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<東京怪談ノベル(シングル)>


ランデヴー


 映像を眺めながら、三島玲奈は嬉しそうに微笑んだ。
「うーん、カッコイイ!」
 西暦二千十年六月、玲奈はハヤブサに恋をした。
 玲奈号と同じく、広き宇宙を飛んでいる探査機。アクシデントに見舞われながらも設計や機転などでそれらを乗り越え、宇宙を飛ぶハヤブサを見ると、玲奈も依頼や任務を頑張ろうと思うのだ。
「そうだ、あのツアーはどうしようかな」
 玲奈は先日、日本の最南端を極めたいという旅人の要望を受けた。
 そこで玲奈は南鳥島へのツアーを練っているわけだが、あの島は基地の島故に渡航は自衛官に限られる。
 しかし、受けた依頼なら、きちんとこなしたい。玲奈は南鳥島へ渡航すべく、様々な書類や資料を集め、許可を得ようと奮闘していた。
 自らの細胞から培養された戦艦玲奈号を『本体』として操る玲奈ならば、南鳥島へも簡単に渡航出来そうなものだ。が、しかし書類上ではそうもいかないものらしい。
 あれこれと回った挙句、膨大な許認可を尽く却下された玲奈は、ぐったりとして部屋に戻る羽目になった。
「そんなあ……」
 依頼主の要望に応えたい、そう思っていただけに悔しい。玲奈本人もがっかりである。
 役所回りの疲れもあって、玲奈はそのまま寝込んでしまった。
(ああ……お客さんに何て言おう)
 ベッドの中で、客への詫状の文言を考え悶々としていると、ふと表で人の話し声がした。
 こんな事もあろうかと、とか何とか言っているようだが……
「頼んだぞ」
「判った」
 どうやら話しているのは男性らしい。短い男の会話の後にドアが開き、
「あがるぞ」
 1人の男が勝手に部屋に上がりこんだ。
 村雲翔馬。小麦色の肌に栗色の髪をした、神霊使いの男だ。
「ちょ、ちょっと何なの」
「急な任務だ。飛んでくれ」
「ええ?!」
 いきなり部屋にやって来て、飛んでくれとはひどい言い方ではないか。
 玲奈は不機嫌そうな顔をすると、ふい、と横を向いた。
「飛べないわ」
「なぜ」
「依頼のことで……落ち込んでるのよ。フライト、出来ない」
 口にしてみて、自分が思っていたよりも落ち込んでいたことに改めて気付く。
 要望に応えられなかった不甲斐なさからか、努力しても上手くいかなかったからか。子どもっぽいとは思いつつも、色んな気持ちで胸が痛い。
「あたしは、もう旅が出来ない」
「それは困るな」
 村雲は肩をすくめた。
「大事な人を迎えに行くんだ」
「大事な人?」
「ああ、凄くカッコいい人だ」
 その言葉に、少し玲奈は顔を上げる。
「出迎えも旅の内だ。それくらいは出来るだろう」
「で、でも」
「まあ聴けよ」
 村雲の説明はこうだった。
 絶望的な故障を、知恵と機転で何度も奇跡的に乗り越え、太陽系の深淵から帰還しようとしている日本の宇宙探査機が、地球のすぐ傍まで来ている。
 実はそれは滅法強いツクモ神が宿っているからなのだが、しかしその宇宙探査機は、宇宙をさ迷う悪霊に憑依されて風前の灯だという。
 その悪霊を村雲が斬りにいく、ということだ。
 最終着陸地点は豪州の砂漠地帯。最終決戦に失敗すれば損失は計り知れない。
 それを聴いて玲奈はときめいた。
(宇宙探査機に、ツクモ神……!)
 憧れの、宇宙探査機。天文学を伴侶とし、戦艦として宇宙を飛び回る玲奈にとってとても興味深い話だ。しかも、村雲の話す『すごくカッコいい』というツクモ神のことが、気になる。
(どんな格好いい人なんだろう。逢って見たい)
 改造人間である玲奈は恋愛を禁止されているが、玲奈だって女の子。格好良い人に憧れもする。
(そうよね、落ち込んでいたって仕方ないわ。よし!)
 玲奈はセーラー服ををめ一杯お洒落して、村雲と共に豪州へと向かった。


 豪州の砂漠地帯上空、戦艦玲奈号のレンズにも玲奈の目にも、その宇宙探査機の姿がはっきりと映る。
「アレね」
 天空が掻き曇り、とぐろを巻いた悪霊を従えて探査機が来た。禍々しく取り付いたそれは、まるで蛇のようだ。
「俺とスサノオで奴を斬る! フォローを頼むぞ!」
「わかった!」
 霊力と風で舞う砂埃の中、探査機とツクモ神を蝕む悪霊を玲奈はキッと見やった。何としてでも悪霊を退治し、あの探査機を無事に着陸させなければ。
「行くぜ!!」
 村雲とスサノオが、悪霊に向かっていく。もちろん、玲奈も能力を駆使して悪霊に立ち向かう。
 吹き荒ぶ砂嵐、悪霊の刺すような霊力は、鋭利で素早い。村雲の援護をしていると、村雲の攻撃をかわした悪霊の牙が玲奈に飛び掛った。
「きゃ……!」
「はっ!!」
 思わず声を上げると、鋭い音がして、村雲の刀が悪霊を斬り払った。
「大丈夫か!」
「あっ、ありがとう」
 体制を直して玲奈は超精密攻撃レーザーを放つ。村雲は刀を振り上げると思い切り、青白く光る悪霊に斬りかかった。
「おおおおおっ!!!」
 耳をつんざくような悪霊の声が響き、やがて砂埃がおさまる。
 目を開いて村雲を見ると、彼はふう、と息をついて玲奈に頷いた。
「やった……」
 悪霊を無事退治出来たことにほっとして玲奈が顔を上げると、無事着陸した宇宙探査機から、ぽう、と淡い光が浮かび上がった。
「あっ」
 光は変え、人の姿になり、長い髪をした綺麗な人が現れる。すらりとした背格好、美しい切れ長の目。
(うわあ、本当にかっこいい……!)
 玲奈は心踊り、思わずそのツクモ神をじっと見つめた。恋愛を禁止されているのだということを、一瞬忘れ、普通の女の子になる。
 最初は、落ち込んでいるのにも関わらずいきなり豪州へ飛べだなんてひどい任務だと思ったけど、憧れの宇宙探査機を見られて、こんなに素敵な人に会えたんだもの。任務を受けて良かった!
 そんなふうに思った玲奈だった……が。
「ありがとう、あなた達のおかげで助かりました」
(って、え?!)
 お礼を述べたその声は、丁寧だが甲高い、麗人のそれだった……。


「カッコいい人だっただろう?」
 にやりと笑う村雲に、玲奈はため息をついた。
「確かにかっこよかったけど」
 甲高い声の、まさか女性だとは思わなかった。男性かと思ってときめいてしまった自分が、何だか少し恥ずかしい。
「良かったじゃねえか、悪霊も退治出来たし。機嫌直せ。……ほら、見ろよ」
 村雲に言われて空を見上げれば、がっくりする玲奈を励ます満天の星。
 光り煌めき、まるで宝石を散りばめたかのようだ。
「お前のおかげで助かったよ」
 村雲の言葉に、えっ? と玲奈は彼を見た。
「それを言うなら、あたしだって。助けてもらったもの」
 あのときの村雲はとてもかっこよかったし、守ってくれて嬉しかった。玲奈は思い出して、少しどきどきする。
「ありがと」
「おう」
 依頼が上手くいかなくて落ち込んだり、任務が大変だったり、がっかりもするけれど。
 こんなに綺麗な夜空だし、村雲と居れば何だか幸せ。
 彼の方を見ると、寄り添って立つ村雲ににっと笑いかけられて、思わず玲奈は少し顔が赤くなる。
(そうね……)
 満天の星に抱かれて2人、ちょっぴり恋人気分に浸るのも悪くないか……。
 村雲と玲奈が見上げた空で、星々は美しくきらきらと輝いていた。