミネルバの前にアルベルト・ゲルマーが姿を見せたのである。もっともアルベルトが何の件で動いているかは不明なのだが。
「あの男も居るのか……ま、当然っちゃ当然か」
 アルベルトの名を聞いて草間が苦笑いを浮かべた。
「しかし……IO2の動きが活発だということは、それ以上に虚無の境界の動きが盛んだということでもあるよな。たく、奴らの目的は何なんだ」
「それについては1つ、ないこともない……が」
 思案顔で潤がつぶやいた。
「何だ、言ってみろ」
「先日の駐車場の一件に、IO2と虚無の境界が関わっていたのは事実だ」
 この潤の言葉に、草間や零、そして拓海にミネルバも頷いた。潤を含め5人とも、その一件に関わっていたのだから。
「IO2はそれ以前に、時空の歪みが起こった場所を調べていた。江戸時代と時空を越えて繋がった事件があったからだ」
 そう言い潤は、ゴーストネット絡みであった江戸時代と繋がった一件について簡単に説明する。ミネルバはIO2が調べていた際にその場に居合わせているし、その理由となった一件も親友や従妹から話を聞いて知っていたが、他の者たちは初耳であったことだろう。
「そんなことがあったんですか……江戸時代と」
 驚いたようにつぶやく零。潤の話はまだ続く。
「そして伊達の日記にある、霊力で空間を引き寄せる実験。最後に――エヴァの言っていたニーベル・スタンダルムの件」
「ほほう。興味深いな、そうやって並べられると」
 草間が潤に向かってニヤリと笑ってみせた。
「……全てを関連付けて考えるのは少々乱暴過ぎるかとも思ったが。けれども全てが関連していないとも俺には言い切れない」
「同感だ。このタイミングでそうやって並んでるのは、どこかしら意味はあるんだろう」
 潤の言葉に草間が同意する。
「博士の研究していた霊力で空間を引き寄せるというのは、時空を越えることとも考えられなくもないわね」
 ミネルバもまた、その点においての類似性に着目する。ただしかし、伊達の研究が成功しているのかどうかは現時点において全く定かではないのだけれども。
「……とりあえず今日はこの辺でお開きにしておくか。今日のことを参考にして、またもう少し調べてきてくれるか?」
 ややあって草間が皆に向け言った。かくして最初の情報交換は終わったのであった。

●事象の繋がり【4】
 そして日を改めての、草間興信所での再びの情報交換。先日同様草間と零の他、5人が勢揃いしている。
「あの後、エヴァが現在どうしているか気にかかって、足取りを調べてみたんだが……」
 そう切り出したのは潤であった。
「どうやら今は東京に居ないようだ。フェリーターミナルまでは辿れたんだが、ぷっつりと後を追えなくなった」
 と言い小さな溜息を吐く潤。
「そうか」
 とだけ答える草間。零はといえば無言で視線を足元に落としている。けれどもその事実は現在起きている事柄にエヴァ・ペルマネントが関わっていないことを意味し、それはまた以前エヴァが語った内容の真実性をなお裏付けることにもなった。
「こっちも例の駐車場や時空を越えた場所をもう1度巡ってみたけれど、何事もなかったわね。目立つように動いていたら誰かさんが動き出すかと思ったのだけど」
 ミネルバはそう言ってから、思い出したように1つ付け加えた。
「そういえばあの大学、システムにハッキングされた痕跡が見付かって大騒ぎみたいだわ。……記録がなかったのは、つまりそういうことじゃあないかしら?」
 くす……っと笑みを浮かべるミネルバ。なるほど、何者かが伊達の在学記録を消したということか。それはつまり、伊達の存在を調べられると困る何者かが居るということでもあり……。
「1つ……気になることがあったんですけど、構いませんか?」
 拓海が草間に尋ねた。草間が無言で頷いたのを見てから、その気になることを拓海は口にする。
「先日、奇妙な連続自殺の起きたマンションを調べに行ったんですが……」
 それは都下のとある10階建てマンションでの出来事だった。その地の霊力は純粋なる悪意により少し汚されていたのが確認され、かつ自殺した者の1人である少女の霊の口からは『声が聞こえた』という言葉が出ていた。
「『声が聞こえた』ことについては、その時一緒に調べた方が別の自殺を止めた際にも同じことを言われたらしく」
「声……!」
 拓海のその言葉を聞いて、はっとした撫子の顔色が変わった。草間が撫子へと怪訝な視線を向ける。
「おい、どうした?」
「……草間様、覚えておられませんか。金沢での……大神家にまつわる事件を……」
「ああ忘れるものか。何せ誤認逮捕され……」
 そう言いかけて草間もまたはっとする。
「……そういえば女の影がちらつくって言ってたか、あの事件の裏で」
「はい」
 静かに頷く撫子。大神家にまつわる事件というのは金沢で起きた殺人事件で、月刊アトラスの碇麗香をも巻き込んで東京でも関連事件が起きた件である。その事件の関係者の裏で、1人の女性の影がちらついていたのだ。
「実は今日、ここでお話ししようと思っていたこととも結び付くのかもしれませんが」
 撫子はそう前置きして話を続ける。以前全国の神社で奇妙な侵入者があった事件を調べ直していたのだが、その最後の事例は東北地方のとある神社であり、その時期は件の侵入者の発生もまた東北地方に偏っていたという。
「実はその頃、東北地方の霊気もまた不安定になっていたというんです」
 皆の視線が話を続ける撫子へと注がれる。その話の意味する所を皆が分かっているからこそ視線が集まるのだ。首都圏だって今、どうも霊気が不安定になっているようだから……。
「草間様」
 撫子が改めて草間の方へと向き直った。
「大神家の事件の際、邪気に関することについてわたくしが口にしたのを覚えておいでですか」
「……ああ、言ってたな」
「あの時、些細なことで事件を起こしたように思えるのがいくつかありました。時期的にはちょうど事件の少し前……その女性が金沢を訪れていたのではないかと思しき時期……。金沢の邪気が祓われたのも事件解決とほぼ同じくして……」
 撫子は1度深呼吸をしてからなおも話を続けていった。
「金沢にて、些細なことで事件を起こした者たちは一様に『そうするべきだと思った』と一様に取り調べの際、口にしたと伺っております。それはまた大神家の事件においても同様の供述があり、真行寺様が今仰られたことでも……」
「……そ、それが全て同一人物の仕業だと……?」
 拓海が尋ねると撫子はこっくりと頷いた。
「金沢での出来事の後、わたくしはしばし後を追いかけました。日本全国を点在して……。そのことがありますから、とても別人であるとは思えなく……」
 うなだれる撫子。別人ではないならば、それだけただ1人が様々な事件で暗躍してきたことになり……何とも忌まわしい結論となってしまう訳で。
「そうなると、あれか。霊気とやらを不安定にさせているのも、その女が原因だってことになるよな」
 草間の言う通りだろう。女性と霊気の不安定という事象の間には関連性があると考えるべきだろう、撫子の考えを受け入れるなら。
「……実はもう1つお知らせしたいことがあるのですが。撫子姉様、代わってお話ししてもよろしいでしょうか?」
 それまで黙っていた亜真知が口を開き、撫子に確認を取った。撫子が小さく頷いたのを見て、亜真知はそのもう1つのことを話したのだが――。
「伊達八郎博士の子孫が判明いたしました」
 この亜真知の言葉は、まるで爆弾のようであった。たちまち撫子以外の皆の視線が亜真知へと集まってくる。
「判明したって、どうやって――」
 反射的に尋ねるミネルバ。手がかりという物は特になかったはずなのだが、だのに何故どうやって調べ上げたというのか?
「……ほんの偶然だったんです」
 困ったような微笑みを浮かべる亜真知。
「以前のことですが、あやかし荘に悪霊を祓おうと1人の巫女の方が訪れられました。名は光明院綾香様、全国を回る流れ巫女とのことでした。少々ありまして、綾香様は撫子姉様を通じてご紹介いただきました神社にて、巫女としての修行を行われることとなったのです」
「まさかその巫女さんが……か?」
「はい」
 草間の言葉に亜真知はきっぱりと答えた。
「綾香様の祖先を辿ると、博士のお嬢様であると思しき方に行き当たりました。駆け落ち同然で結ばれたという方がその時代に居られたのです。名は真綾様と仰られます」
「……今は紹介されたという神社に?」
 潤がそう尋ねるが、亜真知はゆっくりと首を横に振った。
「そちらの神社で修行を積みつつ、時折流れ巫女としての修行も続けておられまして、今はそちらの修行の方へ……」
 要するに今はその神社に居ない時期だということだ。
「ですが写真はこちらに」
 と言って亜真知は綾香の写真を草間に渡した。そこには巫女装束に身を包んだ黒髪長髪の少女が映っている。16歳前後といった所か。右手には祓具がしっかと握られてもいた。
「親なんかとは連絡取れないのか?」
 写真を見ながら草間が亜真知へ尋ねた。
「その……実はすでに親類縁者は亡くなっておられまして……」
「……おい、じゃあ今までどうやって生活してたんだ、その娘」
「ですが遺産の方はそれなりにあったようで、経済的には困ることはなかったようです」
 草間の突っ込みに対しそう答える亜真知。
「経済的に困らないといっても何だ……あれだなあ……」
 何となく釈然としない物を抱えつつも、亜真知の説明に草間は一応納得した。そして順番に写真を皆に回してゆく草間。零が見て次いで拓海、それからミネルバへと渡り、最後は潤である。写真を受け取った潤は、無言でじーっと見つめていた。
「さっきの女性の話だけど」
 ミネルバがぼそっとつぶやいた。
「霊気が不安定なことに関係しているのなら、虚無の境界との繋がりも考えないといけないのかしら?」
「だな。関係ないのなら、それはそれで面倒な相手だと思うが……」
 草間はミネルバの言葉に頷き渋い表情を見せた。全く、オカルトという奴は草間にまとわりついて離れてくれそうにない――。

●重なりし面影【5】
(面影が……ある)
 ミネルバと草間が話している間も、潤は写真の綾香を見つめていた。綾香の顔をただじーっと。
(……あの女学生の)
 潤は綾香の顔にある女学生の面影を感じ取っていた。それは日記をリーディングした際、最後に浮かんできた女学生の顔である。あの女学生が伊達の娘であれば、当然その血を引いている綾香にその面影が出てきても不思議ではない。別の言い方をすれば、亜真知が話したことがそれだけ信頼出来るということでもある――。

【【虚無の影】慌ただしき周辺 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
         / 女 / 18 / 大学生(巫女):天位覚醒者 】
【 1593 / 榊船・亜真知(さかきぶね・あまち)
  / 女 / 中学生? / 超高位次元知的生命体・・・神さま!? 】
【 7038 / 夜神・潤(やがみ・じゅん)
                / 男 / 青年? / 禁忌の存在 】
【 7844 / ミネルバ・キャリントン(みねるば・きゃりんとん)
                / 女 / 27 / 作家/風俗嬢 】
【 8048 / 真行寺・拓海(しんぎょうじ・たくみ)
              / 男 / 16 / 学生/ルルティア 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全9場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。ここに様々な事件が絡み合った調査結果をお届けいたします。
・過去の事件が関わってくる以上、色々と事件に関わってきた方々がカードをあれこれと持っていることになるのですが、それを差し引いても皆さんこれぞということをつかんでいたように思います。おかげでいくつかの事実をようやく表に出すことが出来ました。
・今回のお話と関係する高原のお話のタイトルを、順不同で挙げておこうと思います。漏れもあるかもしれませんが……『大神家の一族』シリーズ7本、『奇妙な死体』、『水晶の杯』、『悪霊退散!』、『【虚無の影】姉妹』、『汝、その身を投じるなかれ』、『助太刀いたす!』、『雫と黒ずくめの男たち』、『とある博士の日記より』、『とある博士を追いかけて』、『見張られた駐車場』、『奇妙なる連続自殺』……とりあえず18本ですかね。なお、関係が確定していないお話のタイトルはここでは挙げていません(それはつまり、他にも存在するということでもあります)。
・夜神潤さん、8度目のご参加ありがとうございます。何気に今回の日記に対するリーディングは大きな成果だったかもしれません。話が転がった結果、意外な情報が表に出てきましたからね。あとさすがに東京全体へのリーディングは時間との関係で難しかったです、発想は悪くなかったのですが……。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。