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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


闇夜、外は囲まれし
●オープニング【0】
「……いったい何がどうなってるのっ……!?」
 頭からシーツを被った瀬名雫のつぶやきが室内に居た者たちの耳に届いていた。時刻は真夜中、外は闇夜、そして室内には明かりがついていない。いや、正確には少し前までは明かりがついていたのだが、急に消えてしまったのである。
「気付いたら、変なのがたくさん外をうろうろしてるし……!」
 その雫の言う通り、闇夜ゆえはっきりとは姿が確認出来ないが、人型の何かがたくさん外――別荘の周囲をうろうろと歩き回っているようなのだ。
 そもそも雫たちが何故別荘に居るのかだが、実は招待されたのである。今年の初め頃に雫はある妙齢の女性と知り合った。もちろん最初はネット上でのメールからなのだが、オカルトに興味があるので話を聞かせてほしいと言われて何度か実際に会ったりしていたのだ。
 そしてこの5月、その女性が新しく別荘を借りたらしく、一緒に1泊旅行に行かないかと雫を誘ってきたのだ。おまけに友だちも大勢連れてきてよいというので、雫はあちこちに声をかけた。その結果、やってきたのが今ここに居る面々であった。
 しかし出発当日、誘ってくれた女性に急用が入ってしまい、せっかく約束したので申し訳ないからと雫たちだけで別荘へと行くこととなったのである。女性は翌日迎えに来る、という話であった。
 着いた別荘は山奥の一軒家で、築20年以上は経っていそうな2階建てであった。だが電気と水道は来ていて、家電製品も一通り揃っていたので不便さは特に感じられなかった。ただ……周囲が妙に静かだったのが少し気になったが、山奥だからかなということで雫は流していた。
 ――そして今だ。すでに寝ていた者も居た中、急に電気が落ちて、外には怪しく蠢く影たちが見られるようになったのである。はっきり言ってこの状況、物凄く危険なのでは……?
 ともかく無事に朝を迎えるためにも、急ぎ何かしら対処をせねばなるまい――。

●取り囲みし者たち【1】
「10……ううん、少なくとも20は見積もった方がよさそうね」
 音を立てぬよう窓際に素早く移動し、そっと外の様子を窺ったエミリア・ジェンドリンが小声でつぶやいた。手元にはいつでも振るえるよう魔剣アマジーグが握られている。……要するにそうしなければならない状況なのだ。
「20も……!」
 エミリアのそのつぶやきに、同じく小声で反応したのは真行寺拓海である。拓海は驚きの言葉をつぶやいてから、はっとしてエミリアが張り付いているのとは反対側の窓のそばへ匍匐前進して近付き外に目を向けた。
「……取り囲まれてる……」
 拓海の見る反対側にも、距離はあるがやはり何かがうろついている。こちらも数は10は居るだろうか。しかし……何かが変である。
(……歩き方がおかしい?)
 拓海が見た所、うろついている影たちはいずれも歩みがぎこちないのである。膝が曲がる様子もなく、足全体を動かすことで前に進んでいるとでも言うか……。
「変ね」
 エミリアもまた外の存在の奇妙さに気付いていた。
「距離がまだあるのを差し引いても、あんなに数が居て気配が感じられないのは……」
「ど……どういうこと?」
 瀬名雫がその言葉の意味を尋ねると、エミリアは振り返ることなく答えた。
「気配を感じられない理由はひとまず3つ。1つは自ら気配を断つことが出来る。別の1つは気配を感じさせない魔力が行使されている。そして最後の1つは……」
「最後の1つは?」
「そもそも気配を発しない存在、か――」
 と答えたエミリアの表情は少し固い。だが雫は、そんなエミリアの唇の端に笑みが浮かんでいることに気付かなかった。
「ここからじゃ正体がよく見えないや……」
 目を細め口をへの字に曲げる拓海。闇夜かつ微妙に距離があるせいで相手の姿はまだはっきりとは見えない。もっとも、はっきりと姿が見えた時点で手遅れであるかもしれない訳だが。
「邪魔者には早く帰ってほしいんだけど……」
 エミリアの剣を握る手に力がこもる。実際問題、外に居る輩どもが居なければ今頃は3人だけという少人数で濃い楽しみの時間が展開されていたのかもしれず、エミリアとしてはこの現状は不本意である訳だ。エミリアのビスチェが普段よく見る白ではなく、セクシーさがさらに際立つ黒という所を見るに、色々と想定があったのだろうと思われる。
 そのうちに、外をうろついていた影が一斉に別荘の方へと近付き始めた。このまま別荘に張り付かれ、同時に襲いかかってこられては多勢に無勢である。ならばここは自ら打って出るべきであろう。
 そのことをエミリアが伝えると、拓海が間髪入れずこう言った。
「だったら……僕が囮になります」
「そっ……そんなの危険だよ! 一緒に行こう!!」
 当然ながらそれに反対する雫。だが拓海は頭を振り、静かにこう言った。
「……僕は大丈夫ですから。エミリアさん、雫さんをお願いします」
「了解。じゃ、無事合流出来たらご褒美あげるから」
 エミリアはボリュームある自らの胸元にぽむと手を当てると、拓海に向かってくすりと笑みを浮かべて言った。無言で苦笑する拓海。
 かくして一足先に拓海が裏から出て、少し遅れてエミリアが雫を連れて表から別荘を出て行ったのであった。

●その存在より感じられしことは【2A】
(……とんだ1泊旅行になっちゃったね、ルルティア)
 外に出た拓海は周囲の様子に気を配りながら、自らの中に居るルルティアと念話で言葉を交わしていた。何者かに取り囲まれるだなんて、そもそも雫から旅行の話を聞いた時には思いもよらなかったことである訳で。
(…………)
 しかしルルティアは何故か拓海の呼びかけに応じない。また何か思案をしているのであろうか。
(ルルティア?)
(……邪悪な……悪しき魔力が集まってきているわ……)
 ようやく返ってきたルルティアの言葉は、どこか怒っているかのようにも感じられた。この言葉に拓海がはっとした。
(悪しき魔力? え、それって……!)
(あれらは悪しき魔力をまとっている存在……恐らくは仮初めの生命を吹き込まれているはず……)
 自らの感じたことを口にするルルティア。それは光輝の乙女だからこそ分かること。
(……まさかあれはゾンビの類?)
(いいえ)
 拓海の言葉をルルティアは静かに、だがきっぱりと否定する。
(目にすればすぐに分かるわ。……そして私たちがやるべきことも)
 と言ってから拓海に先へ進むよう促すルルティア。
 そして拓海がルルティアへと変身するのは、この会話からほどなくのことであった――。

●戦いの始まり【3】
 一旦雫を物陰に隠れさせ、魔剣アマジーグを手にしたエミリアは近くにやってきた敵の前に飛び出していった!
「あっ……!」
 敵と対峙し、エミリアは凝視したまま間合いを取り直す。そこに居たのは人間大の動く土塊だったのだ。
「なるほど……ゴーレムの一種って所ね……」
 ゴーレム――土や木、金属、場合によっては人の肉体など、何らかの物質を素体として魔力なりで仮初めの生命を吹き込んだ人形。創造者にとっては忠実なる下僕である。
 普通ゴーレムには感情がなく、命令を忠実にこなすだけだ。だからこそ、ある意味恐ろしい敵だとも言える。何しろいくら傷付こうが恐れることを知らず、ただ忠実に命令を果たそうとするのだから……。
 先に動いたのは土塊の方だった。ぎこちない歩みで大きく前に踏み出すと、体重を乗せるがごとくエミリアに向けて拳を突き出してきた。しかしエミリアはそれをかわすと、魔剣アマジーグをサイドへと大きく振りかぶった。
「あたしが魅力的だからって襲いたくなるなんて……悪・い・子……ね!!」
 このつぶやきとともに、エミリアは魔剣アマジーグの腹で土塊を思いっきり殴り付けた!
 この一撃を受け、腰の辺りから急激に崩れ去る土塊。ゴーレムとの戦いにおいては、斬るのではなく殴打する攻撃が効果的なのである。
「……あら、たったの1回で果てちゃうのかしら? このあたしを前にして……淡白ね」
 エミリアは普段のふざけた調子を崩すことなく、そんな台詞を口にする。だが今の戦いで分かったことがある。それは、土塊の耐久度はさほど高くはなさそうだということ。だとすれば数の多ささえどうにか出来れば、無理な相手ではないということでもある。
「後ろに1体!」
 その時、エミリアの耳に女性の声が飛び込んできた。即座に振り返ると、ちょうど別の土塊の側面に光の刃が数発立て続けに撃ち込まれた所であった。エミリアは土塊と間合いを詰めると、先程同様に魔剣アマジーグの腹で真正面から殴り付けた。土塊はたちまちに崩れ去る、やはりこれも耐久度は高くない。
 土塊が崩れ去るのを見てから、エミリアは光の刃の飛んできた方角へ目を向けた。別荘の屋根の所に、剣を携えた髪長き女性――ルルティアの姿があった。エミリアはそちらに向け、無言ですっと親指を立てて見せる。ルルティアは小さく頷いた後、ゆっくりと別荘の周囲を見回すと凛とした声で強く言い放った。
「聞こえますか! 悪しき魔力を行使し、仮初めの生命を造り出す者たちよ……!」
 周囲を取り囲む土塊たちの動きが止まる。当然ながらこれは土塊に向けての言葉などではない。近くに潜んでいるであろう、それらを造り出した張本人たちへ向けての言葉である。
「聞こえますか!」
 ルルティアは再度呼びかけた。だが闇の中から何も言葉は返ってこない。まあ予想された結果ではある。
「もしこれ以上、私の大切な人たちにその牙を剥こうとするのであれば……私は、あなたたちを討ち祓います!」
 これはルルティアによる最終警告。このまま向こうが素直に引き、土塊たちが元の土へと戻るのであればこちらから積極的に攻めることはない。しかしそうでなければ――徹底的にやるだけのことだ。
 この答えはすぐに出た。一旦止まっていた土塊たちが、別荘目がけ再び動き出したからである。
「……分かりました、それが答えなのですね。ならば……」
 ルルティアは一瞬哀しげな眼差しを向けた後、すっと剣を天に向けて掲げた。
「シャイン・エクスキューション!!」
 別荘を中心として恵みと浄化の光が周囲に向けて放たれると、別荘に迫りつつあった土塊たちがその光を受けて崩壊してゆく!!
「あたしも負けてられないわね……!」
 エミリアはふっと笑みを浮かべると、半壊状態となった土塊たちの所へと駆け出していった。

●壊されてゆく計画【4】
 雫たちが別荘を出てから30分近くが経ったろうか。別荘の周辺には雫たちと土塊たちの他、1人闇の中へ潜む者の姿があった。
(……どういうこと……!!)
 それは黒きローブに身を包んだ妙齢の女性だった。もし雫が彼女の顔を見る機会があるのなら、それが自分たちを別荘へと誘った女性と同一人物であったことに気付くことだろう。
(私の造り出した下僕たちが……次々に倒されてゆくだなんて……!!)
 女性の足元には何やら複雑な紋様の記された魔法陣があった。その手の知識のある者が一目見たなら、これが決してよい目的のために使われる物ではないことに気付くはずだ。
(まさか向こうに白き魔術師が……!?)
 先程から何度も白き光が別荘を中心として放たれているのを女性は目にしていた。そしてまた、着実に自身の造り出した土塊たちが減っているということも分かっていた。女性が土塊を造り出す速度よりも、倒されてゆく速度の方が明らかに上回っていたからである。
(……これでは私の計画が……!)
 女性は奥歯をぎりっと噛み締めた。計画では雫たちを贄として、また新たなる力を得るはずであったのだ。オカルト好きな相手であれば、その手の話題を持って近付けば親しくなるのは容易いこと。事実、これまではそれで上手くいっていたし、今回も彼女が思った通りに事は運んでいたはずだった。だがそれなのに、ああそれなのに――どこで計画がおかしくなってしまったのだろうか。
 そんな彼女の耳に、凛とした女性の声が聞こえてきた。
「北東の方角です!」
 その声で女性ははっと我に返る。別荘から見て北東の方角といえば、今まさに女性が潜んでいる場所であった。恐らく土塊たちが北東から現れていることに気付かれてしまったのだろう。
 次いで女性の耳に聞こえてきたのは、遠くから駆けて近付いてくる足音。誰かがこちらへと向かっている証である。
(このままじゃ――)
 じっとしていては捕まるのは時間の問題だ。逃げなければ、この場から逃げ出さなければ。
 女性は闇の中を駆け出した。どこか目的の場所がある訳ではない、ただ少しでも遠くへ――遠くへと逃げるべく。
 女性は駆けてゆく。草木を掻き分け逃げてゆく。ただひたすらに走り続けた女性はやがて足を滑らせて――。

●天罰【5】
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
 闇の中に女性の断末魔の叫びが響き渡り、すぐにしんと静まり返った。と同時に、それまで動き回っていた土塊たちがぴたりと動きを止め、その場で一斉に崩れて去ったのである。
「……今の叫びは……?」
 叫びを耳にして一瞬動きの止まっていたエミリアだったが、土塊たちが崩れ去るのを目にして後、ゆっくりと周囲を見回してみた。土塊たちの姿はもうどこにも見当たらない。いつの間にか、ルルティアも別荘の屋根の上から姿を消してしまっていた。
 ふう、と溜息を吐いてからエミリアが雫の隠れ場所へと戻ると、ややあってから拓海も無事な姿を現して合流した。
「どうしたんですか。隠れて様子を見ていたら、急にみんな崩れていって……?」
 そんなことを口にする拓海にニヤッと笑みを向けてから、エミリアが答える。
「さあ? あたしの魅力に参ったのかもね」
 とふざけたように言ってから、すぐに表情を引き締めこう言葉を続けた。
「もう危険はなさそうだけど、ひとまず夜明けまで別荘の中に居た方がいいかも」
 そして3人は別荘の中に戻り夜明けを待った。襲撃もなく無事に夜明けを迎えると、雫1人を別荘へと残して拓海とエミリアは外を調べに向かった。気になるのは、例の断末魔の叫びである。
 2人は叫びが聞こえてきた方へと歩いていった。しばらく歩くと切り立った崖のようになった場所へと出てきた。高さとしてはせいぜい2、3階程度といった感じであったが、崖下を何気なく覗き込んだ2人ははっと息を飲むことになってしまった。
 崖下には黒きローブをまとった女性の姿が見えた。正確には――折れた木に胸元を貫かれ、黒きローブを血で染めた女性の姿が。事切れているのは一目瞭然であった。
「こ……ここから足を滑らせ……て……?」
 女性の姿から目を背け、拓海がエミリアに問いかけた。
「……やれやれ、別荘に残してきて正解だったわね」
 エミリアは小さく頷いてから、ぼそりとそうつぶやいた……。

【闇夜、外は囲まれし 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 8001 / エミリア・ジェンドリン(エミリア・ジェンドリン)
               / 女 / 19 / アウトサイダー 】
【 8048 / 真行寺・拓海(しんぎょうじ・たくみ)
              / 男 / 16 / 学生/ルルティア 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全6場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、珍しく危機的状況から始まったお話をここにお届けいたします。高原としても少し珍しく、途中に敵の視点から書かれた文章が挟まっていたりしますが……いかがだったでしょうか。
・本文中に書くと冗長になりそうなので削ったんですが、例の土塊の造り方について少し。あれは生き物の血に女性自らの血を少し混ぜた物を土へと振りかけうんぬん……というようなやり方で造り出されていました。魔法陣の存在などと合わせて考えると、どうも悪魔から習ったんじゃなかろうかと……。
・最終的にあのような結末になった訳ですが、言い方を変えると皆さんが手を汚すような相手ではなかった、ということですね。そういうことをするような者には、それに相応しいことが待っているのでしょう。
・真行寺拓海さん、5度目のご参加ありがとうございます。上記の土塊の造り方があったものですから、ルルティアとしては動かなくてはならなくなるだろうなあ……と高原が思った結果、本文のようになりました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。