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<東京怪談・PCゲームノベル>


Route6・護るために…… / 辻宮・みさお

 日が高く上った時間。
 辺りが買い物客に賑わう商店街を、辻宮・みさおは、荷物を両手に抱え歩いていた。
「菜々美さん、お買い物は以上ですか?」
 隣を見れば、同じく荷物を持った蜂須賀・奈々美がいる。彼女はみさおに目を向けると、荷物を確認して頷いて見せた。
「店の買い物は以上だな」
 2人は今、菜々美の店の買い出しに出ている。
 事の起こりは、みさおが喫茶『りあ☆こい』を訪れようとしたことだ。
 店の近くまで来たみさおは、偶然菜々美と遭遇したのだ。しかも彼女の格好は珍しく私服。
 ジーンズに、白いワイシャツのシンプルな服装に、肩から少し大きめの鞄を下げている。
 その鞄を見て、みさおの相棒であるパペットは「あの中に危険なもんがいっぱい入ってるぜ」と呟いたのだが、それはみさおも想像ができた。
「あ、そうだ。もし良ければ、この後、少しだけお付き合いして貰えますか?」
 唐突に言葉を繰り出したみさおに、菜々美の目が僅かに瞬かれる。
 商店街の時計を見れば時刻は12時を回ったばかり。さほど急ぐ時間でもないだろう。
「構わないが、どんな店に行くんだ?」
「アンティークショップです」
「アンティークショップ?」
 再び目を瞬いた菜々美に、みさおはコクリと頷いて見せた。そして事の次第を説明し始める。
「そう言うことなら付き合ってやろう。店自体にも興味がある」
 そう言って笑った菜々美に、「やっぱり」とみさおは微笑んだ。

 ***

 幾つもの路地を曲がり、幾つもの道を進んだ先、突然浮かび上がったその店の前で、2人は足を止めた。
 重苦しい空気を纏う扉。
 その扉を開けると、中には見たこともないような雑貨が軒を連ねていた。
「凄いな、これは……」
 思わず零れた感嘆の声に、みさおが満足そうに頷く。
「何処にあるかはわからないんですけど、行きたいと思うと来れる、不思議なお店なんです。良く来るんですよ」
 ニッコリ笑うみさおに、菜々美は感心した様に頷く。そして奥へ向かう彼を見て後に続いた。
 店の中はかなりの数の品が並んでいる。
 中には一見して危険だとわかる者もあるのだが、みさおはそのどれにも目をくれることなく奥に進むと、カウンター向こうに腰を下ろす女性に声をかけた。
「こんにちは」
「おや、あんたは……」
 優雅に煙管を吹かしていた女性が、2人の姿を確認して目を細める。そしてゆっくりと紫煙を吐きだすと、ゆるりと口角を上げた。
「例のパペットはどうなりました?」
「……こっちに来な」
 女性はみさおの問いかけに、ほんの僅かに頷くと、煙管を咥えたまま立ち上がった。
 そしてそれ以上言葉を紡がずに奥へと消えてゆく。
 その姿を見てみさおが菜々美を振り返った。
「行って来い。私は買い忘れを思い出したから商店街に戻る。そこで合流しよう」
 少しだけ笑って踵を返す菜々美に、みさおは笑顔で頷きを返した。
 そして奥へと向かったのだが……。
「この中に新しいパペットが……」
 そう、みさおの目的は新たなパペットを受け取ること。そしてそれが、今手にしているケースに入っているのだ。
「新しいパペットの効果、どんななんだろう」
 わくわくと声を弾ませるみさおの足は、菜々美と合流すべく、商店街へと向かっている。
 その足取りは声と同様に軽やかで、早く見てみたいと言う気持ちと、見せたいと言う気持ちが十分に表れていた。
「――おい、みさお」
 弾む気持ちで歩いていたみさおに、鞄から顔を覗かせたジャックが声をかけた。
 その声に彼の足が止まる。
「どうやら、試せそうだぜ」
「え? ――っ、これって……」
 耳を突きさすような異音。
 それに慌てて耳を塞ぐと、みさおはその場に膝を着いた。立っているのも辛いほどの異常音。だが異変はそれだけではなかった。
 ぐにゃりと視界が歪み、奇妙な感覚が彼を襲う。そして全ての視界が霞みに包まれると、一瞬の間に景色が変わった。
 先程までは住宅街に居たはず。だが今居るのは木々に囲まれた不思議な空間だ。
 みさおはその中央に立ち、辺りを見回している。
「ここは?」
「ようこそ、辻宮みさお君」
 突然響いた声に視線が飛ぶ。
 そこに立っていたのは、真っ赤な着物に、病弱な印象を与える男――。
「……窮奇」
 みさおの声に窮奇はにたりと笑って優雅な一礼を向けた。
「ボクに何か用ですか?」
 警戒しながら鞄の中を開く。
 そこに納まるのは、相棒のジャックだ。その姿を見て、クッと嫌な笑いが窮奇の喉を過ぎた。
「君も、菜々美と同じですね」
「え?」
 尋ねるよりも早く、みさおの目が見開かれる。
 眼前に突如迫った負の波動。それに慌てて手を翳す。
 しかしそれだけで攻撃を防げるわけもない。
『鈍くせぇ!』
「ジャック!?」
 鞄から飛び出してきたモヒカンのパペット――ジャックが、みさおの右手に自ら装着され波動砲を放った。
――パンッ!
 目の前で割れる2つの波動。
 それを目にしたみさおの背筋に寒いものが走った。
「行き成り何するんですか!」
 叫ぶみさおに窮奇はニンマリ笑ったまま素早く印を結んだ。
――パンッ!
 再度2つの力がぶつかり合い、派手な音が響く。
 まるで自分の言葉は聞く必要がない。
 そうともとれる相手の攻撃に、みさおの眉があがった。
「理由もなく襲われるなんて納得が――」
「君が菜々美の側にいるからです」
「え?」
 静かに、けれど通る声で言い放たれた言葉に、みさおの目が見開かれる。
「菜々美はとても弱い。その弱さを増長させる手伝いを、君はしている」
「弱さを増長?」
 如何いうことだろうか。
 そもそもみさおにとって菜々美が弱いとは思えない。寧ろ強いとさえ思う。
 にも拘らず、窮奇は菜々美を弱いと良い、それを増す役割をみさおが担っていると言うのだ。
「意味がわからない」
「わからなくて結構です。菜々美は私と同様、神の力を操る事が出来るはずの存在です。それを君が邪魔をしているのですよ」
 再度放たれた攻撃。
 今度は1つ、2つと纏めて放たれる。
 それをジャックが波動砲で防ぐ。
「これじゃキリがない!」
 次々と相殺される攻撃に、先が見えない。
 そのことに焦りを感じたみさおの目に、窮奇の新たな攻撃が迫った。
『しまった!』
「!!」
――ガンッ。
 鈍い音が響き、咄嗟に閉じた目を開けた彼の前に、何かが飛び込んでくる。それは、先ほど店で受け取ったばかりの銀のケースだ。
「……もしかして」
『見てらんないよね〜、まったく』
 そう言ってケースから飛び出し、左手に嵌ったのは、悪魔にも死神にも見える奇妙なパペットだ。
「メフィスト・F・クラウン!」
『あらゆる神の力を自由自在云々自負してる奴にかぎって“似非プリースト”なんだよね』
 みさおの呼び名に、メフィストは優雅な礼を向ける。そして真っ直ぐに窮奇に向き直ると、ニンマリとした笑みを刻んだ。
「2体目のパペットですか……ですが、何が出ても結果は変わらないでしょう」
 そう言いながら印を結ぶ窮奇を、メフィストはじっと見つめている。そして印を結び、終文言が終わると、メフィストの目が光った。
――ドゴオオオンッ!
 凄まじい音が響き、閃光が走る。
「め、目から光線!?」
 みさおの驚く声に、メフィストの歯(?)が光る。
『こんなのは朝飯前だよ』
「では、これは如何でしょう」
 瞬く間に放たれる衝撃派。
 それを叩き落とす、メフィストの攻撃。
『体力少しだが回復だ……あのおっさん、タフだぜ』
 今の今まで、メフィストに相手をさせていたジャックは、どうやら体力回復に努めていたらしい。
 ジャックはみさおを見上げると、周囲に目を向けた。
『今の内に、結界を破るぜ』
「うん!」
 大きく頷いたみさおの目が、ジャックと同じく周囲を探る――と、その時だ。
「九字法――『者』の神、不動明王招致!」
 窮奇の目の前に巨大な五芒星が浮かび上がった。
 そして彼は、五芒星の中央に指を添えると、周囲を眩い光で包んだ。
「っ!」
 光と共に襲ってきた突風。それに目を瞑ったみさおの耳に、窮奇の声が響く。
「君の様な子供にこんな技を繰り出すことになろうとは、少々予想外です。ですが、証明にはなるでしょう。私が神の力を自在に操ると言う、その証明に!」
『ちょっとヤバめ。みさおは伏せることをお勧めするね』
 メフィストの声に従って、みさおの頭をジャックが押した。
 それに合わせて更なる突風が通り過ぎ、そして――。
『マジに出やがった』
 ジャックの声に、みさおの目があがった。
 彼の目の前に現れたのは、周囲の木々と同じくらいの大きさをした人間だ。
 しかも右手には宝剣を、左手には縄を持っている。そして瞳は怒りに満ち、真っ直ぐにみさおを見据えていた。
 その姿は、本などでも良く目にする、不動明王に違いない。
「私が操るのは九字法の神そのもの。菜々美の様にまがい物を扱うことはしません。これで私の実力がわかっていただけたでしょう。さあ、消えなさい!」
 窮奇の声に反応して不動明王が動いた。
 右手に持つ宝剣が光り、それが大きく振りあげられたのだ。
 これにはみさおも、ジャックも、メフィストも驚きに声を失う。だが、大人しく攻撃を待つ訳にはいかなかった。
『メフィスト、そっちは任せたぜ!』
 ジャックの声に、メフィストの目が一瞬だけ彼を捉える。だがその目が直ぐに不動明王に向かうと、彼の目が光った。
『しくじりは許さないからね』
 どんな状況でもおどけて返すメフィストに、ジャックがフッと笑みを零す。
 そしてみさおの右手を持ちあげるように導くと、口に気を集め始めた。
『デカイの行くぜぇ!』
 徐々に大きくなる力の球。
 それを集めている間に、振りおろされた宝剣がみさおに迫る。だが、寸前の所でメフィストの光線が防いだ。
 だが力は押されている。
『っ、長くは持たない感じかな』
 苦しげに呟く声に、ジャックの口からありったけの力で波動砲が放たれた。
――…、……バリンッ!
 何かが弾ける音がし、目の前で景色が崩れ落ちる。
 パラパラと、ガラスの破片の様に落ちる景色を見つめるみさおの目が見開かれた。
「……菜々美さん?」
「まったく、面倒なことに巻き込まれて……無事か?」
 問いかける菜々美の声に、みさおがコクコクと頷く。そして彼女がみさおの横を通り過ぎると、握られた2丁の銃が不動明王へと向いた。
「妙なパペット。そのまま押さえておけ」
『行き成り来て失礼な姉ちゃんだね。まあ、良いけど』
 そう言いながら、メフィストが光線の勢いを強める。
 それを受けて菜々美の唇が印を結んだ。そしてそれを銃の中に納まる弾へと吹き込む。
「一気に蹴りをつける!」
 菜々美の指がトリガーを引いた。
 それと同時に銃弾が放たれ、螺旋の紋様を描きながら白獅子が宙を駆ける。
「追加術式。不動明王の、喉笛を噛みきれ」
 もう1丁の銃から放たれた弾丸が、白獅子の背を押した。
――オオオオオッ!!!
 勇ましい雄叫びに、迎え撃つ不動明王は身動きをない。それどころか、視線は白獅子ではなく、みさおに向けられたままだ。
「メフィスト、あと少し……!」
 徐々に光線の距離が縮まっている。
 抑えるのも限界が来ているようだ。そしてそれを見透かしたように、不動明王の目が光った。
「!」
 一瞬の出来事だった。
 不動明王が手にする縄が迫る白獅子を絡め取り、難なくその身を縛りあげると、地面に叩き落としたのだ。
 勢いをなくした白獅子は、そのまま低い唸り声を上げて姿を消してしまう。
「しまった!」
 完全に隙が出来たみさおに、不動明王の更なる攻撃が迫った。
 振りあげられた宝剣。それがメフィストの光線を弾き、一気に彼の頭上に迫って来たのだ。
 しかし、宝剣が触れることはなかった。
「菜々美さん!?」
 僅かな合間を縫って、菜々美が宝剣とみさおの間に滑り込んだのだ。
「九字法全解除!」
 2丁の銃を不動明王の宝剣に向け、無数の銃弾を放つ。
――ドオオオオオオンッ!
 凄まじい音と共に、辺りが光りに包まれた。
 そこに上がる螺旋文字の竜巻。その中で不動明王がもがいているのが見える。
 だがそれも一瞬のこと。
 螺旋文字の竜巻が消えるのと同時に、不動明王の姿が消えた。
「……菜々美、さん?」
 光が消えたその場所に倒れる菜々美。その向こうに悠然と立つのは窮奇だ。
「まがい物は壊れましたか。これで菜々美も終わりですね」
「っ、菜々美さんッ!!」
 駆け寄るみさおに、菜々美はピクリともしない。そして彼の手が菜々美を抱き起こすのと時を同じくして、窮奇は姿を消した。
 後に残されたのは、地面に倒れた菜々美と、みさおだけだ。
『おい、みさお』
 ジャックの声にみさおの目が揺れる。
『これはそのお嬢さんのですかね』
 ジャックとメフィスト。
 その2人が視線を注ぐのは、何かの部品らしきものだ。
 良く見れば、それは菜々美が普段使用している銃だ。
『菜々美も終わりですね』
 窮奇の声がよみがえる。
「……菜々美さんの武器が、壊れた?」
 そう呟くと、みさおは彼女の体を無意識に抱き締めたのだった。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 8101 / 辻宮・みさお / 男 / 17歳 / 魔導系腹話術師 】

登場NPC
【 蜂須賀・菜々美 / 女 / 16歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】
【 窮奇 / 男 / 31歳 / 欲鬼僧 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは蜂須賀・菜々美のルートシナリオ6へご参加頂き有難うございました。
大変お待たせいたしました。
新しいパペット、メフィストの口調がご希望に添えているかドキドキですが、
楽しんで読んで頂けたなら嬉しいです。
この度は大事なPC様を預けて頂き、本当にありがとうございました。
また機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。