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闇の中の住人
また新しい宿主が現れた。
今度は誰だ？
どうせ『また』喰われるだろう。
でも錆びた剣まで入手している。
どちらにしろ、どうなるかは『彼女』次第だろう。
『彼女』の期待にこたえられぬ者ならば、消されるだけの事。
我らのように？
次々に増えていく仲間達を見るのは悪くはないけれど、な。
果たして『約束された日』までに『彼女』の期待にこたえられるだろうかね。
※※※
「これは‥‥」
突然フィールド上に現れたのは『闇の街』と表示された街。
ログイン・キーが輝いた次の瞬間に現れたのだ。
つまり、異変に関係する街なのだろう。
「ほぉ？ 『彼女』がこの街まで導いたのか‥‥ふむ、どうやら我らよりは期待されているらしい」
街の中に入るとクックッと喉で笑いながら話しかけてくる老人の姿。
「そう構えずともよい。我らもお前と『同じ』だ。ログイン・キーを託され、彼女の期待にこたえられなかった者。それらで寄り添いあうようにして出来たのがこの街だ」
「異変の、被害者‥‥？」
「結果的に言えばそうだろう。しかし我らはこのネット以外での記憶は『彼女』によって消去されている。だからこの姿としての記憶しかない」
ついてくるがいい、老人にいざなわれるままに街の奥へと進み歩いていく。
「今度はあいつか‥‥」
「何故私が見捨てられ、あのようなやつが‥‥」
居心地の悪い視線と言葉に少し窮屈さを感じていると「気にする事はない」と老人が此方を見ずに言葉を投げかけてくる。
「皆、キミが羨ましいのさ。この街に存在する者の中で錆びた剣まで入手した者は多数存在する――だが、この街まで誘われたのはキミだけだからな」
だから、と老人は呟き突然首に手をかけてくる。
「だから、私も他の者同様にキミを羨ましいと感じる反面、憎くも思う――『彼女』の願いは既に私たちの手を離れているのだからな」
「彼女って‥‥」
「キミも会った事があるだろう。ログイン・キーを入手する時に。この街は『彼女』から願いを託され、そして『彼女』の願いを叶えられずに見捨てられた者たちの集まりだ」
さぁ、街に入るといい――彼女が示したのであればこの街でキミがすべき事が必ずあると言う事なのだろうから。
視点→海原・みなも
「‥‥ふぅ」
海原・みなもはキャラクターを闇の街に放置したまま、少しだけぼんやりと外を眺めていた。
「フルリアさんが最初のクエストの最後に登場した人、その時のボスゴブリンの言葉からしてログイン・キーが文字通り『鍵』だとして‥‥あすらさん達は妨害や邪魔を行ってくる人達で‥‥あぁ、もう‥‥」
海原は盛大にため息を吐きながらパソコンの画面に視線を移した。一気に出てきた情報、だけどその情報に繋がる≪何か≫を知らない為に情報も情報と呼べない状況。
だから海原は考える事が多すぎて頭を悩ませていた。
「でも‥‥ここ、闇の街ですべき事が明確に判らない以上はキャラクター強化と情報収集かな‥‥情報はきっと後から役に立つものだろうし‥‥」
海原は「よし」と小さく呟き、再びパソコンの前に座り、みなもの操作を始める。
「そういえば、この魔針というスキル――完全獣化じゃないと使用できないとか言ってましたね」
海原は呟きながら、みなものステータス欄を見る。だけど『完全獣化』という文字は何処にも見つからない。獣、という文字が入っているのでみなもの『猫タイプ』だけではなく他の獣タイプにも『完全獣化』というのはあるのだろうと海原は思う。
「とりあえず、街の人に聞いてみますか‥‥」
自分があまり歓迎されていないのはわかっていたので、あまり住人とは係わり合いにならない方がいいのかもしれないけれど、限りなく敵に近い彼らでも相談相手に事欠く事はなさそうだと海原は思う。
何故なら、既に彼らは『終わり』を見ているのだから。恐らく海原が知らない深い闇の部分まで彼らは見ているのだろう。
「あれ？ あんたも猫タイプの武闘術師なんだ？」
どうしようか、と考えている時にみなもに話しかけてきたのは同じ武闘術師の男性だった。
「え？ えぇ、そうですけど‥‥『も』って事は貴方も？」
「そう、俺も猫タイプの武闘術師――だった、だけどな」
言葉を返してくる男性にみなもは身体を強張らせる。何故か言いようのないプレッシャーを感じたからだ。
「ま、同じタイプのよしみで何か知りたいことある？ それが彼女のためになるなら何でも教えてやるよ」
男性の言葉に「それじゃあ‥‥完全獣化って知ってますか？」とみなもは問いかける。
「完全獣化？ あぁ、知ってるけど‥‥それについては今は気にしなくてもいいと思う。後に絶対取得せざるを得なくなるから」
「絶対‥‥？」
男性の『絶対』という言葉に僅かばかりの疑問が海原の中に湧き上がるが、それ以上を聞くことは出来なかった。聞いたらいけない、という言葉が頭の中に浮かんできたからだ。何故そんな事を思ったのか判らない。だけど『今聞くべきではない』という事だけは海原はわかった。
「あ、あともう１つお聞きしていいですか？ 武闘術師って装備可能武具が少ないですよね。折角だから気功術・獣（猫）に合う武具を買おうと思ってるんですけど、この街の武具屋は何処でしょうか」
みなもが男性に問いかけると「この街に店はないよ」と短い言葉が返ってきた。
「え？」
「だってそうだろう？ 此処にいるのは彼女に見捨てられた者ばかり。店があって何の役に立つ？ 彼女に再び必要とされる日を夢見てはいるが、決してそんな日が来ないことはこの街の全員が理解している。つまり、店があっても武具や道具を使う日が来ないという事だよ」
だが、と男性はみなもを見ながら小さく呟く。
「お前、俺と同じタイプだったな。俺の武具をくれてやるよ、どうせ俺にはもう必要のないものばかりだからな」
そう言って男性はみなもに『猫の着ぐるみ武具』を差し出した。猫耳、猫爪、全ての武具が猫にちなんだものであり「結構レア物なんだぜ」と男性は得意げに言葉を投げかけてきた。
「お前がそれを使って彼女の願いを叶えられる日を楽しみにしているよ」
そう言って男性は立ち去ろうとしたが「あぁ、暫くはこの街にいた方がいい」と言葉を付け足してきた。
「時期に満月だ。満月になれば新しいクエストが出てくる、恐らく彼女に会う事も出来るだろう」
お前の疑問に答えてくれるだろうよ、それだけ言葉を付け足して男性はみなもの前から姿を消したのだった。
「私の疑問、あすらさん達のこと、錆びた剣のこと、他にも色々と聞くべきことはあると思うけれど‥‥きっと他にも巧妙に隠された何かがある‥‥」
住人達の態度、みなもを見る目、それらの中に巧妙に隠された事実がある――海原はそう考えていた。
だけど、海原は知らなかった。その『事実』を知る事によって更なる闇へ突き落とされていく事に――‥‥。
「馬鹿よね、あの子――あのままあの女の言いなりになるつもりかしら‥‥」
「そうなったらどうする？ キミが錆びた剣を与えた事で彼女を包む闇は更に濃さを増した」
「そうね、そうなったら始末するわ。他の連中と同じく、あの女の道具に成り下がる前にね」
街の入り口、黒衣の人物がみなもの後姿を見ながら呟いていた。
しかし、みなもはその事に気づくこともなく街の奥へと足を進め、他の住人達に話を聞き始めたのだった。
ＥＮＤ
―― 登場人物 ――
1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生
――――――――――
海原・みなも様＞
こんにちは、いつもご発注いただきありがとうございます！
今回の内容はいかがだったでしょうか？
話は次作『光の聖女』へ続く形になります。
（公開は恐らく今月下旬〜来月初旬になるかと想いますが）
それでは、今回は書かせて頂きありがとうございました！
2010/6/11
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