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+萌え的生物学研究+
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とあるトスカーナの農家で雌鶏が狐に襲われ、全滅した。
良くある事。
そう割り切り、農場の者達は、鶏小屋を片付け始める。
数羽残った雄鶏が、身を寄せ合って居るのを不憫に思いながら。
翌日。
鶏小屋の掃除をする為に入った男は、奇妙なモノを発見した。
それは、今この鶏小屋で、あるはずの無いモノだった。
そのニュースは、世界中に配信された。
雄鶏が卵を生んだという。
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のんきな農道を、幌のかかったトラックが行く。
鬼鮫が運転する助手席で、三島・玲奈は、大きなあくびをする。
卵を産む雄鶏の護送、護衛任務である。
「あーっ。修学旅行かなあ」
農道をすれ違ったバスに搭乗しているのは、日本の女子高生。お堅い学校なのか、海外に来てもセーラー服をきっちりと着込んでいる。玲奈は鼻を鳴らすが、その後ろからこちらに向かってくる数台の黒塗りの車に、鼻に皺を寄せた。
黒塗りの車は、急接近すると、トラックへと、銃口を向けた。
見るからに、ヤバイ系のお仕事の方々。
俗に言う、マフィアの方々っぽい。
銃声に、バスが止まる。
「っ! 何で逃げないかなっ!!」
「来るぞっ!!」
長袖紺色セーラー服のプリーツが翻る。プリーツの下には、これでもかというぐらいの衣装があるが割愛。
「そーれっ!!」
手にする烈l光の天狼からは、煙が尾を引き、バズーカ砲が飛んで行く。
その、ありえなさ加減に、マフィア達は、右往左往しつつ、銃を撃ち放ちながら、後退をする。
着弾と共に、黒塗りの車が吹っ飛び、爆風が玲奈のストレートヘアを拭き流す。
手にした日本刀を抜き放った鬼鮫が、銃弾を身に受けながら、迷う事無く、マフィア達へと突進して行く。銃弾程度の小さな傷は、鬼鮫にとっては、擦り傷以下だ。
豪腕で振り抜いた刀が、銃を真っ二つに切り裂いた。
「あ、やばっ!」
トラックを囲もうとしていた、黒塗りの車の一台が、トラックをすり抜けて、観光バスの真横へと横付けし、銃口をバスへと向けた。
多勢に無勢というものがある。
「鶏を寄越してもらおうか」
形勢逆転した黒スーツの男のうち、何人かが、トラックの運転席に座る。バスを盾にして、悠々と玲奈達が来た道を戻って行く。
「この際、鶏はしょうがないけど、あの修学旅行生達は助けないとね!」
「だな」
最後の車が立ち去ろうと言う瞬間、玲奈と鬼鮫は走り出す。
弾丸が二人へと向かうが、玲奈はバリアを展開したのだ。盾となった、それは攻撃を二人に届かせない。
泡を食ったという表現がぴったりな、黒スーツ達は、車を急発進させると、この二人を前に、バスを人質に取り続けるのは困難だと判断したのか、バスを放棄して、ただひたすら逃走していった。
「大丈夫? 怪我は無いっ?! って!」
安否を確認する為に、バスに乗り込もうとする玲奈は、運転手に阻まれた。
「やっかいな。このまま、被害者として彼らと共に行くはずだったのに」
「な…んですってえっ?!」
にやりと笑う運転手へと、玲奈は一瞬ひるんだ風に腰を落とすが、烈l光の天狼から、凄まじいレーザーの光が運転手の胸を貫いた。
よろめく、運転手は、バスのハンドルを握る。女の子達から、悲鳴が上がった。
「もう大丈…っええっ?!」
「生憎だったな」
「嘘っ?!」
「手出しするな? この女達がどうなっても知らんぞ? 一撃ぐらいで私は死なないから、後ろのでかい奴も聞こえたな?」
「っ!」
玲奈の腹に運転手の蹴りが入った。
その一撃は重く、吹っ飛んだが、鬼鮫が受け止める。
バスの戸は破壊されたまま、エンジンが唸りを上げた。
なすすべも無く、護送対象の鶏と、女子高生達を持っていかれてしまった。
土埃が舞い上がる。
依頼は失敗。最悪だった。
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玲奈達が失敗を記した依頼に関わっていたのはサンマリノを拠点とするマフィアだった。
オマケに、女子高生を拉致する事を依頼されていたのは、どうやら不老不死の吸血鬼であると言う事が判明した。
新たに記されたデータには、問題の城砦や、目的が詳細に記されている。
人体実験。
鶏を解明し、それを人に応用しようというのだ。
男の娘が簡単に大量に出来上がるのを夢見た、夢追いマフィアに、玲奈は心底腹を立てていた。
確かに、それが生み出されれば、意外な資金源になるかもしれないけれど。
「助けに来たわよっ! 皆逃げてっ!!」
どーん。
とばかりに、扉をフッとばし、セキュリティなどは、先にあらかた解除してバスを乗りつけた玲奈は、女子高生達を解放すると彼女達を逃がす。
万全のセキュリティに胡坐をかいていたその城砦に住む者たちは、間抜けな事に、バスが発進した後にわらわらとわいて出た。
「私は玲奈、この村を開放する為に造られた改造人間だ!」
にやりと笑う玲奈の武器、烈l光の天狼が開放される。揺るがす音を立てて飛ぶバズーカが、ホールの階段を吹っ飛ばす。
横の扉から現れたマフィアの男達が、機関銃を撃ち放つ。
耳障りな発射音が響き渡るが、砕け散るシャンデリアに、吹き飛ぶ床の緋色の絨毯。だが、爆煙が収まったその場にはもう二人の姿は無い。
「させるぁっ!」
玲奈はレーザーを発射し、踊り場に現れたマフィアを撃ち抜く。
「お前は何を? おっと俺は鬼鮫、恐れおののけ!」
マシンガンを撃っていたマフィアは、煙の中から不意に現れた鬼鮫が振るう白刃で、ぱっくりと割れた武器に目を白黒させて、逃げて行く。
バズーカで穴の開いた階段脇を駆け上がる玲奈。
ホールの敵をあらかた蹴散らし、背後からの攻撃を防ぐ鬼鮫。
次々と沸いて出るマフィア達。
「どんどんいっちゃうよーっ! …っう!」
何度目かのバズーカーが飛び出した時、倒したとばかり思った階下の男の手にした銃が、玲奈の右足を貫通させた。真っ白な太腿に滴る赤い色。
「玲奈!」
「ここは私に任せて先へ…」
「馬鹿を言うな」
玲奈の読んだ教本に曰く、仲間の救出は鉄則。
最悪、負傷者を担いで戦闘を続行する。そう、そんな訓練すらもある。
絶対に、仲間を見捨てては行かない。常日頃の絆が! 愛が! 命綱なのである!
周囲を遮断するキラキラ空間が不意に現れた。
「鬼鮫、あたし、貴方とずっと……」
天使が飛び交い、薔薇の花なんかが舞い飛んじゃったりする。
「…」
真剣な眼差しの玲奈を見返す鬼鮫。
「ずっと…友達でいようね!」
ちーん。
不意に戻ってくる、戦いの気配。
飛び交う銃弾。
やってられっかと言わんばかりの鬼鮫が縦横無尽に振るう刀は、容赦無くマフィア達をなぎ倒し、怪我をしたとはいえ、遠距離武器の多い烈l光の天狼。楽しげに振るう、玲奈は、バズーカをこれでもかと打ち込めば、城砦そのものが、ぐらりと傾いだような気がした。
「あははははは!!」
実際は、傾いだのでは無く。石造りの年代モノの建物は、外壁から、ぐずぐずと崩れて行く途中だった。
激しい地響きが、城砦周辺に観測された。
もくもくと煙が上がり、萌えに賭けた。いや、よからぬ事を画策したマフィアのアジトが、瓦礫と化すのに、ものの1時間もかからなかった。
こうして、玲奈達は、先の任務の失点を取り返した。
けれども。
瓦礫と化した城砦はそれなりの歴史的建造物だったわけで。
山のような始末書に埋もれる事となるのだった。
「どーしてーっ?!」
玲奈の叫びが何処かで響いた。
☆おわり☆
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