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<東京怪談ノベル(シングル)>


生徒委員長と一緒

「はにゃ〜…。今日もいい天気ぃ〜。眠くなっちゃうナ〜。寝ちゃおうっかなぁ〜…エヘヘ」
 学校の屋上で、ゴロゴロと寝転がりながらぽっかり浮かぶ雲と青空を眺めつつ、ナナは独り言を呟いていた。
 ふにゃっと力の抜けきった、見ている方も同じような表情になりそうなほど幸せいっぱいの顔が、やけに愛くるしい。
 黒猫耳のパーカーの端を両手で握り締め、体を本物の猫さながらに丸め込みポカポカと暖かな日差しの下で日向ぼっこを楽しんでいる。
 校庭では、同じクラスの仲間達が皆2列に並びグラウンドでマラソンをさせられている。
「やっぱり体育はサボるに限るもんね〜」
 エヘヘ…と笑いながら、あまりの心地よさに大きく伸びをした。
「よ〜っし。やっぱり寝〜ちゃお!」
 覚悟を決めたかのようにそう呟いたナナがゴロンと寝返りを打つと、背後からキィ、と扉の開いた音が聞こえてくる。
 前科があるだけに、ナナはピクリと反応を示すとひょっこり顔だけを起こして後方を伺い見る。
 また、生徒会委員だったら嫌だな。そう考えていた。
「にゃ?」
 ナナは目をパチパチと瞬かせ、こちらに歩いてくる人物を見つめる。
 生徒会は生徒会だが、生徒会委員長がこちらに向かって歩いてくるのだ。
「よう」
 男勝りなその口ぶりに、不良風の金髪に近い茶髪の生徒会委員長がナナの隣にどっかりと腰を下ろした。
「ナナもサボリ?」
 ニッと笑いながらこちらを見てくる委員長にナナもまたニコ〜っと笑い、その場に起き上がる。
「うん、そうだよぉ〜。いいお天気だし、気持ちイイよねぇ〜」
「あんたいつも体育の時間だけサボってるけど、何か意味あんの?」
 委員長の言葉に、ナナはどこか困ったような表情をしてみせる。
「う〜ん。ナナはあんまり派手に動いちゃうと喘息が始まっちゃうから、体育だけはちょっとね〜」
「ふ〜ん。大変なんだ」
「エヘヘ〜。それほどでもないよぉ〜」
「って、別に褒めてねぇし」
 何気ない会話の中にうかがい知るのは、ナナは体育をサボると言うよりも見学をする事が辛いのだと言う事だった。
「あ、そうだぁ。忘れる前に渡さなきゃだねぇ〜」
 何かを思い出したナナは、ふいにゴソゴソとポケットの中を探り始めた。
「あれ〜? どこ入れたっけなぁ〜…う〜んとぉ〜…」
 その場に立ち上がったナナはポケットと言うポケットを探り始め、最終的にはフードの中からある物を取り出した。
 いかにも手作りだと分かる、継ぎ接ぎの猫のぬいぐるみ。丁度両手の平で納まりそうな大きさのその猫のぬいぐるみを委員長に差し出した。
 委員長は目を丸くし、目の前に差し出されたぬいぐるみを見つめる。
「何?」
「うん。これねぇ〜、お誕生日のプレゼントなのぉ〜。ナナが作ったんだぁ〜」
 頬を俄にピンク色に染めながらニコ〜っと笑うナナの手から、ぬいぐるみを受け取ると委員長はマジマジとそのぬいぐるみに見入っていた。
 目はボタン。口は茶色の刺繍糸で縫い込められ、鼻は黒いビーズ。色々な柄の布を縫い合わせて作られたそのぬいぐるみは、非常に愛情のこもった愛嬌のある可愛らしいぬいぐるみだった。
 委員長はナナを見上げ、ニコリと笑う。
「あ、ありがとう。可愛いね、これ」
「うん。そうでしょ〜? 実はこれね、手足がちゃんと動くんだよぉ〜」
「あ、ほんとだ。すげぇ〜」
 他愛ない話をしながら、ぬいぐるみで盛り上がっていると再び屋上のドアが開かれた。
 ナナと委員長がそちらを振り返ると、生徒会委員の書記と会計の二人がどこか苛立ったような面持ちでこちらに歩いてくる姿がある。
「またここにいたんですね!」
「二人とも生徒会の役員なんですから、いい加減サボるのやめて下さい!」
 目くじらを立てて怒りを露にしている二人の役員を相手に、委員長が立ち上がり肩をすぼめた。
「別に、サボってなんかないさ」
「そうだよぉ〜、違うんだよぉ〜」
 ナナもまた、委員長の言葉に賛同しそう答えるが、目の前の二人の役員の目は明らかに冷たい。
「サボリじゃなかったら、何だっていうんですか」
「うんとね〜、これはねぇ〜…。あ、会議。そう、会議なんだよぉ。大事な大事な会議〜」
 ナナはニコッと笑いながら思いついたようにそう言うと、役員の生徒たちは訝しげな表情を浮かべ、腕を組んで突っかかってくる。
「会議は会議室でやって下さい。こんなところでやったって意味なんかありません」
 そう切り替えしてきた役員に委員長がむっとした表情で立ち上がる。
「分かってないなぁ。ナナと私の二人だけでやる会議なんだ。どこでやったって一緒だろ?」
「一緒じゃありません!」
「だって〜、これ、“とっぷしぃーくれっと”ってやつだもん〜」
「何何ですか、それ!」
 双方折れない平行線の言い争い。気づけば体育の時間まるまる屋上で言い争い、チャイムの音が辺りに響きわたった。
 それを合図に、役員たちはため息を吐きムッとしたままの表情でナナ達に念を押した。
「いいですか。次からはちゃんとして下さい」
「はいはい、分かってるって」
「は〜い! 分かったよぉ〜」
 間の抜けたナナの声と、いい加減な返事を返す委員長の言葉に役員達はガックリと肩を落としてその場を去っていった。
 そんな彼らを見送った二人は顔を見合わせる。
「やったねぇ〜! 粘り勝ちぃ〜」
 ナナが嬉しそうにそう言うと、委員長も二カッと笑いお互いにパンッとハイタッチした。

「委員長も副委員長も、皆が集まる会議の時は真面目なのに…」
 と、ガックリ肩を落としている役員たちの姿を、二人は知らない。