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<東京怪談・PCゲームノベル>


【SS】最終決戦・前編 / 神木・九郎

 吹き荒れる風と、舞い散る砂。周囲に人の姿はなく、荒れ狂う景色はまるで地獄絵図の様だ。
 そんな中でビニール袋を片手に佇む青年がいた。
 黒い髪と、意思の強さを伺わせる黒い瞳を持つ青年――神木・九郎は、手にしていた袋を見下ろすと、重い溜息を零した。
「何で俺がこんな事を」
 中には、コンビニのおにぎりと紙パックのお茶が入っている。嵐になる前に買い付けておいた言わば非常食だ。
 九郎は袋の中身を確認すると、向かおうとして頂きを思い、今一度息を吐いた。
 事の発端は普段「馬鹿女」と呼んでいる少女――華子の『あんな』姿を見たからだ。
『一週間、帰って来ない……また、1人に、なった……』
 そう言って声をあげて泣いた彼女。
 普段は邪魔なほどに強気で、人のことなど聞きもしないお転婆娘のそんな姿を見て、放っておくことなど出来なかった。
 なので自発的に様子を見に来たのだが、目的近くまで来ると足が重くなる。
「……何で俺が」
 もう何度目の溜息か。
 九郎は緩く首を横に振ると、漸く意を決したように顔をあげた。と、そこに先日から頭上に佇む冥界門と呼ばれる門が目に入る。
 異常気象は、間違いなくあの門が原因だろう。だが今は気象の変化以外、目立ったものはない。
「とりあえずは大丈夫か」
 そう呟いた時だ。
 彼の見ている前で、門が開き何かが落ちてきた。
 ヒラヒラと落ちてくる黒い点。
 パッと見はゴミにも見えるが、目を凝らせばすぐにわかる。羽を生やし空から舞い落ちるのは、本からそのまま抜け出してきたような悪魔のような生き物だ。
「何だありゃ!? ヤバ過ぎだろこれは」
 次から次へ地上に落ちる姿にゾッとする。
 流石にあれだけの化け物が地上に落ちれば惨状は見えている。だがそれと対峙しろ言われれば、理がなければ嫌だと言わざる負えない。
 その証拠に、彼の足が一歩下がる。そしてどうするか思案しているその脇を、金色の風が通り過ぎた。
「……今のは」
 慌てて目を向けた先へ駆けてゆくもの。
 それを見て九郎の目が見開かれる。
「あいつッ」
 金の髪をなびかせ、化け物の群れへ突っ込んでゆくのは間違いない。今まさに様子を見に行こうとしていた相手だ。
「チッ、クソッたれが!」
 九郎は舌打ちを零すと、手にしていた袋を放ってその後を追った。

   ***

 逃げ遅れたのか、それとも野次馬だったのか。
 避難命令が都内に出される中、人が倒れていることなど予想していなかった。
 荒れ狂う景色の中に倒れる人々。
 膝を折って息を確認すれば、どうやら生きている事は間違いないようだ。
 だた、深い眠りに落ちている。そんな印象を受ける。
「こいつはいったい……」
 呟きながら立ち上がる。
 そして周囲を見回すと、倒れる人の先に黒い塊を発見した。
 空から舞い落ちる黒い点が向かう先。
 どう見ても危なくて仕方がない場所だが、九郎はそちらに足を向けた。
「奴らはこっちに来ねぇ、つーことは、あそこに居るのか」
 先ほど脇を抜けた金色の風。
 見間違いでなければアレは、九郎が様子を見に行こうとしていた華子だ。
 彼女の後を追ってここに辿り着き、直前で見失ったのだが、来た場所に間違いはないだろう。
――ギャアアアアッ!
 先ほどから耳に届く空気を裂くような悲鳴。その声は黒い塊から響いている。
「あそこか」
 九郎は自らの手を見下ろすと、拳を握りしめた。
「――行くぞっ」
 そう言って地面を蹴った身が、塊に突っ込んで行く。
「邪魔だ、退けぇッ!!!」
 目の前を塞ぐ悪魔の壁。
 それに振り上げた拳を叩きこむ。
――ギヤアアアアアッ!!!
 断末魔の叫びを上げ散ってゆく悪魔を省みず、九郎は何度も拳を振り上げる。そうして繰り返し悪魔を倒すのだが、まだ先が見えない。
「ッ、数が多すぎだ」
 チラリと見上げた門からは、止まることなく悪魔が溢れている。
「あれを止めるのが先か? だが……――」
 視界を掠めた金色の光。
「まずはアイツだ」
 九郎は緩みかけた拳を再び握ると、悪魔たちの中に駆け出した。
 渾身の力を振り絞り、何とか目的の場所に辿り着く。
 そこに見えた一心不乱に警棒を振り悪魔を崩す姿に、彼の中で漸く安堵の息が漏れた。
「おい、馬鹿女!」
 行く手を阻む悪魔を払って、ズカズカと近付く。そして目的の人物の肩を掴んだ瞬間、銀の光が彼の前を横切った。
「ッ!」
 ヒラヒラと舞う黒いものは、九郎の前髪だ。
 咄嗟に身を引いて交わしたが、僅かに避けきれなかった髪が切れたのだろう。その事に九郎の米神がヒクリと揺らぐ。
「――アンタ……何してるの?」
 怒りを堪える九郎を前に、気服を感じさせない声が響く。
 目の前に突き付けられた警棒。
 それを持つのは表情を何も浮かべない少女――華子だ。
「……こいつ……」
 九郎は震える拳を握りしめることで怒りを流すと、警棒の切っ先を指で逸らした。
「死ぬ気か? 馬鹿女」
 出来るだけ静かな声で呟く。
 その声に華子の表情がピクリとだけ揺れた。
 そしてその目が空に浮かぶ門へと向かう。
「行かなきゃ……いけない。邪魔をするなら、アンタも容赦しない」
 唇を噛みしめ目を逸らした華子は、悪魔たちに腕を振り上げた。
 再び上がる悲鳴に九郎は面倒そうに息を吐く。そして自らも悪魔に対峙しながら呟いた。
「別に止めたりしねえよ。無くしたもの、取り返すんだろ?」
 華子が何処に行こうとするのか。何をしようとしているのかは、彼女を見ていれば容易に想像できる。
 彼自身、大事な人、居場所を失うと言うことに付いて思う所があった。
 だからこそ華子の気持ちがわからなくもない。
「……邪魔、しないの?」
 少し戸惑う声が返ってきた。
 その声に、拳を振るいながら、九郎の目が後ろを捉えた。声と同様に戸惑う表情が目に入る。
「暇つぶしだ」
「え?」
 面食らったように目を瞬く華子に、九郎の口角が僅かにだが上がる。
「今回だけ付き合ってやる」
 そう言って視線を戻すと、九郎は拳に気を固めた。
「……なんで」
 そんな呟きが聞こえた気がした。
 だが九郎は振り返らずに拳を振るい続ける。
 そしてどれだけの数を討ち払っただろう。
 徐々に呼吸があがり、額にも汗が浮かび始めた頃、背後で動く気配がした。
「――行かなきゃいけないのに」
 そう呟く声にハッと後ろを振り返った。
 そこに見えたのは、単身で悪魔に突っこんでゆく華子の姿だ。
「あの馬鹿っ!」
 幾ら経っても消えない悪魔に焦りを感じたのだろう。
 地を蹴って飛翔した身が一気に黒い渦の中に落ちてゆくのが見える。華子は全ての力を注いだ警棒を叩きつけた。
 無数の悪魔が崩れ落ちるが、全てが倒れた訳ではない。
 悪魔は直ぐに溢れて、一瞬にして華子を覆った。
「……何で……何で、邪魔するの」
 悪魔たちに覆われながら寂しげな声が響く。
 膝を着いて悔しげに武器を握りしめる彼女は無防備以外のなにものでもない。そこに、悪魔の手が伸びる――。
「何してんだテメェはっ!!!」
 怒号と共に手を伸ばした悪魔が払われた。
 そして華子の腕が掴まれ、無理矢理立たされる。
「だって……行かなきゃ」
 立たせた先で、ぼろりと涙が零れた。
 これには助けに入った九郎も「うっ」と言葉に詰まる。
 どうも調子が崩れる。
 九郎は自らの頭を掻くと、深々と息を吐いた。
「焦っても何にもなんねえだろ。とにかく、こいつらを崩すのが先だ。それに馬鹿女は、ンなとこでくたばるほど軟じゃねえだろ。違うか?」
 顎で悪魔たちを示して問う。
 その声に、戸惑いがちな視線が悪魔たちに注がれた。
 周囲をぐるりと囲む悪魔の姿。
 ジリジリと距離を詰めて迫るその姿に、華子の手にしている警棒が鳴った。
「……馬鹿女は余計よ。無神経男」
 ぽつりと呟かれた声に、九郎の眉が上がる。
「確かに、こいつらを全部崩してからじゃないとダメよね。たまには良いこと言うじゃない?」
 ニヤリと笑った華子に、九郎は内心で苦笑した。
 どこが着火点になったのかわからないが、いつもの華子らしい表情が顔に浮かんでいる。
「よし、いっちょやるか!」
 そう言って悪魔を捉えた九朗の背に、暖かな背が触れた。
 チラリと目を向ければ、華子が背を触れさせて何か言いたげにしている。
「勝負してあげるわ」
「は?」
 いきなりな言葉に、思わず面食らった九郎へ、華子は更に言葉を続ける。
「倒した数の多い方が、珈琲とパンを奢るってことで良いわね。まあ、アンタがあたしに勝てるとは思えないけど。とりあえず勝負してあげる」
 ニイッと笑って背を離した華子に、九郎の口に苦笑が浮んだ。
「俺の珈琲がまだなんだがな」
 そう言って拳に気を溜めた。
 そして一気にそれを地面に叩き付ける。
――ドオオオオオオッ!!
 台地が揺れて、割れたアスファルトが直線状に居た悪魔を吹き飛ばしてゆく。それを見た悪魔たちが前進してくるのを止めた。
「やるじゃない♪」
 華子の茶化す声が聞こえるが、構わず次の攻撃を叩きこむ。しかし、その動きが直ぐに止まった。
「?」
 目の前にいた悪魔たちの数が徐々に減っている。しかも外堀から目に見える速さで。
 そして全ての悪魔が消え去ると、2人の目の前に、牛の面をつけた男が立っていた。
「……何だ、ありゃ」
 目を眇め呟く九郎とは対照的に、華子は驚愕した表情でその人物を見つめている。
 その事に気付いた九郎は、拳を下ろすと首を傾げた。
「知り合いか?」
「……パカだ……」
 フードを被り、大きな鎌を手にする男は、自らを見つめる華子に手を伸ばした。
「冥王様……イヤ、オーナーが、待ってル」
「佐久弥さんが、待ってる? 何処で? ねえ、何処で待ってるの!?」
 喰らいつく様に駆け出した華子の足が、ピタリと止まる。
 腕を掴む力強い手に、彼女の目が後ろを振り返った。
「……無神経男?」
「行くな。ヤバい気がする」
 驚いたように見つめる華子の視線に、九郎は真剣な眼差しで呟く。そして彼女の腕を引くと、自分の背に庇うようにして拳を構えた。
 その姿に、男の鎌が揺らぐ。
「人間ガ、邪魔ヲするナ」
 ブンッ!
 鎌が風を切り、見えない攻撃が彼の身を吹き飛ばす。
「うぁっ!」
 容赦なく地面に叩きつけられた身が、先ほど自身が生んだアスファルトの瓦礫に沈む。
「パカ、アンタなんてこと……――ッ!」
 慌てて九郎に駆け寄ろうとした華子の身が、唐突に崩れ落ちる。
 そしてそれを男の鎌の柄が掬い上げると、彼はその身を軽々肩に担いだ。
「ッ…、……」
「ハナを生かした事。感謝スル。デモ、これ以上ハ駄目」
「……そいつを、どうする気だ」
 瓦礫の中から身を起こしながら、問う声に、男の背が向けられた。
「ハナは、冥王様ガ大事に育ててきた無垢ナ魂。完全復活ニ必要」
 そう言葉を残して姿を消して男は姿を消した。
「……完全復活、だと?」
 九郎は衝撃のせいで未だ朦朧とする頭を横に振ると、いつだったかの出来事を思い出した。
「だから、助けたのか?」
 不知火が華子を使って怨霊を呼ぼうとした時に助けた男がいた。
 その直後に不知火は怨霊から狙われ始め……。
「クソッ!」
 九郎は頭上にある門を見上げた。
 未だ開いたままの門。
 そこに行く方法が何かあるはずだ。
 彼は瓦礫の中から立ち上がると、今一度頭を横に振って駆け出したのだった。


――続く...


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 2895 / 神木・九郎 / 男 / 17歳 / 高校生兼何でも屋 】

登場NPC
【 星影・サリー・華子 / 女 / 17歳 / 女子高生・SSメンバー 】
【 空田・幾夫 / 男 / 19歳 / SS正規従業員 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
SSシナリオ・最終決戦・前編にご参加いただきありがとうございました。
大変お待たせしまして、申し訳ありませんでした(汗)
今回は次に続くと言う事で、エピローグを最終的にカットしてしまいました。
いろいろ詰め込み過ぎて「???」となってしまったら本当に申し訳ないです(汗)
あと残り2話ですが、 読んでいろいろ想像して、少しでも楽しんで頂ければうれしいです。
また機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。
ご参加、本当にありがとうございました。