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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


心霊記事を書いて

「さんしたくん、本当にキミは役立たずね――仕方ないからこれのうちどれかを選んで取材してきて」

 碇 麗香が数枚の資料を『さんした』こと三下 忠雄に渡す。
 勿論、それのどれもが幽霊に関する資料であり、どれもが危険な匂いがしているのは言うまでもない。

「む、無理ですぅ‥‥こんな場所に行っちゃったら死んじゃいますって! 編集長は僕が死んでもいいんですか!」
「あんたが生き残るより、記事がないまま雑誌発行する方が怖いからさっさと行く!」

 あんまりだ〜、泣きながら三下 忠雄はアトラス編集部から出て行き携帯電話を取る。

「あ、あのぅ‥‥実は僕が行く取材を代わりに行ってきてほしいんですぅ‥‥ちょっと風邪引いちゃって。げほげほ」

 明らかに仮病だと分かる口調で三下 忠雄は電話をかけて近くのカフェで落ち合うことになったのだった。

視点→清水・コータ

 此処はとあるカフェ。お昼時という事もあって、人が多く店内は賑わっていた。
「げほげほげほげほ‥‥本当に申し訳ありません‥‥げほげほ、風邪さえなければ僕が行っていたんですけど‥‥げほげほ」
 わざとらしい咳き込みを途中途中に入れながら三下忠雄はちらりと清水・コータを見る。恐らく三下の心の中としては、これだけ具合が悪い素振りをしていれば代わりに行ってきてくれるだろう――という考えがあった。
「あらら〜、風邪引いちゃったのかぁ‥‥お大事にね」
 先ほど頼んだオレンジジュースを飲みながら清水は三下を見ながら心配そうに言葉を返した。
 そんな清水の態度を見て三下は(「よし、あの様子ならきっと代わりに行ってきてくれる」)という確信を持った。
 確かに三下の思惑通り「それじゃ俺も行くよ」と清水は言葉を返してきた。しかし三下は喜びかけて、とある言葉に引っかかりを感じてぴたりと喜ぶのをやめる。
「‥‥‥‥俺、も?」
 そう、本当に三下の思惑通りに進んでいるならば「それじゃ俺が行くよ」という言葉になるはず。しかし先ほど清水が言った言葉は『が』ではなく『も』という言葉だった。
「具合悪いのも、まぁ‥‥絶叫すれば治るっしょ」
 にこっときっと三下が女の子だったら惚れていそうな爽やかな笑顔で清水は言葉を付け足した。
「えええええ! い、いや僕は明日も仕事がありますしゆっくりじっくりと休養を‥‥」
「これも仕事だろ? 手伝ってやるから頑張ろうぜ!」
 再び爽やかスマイルで言葉を返されて、三下は今度は仮病ではなく本気で目の前が真っ暗になるような感覚に陥ったのだった。

 三下が持っていた心霊スポット資料には場所が幾つもあり、流石に2人で取材をするからといって1日で終わる筈もない。
 だからその中でも怖そうな『山』に行く事にして清水はどこか楽しそうに準備を始めていた。
(「‥‥な、何でこんな事に‥‥」)
 こんな事なら素直に『手伝ってください』と言っていた方が良かったような気がする、三下は遠くを見つめながら「‥‥無事に帰れるといいなぁ」と呟いたのだった。
「えぇと、何々‥‥夜に山に入ると遭難させようと別の道を教えてくる女性の幽霊がいる、か。夜に山に入ったら幽霊に導かれなくても遭難しそうだけどなぁ」
 資料を読み、小さく感想を漏らしながら清水が呟く。
「よし、これから向かえばちょうど夜だし行くとするか!」
「あぁぁぁぁぁぁ‥‥嫌ですぅーーー!」
 まだ幽霊に会っていないうちから絶叫する三下を見て「おお、元気が出たじゃんか」と見当違いの言葉を投げかけ、2人は山へと向かい始めたのだった。

「ううぅぅ、きっともう幽霊が待ち構えてます‥‥明らかに雰囲気悪いじゃないですか、きっと僕たちは憑かれて殺されちゃうんです」
 三下は物騒な事をぶつぶつと言いながら山を見上げる。心霊スポットとなっているせいか魔よけのお札などが貼られており、至る所に貼られているお札が余計に不気味さを煽っていた。
「夜に見る山なんかこんなもんだろ。さぁ行くぞー」
 三下の首根っこを掴みながら清水が山へと入る。
「うわぁぁぁんっ! いやですぅ!」
「大丈夫だって! 貰いもんだけど除霊グッズ持ってきてるから」
 清水が持ってきた除霊グッズを見せる。しかし清水はよほどの事がない限りはこの除霊グッズを使うつもりはなかった。それこそ自分の命に危険が起きたとかそういう事に発展した場合は使うかもしれないのだけれど、と清水は心の中で呟いた。
「‥‥あなた達、何でこんな所に‥‥? こんな時間に来たら――危ないわよ」
 山の中を歩き始めて1時間ほどが経過した頃、白いワンピースをひらひらとさせながら清水達に話しかけてくる女性がいた。真っ暗な山の中で、少し先も見えない状態の中、その女性は青白く光っており、明らかに人外のものだという事が感じられた。
「ぎゃああああああああ! で、出たぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 山の中に三下の絶叫が響き渡り、清水は「元気じゃん」と呟く反面、耳元で騒がれた為に「うるさいなぁ‥‥」と思わずにはいられなかった。
「あっちの方が近道よ、うふふ」
「ちょ、清水さん! 明らかに僕たちが来た道とは反対方向じゃないですか! きっとあの人、僕たちを食べるために殺す気ですよ!」
 三下がぎゃあぎゃあと騒ぎ、清水が少し警戒しながら女性が指差した方向を見ると「おお、こりゃ確かに近道だな」と笑って女性を見た。
「――ここから落ちたら、天国か地獄か、どっちかに行く近道だな」
 そう、女性が指差した方向には崖があり、そのまま女性のことを信じて進んでいれば命は無かっただろう。
「ぎゃあああああああああ! やっぱり殺されるぅぅぅ! 編集長を恨んでやるぅぅ!」
 三下は叫ぶが、恨んで枕元に立っても編集長に勝てない気がする――と自分で思ってしまい、自分でへこんでしまった。
「何でこんな事してんだー? 落ちたらマジで危ないぞ、これ」
「‥‥死ぬでしょうね、私みたいに」
「へ?」
「私、2年前にそこから落ちて死んだの。足を滑らせて‥‥間抜けよね」
 ごめんなさい、女性は今更ながらに自分が言った言葉を思い出して罪悪感に苛まれ、清水達に謝る。
「でも無事だったし気にする事ないって。まだここで死人も出てないんだから」
 清水の言葉に「へ?」と三下は間抜けな声を出して懐中電灯で資料を読む。確かに先ほど自分達を殺そうとしてきたはずなのにこの山での死人はまだ出ていない。
「大方、信じてそっちにいた奴がいても脅かすかなんかして逃げさせたんじゃないの?」
「‥‥だって、落ちたら死んじゃうじゃない」
 矛盾している女性の言葉に清水は大きく笑い出して「面白いな、あんた」と言葉を返す。
「面白いのはあなたでしょう。私は幽霊なのに何でそんなに普通に接する事が出来るの? そっちの子みたいに怖がるのが普通だと思うんだけど」
 女性の言葉に清水は暫く考えこみ「だって、幽霊に対抗する手段とか知らないから」と言葉を返した。
「もし俺が除霊屋とかならあんたを除霊するために動くんだろうけど、俺はそんな方法知らないし、それに死んじゃったとしてもあんたは人間だろ。ちょっと幽霊になって普通じゃないかもしんないけど、俺達普通に話せるじゃん」
 清水の言葉に女性はぽかんとした表情を見せて「あはははっ、おかしな人ね。物凄く楽観的な考え方じゃないの」と女性は笑いながら言葉を返した。
「私、普通に話せる誰かを待ってたのかもしれないわ。幽霊になって此処から動けずに居たけど、すっきりしたせいかしら。今は空へあがる道が見えるわ‥‥」
 ありがとう、女性はそう言葉を残して夜の闇に溶け込むようにすぅっと消えていったのだった‥‥。
「行ったか‥‥取材終わっ‥‥」
 清水が三下の方向を見ると、そこには大の字で気絶している三下の姿があった。
「仕方ないなぁ‥‥」
 ため息を吐いた後に頭を掻き、清水は三下を抱えて下山したのだった。

 その後、清水についていってもらった上に気絶した事まで編集長に知られてしまい、三下はこっぴどく叱られ、清水は編集長からお礼を言われたのだった。


END


―― 登場人物 ――

4778/清水・コータ/20歳/男性/便利屋

――――――――――

清水・コータ様>
初めまして! 今回執筆させていただきました水貴透子です。
今回はご発注いただき、ありがとうございました!
三下との同行と言うことで書かせていただきましたが、いかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思ってくださる内容に仕上がっていれば幸いです。

それでは、今回は書かせていただきありがとうございました!

2010/5/5