コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


迫る暗雲、包囲する闇

 異変に巻き込まれた者は3ヶ月後に【闇のクエスト】が出現して、強制的にクエストに参加させられてしまう。
 それは以前、瀬名・雫に聞いた情報だった。瀬名からの情報――しかもそれがオカルト面に関するものであれば疑う事は出来なかった。彼女の情報収集能力はそれほどまでに優秀なのだから。
 そして、今日が海原・みなもが異変に巻き込まれてから3ヶ月目――‥‥。瀬名の情報通りに【迫る暗雲】と言う見慣れないクエストが出現しており、そのクエスト以外は受けられなくなっていた。
 しかも操作も【迫る暗雲】のクエストを受ける以外の事は出来ず、強制的にクエストを受けるしか出来なくなっていた。
「大丈夫‥‥? みなもちゃん」
 瀬名は隣で顔色を青くしている海原に話しかける。海原自身も瀬名から話を聞いていた時から覚悟は出来ていた――だけどいざ目の当たりにしてしまうと恐怖が海原を覆いこむ。
(「このクエストに失敗したら‥‥あたしは、どうなるんでしょう‥‥」)
 キーボードを叩く両腕が震える。あれからレベル上げも十分にしたし、今回は強力な助っ人として瀬名に同行を頼んだ。
 最初は断られるかもしれないと思っていたけど、瀬名は快く引き受けてくれた。1人ではなく瀬名と一緒にクエストに行けるということは海原にとって唯一の救いだったのかもしれない。
(「もし、1人だったら‥‥重圧に押しつぶされてクエストをするどころの話じゃなかったかもしれません‥‥」)
 海原は心の中で呟き「大丈夫です、行きましょう」と瀬名に言葉を返して【クエスト開始】をクリックした。
 クエストを開始してみなもとシズクが放り出されたのは色々なフィールドが混じった不気味なフィールド。空はどんよりと灰色の空をしており、黒い雨がぽつりぽつりと降っている。
「何か、気味が悪いね‥‥」
 瀬名の言葉に「そう、ですね‥‥」と海原が言葉を返す。このクエストを受けて、フィールドが画面に映し出されてから海原の両腕はずきずきと疼くような痛みを訴えていた。
「ねぇ、あれってダンジョンかな?」
 瀬名が画面上を指差し、そこには巨大な木のようなものが存在しており、木の根にはぽっかりと穴が開いていて中に入れるようになっている。
「他には何も見当たりませんし、多分ここに入れって事なんでしょうね‥‥」
 海原が言葉を返し、瀬名と海原は自分のキャラクターを操ってダンジョンの中へと入る。
 ダンジョン内部は簡単な造りになっており、長い廊下があるだけだった。だけど内部はフィールドと全く関連性のないまるでお城のような造りになっている。長く真っ白な廊下の上には絨毯がひかれて、両脇には壷や花瓶などが飾られている。統一性のなさ、そして人の気配どころかモンスターの気配すらも感じられない静かな空気に海原と瀬名はゾクリと鳥肌が立つのを感じていた。
「エンカウント、一回もしないって何かおかしいね‥‥みなもちゃん」
「えぇ‥‥逆にそれが不気味です」
 2人とも同じ事を思っていたのか、同じ言葉を口にする。恐らく瀬名は知らない。瀬名が感じる以上に不気味さを海原が感じていることに。
「あ、あれは‥‥玉座?」
 長い長い廊下を歩いた後、突き当たった大きな扉を開けるとそこあったのは巨大な玉座。その大きな玉座の上にはかろうじて人の形をしていると分かる白い光の塊があった。
「あいつを倒せば、いいのかな?」
 瀬名が呟くとその白い光は「お前は間違えた」と小さな、そして甲高い声で言葉を投げかけてきた。
「え? 間違えた‥‥?」
「可哀想に。所詮お前も他の連中と変わりなかったという事」
 海原の呟きなど聞こえないかのように白い光は呟き続け、そしてシズクに襲い掛かる。
「う、うそ‥‥あたしのシズクが、一撃‥‥?」
 瀬名が戦闘不能の自分のキャラクターを見て驚きで目を丸く見開く。続いてみなもも攻撃を受け、ヒットポイントがゼロになる。
「私の期待を裏切った貴方には罰を受けてもらう、さようなら」
 画面に映し出される文字を見て海原は恐怖に身体が震える。
(「失敗した‥‥? 何が原因か分からないけど、クエストを失敗した‥‥? 罰って何、あたしは、どうなるの‥‥?」)
 そんな言葉ばかりが海原の頭に次々に浮かんできて、身体が震える。
「貴方は今までにログイン・キーを何回も使ってきたようね――その代償が如何ほどのものか、身をもって知るといいわ」
 文字が終わると同時に『ドクン』と海原の心臓が激しく早鐘を打ち始める。
「あ、あ‥‥」
「みなもちゃん!? どうしたの!? ねぇってば」
 突然呻きだし、前のめりになって倒れた海原を瀬名が心配そうに声をかける。しかし瀬名の言葉は海原の耳には届いていなかった。身体を襲う激しい痛み、血が逆流するような、沸騰するような、言いようのない感覚。
 ばり、と着ている洋服が破れ始め獣の毛が身体を包む。頭の上には猫の耳、そしてお尻部分には長い尻尾。ごきごき、と音をたてながら骨の形すらも変わっていくのが海原にも分かった。
 せめて意識を失う事が出来たならばこの痛みから解放されるのだろうか、と襲い来る痛みに耐えながら海原は心の中で呟く。
「あ、あ‥‥きゃあああああっ」
「みなもちゃん! み、な――‥‥も、ちゃん?」
 痛みによって叫んだ悲鳴はいつのまにか獣の遠吠えのようなものへと変わる。瀬名にも今の海原の姿を確認できているのだろう。目の前で人間が獣へと変わりゆく姿、それを瀬名も目の前で見ているのだ。
(「あたしは、ここで終わるの‥‥?」)
 他にこのクエストを受ける前に出来たことがあったかもしれない、一体あたしはどうなるの、そう心の中で呟くのだが、意識を保つ事が出来ず、海原の意識は闇の奥底へと沈んでいったのだった‥‥。


「‥‥きゃあっ!」
 はぁはぁ、と激しく息を切らせて海原は起き上がる。
「ゆ、め‥‥?」
 つー、と伝う汗をぬぐいながら海原は呟く。
 そう、今までの出来事は『恐怖』と『不安』に飲み込まれた海原自身が暗示のように作り出してしまった夢だったのだ。実際にはまだ3ヶ月も経っていない。最後のクエストが何なのかもわかっていない。
 瀬名から聞いた『3ヶ月』という言葉が引き金となって海原の中に溜まりこんでいた不安が『夢』という形になって海原自身を襲ったのだろう。
「夢でよかった‥‥、本当に良かった‥‥」
 海原は自分の身体を抱きしめながら無事だった事に安堵した。しかしあまり喜んでも居られないのも事実だ。夢のようなクエストではないにしろ『終わりの時』は確実に近づいているのだから。
「‥‥頑張ろう、あんな終わりには、なりたくないもの」
 海原は小さく呟き、顔を洗う為に立ち上がったのだった。


END



―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

海原・みなも様>
こんにちは、いつもご発注ありがとうございます。
今回は夢オチの内容、ダークっぽくと言う事でしたが内容の方はいかがだったでしょうか?
ご希望のノベルに仕上がっているといいのですが‥‥!
いつもLOST関連のシチュノベをご発注くださりありがとうございます。

それでは、今回は書かせてくださりありがとうございました!

2010/5/15