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<東京怪談ノベル(シングル)>


VS仕訳人

都内の某高校。
お昼休みの教室は、近づいた大型連休の話題で持ちきりだった。

「連休はどこか行くの?」
「うちは家族でおばあちゃんの居る田舎に行くくらいかなぁ……」
「あたしは彼氏と旅行行くんだぁ」
女3人集まれば姦しいというが、5〜6人集っていれば姦しいというよりは騒々しいことこの上ない。
お昼の休憩時間、教室のあちこちでそんな会話がかわされていた。
「いいなぁ!」
心底という風に一際大声で叫んだのは、鴇村あづさ(ときむら・あづさ)。
「あづささんは、どこにも行かれないんですか?」
三島玲奈(みしま・れいな)は、少し首を傾げてオーバーなリアクションをとったあづさに問いかけた。
「ちょっと出かける予定はあるけど、半分はまたアソコだもん」
「あぁ、アソコですか」
「そう、アソコ」
アソコとは“第3保健室”なる機関である。
学校もしくは学生が関与する大小雑多な揉め事怪奇現象何でもござれの機関は悲しいかな政府関係機関なくせに年中無休なのだ。
「週40時間労働とかいう規則はどこいったんだか」
「連休中くらい先生一人でもいいのではないですか?」
「甘いわ玲奈ちゃん。たまの3連休ですら、3日も行かなかったら凄いことにーー」
その時のことを思い出したのか、あづさはうっと口元に手をやって、げんなりとした顔をしていた。
そのあづさの表情が相当面白かったのか、周囲は声を出してどっと笑ったその時だったーー

バタバタバタバタッーー

そんな派手な足音が徐々に近づいてきたかと思うと、玲奈たちの教室の前で止まり、ガラッっと勢いよく乱暴に共立の入り口が開け放たれた。

「み、三島クン! 三島玲奈クン!」

普段からあまり顔色のよろしくない担任の数学教諭が青ざめた顔をいつもよりも数倍真っ青にして教室に駆け込んできた。
あまりの勢いに、呆気にとられている生徒を余所に玲奈の名を連呼して姿を見つける。
「早く来てください!」
「えっ?」
「いいから、早くっ!」
どこに行くのかとは明確にせず、玲奈を引っ張っていってしまった。
「……なんだったの、今の?」
「さぁ」
「あたしちょっと追いかけてみる!」
首を傾げる級友たちのなか一人あづさが立ち上がった。
「え? 追いかけるって」
「ちょっと、あづさ!?」
止めるまもなく、今度はあづさが教師と玲奈の後を追いかけていってしまった。
「し、失礼します!」
ひきつったような裏返った声で、教師が先に入り続けて玲奈が入室していった。
そんな様子をこっそりと隠れてみていたあづさはすかさず二人が入っていった部屋ーー校長室の扉に耳をつけた。
ぼそぼそと聞こえはするが、はっきりと会話は聞こえない。

ーーこっちから無理ってことは……

表はだめなら裏からだと、あづさは外へ飛び出て校長室の窓の下からこっそりと室内をのぞき込んだ。
「大変なことになりましたよ、三島さん」
額の広い校長は、その額にだらだらとこぼれそうになる汗をせっせとハンカチで拭きながら玲奈の顔を見る。
「何がですか?」
「去年から新しい政府が行っていた無駄な公費を制限する仕訳が行われていたのはあなたも知っているでしょう?」
いまいち、玲奈はぴんときていない様子だったが、校長はそのまま話を進める。
「実はその件に三島さんのことも引っかかりましてね。お呼びがかかりました」
「あの、お話がよくわからないのですが……」
「そんなのんきな場合じゃないわよ、玲奈ちゃん!」
「あづささん?」
「だって、玲奈ちゃんの制服とかお小遣いとかいろいろ中止されちゃうんじゃないの?」
「それは困りますけど。でも、きっと大丈夫ですよ」
にっこりと微笑まれてしまえば、あづさはそれ以上いうことができずに口をつぐんだ。
「そうだといいんだけど……」
一抹の不安を抱く級友を後にして、玲奈は校長や担任とともに仕訳の会場である国会へと向かった。


******


「科学という文化は重要ですよ。それは判りますが、宇宙船を国民の税金を使用して維持管理する必要性がありますか?」
国会で仕訳人こと議員に、玲奈、校長、担任は雁首をそろえて対面していた。
びしびしと厳しいチェックが入る。
「民営化することによってその宇宙船を閲覧できるようにしてその閲覧料で維持すれば“無駄”な経費はそこから捻出できますよね」
そう言った女性議員は笑顔だが目は全く笑っていない。
「は、はぁ……。それに関しては私ども学校は関係していない訳でしてーー」
校長はこのわずか数十分で随分と額の生え際の後退が進んだようだ。
担任に至っては、青白い顔をして胃のあたりを押さえている。
「しかも、ブランドもののセーラー服なんて必要あるとは思えません」
「でも、あたし女子高生なんで……」
「それに、そもそも何でその宇宙船が使役するのが“女子高生”である必要性は? 百歩譲って女子高生風でもいいですが学校まで行く必要性はないですよね。学費とブランドもののセーラー服の無駄遣いです」
「でも知識を学ぶためには学校に行かなきゃいけないし、学校に行くなら制服も必要なんです〜」
玲奈は必死で訴えたが、
「知識ならインストールすればいいでしょう。学校へ行かなければずっと宇宙服でいいでしょう」
容赦なく“玲奈”個人にかかる経費もガツガツと削られて、玲奈はここに来た時とは全く違う姿にされた。
長かった髪はベリーショートに、制服ははぎ取られて宇宙服姿だった。
髪が短くなったためとがった耳とスカートに隠してあった尻尾が否応なしに人目にさらされる。
突き刺さる視線。
外野では物見高いマスコミや野次馬が玲奈に向かって眉を顰めたり嘲笑や好意的ではないひそひそ声が聞こえる。
ずっと様子を見守っていたあづさは、魔女狩りのような仕訳会議の様子に憤る。
「ひどい、これじゃただのさらし者にしてるだけじゃない」
玲奈もそう思ったのか、
「こんなの、酷すぎますっ」
と、漏らした。
そう言った玲奈は、羞恥と屈辱で頬は紅潮し、目は潤んでいた。

「あら? 人並みに羞恥心があるのならば、自分が今まで国民の血税である無駄なお金を使っていたことを恥じるべきでしょう」
あざけるような顔に、玲奈の自制心が崩れ落ちそうになる。
血も涙もないかのような議員の言葉に、あたりが静まり返るったそのときだった。

「た、大変です!」

血相を変えて男が飛び込んできた。
「何事ですか! 会議の真っ最中ですよ」
男ーーどうやら、議員の秘書らしいーーは、叱責されたにもかかわらず、議員に駆け寄った。
「たった今、気象庁から緊急連絡が! 隕石が太陽に衝突すると」
「それがなんだというの?」
金銭にはシビアだが、その手の話にはとんと疎い議員は眉を顰めて疑わしげな目を向ける。
「それによって太陽系にかつてない磁気嵐が巻き怒って、すでに地球全域の電気系統の故障が相次いでいます!」
成り行きを見守っていたマスコミ各社が真っ先に我に返った。
「こんな無知なオバサン議員の演説なんて見てる場合じゃないぞ!」
誰かが、そう叫んだのを引き金に一気に外野にいた人間は一斉に飛び出していった。
「なっ……」
呆然としていた議員は秘書の男に肩を掴まれてようやく我に返った。
「しっかりして下さい!」
その瞬間、部屋の電気が消えた。
日はどんどん暮れていくといったが、ごく一部の自家発電装置を備えている建物以外は暗いままだ。

「そうだわ、あなた!」

突然の事態を、成り行きのまま見守っていた玲奈に議員が声をかけた。

「あなたなら、何とかできるでしょう? こう言うときのために国税を使ってきたのだからどうにかしなさい」

ぷちっ

玲奈の中で何かが切れた音がした。
いわゆる“堪忍袋の尾”であることは言うまでもないだろう。
にっこりと笑って玲奈はそれを拒否した。
「明かりなんて蝋燭で十分ですよね?」
「でも、これじゃあ公共交通機関に影響がっ」
「そんなもの、歩けばいいじゃありませんか。足、あるんですよね」
「一般家庭の生活もどうなっているのかとか考えないの?食事の用意とか、お風呂とか」
「昔の人は電気などなくても生活していたのだから、そのようにすればいいですよね?」
これまでの復讐とばかりに、玲奈は次々と議員の言葉に反論する。
すっかり、仕訳する方とされる方が逆転していた。
「もう! なんなの、あなた! どうすればいいって言うのよ!!」
ついにはヒステリーを起こした議員の姿は先ほどまでの女帝然とした威厳は全くなくなっていた。

「まずは、お願いするべきじゃないですか?」

そのままにしても堂々巡りだろうと、あづさが口を挟んだ。
「このわたしが、頭をさげろっていうの!」
議員はあづさを睨みつける。
「でも、この状況を収められるのは玲奈ちゃんしかいないのよ。あなたの玲奈ちゃんへの仕打ちでそれが遅れたってなったら議員生命も終わりかもしれないですねぇ」
わなわなと、体と声を震わしながら、
「そんな、あなた、わたしを……脅す気?」
「脅すも何も、事実ですよ? あたしが言わなくても、きっとさっきいたマスコミがそういう結論を出すのは時間の問題だと思いますけど」
あづさの援護射撃に玲奈はにっこりと微笑みながら言った。
「別に、あたしは困りませんよ?」
議員は、視線を何度か外の様子と玲奈の顔の間を行ったり来たりさせたあと、がっくりと力つきたように床に膝をついた。
「……お願い、します」
「それじゃあ、学費の打ち切りも制服取り上げも取り消してくれますよね?」
「……はい」

玲奈の完全勝利だった。

そんな時に、外から叫び声が聞こえた。
「この危機を救えるのはやっぱり、彼女しかいない!」
その声に外を見ると、窓の外は大勢の群衆で埋め尽くされている。
その声をきっかけに、同じように「彼女しかいない!」という声が連呼された。

「玲奈ちゃん、はい。がんばってね」
あづさが彼女に手渡したのは、ウィッグとテレビアニメのヒロインばりのコスプレ制服だった。
「ありがとう!」
一瞬のうちにそれに着替えた玲奈が空へかけていった。


翌日、危機を脱した地球の、平和な日本。

地球を救ったコスプレヒロインは制服姿で元気に学校に通っていたーー