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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 旅人のいない毎日 ――

 その日、海原・みなもは学校も休みで朝からパソコンの前で睨めっこでもするかのように頬杖をつきながら『ログイン・キー』と先日のクエストで手に入れた『錆びた剣』を見てぼんやりとしていた。
 先日の『錆びた剣』のクエストの時、確かにあと一撃でゲームオーバーになってしまう筈だった。
 だけどあの時、いつの間にか持っていた『ログイン・キー』が激しく輝き、キャラクターのヒットポイント表示が瀕死を現す赤い文字から『∞』表示と変化した。
 だが、この『LOST』を調べていく中で分かった事が彼女にはあった。それは調査範囲が異常に広すぎるという事。まだゲームを始めたばかりの海原にはLOSTの中に広がる闇全てを拾いきる事が出来ないだろうと直感的に感じていた。
 だから当面の実質的な調査は『ログイン・キー』と錆びた剣を渡してきたNPCの女性に絞る事にして、異常との関連性も同時に考える事にしていた。
「そういえば、あんたみたいな事を言っていた人が前にいたなァ‥‥何かかなりLOSTにハマりこんでる奴でさァ」
 他のプレイヤーとの交流場所でもある広場に顔を出してログイン・キーと錆びた剣について聞いて回っていると、1人のプレイヤーが思い出したように言葉を返してきた。
「その人には何処に行けば会えるか分かりますか?」
 海原がカタカタとキーボードを打ちながら問いかけると「無理無理w」と即座に言葉を返される。
「だって、その人死んだもん。俺、仲良くなった人とオフ会とかしててさ、その人とも会った事あるだけどォ、少し前に何人も斬りつけた挙句にビルから飛び降りたって人がいたじゃん。その人がまさに今話してた人なんだよね」
 その事件はまだ新しく、海原にも聞き覚えがあった。1人の男性が勤め先の会社に包丁を持ち込んで「殺される前に殺してやる」と叫びながら何人かを刺し、最後には自分もビルの屋上から飛び降りたという事件だ。その事件をテレビで見ていた時、海原は何も思わなかったのだが、もし彼がLOSTの異常に巻き込まれた結果だとしたら、と考えるとぞっとするものを感じていた。
「そういうのが見たいなら図書館の裏コード見てみればいいよ」
「図書館の裏コード?」
 図書館には今まで自分が解決したクエストなどの概要が見られる場所なのだが、裏コードという言葉自体が海原は初めてで思わず聞き返すしか出来なかった。
「そう、LOSTの裏部分を集めたとされるものが裏コードに書かれているらしいって噂があるんだ。本当かどうか知らないけど。俺も実際に裏コード見たわけじゃないし」
 笑う記号を幾つもつけながら「それじゃ俺クエストにいくから、おつっす」と言葉を残して広場から出て行ってしまった。
 結局手がかりはその本当かどうか分からない裏コードを確認するしかないわけで、海原はキャラクターの行き先を図書館へと選択する。
「いらっしゃいませ。此処では貴方が過去に行ったクエストの概要を見ることが出来ます」
 にっこりとした女性が案内する中、海原はクエスト概要を見ていこうとカーソルを合わせる。すると女性の顔にもリンクが張ってある事に気づき、何気なくクリックすると「裏コードへようこそ、此処は選ばれたもののみだけが来る事が出来る場所です」と先ほどは笑顔だった女性の表情が無表情に変化して機械的な声が響き渡る。
「海原みなも様ですね、貴方様は裏コードの内容を確認する資格があります。何を知りたいですか?」
 女性が機械的な声をいい終わると日付が表示されていく。その表示は毎日であったり、一週間置きだったりと様々だった。何気なく海原は一番上の一番新しい日付をクリックすると先ほど広場で他のプレイヤーと話していた事件の概要が書かれていた。
「え」
 2番目に新しい日付をクリックすると別の事件、3番目に新しい日付をクリックするとまた別の事件が被害者、犯人の情報から全てが書かれていた。
「‥‥まさか、これ全部LOSTに関わって異常に巻き込まれた人‥‥?」
 海原がモニター越しで呟いていると『New』という項目が現れた。
 そこに書かれていた名前に海原は驚愕した。

 海原・みなも(13歳)女学生‥‥封印されたログイン・キーを解除させた女の子。現在はリネによって錆びた剣まで入手。

 まだそれしか書かれていないが、他の記事と比べると確実に何かが今後起きてくることは間違いなかった。

 だから海原は『リネ』というNPCを検索する事にした。錆びた剣を入手した際、彼女は全てを知っているような口ぶりだったからただのNPCではないと直感的に海原は思う。
 するとNPC検索で『リネ』という女性はすぐに検索する事が出来た。ただし全てにおいて「不明」と表示されているのだ。
 ただし、職業が「時の支配者・優」と書かれている。そのような職業のキャラクターは見た事がなく、恐らくこのNPCだけの職業なのだろうと海原は思う。
「あたしのことが知りたいのね。知りたいなら答えられる範囲で答えてあげてもいいわよ」
 突然メッセージが届き、海原はビクリと肩を震わせる。
「‥‥このLOSTで起きている異常について、何か知っていますか。先日あなたは自分の闇の部分だといいましたけどどういう意味ですか」
「ふふ、そのままの意味ね。このLOST自体が異常を生みだすべく生まれたものなんだもの。貴方が持つログイン・キーもその1つ。この世界にはねすごぉく大事なお宝が眠っているの。そしてあたし達はそれの居場所を知っているけれど鍵が無い。教えてあげられるのはそれだけね」
 ふふ、と笑い声だけを残してリネはそのままいなくなった。意味深な言葉だけを残して。
「この錆びた剣については触れなかった。それは役に立たないから? いえ、きっと言葉にすれば錆びた剣の役割そのものを言う事になるから言えなかった‥‥?」

 海原は小さく呟きながら今日までに分かった事をノートにまとめてログオフしたのだった。


END


―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

――――――――――

海原・みなも様>
こんにちは、いつもご発注いただきありがとうございます!
今回もLOSTにちなんだシチュノベでしたが、内容はいかがだったでしょうか?
気に入っていただけるものに仕上がっていれば良いのですが‥‥。

それでは、今回は書かせていただきありがとうございました!


2010/4/28