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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ それは彼の決意の一つで +



「あれ?」


 今日も今日とてボクシングジムにて見学兼ボクササイズに来ていた銀髪の美しい少女――セリス・ディーヴァルはある事に気付く。
 同じジム所属であり、クラスメイトである常原 竜也(つねはら りゅうや)の様子が他の人間と違う動きをしているのだ。それは決してたいしたことではないが、気に掛かってしまった今、どうしても目で彼を追ってしまう。
 いつだって厳しい練習に励む竜也なのだが、何故か一つトレーニングを終える度に体重計に乗っているのだ。腹筋をこなす度に、走り終える度に――と言った具合にだ。
 決して自身の勘違いではないと確信を得るとセリスはうーん、と首を傾げる。


 やがてジムの練習時間が終わり、自然一緒に帰る事になった二人は帰路を歩む。
 そこでセリスは先程発見した事について直接竜也に尋ねてみることにした。


「あの〜、竜也さん。たしか今はそこまで減量は必要なかったはずですよね〜? でも何故かトレーニングを終える度に体重計に乗っているのは何でですかぁ?」


 おっとりとした口調で問う彼女に竜也は一瞬目を見開く。
 些細な事だからこそ彼女が自分の行動に気付いているとは思っていなかったようだ。確かに竜也はプロボクサーで、時には体重制限を掛けなければいけない立場だ。だけどセリスが言ったように今は特に過度な減量を必要とはしていない。
 彼はぽりっと人差し指で頬を引っかく。
 それから丁度傍にあった喫茶店を指差した。


「んー、話すと長くなりそうだから、折角だしジュースの一杯でも奢るよ」


 笑いながら喫茶店の戸を開けば、カランカラン、とベルの音が鳴る。
 それを聞きつけた店員が満面の笑みを浮かべながら二人をボックス席へと案内した。すぐに水とお絞りを運んできた店員は注文を取ろうとするが、まだ品物を決めていなかった二人は「また後で呼びます」と一言告げた。
 やがてセリスがオレンジ、竜也がメロンソーダと互いに注文の品を決めると店員を呼び注文をする。そして店員が居なくなった後、竜也は机の上で手を組みながら真剣な表情で話を始めた。


「俺、運動神経いい方だろ? だからボクシングを舐めてたところあったんだ。で、やっぱりというかある日ころっと負けちゃって」
「ころっと、ですかぁ?」
「そう、ころっとあっさり。本当にあの時は自分でも『なんで負けたんだよ!』って泣きそうなくらい悔しくて叫びたかったくらいだったな――でもさ、そんな時にすごい奴と出会ってさ。そいつ、身長がすんげー高いのに、階級はフェザー級……試合前なんか骸骨みたいになるんだ」
「が、骸骨……」


 セリスは思わず身長の高いガリガリ肉体かつ肌も青白い男性を思い浮かべる。
 眉間に皺の寄った彼女を見て竜也は大体のイメージを察し、「多分その想像よりか肉は付いていると思うよ」と笑いながら手を横に振った。


「でも、そいつは弱音なんか全く言わないし、しかも強い。常日頃から減量生活状態だから、精神面はチャンピオン級かもしれない」
「竜也さんも強いですよぉ」
「でもそれは昔の俺を知らないセリスから見た俺、だろう? 本当にあの頃は自意識過剰っていうのかな。馬鹿みたいに自信持っててさ、負けることなんて考えてなかった」


 話の途中で店員がジュースを二つ運んでくる。
 彼らはそれを受け取って一言礼を告げると、適当に喉を潤しながらまた話を再開させた。


「でさ、話は戻すけど、そいつ見てたら自分が情けなくなっちゃってさ。確かに俺って減量はあんまりいらないけど、それに甘えてたらどんどん弱くなる。だから、時々こうして自分を追い詰めてるんだ」
「はぁ〜、だからトレーニングをする度に体重計に乗ってるんですねぇ。自分の肉体の変化をちょっとでも見逃さないために」
「そ。ぶっちゃけカロリーの高いジュースとかも飲まない方がいいんだろうけど――今は見逃して、な」
「ふふ、それはきついお話ですねぇ。ジュース美味しいですよ〜」


 ストローを口から離すと竜也は調子よく唇に指一本乗せて「秘密」と笑う。
 その態度が可笑しくてセリスはくすくすと息を漏らしながら微笑んだ。理由を聞けたことによりすっきりしたのだろう。彼女はオレンジジュースの中に浮かんでいる氷をストローでくるくる回して遊びながら、続きを促す。竜也も同じように氷で遊びながら話を続けた。


「確かに色々キツイけど、それで強くなって試合に勝てれば皆も喜んでくれるしね。俺自身もボクシングで何か成し遂げたいし、頑張らなきゃな」
「じゃあ、キツイのが軽くなるように私がずっと側で応援してあげますね〜」
「あ、なら介抱の方もずっとお願いできる?」


 柔らかな笑みを浮かべてくれるセリスの言葉に救われ、竜也は思わずぷっと噴出す。
 それから更に調子付くと応援以上のものを望む言葉を口にした。セリスは同じジム通いもしているし、クラスメイトでもあり、そして劇団の仲間でもある。彼女が付いててくれるならもっともっと頑張れるだろう――彼はそう思っていた。


 そしてセリスも自分の言葉に嘘など一つもなかった。
 彼が望むなら自分は応援をし続けたいと思うし、介抱をして欲しいと願われたならばきっとその通りにするだろう。
 竜也の夢と未来――そしてセリスの夢と未来はとても良く似ていて、寄り添うのが容易だろうから。


 だけど今はただのふざけあいの延長のように。
 それはそれは自然と出てきた言葉のように。


 お互いの言葉の意味に気付くのはまだ先の未来――それはまた別のお話の事であった。








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8178 / 常原・竜也 (つねはら・りゅうや) / 男 / 17歳 / 高校生/プロボクサー/舞台俳優】
【8179 / セリス・ディーヴァル (せりす・でぃーう゛ぁる) / 女 / 17歳 / 留学生/舞台女優】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、またまた発注有難う御座いました!
 今回は「理由」と話す竜也様中心の話を書かせて頂きまして有難う御座います。どんどん距離が近づいてくるお二人の様子がほほえましくて個人的に和んでおります(笑)
 いつか本当に支えて、支えられての関係になって頂ければなと応援させて頂きますね。