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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ 本日、家族が増えました +



 それはある休日、和泉 大和(いずみ やまと)と御崎 綾香(みさき あやか)の二人が商店街に買い物に行った帰りの事だった。
 彼らは婚約中の仲で、綾香は大和の家に通い妻のような形でしょっちゅう訪れており、今日も愛しい彼の為に何か食事でも……と思っていたのだが。


「カー助!?」


 不意に大和のペットである白鳥のカー助が騒がしく鳴きながら帰宅途中の二人の前に降り立ってきたのだ。それもやけに騒がしく鳴きながら。
 カー助は昔大和が保護した白鳥で、きちんと飼育許可も取ったれっきとした「ペット」であり、「家族」だ。彼は非常に頭のいい白鳥で放し飼いにしておいても決して自宅の敷地外を出ない。いや、今まで出た事が無かった、と言うほうが正しい。何故ならば今現にカー助は普段ならば出ない敷居の外に居るのだから。


 大和と綾香はそれを知っているからこそ一体何事かと顔を見合わせる。
 カー助が思わず飛び出てくるような事態――例えば泥棒にでも入られたのかと一瞬焦る。だが当のカー助の様子を観察しているとどうもそれとは違うようだ。
 少し飛んでは降りて鳴き、また少し飛んでは降りて鳴いて……それはまるで二人を何処かに誘導しているかのような動きだった。もし泥棒などに侵入されていればこんなじれったい動きは恐らくしないだろう。もしカー助が白鳥ではなく犬だったならば間違いなく飼い主の服を噛むなりして誘導する程の利口さは備えていると二人は知っていた。


「何かあったのか?」
「いや、分からないが……一先ず付いて行ってみよう。何か発見したのかもしれない」


 綾香は首を傾げ大和の顔を見遣る。
 大和は一瞬怪訝そうな表情を浮べると綾香の持っていた買い物袋を手に取った。一瞬、何事かと綾香は目を丸めるが「こっちの方が早く移動出来るだろう」と一言伝えられればほんの小さな優しさに胸の奥がくすぐったくなる。


 カー助はそんな二人のやりとりの間も飛んでは進み、むしろ首を後ろに向けて「早く」と急かすかのように鳴く。
 その声があまりにも大きいものだから、大和は慌てて口元に人差し指を立てて「少しは音量を下げてくれ!」と祈った。それが伝わったのかは分からないが、カー助は暫く鳴くのを止め、その代わり同じ動作を繰り返しながら大和の自宅付近にある公園まで二人を招く。そして園内のある木陰まで飛んだかと思うと一際大きな声で鳴いた。


 先にその木陰まで足を運んだのは綾香だ。
 身軽な彼女はカー助が呼んだ場所まで辿り着くと、「え」と一言漏らした。やがて大和も追いつき二人はカー助が訴えているものの正体――つまり、段ボール箱の中に入った子猫と子犬の二匹の姿を見下ろす。子猫は三毛猫の雌、子犬の方は柴犬の雄のよう。体格から言って生後数ヶ月というとこだろうか。
 綾香はしゃがみ込み、段ボール箱の中に入っていた一枚の紙を見つけた。何処かに飛んでいかないように丁寧にテープで貼り付けられたそこに書かれていた文字は――。


  『ごめんなさい。ぼくのいえではだめっていわれました』


 マジックで書かれた拙い子供の訴え。
 それゆえに切ない気持ちになる。子供だって捨てたくて捨てたわけではないだろうが、環境がそれを許さない。
 親の許可がなければ動物は飼えないのは二人にもすぐに察することが出来た。だがそれと二匹の動物の命にしてやれる事は別。
 子供へは同情はするが、それよりも先にしなければいけない事がある。


「医者のところに行こう。カー助を保護した時に世話になった獣医のところに行けば何とかして貰える」
「分かった。このダンボールは私が持っていけばいいな?」
「頼むよ。俺の力じゃもしもの時に潰してしまうかも」
「私の大和はそこまで乱暴じゃないさ。カー助、よくやった。今から医者に診て貰いに行こう」


 綾香はダンボールを抱える前に一度カー助の頭を優しく撫でる。
 褒められた事が伝わったのか、カー助はその長い首を僅かに追ってその手の温かさを受け、それから小さく鳴いた。


 二人は急いで獣医の元へと駆ける。カー助もその後を追いかけてきた。
 公園から病院まではそう遠くない。もし子供にある程度の判断能力があって、獣医に相談してくれたら里子探しに協力してもらえたかもしれない……と思ってしまうのは、やはり二人がもう「幼い子供」ではないせいだろうか。
 何を感じて子供が二匹を捨てたかは自分達には分からない。そしていつ捨てたのかも分からない。
 綾香はダンボールの中に入っている容器――恐らくミルクやドックフードなどが入っていたと思われるものを見る。中身は空だ。


「……衰弱していないと良いのだが」


 祈るように駆け込んだ獣医の元、彼女は二匹の健康を願った。



■■■■



「大丈夫、二匹とも健康だよ。でも念のため栄養の入った注射をしておこうね。あ、あと予防接種はどうする?」


 獣医の診察が終われば二人はほっと胸を撫で下ろす。
 どうやら捨てられてからそんなに時間は経っておらず、疲弊などはしていなかったようだ。簡単な検査ではあるが、病気の可能性も低いとのこと。
 子犬達は物珍しげに診察室をきょろきょろ見渡す。二匹は一緒に捨てられたせいか喧嘩をすることもなく、むしろ楽しそうにさえ見えた。
 獣医は大和達の足元にいるカー助の存在に気付くと、「やあ、久しぶり。元気にしているかい?」とまるで人間に対するかのように気さくに話しかける。カー助は答えるように一度鳴いた。
 やはり獣医とは動物も人間も同等に接する性格なのだろうか、大和と綾香は目を細めながら笑ってしまった。


 結局二匹をそのまま獣医の元に預ける事も出来ず、挨拶もそうそうにお持ち帰り決定。
 買い物を終えた時はまだ日は高かったはずなのに、外に出た頃には日は落ち始めていた。


「よし、出ていいぞ。今日から此処がお前達の家だ。ちゃんと大和に感謝しような」


 二匹が捨てられていたダンボール箱は病院で捨てさせてもらい、その代わりケージを借りた。もちろんそのケージは後日獣医に返す予定だ。
 綾香は今まで両の腕でしっかりと抱えていたそれを下ろし、戸を開く。すると最初は奥へと引き篭もっていた二匹だが、まず最初に子猫の方が恐る恐ると言った様子で外に出てくる。それにつられるように子犬も外へ。
 次第に空気に慣れてきたのか、それとも好奇心の方が勝ったのか二匹は部屋中を探索し始めた。


「しかし、鳥に犬に猫……これでロバがいたらどっかの音楽隊だぞ」
「ウチの神社には神馬がいるが、どうする?」


 二匹を見守りながら冗談を言い合う二人の表情は非常に穏やか。
 急な展開で犬と猫という新たな家族を迎えることになったが、これはこれで良いのかもしれない。ふと、子猫と子犬が首や腕を甘噛みをしながらじゃれあっているのをカー助が兄のように見守る光景が目に入ってくる。まだ幼さゆえか犬と猫特有の喧嘩は見られない。いや、一緒に捨てられていたからこそ二匹には兄弟のような感覚が芽生えているのかもしれなかった。そこにカー助が加わればまさに三人兄弟といってもいいだろう。
 

「一気に大所帯だな」


 大和はそう呟く。
 すると綾香は暫し口元に手を当てて何事か考え、そして――。


「いずれはあそこに一人か二人増えるんだろうな」
「何か言ったか」


 彼女は本当に思わず、というように呟いた。
 その言葉は自分自身が落としたとはいえ恥ずかしいもの。増える対象は恋人相手であれば、「赤子」に決まっているからだ。一気に顔に熱が集まってくるのを感じながら彼女は頬に手をあて、それから紅潮した自分を見られぬようそそくさと台所へと向かう。


「なんでもない。さあ、夕食にしよう」


 赤らみは見事誤魔化せたらしく、大和は台所へと消える綾香の背中だけを見遣る。そこからは何も読み取れず、彼は改めて三匹の動物を見遣った。


「ん。明日からお前達の為に色々揃えなきゃな」


 何が犬猫を飼うためには必要だろうか。
 そんな事を考えメモしながらも、彼は今ある幸せを静かに噛み締めた。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【5123 / 和泉・大和 (いずみ・やまと) / 男 / 17歳 / プロレスラー】
【5124 / 御崎・綾香 (みさき・あやか) / 女 / 17歳 / 主婦(?)・巫女】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、またの発注有難う御座いました!
 今回は動物保護ということで、こういう形に。しかしプレイングのカー助様がちょっと可愛らしく、和みました。しっかりした二人に保護された子猫と子犬達。そしてお兄ちゃんなカー助様、そして飼い主と言うよりも「親」の立場のようなお二人であることが表現出来ていれば幸いですv