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<東京怪談ノベル(シングル)>


情報規制対象

『喜田かすみ様 

先日は突然のお誘いを了承して下さりありがとうございます。
早速ですが、日時と場所を確認したいと思います。
僕は基本的に大学部ですので、ある程度時間を喜田さんに合わせられると思います。
場所は、学園の近くにあるオープンカフェのプティフールはいかがでしょうか?
それでは、返事をお待ちしております。

栗花落飛頼』

『☆Dear 栗花落飛頼様☆

こんにちは! また手紙ありがとうございます!
プティフールでお茶をしながら情報交換って言うのも情緒があっていいですね、うふふ♪
日時はですねえ、私も委員会の日以外でしたらいつでもいいんですが、先輩さんが合わせて下さると言うのなら、次の水曜日はどうでしょうか?
本当はプティフールのケーキセットが大好きですけれど、バレエ科は食事制限がきついからあっさりフラマンジュで我慢しますよ〜♪
それでは〜♪

☆From 喜田かすみ☆』

 ………。
 喜田かすみから届いた封を開いた瞬間、栗花落飛頼は目が点になった。
 喜田さんの手紙って何でこんなに目が滑るんだろう。ラメ入りのペンで模様を書きつつ、丸っこい字で書かれた文章を読みながら飛頼は苦笑した。
 飛頼は苦笑しつつもカレンダーに丸をつけた。
 喜田さん、知っているといいんだけど。
 色々と、さ。
 飛頼はそう思いながら、プティフールのフラマンジュってどんなのだっけなあと、ぼんやりと思った。

/*/

 プティフールは学園から歩いてすぐの位置にある、オープンカフェである。
 学園の生徒、特に女生徒やカップルがよく押し寄せ、昼休みや放課後になると学園の生徒で満席になる事も多い。
 飛頼は大学部の生徒であり、高等部や中等部の生徒達よりも時間に融通が利く。
 だからさっさと2人分の席を取って、徐々に増えていく生徒の数を紅茶を飲みながらのんびりと見ていた。

「栗花落飛頼先輩……ですよね?」
「えっ?」

 ぼんやりとしていたら、傍に小柄な少女が立っていた。
 華奢な身体から、一目でバレエ科の生徒だと分かる。ほんのりとバラの匂いがするが、制汗剤とかそう言うのかな。女の子って汗の匂いとか気にするから。

「えっと……喜田さんだよね? こんにちは、来てくれてありがとう」
「はーい、こんにちはー♪ 今日はお招きありがとうございまーす♪」
「うん、座って」

 飛頼が椅子を引くと、かすみは嬉しそうに「ありがとうございまーす♪」と言いながら座った。

「フラマンジュでよかったよね?」
「はーい、あと紅茶頼んでいいなら、ダージリンのファーストフラッシュで」
「……うん、分かった」

 随分ちゃっかりした子だなあ。
 飛頼はそう思いながら、店員を呼び止めて、フラマンジュとダージリンを頼んだ。流石にファーストフラッシュは競争率が高かったらしく、今日の分は既になくなっていたので、セカンドフラッシュで妥協してもらったが。

「お呼ばれありがとうございまーす♪」

 かすみは嬉しそうにフラマンジュをはむはむと食べ始めた。
 飛頼は苦笑しながらその様子を見ていた。

「それで、話だけど。音楽科の海棠君って知ってる?」
「知ってるも何も有名人じゃないですかー。双樹の王子様の事はみーんな知ってますよ?」
「うん、その海棠君って、兄弟とか、従兄弟とかって、いるのかなって」
「いますよー?」

 あっさり。
 飛頼はかすみがあっけらかんと言うのに、少しだけ椅子からずれ落ちた。

「……うん。前に1度海棠君に会った時、確か2人いたような気がしたから」
「ああ。海棠先輩、双子ですよ?」
「そうなの?」
「はい。うちの学園にいるのは、海棠秋也先輩。もう1人は、海棠織也先輩。確か別の学園でバレエしているはずですけど」
「そうなんだ……」
「んー……」

 かすみは少し首を傾げた後、飛頼の耳元に寄った。

「あのですねえ。何故か先輩が双子って言うのは、タブーなんであんまり話しちゃいけないんですよ。私も友達には聞かれない限りは言ってませんもん」
「……何で?」
「さあ……? 変だなあとは思うんですけど、先輩に関しては情報規制がかなり敷かれてて、新聞部の知人に探りを入れても教えてもらえないんですよねー」

 それに。
 かすみは眉に皺を寄せて飛頼を見る。

「先輩さんの方が多分私より詳しいと思うんですよねー」
「何で?」
「何か、海棠先輩に関する事とかって、全部4年前まで遡って情報操作されてるんですよねー。新聞部でもそれより前のバックナンバーどっかにやられちゃってますし、図書館も織也先輩に関する情報はシャットダウンされてますし。学園のパソコンも、どうもサーバーから操作されてるらしくって、先輩に関する事を調べる事ができないんですよ」
「……そこまで徹底されてたの?」
「はい。私寮生ですから、学園内でもツテとかコネとかないと情報収集できませんもん。でも先輩は実家通いですよねー? 実家に学園新聞のバックナンバーとか残ってないんですか?」
「………。ありがとう。まさかそこまで徹底されてたなんて思わなかった」
「いえいえ。なーんか、人間関係のもつれでひどい事があったらしいんですけど、さすがに内容までは教えてもらえなかったんですよ。今いる人の事は言えるけど、今いない人の事までは言えないって」
「……どう言う事?」
「口割ってもらえないんですよー」

 かすみは「むー」と言いながら、ようやく自分の席に戻って、フラマンジュをんまんまと食べ始めた。
 ひどい事……。
 もしかすると、それを見たのが原因で、記憶が飛んだ。とか……?
 PTSDと言う言葉が脳を掠めた。
 今までそれに気付かなかったのは、それが直接生活の役には立たなかったから。そして自分が無意識下で避け続けていたから。
 困ったなあ……。
 このままこれ、調べ続けて大丈夫なのかな?
 飛頼は首を傾げつつも、紅茶を口にした。

「あー、そう言えば。私ばっかりしゃべっちゃったので、先輩さんの話聞きたいですー」
「あっ、ごめんね。確かに。ええっと、喜田さんは怪盗を追いかけたりしてる?」
「えー、怪盗の話ですかっ!?」

 かすみは目をきらきらさせてこっちを見てくる。
 うーん……彼女が満足できるのかはよく分からないけど。
 飛頼は口を開いてみる。

「この前、怪盗としゃべったんだ」
「すごーい。前に怪盗出たのは舞踏会の時ですよねー? いいなあ。私も高等部だったら行けたのにぃー」

 かすみは悔しそうにキィキィと唸る。
 飛頼は苦笑しながら続ける。

「その怪盗、確かにイースターエッグ盗んだのに、何故か会った時、持ってなかったんだよね……何でなのかは分からなかったけど」
「んー……」

 かすみは首を傾げながらフォークを弄ぶ。

「怪盗の噂って知ってます?」
「噂? 推理ゲームとかじゃなくって?」
「うーんと、変な噂。怪盗は実は怪盗じゃなくってゴーストバスターじゃないかって。前に怪盗が見えない何かとしゃべってたって言う話があったんですけどねー。案外イースターエッグも実は幽霊とか何かだったとか」
「まさか……」

 飛頼は笑いながらも、少し考えた。
 怪盗は、一連の騒動の実行者なのに、何も知らないような気がするけど。
 うーん……。
 前にしゃべった時の彼女は、まるで普通の女の子みたいだったので、余計に飛頼はそう思うのだった。

<了>