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<東京怪談ノベル(シングル)>


『鬼との邂逅・3』





――ガッ!!


「あっ‥‥!!」


――ドガッ!!


「ぐっ‥‥!!」


――メキャッ!!


「‥‥ああっ!?」


 地下室に、鈍い音が断続的に木霊する。
 その度に、何処か艶のある琴美の悲鳴が響き渡った。

「‥‥ふん、中々しぶとい奴だ」

 拳についた返り血をうざったそうに払い落とす鬼鮫。
 その眼下には、ボロボロになった琴美の姿があった。

「さて、俺としてはそろそろおまえに止めを刺して、久々の休日を楽しみたい所なんだがな」
「く‥‥う、ああああああああああああっ!!」

 琴美は伸び上がるように跳ね起きると、逆手に持ったクナイを矢継ぎ早に繰り出す。
 だが、それは既に精彩を欠き、本来の鋭さを失ってしまっていた。
 その殆どが鬼鮫によって払いのけられ、運よく傷を付けられたとしても、一瞬にして塞がっていく。


――そして、その攻撃の倍ほどの数と威力の拳と蹴りが、琴美の体に襲い掛かる。


 彼女の優れた動体視力は、その全てを視認する事が出来た。
‥‥しかし、皮肉にも体が反応出来ず、防ぐ事が出来ない。

「いやあっ!!」

 またしても鬼鮫の拳が琴美を捕らえ、容赦無く吹き飛ばした。

「ふん‥‥中々いい眺めだな」
「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥ッ!!」

 懸命に立ち上がる琴美――その姿は、既に半裸と言っても良かった。
 度重なる攻撃に、彼女の纏う服はビリビリに破かれ、最早服としての用を成していない。
 下着は露になり、手足の美しい白磁の肌が惜しげも無く露になってしまっている――無論、その肌は傷と痣に塗れているが。
 しかし、あちこちが腫れ上がり、傷だらけになっても尚、彼女が放つ匂い立つ魅力は損なわれていなかった。

「これが普通の男だったら、『お楽しみ』と行く所だろうが‥‥生憎、俺はそんな事に興味は無くてな」


――だが、彼女の目の前に立つ男は、ただひたすら戦いと殺戮を求める魔人だ。


 如何なる男も骨抜きにし、肉欲の虜にする事が出来る『女の武器』など、この男に対しては何の意味も成さないのだ。
 だから、琴美は尚もクナイを手に抵抗を試みる。

「う、あああっ!!」
「本当にしぶといな‥‥まぁいい。これはこれで余興になる」
「‥‥ぐっ!! う、あ‥‥」

 再び放たれた鬼鮫の拳が鼻先に叩き込まれ、鼻血を噴き出して悶える琴美。
 何時しか鬼鮫の顔には、サディスティックな笑みが浮かんでいた。



(「強い‥‥!! 強すぎる‥‥!!」)

 何とか致命的な攻撃を捌きながら、琴美は鬼鮫の本当の実力というものを思い知らされていた。


――凄まじい数の戦闘経験に裏打ちされた、ただ殺戮に特化した戦闘スタイル。


――多少のダメージなどものともしない強靭な肉体と、それを最大限に引き出す戦術。


 小手先の技術など歯牙にもかけない、純粋な強さの具現がそこにあった。
 琴美のようにただ早く、技術が優れているだけでは‥‥勝てない。

(「けど‥‥!!」)

――琴美は、任務の為に決して負けられないのだ。
 例え死んでも任務を遂行する‥‥それが忍者なのだ。


(「相打ちでもいい‥‥代わりにその命を貰う!!」)


 生き残った拳にクナイを握り締めると、琴美は最後の力を振り絞って、地面を蹴った。

「ああああああああああああああっ!!」
「無駄な足掻きを‥‥」

 突き出されたクナイは易々といなされ、そのまま腕を極められる。


――ゴキュッ!!


 肘があり得ない方向に捻じ曲がる‥‥だが、琴美は止まらなかった。
 痛みに耐えながら大きく仰け反ると、たわわに実った胸が大きくゆれ――その谷間からクナイが一本飛び出した。
 そして、空中でそれを咥えると、全身を使って鬼鮫の首筋へと振り下ろす。


――だが、琴美の決死の一撃が届く事は無かった。


 その前に、踏み下ろすかのように繰り出された鬼鮫のブーツの踵が、琴美の膝を破壊していたのだ。

「う‥‥あ‥‥」
「発想は中々だったが‥‥詰めが甘かったな」

――尻餅を付き、表情を絶望に染める琴美。
 そんな彼女のこめかみ目掛けて容赦なく叩き込まれた鬼鮫の回し蹴りは、微かに残っていた琴美の戦意を、粉々に打ち砕いた。




「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥」

 力無く倒れた琴美の体は汗に塗れ、まるで情事の後のように上気していた。
 常人ならば劣情を催しかねない光景を目にしても、鬼鮫の瞳はまるで氷のようだ。

「さて‥‥本当だったらこのまま殺してもいいんだが、考えてみればおまえが何処の誰だか分からなかったな」

 琴美の髪の毛を掴んで引き起こす。
 その目は虚ろながらも、奥には殺意や怒り、悔しさなどが綯い交ぜになった強い光がある。

「――答えろ。おまえは誰だ? 誰に頼まれた? バックについてる組織は何だ?」

 矢継ぎ早に投げかけられる鬼鮫の問い――それに、琴美は血と歯の欠片が混じった唾で答えた。
 ピチャリ、と鬼鮫の頬に吐きかけられる。

「‥‥その強情が、何時まで続くか見物だな」

 吐きかけられた液体を舌で舐め取りながら、鬼鮫は楽しげに口の端を吊り上げる。



――そして尋問という名の拷問を行うべく、鬼鮫は琴美の髪の毛を掴んだままずるずると引きずり、地下通路の奥へと消えていった。





〜ライターより〜
この度は発注して下さりありがとうございます、ドクで御座います。
はっきりとした色っぽいエロスな描写というものを今まで書いた経験が殆ど無かったため、かなり苦労しました‥‥^^;
バッドエンドがご所望という事でしたのでかなり痛めつけてしまいましたが、ちょっとやり過ぎてしまったかも‥‥と少し不安です(汗

自分としては、鬼鮫の容赦の無さが伝わればいいなー、と思って書きました。

宜しければ、今後とも宜しくお願い致します。