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神の剣 宿命の双子 夢と継承者
鳳凰院姉弟は影斬や仲間達に出会ってから、心などに余裕が持てているようだった。
笑顔を見せていく美香は、尊敬する影斬の師事を仰ぎながら、神格制御の訓練を行っている。
そして、昔のような人を近づけさせない様な雰囲気は薄れていって、通っている神聖都学園の昼休みには一人で屋上に行くことなく、クラスメイトと昼食を食べていることが多かった。
元から人なつっこい紀嗣は、魔族の『業火の王』にとらわれたときの後遺症調査で加登脇の病院に向かいながらも普通の学生として過ごしている。
鳳凰院の現鳳凰院当主が、影斬一人の時に(娘、息子達が居ない時だ)。
「ありがとうございます。子供達はこの難を乗り切りました。一重にあなた様のお陰です」
当主は、影斬に深々と礼を述べた。
「私は何もしていない。友人ができ、心が強くなったのは、彼らのなしたことです」
影斬は、そう返した。
想像を絶するあの力を、超常能力がない当主として、親としては抑えることができなかった悔しさはあっただろう。支えられないことが悔しいだろう。しかし、理解をしていた。それゆえ、親子仲はよかったのが幸いしている。
しかし、この火を祭る神社としては、今後の事が気がかりになっていた。
「そろそろ、私の跡継ぎのことを考えないと行けません」
「……そうですね」
美香には確固たる将来の夢がある。紀嗣も恥ずかしくて言ってないようだが、おそらく趣味の料理に関してだろう。
大学を出る前にまず、どうするか告げなければならない。
それは、夢を絶つともいう残酷な物だった。
少し温かい、渡り廊下で兄妹は考えていた。
「友達みたいに何でも屋で、体一つで他のことは出来ないよな」
紀嗣は紙パックのジュースにストローを刺して飲む。
「私には夢がある」
「俺にも……」
そう、確固たる夢があり、そのために勉強をしている。
美香は美容師、紀嗣は料理に……だ。
「しかし、お父さんを悲しませたくはないし、私たちの力が意味のある物なら……」
「紀嗣は、卒業したら、基礎を専門じゃなくパリなどで修行しそうだからな。家出同然で」
美香はクスクス笑った。
「ひでぇいわれようだな。そっちこそ髪の犠牲者だすなよ?」
むすっと弟はむくれた。
今までは距離を置いていた。
しかし今は、驚くほど仲が良い。
それは喜ばしいなと、遠くで大学生の長谷茜と精霊の静香が眺めていた。
「どうする? 将来のこと」
美香が真剣な顔になる。紀嗣もだった。
「誰が神社の跡継ぎになるか……だな」
空を見上げる。
雲の流れはゆっくりだった。
影斬が住まう家は道場とも兼ねている。小さいながらも、造りは確りしたものだった。
其処の居間で、影斬は考えていた。
「そろそろ、そう言う時期なのですね」
天薙・撫子が、お茶とお菓子を持ってきた。
「本来なら口出すことではない事ですけど、悩みは聞いてあげたいです」
鳳凰院家に撫子は影斬と同席していた。
そこでも、彼女は言っている。
「夢と現実に苦しんでおられます。その手助けをいたします」と。
結局決めるのは二人のことだ。しかしながら、思い悩む人に助け船を出さないことはおかしい。撫子が危惧しているのは、「〜の為に」と夢を諦め、跡継ぎになることだ。
「お二人が来たらそっと、お話をしたいと思います」
「そうだな。私より他のみんながいいだろう」
影斬はお茶を飲みながら、膝にやってきた猫をなでていた。縁側からここまでやってきたらしい。
「両立って難しいよな」
御柳・紅麗がラフな格好でやってくる。
「聞いてたのか?」
「ま、そろそろそう言う頃合いだろ? 学年的に」
「ふむ、そうだな。お気楽なお前でも、それぐらいは考えるか」
影斬が紅麗に言う言葉はなにかしらきつい。
「俺の扱いやっぱり酷くね?」
「親愛をこめているつもりなだが……ふむ」
考える影斬に溜息をつきながらちゃんと座ってお茶を飲む紅麗は、こう切り出した
「二人は実力と素質は充分ある。そして、条件を満たしているなら、後を継ぐのは本来の姿だろう。しかし、それで、『おまえがなるべき』と押しつけるより『二人でどっちを選ぶ?』が良いんじゃねぇかと思う」
「そうですね。話し合いでしょう」
撫子は頷いている。
「死神の跡継ぎ候補という立場なお前からの言葉とは思えないな」
意外な言葉に影斬は少し驚いていた。
「俺の道は決まってるし、こことの世界法則が違う。人間世界になれてきたから導き出された答えだよ。この世界は自由で良いなと思うときがあるさ」
彼の言葉に溜息をつく紅麗。やっぱり、お前は俺をバカだと思ってるなという感じで睨むが、これはいつものことなので溜息で落ち着かせた。
「実際私たちが考えてもしかたはないことだ。決めるのは二人だから」
「そうですよね」
「だよなあ」
撫子が居間と縁側へ繋ぐ障子をあけると、春の穏やかな光と風が入ってきた。この気持ちよい風を二人も感じて欲しいと思う。
数日後の神聖都学園近くの商店街。
雨が降る。傘を常に持っている御影・蓮也にとっては彼の違和感が無くなる天気。彼はいつも傘を持っているため、たまに変な目で見られる。日傘と主張するにはデザイン的に問題があった(本当に雨傘なので)。それが、アーティファクトとは誰も思っていない。
「明日止んでくれればいいな」
と、独り言を言っていると、目の前に見知った人が歩いていた。
「よう、義明」
「おう、蓮也」
二人は親友であり師弟(影斬が師匠)である。買い出しで出かけていたらしい所偶然会ったかんじだ。
そのまま、道場に向かって、例の話になってしまう。
「二人の進路は決まってないのか」
「そうだな……」
道場で軽く形の練習をし、その休憩時の会話だった。
「全く難しい問題だな」
「紅麗や撫子とも話はしていたが」
「結論は、自分に任せると言う事だろ?」
「大当たり」
影斬も決定権はないと、言う。
彼の場合は、紅麗に似ており『その道しか考えていない』事のため、色々手順を飛ばしている感じがあるのだ。彼が行おうとしたのは神力の制御という所だけである。メンタル面では上手く助けることは出来ないのだと、思っている。
「しかし、あのふたりは神格保持者だ。鳳凰院家は実際『世界』で大きな力を手に入れている。他の力が黙ってるわけじゃない。かといって二人が跡継ぎを放棄しても、力は絶対引き寄せられる。そのことを分かっているのかも知れないだろうが……」
「結局の所は」
「「助言程度しか言えないのだろう」」
蓮也は溜息をついた。
更に数日後に、4人アテへのメールか電話が届く。
「きたか」
誰しも思った事だ。
おそらく、2人は当主に呼ばれて誰が跡継ぎになるかを考えないといけないと言われたのだろう。
集まる場所は、影斬の居間。
そこには影斬、撫子、紅麗、蓮也と、鳳凰院・美香に弟の紀嗣が座していた。
「お話は察しての通りです。父に『跡継ぎを決めなければならない』と言われました。しかし、私たちはまだ夢に向かって学校で勉強しています」
美香が、現状と思いを口にしていった。普通に人として生きていきたい。紀嗣も同じ。ただ、自分たちが人とは違う存在である以上、力を求める何かと戦う事もある。両立は考えられない、また、自分だけが夢を負っていくことは苦しいことだと。
「わたくしから、アドバイスですというより、約束ですが」
「はい……」
撫子は穏やかな笑みで、美香と紀嗣に話しかけた。
「姉のため、弟のために自己犠牲で、夢を諦めてはいけませんよ」
「はい……」
「わかりました」
美香と紀嗣は頷く。
続いて紅麗が口を開いた。
「えーっと、俺から言えることは。まだ、学生だから、考えて考えて、考え抜いて。また2人で話合ってさ、いけばいいと思うんだ。決めなきゃいけないけど、時間はあるだろ? 人間はその特権がある。考え込んで潰れるより、ちゃんと話していこうぜ」
「……ああ、そうだな」
紀嗣が頷いた。
「何かあったら、この紅麗とバカやったり俺たちが相談にのる。あまり重く受け止めるな」
「おい、俺はそのためにいるだけですか!」
「いや、そういう存在だと徐々に思っていた」
「ふふふ」
蓮也の言葉で、少し和やかな雰囲気になる。
影斬からは何も言わなく、ただ見守っているだけであった。
決めなければならないことはたくさんあって
やりたいこともたくさんある
その中で見いだした道を見つけるのも
人生ではないかと思い始める
双子の2人はありがとうございましたと元気にお辞儀をして、影斬の家を去っていく。
「何か吹っ切れたようですね」
「ああ、それで良いのだろう。力も安定している」
相当後の話のことだが、紀嗣がどうも跡を継ぐ話が出てきたらしい。
本人曰く、
「料理は好きだけど、気持ちがまだ中途半端なような気がするんだ。しばらく親父には『勉強させてくれ。必ず夢に到達してやるけど、もし才能がなければ……』っていうちょっち後ろ向きな言い方になっちまったけど、それで了承を得たんだ。姉ちゃんと比べると俺の熱意はそれほどじゃないかもなって」
と。
このあと、2人がどのように、自分の道を歩むのかを見守る4人であった。
END
■登場人物紹介■
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【1703 御柳・紅麗 16 男 死神】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者「文字」】
■ライター通信
滝照直樹です。
このたび『神の剣 宿命の双子 夢と継承者』に参加して下さりありがとうございます。
お互いの道は大体見つかったようです。
このあと、彼らが進む道はどういうものなのか、それはまだ分かりません。
もし困ったことがあったら助けてあげてくださいね。
では、今回はこの辺で。
滝照直樹
20100514
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