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<東京怪談・PCゲームノベル>


「奏磨隼斗さんのお手伝い、させてください!」



「どうぞ〜」
 そう言いながらチラシを駅前で配っていた子供の声に、反射的に奏磨隼斗は反応して、それを受け取ってしまった。
 あ、しまった。
 なんて思いつつ、チラシを渡してきた相手を見遣る。
(あ、外人の女の子……)
 珍しい。
 金髪をツインテールにして、くるくると巻いている。全身が真っ赤な衣服で統一されていることを除けば充分に可愛い少女だった。
「ありがとうございますぅ」
 お礼を言ってくる彼女は満面の笑みで、他の人にもチラシを配り続けていた。邪険にされていてもへこたれていないので、たくましさは感じた。
 隼斗は受け取ったチラシに視線を下ろす。
 あなたの大事なお荷物、迅速に配達させていただきます。サンタ便。
 そんな宣伝が大きく書かれていて、一番下まで見ていくと気になる箇所があった。
「お手伝い……報酬は……」



 大学の帰り道、ちょうど校門前で待ち受けていたのはお手伝いに来るという人物だった。
(あ、あの時の、チラシの女の子……)
 門のところで必死に通り過ぎる学生たちを眺めては、きょろきょろしている少女。かなりの挙動不審者だ。
「あの!」
 声を大きくして駆け寄ると、彼女はこちらを見た。青空のような瞳を隼斗の茶色の瞳に真っ直ぐぶつけてくる。
「えと、奏磨隼斗さんですかぁ?」
 軽く首を傾げる彼女に、隼斗は「はい」と愛想良く頷いた。
 すると金髪の少女はにこぉ! と笑顔を全開にして頭を下げてきた。
「サンタ便のステラですぅ! 今日はお手伝いのご依頼、ありがとうございますぅ!」
「いや、そんなたいしたことじゃ……」
 それに……。
(お礼も、本当に食事を作るだけでいいのか不安ですけど)
 このご時勢、まさか本当に食事一回でなんでも手伝うというのだからかなりすごい会社だ。しかも……こんな小さな女の子が手伝ってくれる相手とは。
(電話に出た時も変だなとは思ったんですけどね……)
 女性にお願いしたい、という希望に電話の相手は「私しか行かないから安心してください〜」と元気に言っていた。
 その声の主が……ステラというわけだ。
「では行きましょう」
 歩き出した隼斗に、ステラはひょこひょことついてくる。
「えっとぉ、依頼は、妹さんへの誕生日プレゼントのお店に一緒に来て欲しいってことですけど……」
「はい」
「……べつにお店に入るくらい、わけないと思いますけど……なんでですかぁ?」
「……もう送りたいものは決まっているんです。大きなクマのぬいぐるみで。でも、見かけて気に入ったお店がちょっと……女の子向けのファンシーなお店で、入りにくくて」
「はぁ……。そんなもんなんですかねぇ」
「そんなもんです」
 くすっと笑ってしまったのは、ステラが真剣に悩んでいたからだ。
 これは男特有なのかもしれないが、さすがに女性だらけのお店には一人で入れない。
 入れたとしても、買うのに勇気がとてもいる。プレゼント包装をしてもらう待ち時間だけでも、居たたまれなくなる。
「あ」
 隼斗が気づいてステラのほうを見遣る。
「あの、よければステラさんにも妹の誕生日プレゼントを選んでもらいたいんですけど」
「はへ? わたしがですかぁ?」
「最近の女の子の流行とかよくわかりませんから……。あ、もちろん、代金は俺がもちますから」
「…………さ、さいきんのおんなのこのりゅうこう……?」
 ステラがだらだらと汗を流し、目を細めた。
「う、うぐぅ……! これはすごいお題がきたもんです! やりますね、奏磨さん!」
「は?」
「こ、この試練を見事クリアしなければ、わたしが『最近の女の子』でなくなってしまいますぅ!
 これはかなり心してかからねば……!」
 なんだか勝手に彼女の中ですごいことになっているようだ……。
 はっ、と気づいてステラがこちらを見上げてきた。目的の店まではそう遠くないので、そろそろ着くだろう。
「あれ? でも奏磨さんはクマのぬいぐるみを買うんですよね? じゃあわたしが選んでも意味がないのでは?」
「え? あ、いやぁ……」
 途端、隼斗の頬に赤みが走り、照れたように後頭部を掻く。いきなりの豹変にステラが「!?」と瞬きをして少し引いた。
「やっぱり妹には最大限に喜んでもらいたいですし、俺だけのプレゼントでは押しが弱いかもしれませんからね。そこでステラさんの選んだプレゼントもあれば、さらに二倍で喜んでもらえること間違いないです!」
「は、はひっ!?」
「なにせあの可愛い妹ですからね! プレゼントが幾つあっても足りないかもしれません! 俺の愛情がプレゼントの大きさと合致しませんし!」
「は、…………あの、あの」
「あの可愛さに比べたらクマのぬいぐるみなんてショボいものですよ。でもやっぱり女の子にはぬいぐるみかなって思って。それにクマのぬいぐるみを抱えた妹を見てみたい! 絶対に似合いますし、喜んでくれるに違いない!」
「はひー! 戻ってきてください、奏磨さん〜っ!」
 ゆさゆさと必死にステラに揺さぶられ、隼斗が我に返ったのはそれからすぐ後のことだ。



「……すみません、見苦しいところをお見せしてしまったようで……」
 店のドアに手をかけつつ、押す。中に入ると、店員が「いらっしゃいませ〜」と声をかけてきた。
「奏磨さんが、妹さんのことが大っ好きだってことはわかりましたので、大丈夫ですよ」
 ステラの笑みがちょっと引きつっているようだったのは、気のせいだと思う。
 隼斗はお目当てのクマのぬいぐるみの在庫があることに安堵し、足早にそちらに向かった。すぐに手にとって、抱える。ステラが目の前で「わー!」と歓声をあげた。
「可愛いぬいぐるみですぅ! これならきっと、妹さんも喜んでくれますぅ!」
「そ、そうですかね?」
 自信がなかったぶん、その言葉は隼斗の心にかなり沁みた。
 店内には他にも客がいたが、ステラのおかげでそれほど目立たずに済んでいるようで一安心だ。やはりこういう店は苦手である。
 ステラはふいに「ん?」と眉をひそめた。
「そういえば……妹さんはお幾つなんですか?」
「あれ? 言ってなかったかな?」
 照れ臭いのと嬉しいので、口調が崩れてしまった。そもそもステラは幼い子供なので、いつもの口調では少し話しづらかったのだ。
「16歳だけど」
「はれ? わたしと同い年ですかぁ」
「………………え?」
 聞き間違いかと、隼斗は動きを止めた。
「………………ステラ、さんは……16歳なんですか?」
 まさかそんな馬鹿な。どう見ても小学生だ。小学生の……高学年じゃないか。
 ステラはきょとんとし、自らを指差した。
「そうですよぉ? 16歳ですぅ」
「………………」
 自慢の妹と、同い年???
 頭の上に疑問符が舞い踊り、しばし、隼斗を完全に硬直させた。
 隼斗の態度に事態を察したのか、ステラがぷぅっと頬を膨らませる。
「……よく言われますけど、これでも16歳ですよ!」
「あ、すみません。べつにその」
「いいですよぅ。しょ、小学生みたいだって言われること、多いですから。
 うー。しかしどうして皆さん、揃いも揃ってわたしが小学生にみえるんですかね……わけがわかりません」
 いや、わけがわからないのはこっちのセリフだ。
「とにかく! えっと私が選ぶんですよね! むむむ〜……」
 ステラはそわそわと店内を歩き出した。ぬいぐるみを抱えたまま、隼斗がその後ろに続く。
 雑貨の店だけあってか、様々なものが置かれている。小物から、アクセサリー、日用品のようなもの。収納用品まである。
 ステラは店内を一周すると、再びまた歩き出した。
「あの、ステラさん?」
「しっ! 黙ってください! これは……これは難しいミッションなんです!」
 みっしょん?
 隼斗は自分の前を早足で歩く幼女の後頭部を見つめた。くりくりに巻いてある髪が揺れている。
「女の子は装飾品も好みますけど、意外と現実的なんです。そう! 女性というのは現実を生きる逞しい存在なのですぅ!」
「はぁ……」
 そうだろうか? 自分の妹にはあまり当てはまらない気がする……。たくましいとは思えないし、むしろ守ってやらねばと常に考えているのに。
「奏磨さんがかわいい系で攻めるのなら、わたしは違うものにしなければ……。
 はっ! これは期間限定のシャンプーとコンディショナー!」
 日用品の棚の前で急停止したステラがむむむと唸った。
「しかし、基本、女の子は銘柄をころころ変えませんしね……。ここは無難にボディシャンプーのほうがいいでしょうか?」
 などとぶつぶつ言いながら、期間限定品とやらの、ピーチバニラなんとか、と書かれているボディシャンプーをがっつり一つ、掴む。そのまままた歩き出した。どうやら一応「確保」ということらしい。
 次にステラが立ち止まったのは、座椅子の前だった。可愛らしい、キャラクターがデフォルメされた座椅子だ。
「カエルの座椅子……。こっちはてんとう虫……。面白味のあるのはこっちのカエル……」
 二つを見比べて、ステラがカエルの座椅子を持ち上げた。
「軽さもいいですぅ。お値段も高くない。むむ。なかなかいいですぅ」
 ふーむと唸り、また彼女は歩き出した。そして今度は季節ものを置くコーナーで立ち止まる。
 そういえばそろそろ梅雨の季節に入るのではないだろうか?
 そう隼斗が思っていたら、ステラが置いてある傘をぐっと握り締めた。
「なかなか可愛いですぅ。大きいのもありますし、これはなかなかの一品! しかも値段が手頃!」
「ステラさん?」
「折畳み傘とセットで買っても安いもんですぅ」
 お揃いで生産されているのか、傘も折り畳み傘も同じ模様で、なかなかシャレている。
 ステラは一周して、隼斗に普通の傘と、折り畳み傘を差し出した。
「どちらも安物ですから、すぐ壊れちゃうかもしれませんけど、この両方をおすすめしますぅ」
「どうして両方なんです?」
「かわいいものは『揃えたい』っていう願望があると思いますし、どっちも、あっても損はないものです。どうでしょう?」
 期間限定のボディシャンプーはやめたらしい。
 隼斗は差し出された二つの傘を受け取った。
 女性らしいものの考え方だと感心してしまう。傘なら、2つや3つあっても困るものではない。
「とても素晴らしいと思います」
 隼斗は会計に向かった。
 自宅への帰りの道のりで、ステラの好物を聞こう。そして自慢の料理の腕を振る舞おう。そう隼斗は決めたのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【8377/奏磨・隼斗(そうま・はやと)/男/20/大学生】

NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、初めまして奏磨様。ライターのともやいずみです。
 妹さんへのお誕生日プレゼント選び、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。