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<東京怪談・PCゲームノベル>


錆びた剣

「この『世界』にまた新たなる『悪』が増えた――我らはそれを戒めねばならん」

黒い外套を頭まで被った人物が低い声で呟く。

声から察するに初老の男性なのだろう。

「またか、人間と言うものは理解しかねるね。何で自分から危険に足を踏み入れるのか‥‥」

その黒い外套の人物以外、誰もいないのに別の声――若い男性の声が響き渡る。

「ルネ、勝手に出てくるなと言うておるだろう」

先ほどのしゃがれた声が若い男性を戒めるように呟くが「別にいいじゃないの」と今度は若い女性の声が響く。

「今度の奴は『ログイン・キー』の封印を解除したんでしょう? あの女が封印を解くなんて――どんな奴か気になるわぁ」

けらけらと女性は笑いながら言葉を付け足す。

「ログイン・キーか‥‥奪うのかい?」

「いや、あれはただ奪えばいいだけのものではない。封印を解除された時から主の為にしか働かぬ。つまり――」

初老の男性が呟いた時「主ごと貰っちゃえばいいじゃないの」と女性が呟き、ばさりと外套を取る。

「7人で体を所有しているアタシ達だけど、今日はアタシの日よね? ちょっとからかいに行って来るわ」

そう呟いて女性・リネは甲高い声をあげながら黒い部屋から出たのだった。


――

そして、それと同時に新しいシナリオ『錆びた剣』と言うものが追加された。

まるでリネが『ログイン・キー』を持つ者を呼び寄せるかのように。

視点→海原・みなも

 その日、海原・みなもは先日のクエストで入手した『錆びた剣』を見ていた。アイテムの説明欄に何かヒントが隠されていないかと説明ウィンドウを開いてみるけれど『全てが謎に包まれている。元は立派な剣だったようなのだが‥‥』としか書かれておらず、これから先の事を示すヒントなど欠片もなかった。
「とりあえず、この剣について聞いて回るしかないかな‥‥」
 ふぅ、と小さなため息を吐いて海原は自分の分身である『みなも』を操作して街の中を歩き出したのだった。
 この街で起きたクエストならば他にもクエストを受けて『錆びた剣』を手に入れている者が居るかもしれないと海原は思った。
 でも、何故か――何故だか分からないけれど『錆びた剣』を持つキャラクターになど出会えないような気がする、と心の何処かで考えていた。
「錆びた剣? 何それ。俺はこの街メインでクエスト受けてるけど‥‥そんなアイテムは手に入れた事ないなあ」
「錆びた剣って何か弱そうな武器だねー。もしかしたら錆びを取ればいいかもしんないけどぉ☆」
 数人のキャラクターの話しかけて『錆びた剣』について聞いてみたけれど、海原が予想した通り知っているキャラクターは皆無だった。
 でも‥‥。
「錆びを‥‥取れば、か」
 その中で1人のキャラクターが言った言葉に引っかかりを感じて小さく呟く。そう、錆びた剣なのだから、錆びを取ることは可能なはずだと海原は考えた。
「‥‥鍛冶屋、武器を鍛えるのは鍛冶屋‥‥だからきっと錆びを取るのも鍛冶屋に持って行けば‥‥」
 海原は呟き、タウンマップを表示させて鍛冶屋を探し始める。
「あれ?」
 だけどタウンマップには『鍛冶屋アリ』と表示されているのに肝心の鍛冶屋そのものが見つからないのだ。
「もしかして‥‥このタウンマップ間違ってるのかな」
 海原が小さく呟いた時だった。その時だった。鍛冶屋と書かれた隣に『隠』という文字を見つけたのは。恐らく、この街に鍛冶屋があるのは間違いないけれど隠し店となっているのだろう。
「そういえば‥‥他のキャラクターの人が言っていたような‥‥鍛冶屋は大抵が隠し店になっている事が多いって‥‥」
 それは錆びたアイテムにはクエストをクリアするための重要なものが多いから、とも言っていた。
「錆びたアイテム‥‥」
 そこで海原は『彼女』の言葉を思い出す。彼女の口ぶりから考えると『錆びた剣』が今度何らかの形で関わってくるかもしれないと海原は考えていた。
(「いえ、きっと‥‥関わってくるんじゃないかな‥‥」)
 海原は心の中で呟き、街の中を歩き回り鍛冶屋を探し始める。

 探し始めてから一時間が経過しようとした頃、死角になっている場所から下へ通じる階段を見つけて鍛冶屋へと入っていった。
「‥‥駄目?」
 鍛冶屋の老人に『錆びた剣』を見せて、錆びを取れないかをみなもは問いかけたのだが、老人は緩く首を横に振っただけで「錆びは取れない」としか言われなかった。
「何でですか? 此処は鍛冶屋でしょう? 他の錆びたアイテムは錆びを取るって書いてあるのに‥‥」
「ふぅむ、確かに錆びたアイテムはわしは受け付けておる。しかし、これはわしの手には負えんアイテムなのじゃ」
 老人の言葉を聞いて海原は『錆びた剣』の重要さを知る。その後、みなもは鍛冶屋を出て、どうするかを考える。
「‥‥ログイン・キー‥‥」
 小さく呟き、海原はアイテム欄のログイン・キーにカーソルを合わせる。すると『使用する』という項目が現れる。
 少し早鐘を打つ心臓を押さえ『使用する』をクリックする。その途端、画面がぱぁっと光る。
「‥‥? 相変わらず錆びた剣のまま‥‥あ」
 海原は小さく呟く。アイテム名は相変わらず『錆びた剣』だったけれど、アイテム説明欄には『少しだけ錆びの取れた剣。だが相変わらず錆びている為使用する事は出来ない』という説明に変わっていた。
「‥‥!」
 そして自分の手を見て驚愕する。腕半分が獣化した『みなも』の腕になっていた。
「‥‥‥‥」
 そしてゆっくりとした動作でパソコンを見る。ログイン・キーを使う前、腕は普通だった。何か『変化してしまう原因』があるとすれば、剣の錆びを取る為に使用したログイン・キーしか思い当たる節はなかった。
「‥‥何かを失った人は‥‥消える‥‥」
 ポツリと呟く。海原には分かっていた、これが一筋縄ではいかないと言うことに。錆びを取るために使用しただけで腕半分が変わってしまった。
 ログイン・キーを使い続けることで『錆びた剣』を元に戻す事は出来るのだろうと海原は予測を立てる。
 だけどそれと同時に思う。恐らく錆びを取る為に使えば、自分自身が何処まで変わってしまうのかという事に。使った後に海原・みなもとしての自分が残っているのだろうかと‥‥。
「解決はしていない、だけど‥‥きっと、追い続ければ‥‥」
 海原は小さく呟き、先にある結末を見届ける為に大きく息を吐いたのだった。


END


―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

――――――――――

海原・みなも様>
こんにちは、いつもご発注いただきありがとうございます!
今回の内容はいかがだったでしょうか?
少しでも面白い内容に仕上がっていればよいのですが‥‥。

それでは、今回は書かせていただきありがとうございました!

2010/5/4