コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


錆びた剣

「この『世界』にまた新たなる『悪』が増えた――我らはそれを戒めねばならん」

黒い外套を頭まで被った人物が低い声で呟く。

声から察するに初老の男性なのだろう。

「またか、人間と言うものは理解しかねるね。何で自分から危険に足を踏み入れるのか‥‥」

その黒い外套の人物以外、誰もいないのに別の声――若い男性の声が響き渡る。

「ルネ、勝手に出てくるなと言うておるだろう」

先ほどのしゃがれた声が若い男性を戒めるように呟くが「別にいいじゃないの」と今度は若い女性の声が響く。

「今度の奴は『ログイン・キー』の封印を解除したんでしょう? あの女が封印を解くなんて――どんな奴か気になるわぁ」

けらけらと女性は笑いながら言葉を付け足す。

「ログイン・キーか‥‥奪うのかい?」

「いや、あれはただ奪えばいいだけのものではない。封印を解除された時から主の為にしか働かぬ。つまり――」

初老の男性が呟いた時「主ごと貰っちゃえばいいじゃないの」と女性が呟き、ばさりと外套を取る。

「7人で体を所有しているアタシ達だけど、今日はアタシの日よね? ちょっとからかいに行って来るわ」

そう呟いて女性・リネは甲高い声をあげながら黒い部屋から出たのだった。


――

そして、それと同時に新しいシナリオ『錆びた剣』と言うものが追加された。

まるでリネが『ログイン・キー』を持つ者を呼び寄せるかのように。


―― 海原・みなもの場合 ――

「う〜ん‥‥」
 海原・みなもはパソコンの前で困ったように唸っていた。それは先ほど新しく現れたクエスト『錆びた剣』のクエスト内容についてだった。
 そのクエストは他のクエストと違って明確な目的が無く、何をすればクエストクリアになるのかさっぱり意図が分からないクエストなのだ。
「明確な目的が分からない以上、まずは情報収集でしょうか‥‥何も調べずに行く事ほど怖い事はありませんしね‥‥」
 それに、と海原は小さなため息を吐きながら独り言を続ける。それは自分が作ったキャラクターについてだった。武闘術師の最大の利点は素早さ。
 しかし海原はその最大の利点を生かせない自前の反射神経なのだ。だから戦術――戦う前に勝てるレベルで達成できるような方法を考えていたのだ。
「‥‥まぁ、当面はキャラクターのレベルアップと『異常』の継続調査になるでしょうけど」
 苦笑しながらパソコンのキーボードを叩き始め、キャラクターを動かし始めたのだった。

「錆びた剣? そんなクエストが出てるの? あたしにはまだ出てないんだけど〜!」
 上級者とも言えないけれど、明らかに初心者でもない女性キャラクターに『錆びた剣』について聞いてみたのだが、その女性キャラクターはクエストをした事が無いという。
「もしかしてすんごくレベル高い――って聞こうとしたけど、そこまでないよね‥‥ぶっちゃけあたしの方がレベル高いじゃん」
 何でぇ〜!? と女性キャラクターは怒った顔文字と一緒にメッセージを送ってくる。
「あ、でも何かそのクエストって聞いた事あるんだよねぇ! たぶん今の時間にはログインしてると思うし、酒場でラリタって剣士に聞いてみれば?」
「分かりました、ありがとう」
 女性キャラクターと別れ、一緒に冒険をする仲間を集めるための酒場へと海原は向かう。時間帯が夕方という事もあり、酒場には結構な数のキャラクター達がいて、その中に『ラリタ』という名前を見つけて海原は話しかける。
「あの‥‥錆びた剣というクエストをご存知ですか? もし知っていたら聞かせて欲しいのですが‥‥」
 海原が『錆びた剣』という名前を出すと「錆びた剣!?」とラリタが驚いたように言葉を返してきた。そして「VIP1で待ってる」とだけ言葉を残してVIPルームへと行ってしまった。
「VIP‥‥? あぁ、個人でおしゃべりが出来る場所の事ですか」
 説明書を見て聞きなれない言葉を調べて、VIPルーム1へと海原も移動する。
「あんた、何処でそのクエストの名前を知った」
 VIPルームに入ると同時にラリタから言葉を投げかけられる。
「え? 実は先ほど新しく出たクエストなんです‥‥」
 海原の言葉を聞いてラリタは驚いたのか、暫くの間言葉を返してこなかった。
「俺の背後の友達がそのクエストを出現させて、向かったんだ‥‥だけど」
 ラリタはそこまで呟き、数分間だけ言葉の続きを言い渋っていた。
「どうしたんですか?」
「今は行方不明になった。その『錆びた剣』のクエストをクリアしてからあいつはおかしくなっていった‥‥両親が死んだのは俺のせいだとか。そしてあのクエストをクリアすると同時にいなくなっちまった」
 あのクエスト? と海原が聞き返すようにメッセージを送ると「絶望宿る希望の鐘というクエストだ」と言葉を返してきた。
「そのクエストをクリアした奴は必ず何か起きている。だからこのクエストは闇のクエストと呼ばれて恐れられているんだ」
 闇のクエスト、という言葉を聞いて海原は全ての異常の事と直感的に繋がる何かを感じた。
「あんたもそのクエストを受けるつもりなら、悪い事は言わないからやめておけ。たかがゲームでおかしくなるって話を俺も信じるつもりはないが、少なくとも俺の友人はこのゲームに関わってからおかしくなったんだから」
 ラリタの言葉に「ありがとう、でも私もやらなければならない事があるんです」と言葉を返してVIPルームを出たのだった。

 そしてクエスト『錆びた剣』を受けると、町から出て東にある廃墟へと来るようにと指示が表示された。メッセージを送ってきた主はリネという名前であり、名前からは女性なのか男性なのか分からず、海原は指示されている廃墟へと足を進めたのだった。
「‥‥あらあら、ログイン・キーを持つ者って言うから屈強な奴を想像していたけど、ちょっと予想外ねぇ」
 黒い外套を身に纏い、銀色の髪を靡かせた女性が枯れた木の上から話しかけてくる。
「貴方は‥‥?」
「あたしはリネ、貴方との関係を聞きたいなら‥‥そうねぇ、味方にもなるし敵にもなりえるわねぇ。協力してもらえればあたし達はきっと仲良くできると思うわ」
 にっこりと微笑みながらリネが呟き、ふ、と上を向いて画面越しに海原を見る。
「ふぅん、現実世界の貴方も可愛いのねぇ」
 現実世界、というリネの言葉に海原は表情を少しだけ険しくなる。
「やはり、このゲームに関わる人が異常を起こすのは‥‥」
「貴方は何を失うのかしら」
 海原の言葉を遮り、リネが可笑しそうに笑う。
「ログイン・キーを手に入れたんでしょう。その力は使ったの? いえ、様子を見る限りまだ使っていないのかしら‥‥? どちらでもいいわ。あなた、私に協力する? それともしない?」
 ひゅ、と風を切る音を響かせながらリネは海原へと攻撃を仕掛ける。咄嗟のことえ反応できなかった海原は一気にヒットポイントを削られ、あと1撃受けてしまえば確実にゲームオーバーになってしまう――そう思った時だった。
「――え」
 海原の持っていたログイン・キーが激しく輝き、海原のキャラクターのヒットポイントが∞表示になっている。
「何、これ‥‥」
 いまだ輝き続けるログイン・キーは海原のキャラクターに力を与え続ける。まるで現れたリネという女性に負ける事を許さないかのように。
「‥‥ふぅん」
 リネは呟きながら「使いすぎは良くないわよ、ふふ」と言葉を海原に投げかける。
「そうだわ、これをあげる。錆びた剣だけど、きっと役に立つ日が来ると思うわ――あたし、貴方のこと結構気に入ったし、今までの奴らみたいにすぐに『消えて』欲しくないわ」
 リネはそれだけ言葉を残すと海原の前から姿を消した――‥‥。

「貴方、このLOSTの異常調査をしているようだけど――このLOSTはそう簡単には調べられないわよ‥‥浅い所から深い所まで色々と闇の部分が多いもの――あたしもその闇の1つだけどね――‥‥」

 そう、甲高く笑いながら言葉を残して。

 結局、今回のクエストでは海原が求める異常調査について詳しくは分からなかった。
 しかし1つだけはっきりしたのは『LOSTがただのゲームではない』という事。

「‥‥あれ、どうしたんだろう、これ‥‥」
 ログオフした後、立ち上がった海原は自分の指の爪が異常に長くなっている事に気づく。
「‥‥こんなになるまで爪を切るのを忘れてたのかな‥‥?」
 だが、彼女はまだ知らない。LOSTでプレイを続けるたびに、気孔術を使うたびに、彼女が設定したキャラクターの獣化外見と同じになっていく事を。
 だけどその変化は本当に小さなもので、海原はまだ知る事が出来ずにいたのだった‥‥。



―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/女性/13歳/女学生

――――――――――

海原・みなも様>
こんにちは、水貴です。
今回はご発注いただき、ありがとうございました!
今回の内容はいかがだったでしょうか?
まだ謎ばかりですが、今後のシナリオで明らかになっていく事と思います。

それでは、今回は書かせて頂きありがとうございました!

2010/4/23