コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


失われゆく何か

 今日も海原・みなもはパソコンのモニターの前に座っていた。
 ここ数日、彼女はずっと最近人気絶頂中のオンラインゲーム・LOSTにアクセスしていた。それは遊ぶ為ではなくLOSTに関わる者達に起きる異常について調べる為だ。
「‥‥これ、確かに私は持っていた覚えがないのに‥‥」
 海原はLOSTにログインしながらバッグから鍵型の見た目可愛いキーホルダーを取り出す。そこにはキャラクター番号と同じシリアルナンバーが彫られており、海原の名前も一緒に彫られている。
「ログイン・キー‥‥」
 ログインが終わり、海原は自身のキャラクターが持っているアイテム『ログイン・キー』をクリックする。
 そこに映し出された画像はまさに今現在海原が持っているキーホルダーと同じ画像。LOSTの中で重要視されているアイテム『ログイン・キー』と同じ物を海原も手にしているのだ。
 海原がログイン・キーの存在に気がついたのは最初のクエストを終えて、バッグから携帯電話を取り出そうとした時。携帯電話を取り出すと同時に一緒に床に落ちたのだ。
 まるでその存在に早く気がついて欲しいかのように。
「‥‥気味が悪いけれど、1度引き受けたからにはがんばらないと」
 海原は自らを奮い立たせるかのように小さく呟き、キャラクター操作を始めたのだった。まず異常を調べていくにはクエストを受けていく必要がある。そしてクエストを受ける為には早くLOSTに慣れる必要があるのだ。
(「ネットゲームに慣れていないし‥‥他の参加者の方々の足を引っ張らない為にも早く慣れておく必要がありますね」)
 海原は心の中で呟き、自らのキャラクターの職業『武闘術師』の専用スキルを覚えていく事に決めた。LOST内の掲示板で調べた所、武闘術師は攻撃にも回復にも優れている職業だという事が分かった。勿論剣士や僧侶などの専門職には負けるけれど、オールマイティに使える職業だと初心者用の掲示板には書いてあったのだ。
「先ずは‥‥このクエストでも受けてみましょうか」
 海原が見つけたのは最初のクエストと同レベルの簡単なクエスト。しかしこのクエストでは武闘術師の専用スキルが報酬にある。
「えぇと、このクエストは‥‥」
 海原はキャラクターを操作すると同時にネットで基本知識や攻略サイトを探し始める。すると何万ものサイトがヒットし、その中でも一番アクセス数の多いサイト見る事にした。
「――――え?」
 そこのトップメニューに書かれていた事、それは『攻略サイトを探している初期段階ならまだ間に合う。手を引け』という言葉だった。
 しかし理由などは一切かかれておらず、そのサイトそのものも更新がされなくなってから数ヶ月が経過していた。
「とりあえず、引け、と言われてそのまま引くわけにも行きませんものね」
 海原は多少の引っかかりを感じながらそのままLOSTでの操作を進めていく。彼女が受けたクエストはフィールドの敵を退治していくというもの。海原が選んだ武闘術師の専用スキル『気孔術』に慣れるためにも大量のモンスターとの戦闘を行える事は願ってもいない事だった。
「回復薬も買い足してあるし、最初のクエスト報酬で貰ったお金で武器防具もそこそこの物を揃えましたし‥‥何とかなるでしょう」
 海原は呟きながらクエストを開始し始め、戦闘を行い始める。
「あっ」
 しかし最初に出会ったモンスターから奇襲を受けてしまい、回復薬を多めに使用してようやく退治する事が出来た。
「‥‥武闘術師は素早いしオールマイティな分、攻撃力と防御力が少し低めなんですね。それに気孔術は発動までに少し時間がかかるから奇襲を受けた時に使ってしまったら一気にヒットポイントを削られてしまう‥‥」
 数回の戦闘で海原は冷静に武戦術師の長所と短所を分析する。素早さに恵まれている分、攻撃力と防御力が低下し、気孔術は時間がかかる。おそらくこれから先、LOSTをプレイしていく上で強力なスキルを手に入れれば入れるほど発動までにかかる時間が大きくなっていくかもしれない。
「いた‥‥ッ」
 1時間半ほどのプレイを始めた時、ピリッとした痛みが海原の手に伝わりキーボードから手を離す。
「‥‥疲れたのかな」
 手を見ても特に異常は感じられず、海原は一度手洗いに立つ事にした。

「‥‥ッ!?」
 そして手洗い場にある鏡に映った自分を見て海原は驚愕する。変身しているつもりはないのに、鏡に映る姿は外見全部というわけではなかったけれど変身した時の海原の耳にそっくりだった。
「え‥‥?」
 その時、コトンと音がして海原は視線を下へと落とす。するとパソコンの所に置いていたはずのログイン・キーが海原の足元に落ちており、淡い光を明滅させている。最初は早かった明滅がゆっくりとなり、そして明滅しなくなったのを確認して拾い上げる。
「‥‥元に、戻ってる?」
 もう1度鏡に視線を戻して見れば、普段の海原の姿。
「‥‥見間違い?」
 早鐘を打つ心臓を押さえ、ログイン・キーを持ったままパソコンの元へと戻る。そして気になったのは先ほどの攻略サイト。
「もう1度よく見てみよう」
 呟いた後、海原は攻略サイトをもう1度よく見てみる事にする。
「――――あ」
 すると一番下の方に隠しリンクが貼ってあり、海原はクリックする。
「LOSTは悪魔のゲーム‥‥?」
 そこに書かれていたのは、LOSTに関わると大事なものを失うという事。気がつかないうちにどんどんと大事なものが失われていくという事。
「俺も子供を、妻を、母を失った。1度失い始めたらとまらない。だから俺は全てを失う前に自分を失わせる事にする。おそらく全てのクエストをクリアすれば何か変わるかもしれない。だが、俺にはあのクエストをクリアする事がどうしても出来なかった。だから――‥‥」
 そこで文章は切れており、海原は更新が止まった理由を予想する事が出来た。
「‥‥この人は、もう‥‥」
 失い始めたらとまらない、この言葉が海原は引っかかりを感じる。だけど彼女としても調べ始めた事を途中でやめる事は出来ない。
「もう少し詳しく調べてみよう。そして早くLOSTに慣れよう‥‥何故だか分からないけど、LOSTに慣れてキャラクターを強くする。これが自分を守る方法になるような気がするから‥‥」
 海原は呟き、キャラクターを動かして戦闘へと戻る――LOSTの謎を解く為に。


END


―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

――――――――――

海原・みなも様>
こんにちは、今回執筆させていただきました水貴です。
今回は先日のLOSTに続き、シチュノベのご発注をありがとうございました。
LOST関連でのノベル、という事でしたがご満足頂ける内容に仕上がっていますでしょうか?
少しでも面白いと思ってくださったらうれしいです。

それでは、今回は書かせて頂きありがとうございました。

2010/4/21