コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


黒き瞳の暗殺者


 カツカツとヒールを鳴らし、廊下を歩いていく1人の少女。
 流れるような黒髪に、タイトスーツ、タイトスカートを身につけたその姿は、すれ違う人を思わず振り返らせる。
 モデルのようにグラマラスなそのスタイル、大人びたスーツの着こなし。
 匂いたつような女性の色香を漂わせながらも、凛とした黒い瞳と佇まいが、彼女をさらに魅力的に見せていた。
 水嶋琴美、くノ一の末裔である彼女は、自衛隊の中に非公式に設立された特殊部隊の一員だ。
「失礼いたします」
 そう言って作戦室に入ると、琴美は彼女を呼び出した司令の前で敬礼した。
「水嶋琴美、参りました」
「うむ」
 彼女のようなまだ若い女性がこの作戦室に立っているのは、ともすれば異様な光景に見えるかもしれない。しかし琴美は優れた実力の持ち主で、今までに様々な任務を完璧にこなしている。
 それを認めているからこそ、司令も琴美をこうして呼び出したのだろう。もちろん、指令のために。
 資料の書類を琴美に渡し、司令はそのよく響く声で言った。
「水嶋琴美、特別任務を与える。ある危険人物を暗殺するため、敵対組織に潜入せよ」
 自衛隊・特務統合機動課……それは、暗殺、情報収集等の特別任務を目的にした特殊部隊である。
「はい、了解しました」
 琴美はその黒い瞳で真っ直ぐに司令を見つめ、その任務を受けた。


 特務統合機動課の中にある、特別ロッカールーム。
 琴美はそこに入ると、ふう、と息をついてタイトスーツの上着を脱いだ。薄着になったことで、彼女の柔らかな胸がシャツに綺麗な曲線を描いているのが良くわかる。白いシャツの背にさらりと黒髪が映えた。
 こうしていると、女教師かキャリアウーマンのようで、自衛隊の特別部隊の一員には見えない。
 鍵を外してロッカーを開けると、琴美はスーツの上着をそこに掛け、代わりに一式の戦闘服を取り出した。
「グローブ、上着、スカート……ちゃんと揃ってますね」
 体に馴染むその戦闘服の感覚ににこりとすると、琴美は身に纏っていたシャツとスカートをするすると脱いでいった。
 豊満な琴美の肢体が露になる。19歳の少女とは思えぬような、艶やかな体だ。
 タイトスーツ姿であれだけの大人っぽさを感じさせた琴美のスタイルは、女性らしく、それでいてしなやかな筋肉がついていて見事な美しさだった。
 透き通るように白くてしっとりと柔らかな肌、魅惑的で豊かな胸、その体に流れる黒髪、すらりと伸びた四肢。男性の目を惹くだけではなく、そのプロポーションには女性も憧れるだろう。まあ琴美本人は、そのことに頓着している様子はないのだが。
 ただ豊満で色気があるだけではなく、特殊部隊に所属し、鍛えられている琴美の身体は傷痕もなく、バランスよく整っていてとても綺麗なのである。
 それは彼女の驚異的な戦闘能力と、身体能力のおかげなのだろう。
 さっきまで身にまとっていたスーツ類をすべて取り払うと、下着姿の琴美は着替えの邪魔にならぬように長い黒髪を軽くまとめ上げた。はらりとこぼれる後れ毛の下に、あでやかな項がのぞく。
 そのすべすべとした肢体を空気に晒し、琴美は戦闘服へ手を伸ばした。
 まずは身体に密着する、黒いインナーに腕を通す。そして同じくフィットするスパッツに、足を。
 琴美用に最先端の素材と技術で作られたそれを身につけると、琴美の身体は軽く締められ、そのシルエットを浮き彫りにした。こうしてみると、いかに琴美のプロポーションが抜群であるか、一目瞭然だ。
 琴美は軽く身体を動かして、ぴったりとしたインナーの具合を確かめた。裸体と変わらぬような軽さの戦闘服は、琴美用に作られているので身体の一部のようによく馴染む。豊麗な胸元や腰周りももインナーに包まれて、とても動きやすい。
「うん、いいですね」
 次にミニのプリーツスカートを履く。丈の短いそれから琴美の長い足が伸びた。
 ひらりとしたスカートは丁度良い長さにされていて、彼女の素早い動きを邪魔することはないように作られている。
 今度は上着を広げ、身につける。一見それは着物のようだが、両袖を戦闘用に半袖ほどに短くしてあった。
「こちらも、よし」
 スカートをひらりと片手で払って帯を締めると、きゅっという音と共に心も引き締まった。
 横に据え付けられたベンチに腰掛けると、続けてブーツを履く。もしここに誰かがいたとしたら、ベンチに座ったその魅惑的な足に、視線が釘付けになっただろう。
 代々忍者の血を引き継いだ家系の生まれである琴美は、常人離れした素早い身のこなしを駆使して戦う。そのため、靴は自分の足にぴったり合ったものを装備しなくてはならない。
 膝まである編み上げのロングブーツに足を入れると、琴美は慣れた手つきで紐を結び、きちんと装着する。
 足の感じを確認すると、琴美は再び立ち上がり、ベルトを取り出した。
 ベルトと言っても、帯は先ほど締めたので腰に装着するものではない。彼女の武器であるクナイを装備するためのものだ。
 琴美はガーターベルトのように、クナイを太股に括り付けた。
 仕上げに、グローブを手にはめる。何度か手を握り、開いて、琴美は頷くとロッカーの扉を閉めた。
「うん」
 まとめてあった髪をほどいて、ロッカールームの大きな鏡の前に立つ。
 はっとするような美しい少女の姿が、姿見に映し出された。
 それは戦闘用に作られたもののはずなのに、どこか上品で色っぽいイメージさえ与えるものだ。和風の上着にミニスカート、ロングブーツと不思議な取り合わせではあるが、とても琴美に似合っている。
 琴美の豊満なスタイルと、その色香はこの戦闘服を身につけていても相変わらずで、艶やかで美しい。
 着物風の上着から伸びる、しなやかな手足。その上着を着ていてもわかる、なまめかしい胸元。
 ミニスカートからちらりと見え隠れする太股には、手入れの行き届いたクナイが光った。
 すっと伸ばした背筋に、綺麗な黒髪、鏡の中の自分を見つめた気品のある黒い瞳。
 それは、自分がくノ一の末裔であるということ、そしてこれまで傷を負わずに任務を見事にこなしてきたという誇りに輝いている。
 琴美は軽く深呼吸をすると、先ほど司令から渡された資料を確かめた。
「敵の名前は、ギルフォード……」
 右腕が義手の、狂的な快楽犯罪者。
 享楽的かつ刹那的で、あらゆる犯罪を行い、誰かのことを弄びその命を奪うことをただ楽しんでいるという男。
 善悪に関係なく誰かと手を組んだりすることもあり、今は特務統合機動課と敵対する某犯罪組織に所属しているようだ。
「制裁を与えなければなりませんわね」
 私の、この手で。
 琴美は、くノ一としての自分の戦闘能力には自信がある。そしてそれは並ぶものがないほどの優れた力であると、誰もが認めている。
 今回も、この能力できっと任務を遂行してみせよう。
 琴美は自らを信じ、その黒髪をなびかせて、潜入場所へ向かっていった。