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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


春4月、麗らかに桜咲く
●オープニング【0】
 春4月、最初の週末を過ぎた平日午前、3人の少女たちが満開の桜が咲き乱れている公園へとやってきていた。
「ほーら、言った通りでしょ」
「ほんと! 場所選び放題だねっ♪」
 得意げに言う瀬名雫に対し、影沼ヒミコが笑顔で頷いた。場所うんぬんという言葉が出ている所からすると、きっと花見にやってきたのではないかと思われる。
「お天気もよくて暖かいし……ね」
 春の青空を見上げ、原田文子がまぶしさに目を細めた。今日はぽかぽかいい陽気で、花見にはもってこいの気候であった。
「週末だとどこも混んでるし、平日の午前からだったら働いてる人は来れないもんねー☆」
 雫がヒミコたちの方にくるっと向き直り、笑顔でそう言った。春休みというものがある学生だからこそ出来ることである。
「雫ちゃん、文子ちゃん、あそこにしよっ! 桜と桜に挟まれて、何だか贅沢な感じだし」
 ヒミコが指差した先は、左右に立派な桜の木がある場所であった。なるほど適度に間隔も開いているし、挟まれているという表現がぴったりだ。
「じゃあ、あそこにシートを敷いてからお菓子と飲み物を出して……」
「後から来るって言ってた人たちも、何かしら持ってきてくれるかもー」
 荷物を持って歩き出そうとした文子に、雫がそう声をかけた。今日花見をするということを、雫は広く話していたのである。
「何人になるか分からないけど……今日は1日のんびり過ごそうねっ!」
 ヒミコのその言葉に、雫も文子も笑顔で頷いたのだった――。

●穏やかな光景【1】
「空が青いねー……」
「……ほんとだよねー、ヒミコちゃん」
 敷かれたシートの上にころんと寝転がり、全身に春の日差しを浴びながら青空を眺めていた影沼ヒミコと瀬名雫が言葉を交わす。互いに頭を内側、足を外側に向けて寝転んでいるので、顔を少し動かせば至近距離で見つめ合うことになる状態である。
「このまま眠っても気持ちよさそうだよねー……雫ちゃん」
「……そうだよねー、ぼーっとしてたいよねー」
 などと言いながら、軽く目を閉じ始めるヒミコと雫。そこへ原田文子の声が割って入ってきた。
「どっちでもいいから、出すの手伝ってほしいんだけど……」
 ヒミコと雫が寝転がっているものだから、文子1人で荷物から必要な物を出していたのである。
「あ、ごめんなさーい。つい気持ちよくなっちゃってー」
 むくりと上半身を起こすと、雫は文子の方を見てぺろっと舌先を出して見せた。
「気持ちは分かるけど、せめて出す物出してからにしてね」
 と文子は諭すように言ってから、袋を1つ雫の方へと押し出した。菓子類がたっぷりと入っている袋だ。
「いっぱいあるねー。どうしよう、ポテトとか先? それともチョコとか先?」
 袋の中をしげしげ見つめながら雫が文子に尋ねた。塩気のある物を先に食べるか、いやいや甘い物から口にするかという問題である。
「どっちがいいかしら……」
 そう文子が思案を始めると、寝転がったままのヒミコから声が飛んできた。
「ポテトチップスから! チョコは溶けにくいように保冷剤と一緒にしておけば完璧♪」
「……ですって。じゃあ雫ちゃん、チョコだけこっちに」
 ヒミコの言葉に少し苦笑しながらも、文子は言われた通りにすることにした。
「はーい。チョコは渡してっと。……ポテトとかもう開けちゃっていい? あ、いいんだ。よーし、えいっ!」
 雫は文子が頷いたのを見てから、ポテトチップスの袋を裏側の真ん中から開けた。いわゆるパーティ開けというやり方である。
「紙コップの用意完了……。ヒミコちゃん? ジュース飲むんならそろそろ起きて。それともそのまま寝ちゃうの?」
「ううん、飲むー。飲むから起きるよ、文子ちゃん」
 文子に呼ばれヒミコが起き上がると、その視界にこちらの方へと近付いてくるライダースーツ姿の女性が入ってきた。
「あっ、こっちだよー!」
 ヒミコがぶんぶんと手を振ってみせると、女性はにこっと笑みを浮かべて少し歩みを速めた。
「こんにちは。ヒミコちゃんや雫ちゃんたちと会うのも久し振り……ね?」
 やってきた女性――明姫リサがそう言って皆に挨拶をする。それからきょろきょろと辺りを見回してこう尋ねてきた。
「……まだこれだけなの?」
 敷かれているシートはそこそこの広さなのに、リサを入れてこれで4人。そんな質問をしてみたくなるのも無理はない。
「後で来るかもしれませんけど。それに狭いよりは広い方がいいと思いましたから」
 そう文子が答えると、リサは大きく頷いた。
「そうよね。広いとゆったり出来て、横にもなれそうだし……」
「そう! 眠れるの!」
「うんうん、ヒミコちゃん気持ちよかったよねー?」
 リサのつぶやきに、ヒミコと雫が即座に反応する。
「眠るなら上に何かかけた方がいいわよ。はい、差し入れ。この人数だと少し多くなっちゃったかしら……」
 とヒミコたちに言って文子に紙袋の1つを手渡すリサ。中身はといえばリサが作ってきてくれた弁当であった。
「あ、ありがとうございます。ええと……」
「青の蓋がおにぎりで、白の方がサンドイッチ。もう1つは唐揚げよ」
 紙袋の中を見ていた文子にそうやってリサが説明した。朝からわざわざ作ってきてくれたのである。
「妹から今日のこと聞いて、ね。妹は用事で来られないから、その代わり……と言うとあれだけど、ちょっと張り切っちゃったかもね」
 そう言いリサはくすっと笑った。
「最近の学園についても聞きたいなって思ってた所だったし、ちょうどよかったのよ」
 シートの上に腰を降ろしブーツを脱ぎ始めるリサ。神聖都学園の大学部に通うリサは、高等部に通っているヒミコや文子にしてみればOBに当たる訳だ。
「あら……!」
 ブーツを脱ぐ手をふと止め、頭上に見える両側の桜を見つめるリサ。
「これは……なかなかいい場所ね。綺麗な桜だわ」
「でしょでしょ、でしょー?」
 リサの言葉にこの場所を選んだヒミコが満面の笑みを浮かべた。
「うん、ほんといい場所。こういう場所なら、今日は楽しめそう……」
 などとつぶやきながら、リサはブーツを脱ぐ手を再び動かし始めた。
「他にお花見をされたんですか?」
「ええ。バイト先の人たちと夜桜見物をね。……ナンパされたり酔っ払いに絡まれたりして、最悪だったけれど。でも今日は昼間だし、そういう人も居なさそうでよかったわ」
 リサは苦笑いを浮かべながら周囲を見回した。確かに辺りにそういう輩は見当たらない。これなら問題なく桜と花見を楽しめることだろう。

●そして始まる宴【2】
「飲み物はどれがいいですか?」
 ブーツも脱ぎ終え足を伸ばしていたリサに、文子がペットボトルに手を当てながら尋ねた。飲み物はジュースとスポーツドリンク、そして烏龍茶とミネラルウォーターと一通りは揃っていた。
「あ、飲み物なら」
 と言って、リサはもう1つの紙袋の中に手を入れた。そこから取り出されたのは缶ビールであった。
「乾杯だけはこれでね。あとは温かいお茶も用意してあるけど……」
 紙袋の中からちらと水筒を見せるリサ。暖かくなったといってもまだ4月、それに野外は冷えることもあるので、こういった物は実にありがたい。すると雫が不思議そうに尋ねてきた。
「あれっ? 今日はドゥキャティ……もとい! ドゥカティじゃないの?」
 噛んだ言葉を改めて言い直す雫。リサは見ての通りライダースーツで来ているし、バイクに乗ってきたとばかり思っていたのである。
「心配しないで、バイクは家に置いてきたから。これだと調節が利いていいのよ。暑くなれば前を開けて、寒くなれば閉めればいいし」
 そう説明してみせるリサ。もっともこの場に男性が居れば、リサがライダースーツの胸元を開ければ目のやり場に困ってしまうだろうが。
「へー。じゃあ飲んでも大丈夫だねー」
「みんなは飲んじゃダメよ」
 感心する雫を横目に、念のために釘を刺しておくリサ。缶ビールは他にも何本か持ってきていたが、飲める大人がくればお裾分けするつもりであったのだ。
「雫ちゃん、これ回してくれる?」
「あ、うん。はいヒミコちゃん!」
「ありがとー」
 飲み物を紙コップに注いでいた文子から、雫を経由してヒミコへとその紙コップが手渡された。次いで雫、最後に文子の手元にも飲み物の入った紙コップが用意された。
「ん、みんな飲み物あるよね? それじゃあ綺麗な桜といいお天気に感謝してー……かんぱーい!」
「「「かんぱーい!!!」」」
 ヒミコの音頭で乾杯する一同。それぞれの飲み物が、こくこくと喉を通って皆を潤してゆく。
「ふう……。美味しい」
 缶ビールから口を離したリサは、濡れた唇にかすかに残っていた泡を指先で軽く拭いながらぽつりと漏らした。それは身体に染み渡っているのだなあ、と思わせるには十分なつぶやきであった。
「あっ、このおにぎり美味しい!」
「ヒミコちゃん、サンドイッチも美味しいよ!」
 ヒミコと雫はさっそくリサの作ってきてくれたおにぎりやサンドイッチに舌鼓を打っていた。美味しいという言葉を聞いて、リサも満足そうに笑みを浮かべている。
「今年はいいお花見になりました……」
 文子が両手で紙コップを持ったまましみじみとつぶやく。
「まだ始まったばかりでしょう? あ、見て、ほら。また誰か来たみたいよ」
 リサはくすくす笑うと、視線で文子を促した。見るとちょうど連れ立って数人がこちらへやってくる所であった。
 そう、花見はこれからますます楽しくなるのだ――。

【春4月、麗らかに桜咲く 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 7847 / 明姫・リサ(あけひめ・りさ)
              / 女 / 20 / 大学生/ソープ嬢 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全2場面で構成されています。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、春のゆるっとしたお花見の様子をお届けいたします。少人数のお花見だとほんとまったりしちゃいますよね……。
・高原もこの春お花見に行ったのですが、ほんとグループによってカラーが全然違いますね。高原たちのグループはまったりとしていたんですが、例えば見かけたタイの人たちのグループは歌ったり踊ったりとほんと陽気でしたから。
・明姫リサさん、3度目のご参加ありがとうございます。お弁当も皆に好評で、まったりのんびり桜を楽しめたのではないかなあ、と思います。今の高等部の様子も聞けたと思いますし。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。