コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


私だけが見える異変

――カラン。

「みなもちゃん、どうしたの? 何か今日はよく物を落とすね。風邪でも引いた?」
 海原・みなも、学校での1日が終わろうとしている今現在までシャーペンだったり消しゴムだったり、落とす物は様々だったけれど数十回は床へと落としていた。
 その理由は、変化してしまった両腕の前腕部分のせいだった。LOSTでログイン・キーを使ってから急激に変化した腕は海原の日常生活でも支障があった。
「‥‥? どしたの? 腕なんか見つめちゃって」
「う、ううん。何でもないの」
 そう、この変化は海原のみしか見えていないのだ。他の人間からは普段と変わりない普通の腕にしか見えていないのだろう。
(「見えていたら、結構大騒ぎになりそうですものね」)
 最初に学校に来る時も他の人間達の反応が怖かったけれど、普通と変わりない反応にやや拍子抜けした部分もあった。

「まさか見えないなんて‥‥他に異変に巻き込まれた人たちもそうだったのかしら」
 学校から帰宅し、自室の椅子に腰掛けながら海原は腕を見る。
「でも、此処まで異変が進んでるんだもの‥‥諦めるわけには行きませんね」
 海原は小さく息を吐き、パソコンの電源をいれてLOSTを起動させたのだった。
(「きっと、ログイン・キーを使って錆びを落とすのは正当な攻略法ではなさそうです。何か他の攻略法があるのでしょう‥‥しかし」)
 海原は『みなも』のステータスウィンドウを開き、ステータスを見る。武闘術師という事もあり素早さは他の能力に追いつかれない程に上昇している。防御、攻撃力などもそこそこ良い方だろう。
 だけど、魔法防御力だけがはっきり言って他の能力の半分もない。これなら強力な魔術師タイプと戦闘になってしまったら負ける可能性の方が高いだろう。
「いくら攻撃力、防御力を上昇させても魔法に弱かったらいざという時に負けてしまう‥‥」
 しかし武闘術師は魔法とはあまり関係ないために魔法防御を上昇させるものはない。アクセサリなどはあるだろうが雀の涙程度の上昇しか期待できないだろう。
「う〜ん‥‥」
 結局、海原は解決策が見つからず交流場へと足を運び他の武闘術師に聞いてみる事にした。魔法防御に弱いというデメリットがありながらも登録キャラクターの中では武闘術師はそれなりに多いのだから。
「魔法防御力?」
 みなもが話しかけた武闘術師はレベルが74という強力なキャラクターだった。話を聞いていればLOST初期からプレイしているらしく、ステータスを見れば素早さだけは特化しているがその他の能力は均等になっている。
「あー、武闘術師の天敵って言ってもいいからなぁ。魔術師タイプは。剣士タイプなら盾とかでダメージ軽減できるんだけど、武戦術師は盾が装備できないしな。気孔術・獣なら魔獣の衣を覚えれば戦闘中は魔法防御力が上昇するよ。最初のうちは魔法に苦労するし、レベルが高くなっていけば結構魔法防御もあがってくるんだけどな」
 魔獣の衣、というスキル名を教えてもらい、早速街の修練場へと向かう。人との会話で出てきたスキル名ならば覚えられる仕組みになっているのだ。勿論覚えるためにはそれ相応のレベルが求められるのだけれど。
「魔獣の衣――――OK、あんた覚えるだけのレベルはあるみたいだし打って上げるよ」
 修練場の女性はにっこりと笑って手を差し出してくる。みなもは求められるだけの金額を支払い『魔獣の衣』を習得したのだった。
「あとは‥‥レベルをあげていこう」
 先ほどの武闘術師と別れる前に呼び止められて教えてもらった事があった。それはスキルはレベルに応じて覚えるものとクエストなどで覚えていくもの、そして店で購入するものと3種類があると言う事。修練場で購入したスキルは上級スキルに変化する事はないけれど、レベルに応じて覚えたものやクエストで入手したスキルは特定のレベルに達すると上級スキルに変化するのだと言う。修練場で購入したスキルを上級スキルにしたければ、レベルをあげて修練場で買いなおすと言う方法しかないらしい。
「スキル入手にも色々あるんですねぇ‥‥」
 海原は小さくため息を吐きつつ小さな声で呟いた。
 それにしても、と海原は呟きながら自分の腕を見る。両方の前腕が獣化しているため、キーボードを打つのも一苦労する。確かLOSTには専用のコントローラーが出ていると他のキャラクター達が言っているのを聞いた覚えがある。
「どうしよう‥‥」
 自分の腕を見つめ、海原は何度目になるか分からないため息を吐く。自分の腕が変化した事、それは確かに彼女の中に驚きと恐怖のような感情を与えていた。
 だけど何処かで『覚悟していた』という部分があったのも事実だ。恐らくこうなってしまったからには異変が進むことはあっても、元に戻る事はないだろう。
 元に戻す事が出来るとすれば、それはただ1つ――――。
 LOSTの異変の先に到達する事。確証は無いけれど、恐らくそれだけが元に戻る唯一の方法ではないかと海原は仮説を立てていた。
「最初は異変を調査する為。でも今は違う――異変を調査して、自分が元に戻る為に私はLOSTを続けていかなくちゃ‥‥」
 決意を秘めたような口調で海原は呟き、再びキーボードを叩き始めたのだった。


END


―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

――――――――――

海原・みなも様>
こんにちは、いつもご発注頂きありがとうございます!
獣化にて失う物とは、次の話以降も続くと思っていただいて大丈夫です。
シチュノベでLOST関連のご発注を頂いていますが、次の話に影響しない変化をさせていますので(^^)
それと獣化では日常生活に支障がないように本人のみしか見えない、という設定がありますのでLOST限定でも、そうじゃなくても大丈夫です。

今回も書かせて頂き、本当にありがとうございました!

2010/5/7