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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


心霊記事を書いて

「さんしたくん、本当にキミは役立たずね――仕方ないからこれのうちどれかを選んで取材してきて」
 碇 麗香が数枚の資料を『さんした』こと三下 忠雄に渡す。
 勿論、それのどれもが幽霊に関する資料であり、どれもが危険な匂いがしているのは言うまでもない。
「む、無理ですぅ‥‥こんな場所に行っちゃったら死んじゃいますって! 編集長は僕が死んでもいいんですか!」
「あんたが生き残るより、記事がないまま雑誌発行する方が怖いからさっさと行く!」
 あんまりだ〜、泣きながら三下 忠雄はアトラス編集部から出て行き携帯電話を取る。
「あ、あのぅ‥‥実は僕が行く取材を代わりに行ってきてほしいんですぅ‥‥ちょっと風邪引いちゃって。げほげほ」
 明らかに仮病だと分かる口調で三下 忠雄は電話をかけて近くのカフェで落ち合うことになったのだった。

視点→来生・十四郎

 全ての始まりは三下 忠雄が来生・十四郎に代理取材を持ちかけてきた事だった。どうやら風邪(限りなく仮病っぽいけれど)を引いた為に取材にいけなくなったと本人は語っているのだが‥‥。
「十分元気そうじゃねぇか」
 取材の為、三下の名前と名刺を借りるために2人は近くの喫茶店で会っていた――が、現れた三下は健康体そのもので来生は呆れたように呟く。
「えっ、あ、げほげほげほ、こ、こう見えてもまだ熱がありますし、お腹も痛いし、頭も割れそうなんです」
 突然咳き込み始め、ふらふらとする三下に呆れながらも「‥‥まぁいいや、手伝ってやるよ」と資料と名刺を受け取って喫茶店を出たのだった。
「人形が動き回る屋敷ねぇ」
 三下から受け取った資料を読み、同時に三下が書いた記事にも目を通す。恐らくあの碇 麗香には内緒での代理取材だろうと来生は考え、三下の文章の癖などを覚えて三下が書いた記事に近いものに仕上げようと考えていたのだ。
「この屋敷か‥‥」
 来生がやってきたのは、今はもう誰も住まない屋敷。長く放置されているのか庭には鬱蒼と生い茂る雑草の姿が多く見受けられた。屋敷の取り壊しなどで業者が出入りすると人形が動いたりなどの奇怪現象が起き、今では誰も近づかなくなったと三下が用意した資料には書いてあった。
「あんた、そこの屋敷に何か用かね」
 屋敷の門のところで立ち止まっていると、老女から声をかけられる。
「あ、雑誌記者なんですがここの屋敷についてお詳しいですか? 何でも人形が動くという心霊現象が起きると聞いたのですが」
 老女に丁寧な言葉で来生が話しかけると「ここには、お嬢さんがおったんじゃ」と屋敷を見上げ、懐かしそうに呟く。
「お嬢さん?」
「両親は仕事で海外を飛びまわり、数人の使用人と10歳のお嬢さんがおった‥‥」
「もしかして、この屋敷に詳しい人ですか?」
 来生が問いかけると「わしはお嬢さんの世話役としてこの屋敷におった」と老女は言葉を返してくる。
「よかったら、詳しく話を聞きたいんだが‥‥」
 来生の言葉に「人形が大好きなお嬢さんじゃった」と老女はうつむき、だけど懐かしさで頬を緩めながら言葉を続けていく。
「10歳の誕生日に両親が揃って帰ってきてくれると知り、お嬢さんは凄く喜んでいた‥‥だけど」
 老女は言葉を止め、眉をひそめて苦しそうな表情をして「両親は帰ってこなかった」と言葉を続けた。
「‥‥帰って来なかった?」
「飛行機が墜落して、結局お嬢さんは両親の死を知る事なくそのまま逝ってしまった。元々病弱で長くは生きられないと医者から宣告されていたのだけど‥‥」
 だから、と老女は呟き屋敷を見上げて「お嬢さんはきっとまだ両親が帰ってくるのを待ってるんじゃろう」と切なそうに呟いたのだった。
「そのお嬢さんの写真とか、あるか?」
 来生が問いかけると「古くなったけれど、こっちの車椅子の女の子がお嬢さんだ」と老女は黄ばんで汚くなった写真を見せてきた。その写真には今よりずっと若いころの老女とやさしそうな笑みを浮かべて映る少女の姿があった。
「そうか、ありがとう」
 来生は老女に礼を言って別れた後、屋敷の中へと入ろうとする。門は古くさび付いており、裏口から入るしか方法はなかったのだけれど。

「うわ、こりゃひでぇな」
 屋敷に入ると、窓ガラスは割れ、草木は茫々に伸び放題、人形騒ぎで誰も近づかなかったいい証拠だ。
「げほっ」
 屋敷の中に入ると、中は埃っぽくいまだ撤去されていない絵画や壷などが不気味に見えてくる。
「不気味な雰囲気に流されがちだが、嫌な雰囲気というより――悲しい、と言った方が正しそうだな」
 埃っぽくて薄暗い、如何にもという雰囲気だが来生に感じるのは嫌な雰囲気よりも感じるこちらまで切なくなりそうな悲しさだった。
「資料には人形が動く――とあったからこの辺じゃないな、おそらく‥‥」
 来生の頭には写真の少女の顔が浮かび、子供部屋を探して屋敷の中を歩き始める。
「‥‥だぁれ‥‥」
 二階にあがり奥の方へと進むと‥‥ふわりとしたワンピースを着た小さな少女が来生の方を見て問いかけてきた。
「あなたも、ここを壊しにきたの? ここがなくなったら‥‥パパとママが帰って来れなくなっちゃうのに‥‥」
 少女は今にも泣きそうな声で呟き、それと同時に奥の部屋からぬいぐるみが大量に出てくる。
「くるみは、パパとママを待ってるの‥‥だから、ここを壊そうとする人なんか、いなくなっちゃえばいいっ」
 少女が来生に指を向けると、人形たちが一斉に襲い掛かってくる。だが所詮は人形であり、脅かす事はできても攻撃には不向きのようだった。
 来生は屋敷を壊しにきたわけではないことを持参してきたホワイトボードに書いて、少女に見せる。少女は屋敷を守るために激昂している状態だ。
 それならば言葉で話すより、書いて見せた方が伝わると来生は考えたのだろう。
「‥‥おじちゃん、ここを壊すんじゃないの?」
「おじっ‥‥、まだ20代なんだけどな‥‥」
 少女の言葉に軽くショックを受けながらも「違う、話に来ただけだ」と言葉を続けた。
「パパとママが帰ってくるって聞いたから、ずっとくるみ待ってるの‥‥だけど、パパとママ、帰ってきてくれないの‥‥くるみのこと、嫌いになっちゃったのかなぁ」
 ぐすぐす、と鼻を鳴らしながらくるみという少女は泣き始める。
(「確か、死ぬ時も両親の死については知らないままだったとか言ってたな」)
「お前の両親も空の上できっとお前を待ってる、だから安心して空に行っていいんだ」
 来生が言葉を投げかけると「ほんとう?」とくるみは問いかけてくる。
「あぁ」
「本当はくるみ、さびしかったの。パパとママもいないし、ここには誰もいないし‥‥遊んでくれる人もいなくて‥‥」
「だったら、最後にいっぱい遊んでいけばいい。俺でよかったら付き合ってやるよ」
 来生の言葉にくるみは嬉しそうに「ありがとう、おじちゃん!」と満面の笑みで言葉を返した。
(「‥おじちゃんがなかったら、もっといいんだけどな」)
 来生は苦笑しながらも楽しそうに自分の部屋へと連れて行くくるみを見て心の中で呟いた。

 それから数時間、くるみの遊びにつき合わされた来生だったが、日が暮れる頃にくるみは窓の外を見て「ありがとう」と呟いた。
「くるみ、パパとママのところに行くね‥‥ありがとう」
 それだけ呟くと、くるみの姿はすぅっとまるで溶けるように消えていった。後に残されたのは部屋中に散らばった玩具やぬいぐるみ。

 その後、三下の書き方を真似て記事を書き、それを三下に渡す。
 その帰り道、くるみが無事に両親のところへ行けただろうか、そう考えながら来生は空を見上げたのだった‥‥。


END


―― 登場人物 ――

0833/来生・十四郎/28歳/男性/五流雑誌「週刊民衆」記者

――――――――――

来生・十四郎様>

初めまして、今回執筆させていただきました水貴透子です。
今回はご発注いただき、ありがとうございました!
内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思ってくださるものに仕上がっていれば幸いです。

それでは、今回は書かせていただきありがとうとございました!


2010/4/1