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<東京怪談ノベル(シングル)>


侵食する闇

 最近、夢を見る。
 内容はあまり覚えていないけれど良い夢ではない事だけは分かる。心臓はばくばくと早鐘を打ち、起きた時には汗びっしょり――内容は覚えていなくても良い夢じゃない事を物語っていた。
「‥‥ふぅ、まだ夜中の3時‥‥」
 カチコチと時を刻む時計を見ると夜中の3時過ぎを示していた。もう一度寝ようとしたけれど、喉が渇いているのを感じて台所まで行き、コップに水を注ぎ、それを一気に飲み干す。
「‥‥明日、あ――もう日付が変わってるから今日ですね。雫さんに少し話を聞きに行ってみようかな‥‥」
 海原・みなもは小さく呟き、再び寝る為に寝室へと戻り、目がさえて眠れなかったけれど目を閉じて無理矢理にでも眠ろうとしたのだった。

AM7:32
朝、目が覚めて海原は獣化してしまった両腕を見る。改めてみるとやはり怖くなる。
(「‥‥このまま、完全に獣化してしまうと『あたし』は‥‥」)
 心の中で呟き、それを想像して海原はゾッと背中を駆け上がる悪寒を感じた。たかがゲームの異変調査と甘く見ていたわけではないけれど、少なくとも調査を受けた時の海原は自分が獣化してしまう事など微塵も考えていなかった。
 いや、きっと誰が海原の立場でも考えはしないだろう。自分自身の全てを変えてしまう異変が身に襲ってくることなど。
 これからのクエストをクリアしていく上で情報収集は絶対不可欠だと海原は思う。たとえ強い敵でも、たとえどんなに弱い敵でも『みなも』自身に戦闘不能の危機が襲えばログイン・キーは問答無用で発動することだろう。
 そして、その代償はプレイヤーである海原自身にやってくるのだ。
 だから、これから先はどんなに小さなミスも許されない――そんな重いプレッシャーの中でLOSTをプレイしていかなくてはならないのだ。重く圧し掛かるプレッシャー、それがどれほどのストレスを感じるのか、それは海原自身にしか分からないだろう。
「あ、そろそろ出ないと待ち合わせ時間に間に合いませんね」
 時計を見ればAM8:20を指しており、瀬名・雫との待ち合わせ場所、ネットカフェに行く為に海原は自宅から出て歩き出したのだった。
(「雫さんに聞けば、何らかの情報が入るかもしれない‥‥」)
 そんな期待が海原の中にはあった。瀬名・雫と言えばオカルト関連HPでは関東一を誇っており、ネットゲームであるLOSTに関しても何か知っているかもしれないと海原は考えていたのだ。
「おーい、みなもちゃん」
 ネットカフェ近くになると、瀬名も来たばかりなのかネットカフェ近くを歩いていた。
「おはようございます、今日はお呼びして本当にすみません」
 海原が苦笑して丁寧に頭を下げると「いやいや、別に構わないよ〜? 何かLOSTについて聞きたいんだよね?」と瀬名が言葉を返してきた。
「えぇ、雫さんもLOSTはプレイしているんですか?」
「もっちろん! あれほどオカルト面で有名なゲームもないでしょ!」
 オカルト面で有名、やはり瀬名は何かしらの情報を持っている事を確信して「私の手、どう見えます?」と瀬名に問いかけた。
 もしかしたら、彼女なら海原を襲っている異変が見えるかもしれない――と思ったのだがその期待は脆く崩される。
「手‥‥? 普通に見えるけど、何処か怪我でもしたの?」
 かくりと首を傾げながら言葉を返してくる瀬名に苦笑して「いえ、何でもないんです」と言葉を続けたのだった。
 それから海原と瀬名はネットカフェの一室を借りてLOSTを起動させる。人気ネットゲームという事もあり、どのパソコンにもインストールされているようだった。
「あたしのキャラは‥‥魔界剣士のシズクだよ。最近は忙しくてプレイしてなかったけどね」
 そう呟きながら瀬名は自分のキャラクターのステータス欄を見せる。そのステータス欄を見て海原は驚く。流石、としか言いようがないほどにレベルも上げられており、装備している武器防具、アクセサリも見た事もないものばかりだった。瀬名いわく、装備しているアクセサリは結構なレアものなのだと少し自慢げに言葉を投げかけてきた。
「‥‥此方だけ教えて頂くのはフェアではないですね。あたし自身のこともご説明します」
 海原はそう呟き、LOSTを始めてから最近の事までを全て隠さずに瀬名に話した。すると瀬名は異変の事は知っていたが、まさかそれが海原を襲っているなど夢にも思っていなかったのか目を丸くして海原の話を黙って聞いていた。
「あたしには普通に見えるのに、みなもちゃんには獣の腕に見えるんだね‥‥」
 じっと海原の腕を見つめながら瀬名が呟く。
「えぇ、LOSTでの『みなも』同様に獣化しています。キャラクターの獣化系統は猫ですので――恐らくは猫の腕かと」
 腕だけでは何の腕なのか詳しくは分からないが、恐らく『みなも』と同じ変化だと考えた。
「みなもちゃんのステータス欄見せて」
 瀬名の言葉に海原は『みなも』のステータス欄を見せる。
「ふぅん、この段階でこれだけレベル上げてたらこれから先は少し楽かなぁ。あたしの場合はすぐに突っ走っちゃって後からレベル上げするのに苦労したから」
 瀬名が『みなも』のステータスを見ながら呟く。スキル集めもこの段階だったらかなろ先まで進めるほどまで覚えていると瀬名は言葉を付け足してきた。
「でも、キャラクターのレベルは足りていてもプレイヤーであるあたしのレベルが‥‥だから少し初心者向けのアイテムとか知りませんか?」
 海原の言葉に「あ、じゃあこれをあげるよ」と瀬名が言葉を返してシズクの道具欄を操作してみなもに『鈍足の玉』を渡してきた。
「これって敵の動きをかなり遅くするアイテムなんだ。何回でも使えるんだけど確率で壊れちゃうから気をつけてね。敵が遅くなればこっちが考えたり行動ターンが増えたりするから結構便利だよ」
 瀬名の言葉に「ありがとうございます」と言葉を返す。そして異変について聞いてみると「3ヶ月だって聞いたことがある」と瀬名は言い難そうに呟き、言葉を続ける。
「異変に巻き込まれた人、3ヶ月以上無事な人はいないんだって。どんなレベルで3ヶ月後にとあるクエストが出現するって事しか知らない」
「とあるクエスト‥‥?」
「どんなクエストなのかは分からないんだ‥‥帰って来た人が居ないから、内容を知る人はいない」
 帰って来た人がいないから、その言葉を聞いて海原はぞくりと鳥肌が経つ。
(「3ヶ月‥‥」)
 役に立てなくてごめんね、申し訳なさそうに瀬名が謝ってくるが『三ヶ月』という期間が分かっただけでも大収穫だと海原は思うことにした。
「あたしも色々と調べてみるようにするよ。何か分かったらすぐに連絡するから」
 みなもちゃんは大事な友達だからね、瀬名は言葉を付け足す。海原にとっては心強い仲間が出来て、少しだけ安心する事が出来たのだった。
(「‥‥こんな所で終わるわけにはいかない。帰って来た人がいないのなら、あたしが第一号になってやります」)
 震えを堪えるように海原は心の中で呟き、強く、強く拳を握り締めたのだった。


END


―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

海原・みなも様>
こんにちは! いつもご発注いただきありがとうございます!
今回はNPC『瀬名・雫』が登場しています。
ネットに強い彼女はきっと心強い味方になるのはないでしょうか?
今回の内容が面白いと思っていただけるものに仕上がっている事といいのですが‥‥。

それでは、今回も書かせて頂きありがとうございました!

2010/5/11