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<東京怪談ノベル(シングル)>


大虚構艦隊壊滅

 バチカン図書館の奥深く、閉鎖書架で鍵屋・智子は古い羊皮紙を解読していた。そして、ひとつの文書にいきあたる。
「そうよ、まさしくこれだわ! 人ならざる物を使役し、輪廻の法則すら御したケルト文明の秘蹟、エミグレ文書!!」
 そこに書いてある文字は玲奈には読めないがそこに書いてある図面を見て叫んだ。
「それってあたしの設計図丸写し」
「お黙り玲奈!」
 どこから取り出したのか鍵屋のハリセンが炸裂する。
「ったいわねー、何すんのよ」
「四大文明に先行する超技術。バイキングの略奪から教皇庁が保護した物よ。敬いなさい」
 玲奈の抗議もなんのその、鍵屋はそのまま説教を続けた。
「‥‥うん、それにしても、これは‥‥ザグレウスミサイル! これで勝てる!」
「なにー?」
「いいから黙って任せる。とにかく、大虚構艦隊を倒す手を考えついたのよ」
「おー! それはすごいわね」
「私の理論を認めなかった愚劣な科学者達にギャフンと言わせてやるわ」
「鍵屋さん、それって私怨‥‥」
「おだまり!」
 スッパーン! またもハリセンが快音を上げる。
「あいたたた‥‥ひどいな、もう」
 涙ぐむ玲奈に、鍵屋は告げる。
「東京に帰るわよ」
 と。

 そして東京。
 鍵屋は大虚構艦隊の源泉たる虚構の発信源を東京タワーと特定した。
 そこで過剰な表現規制を敷き、創作家を迫害する。兵糧攻めにすれば敵は動くと考えた。
 すぐにIO2を通じて東京都議会に働きかける。
 だが、コスプレ命の玲奈は猛反対する。
「日本の漫画は壊滅するわ、表現は大事よ」
 しかし鍵屋は強弁する。
「一時的な措置よ。業界はやわじゃないわ。
 そして古文書より得たる、怪物を制し万物流転を御する智慧を封入したザグレウス弾で虚構を粉砕するのよ。
 そうよ、これはすべて大虚構艦隊を倒すため。なぜなら奴らは人の妄想をもとにしているのだから‥‥」
 そして。東京都は「漫画を規制する情報浄化条例」を可決。即日施行と言う強引さだった。
 折しもその日は同人誌即売会のイベントが行われていた日。ネットを通じて、そのニュースは会場を駆け巡る。
 騒然となる都内即売会場。漫画家達は徹底抗戦を叫び、会場に立て篭もる。そしてそれを鎮圧するために機動隊が派遣される。
 あわや衝突は必至かと思われた。だが、そこに漫画家達にとって救世主が出現する。
 巨大な、機械の歩兵軍団。だが、それは大虚構艦隊の尖兵であった。
 機動隊を踏み潰す機械歩兵軍団。阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられる。
 軍とは違い人を殺したり殺されたりすることはないはずだった機動隊。その彼らが訳の分からない巨大な機械に殺されている。それは機動隊を混乱させた。
「見事陽動に嵌ったわね大虚構艦隊‥‥覚悟なさい!」
 対物ライフルを構えた玲奈の号令下、決戦の火蓋は切られた!
 IO2の部隊が投入されて機械歩兵軍団を破壊していく。
「甘い!」
 玲奈は対霊障結界で敵ロボの光線を防ぐ。
「見える!」
 剣をかいくぐる。
「きゃーっ! やったわね。お返しよ、ザクレウス弾、喰らいなさい!」
 そして敵ミサイル弾の爆風に煽られつつも、着実にザクレウス弾で敵の四肢を粉砕してゆく。
 だが、同時に玲奈は疑問に思う。平和の為に大好きな漫画のヒーローを倒していいのか? 漫画家達を弾圧してもいいのか?
「玲奈、余計なこと考えるんじゃないよ!」
 鍵屋が動きの鈍った玲奈に何かを感じたのか、そんな言葉を掛ける。
「でも!」
「奴らは敵だ。敵は倒せ!」
「‥‥っく! うわああああああああ!」
 ザクレウス弾一斉発射。ロボが大量に破壊されていく。
 そして、劣勢を感じた大虚構艦隊は遂に母艦を降下させる。
 玲奈が待っていた瞬間だった。
「今だ! ザクレウスミサイル!」
 玲奈号からミサイルが放たれる。玲奈号が放った弾頭は降下してきた敵を一掃した。
 無数の爆発が広がり、虚構が消されていく。
「お疲れ。やがて東京タワーも平定されるだろうさ」
「鍵屋さん、あたし‥‥」
「余計なこと考えるんじゃないよ。これしか手段はなかったんだ‥‥」
「でも‥‥」
「いいから、あんたは休んでな。後始末は部隊の連中がやってくれる」
「‥‥うん」
 納得出来ないながらも玲奈は頷いた。
 そして、戦場を後にする。

 後日、ぽっかり穴の空いた書店の棚を眺め玲奈は考えた。
 自分たちは何かかけがえの無い物を失ってしまったのかも知れないと。
 条例が奪ったものは、大きかったのではないかと。
「あたしは‥‥何がなんでも反対すべきだったんだろうか?」
 それに答える声はない。弱干減った書店のざわめきだけが、玲奈の耳に響いてきた。